金曜の夜は

ポエトリー:

『金曜の夜は』

 

夜の11時、駅のホームではみんな笑顔
今日は金曜日
懸命に働いた人も
ところどころ怠けた人も
上手くいった人も
何にも変わらない人も
今週もちゃんと生きました

満天の星空見上げ
ホーム全体にご機嫌な音楽が流れたらいい
イカしたギターリフとかさ
そしたらみんな思い思いに
千鳥足でステップ
好きなあの子と今日はあまり話せなかったけど
目を合わせて踊るんだ
手を叩いて笑うんだ

さあ、終電が来たよ
酔いが醒めてすっかり青くならないように
名残惜しく手を振って
おやすみなさい
また来週

 

2016年2月

応答してよ

ポエトリー:

『応答してよ』

 

はしからじゅんに君の声をたしかめて
(はこをあけて私の声をたしかめて)

いまだきこえず
(きこえたかなぁ)

 

むりをして
(せのびして)

せいいっぱいの仮名手本
(かたほうだけの仮名手本)

ぼくの声はとどいたのかなぁ
(ほんとのきもちいまだきこえず)

 

2019年4月

お日さん

ポエトリー:

 

『お日さん』

 

太陽をお日さんと呼ぶのは

子供っぽいからではなく

それが私たちの宗教だから

宗教って言うとちょっと重たいけど

お日さんに顔向け出来ないことはしちゃなんめぇってことで

母なる太陽とはよく言ったもの

やましい時は

夜に隠れても

心は落ち着かないものなのです

同級生のS君

ポエトリー:

 

『同級生のS君』

 

同級生のS君はいつもにこにこしている

遊びの誘いも断らない

昼メシもなんでもいい

テストの点数は抜群に良くないけど抜群に悪くもない

僕らが誰かの悪口を言ってもにこにこ聞いている

僕らがしくじってもにこにこしている

S君は解決してくれないけど

 

S君は野球部

特別上手くはないけど、なんとはなしにレギュラー

僕たちの草野球にも来てくれる

凄いピッチャーが来てもスコーンとショートの頭を越してしまう

僕たちは感嘆の声を上げる

 

S君は意見を言わない

その代わり文句も言わない

S君は自分から誘わない

 

S君にも悩みはあるだろうけど

今はS君が懐かしい

 

 

2017年2月

昨日の前提

ポエトリー:

『昨日の前提』

 

世界の歴史を
手のひらに集めて
新しくしつらえた
無地のシャツ
長い袖の
早くもところどころ絶え

微かに聞こえる
行進は
新調されたブーツで
やがて微かに
耳も遠くなる

発明家はいつも
正しいとは限らず
新しいものに
手を引かれがち
いつも時間を忘れて
せっせとせがんだ
やつら前傾姿勢だから

短く刈り上げた空は
午前六時の最もよい時間帯
真っ先に扉を開けたのは
行進から今しがた帰った
真新しいブーツでした

真新しいブーツに占められた教室の汚れ
真新しいものとして処理していく
自動的な段階を踏んで
私たちは居場所をしつらえる
馴染んだ影は私たちのものではないけれど
私たちが孕んだモノとして
処理するしかない

配置、
その仕事で明日は塗り替えられる
前代未聞は毎日起きて
まるで昨日の前提だ

 

2019年8月

明るいところと暗いところが入り混じり

ポエトリー:

『明るいところと暗いところが入り混じり』

 

がらんとした部屋のあるところ
あなたの明るいところと暗いところが入り混じり
近くの問題がとても遠くに感じられました

明るいところと暗いところが交わる時
あなたは剥がれ落ちただの記憶になりました

もぬけの殻
調子っぱずれでこたえるから
右肩を軽くぐるんと持ち上げた
ものにした事柄が
体の奥から定刻通りに抜け出していく

産声が銀河を抜け
ワクチンがひとつ、生まれた
あらかた、
為すべきことは済んだのか

前近代の雨の中
細ばる記憶がまた新しい列車に乗って
地下の帝国へ吸い込まれようとしていました

 

2019年8月

頭痛

ポエトリー:

『頭痛』

 

どんどんと過ぎて行く風景を背に僕の頭は痛い

僕の中心は眼鏡掛けが乗っかる鼻梁

そこを中心に思考は広がる風景は伸びていく

新幹線の鼻先のように風景は左右に広がり

その少し上 額の辺りから中に向かって

伸びていかないものが少しずつ入り込むから

どんどんと過ぎて行く風景を背に僕の頭は少しずつ痛い

 

 

2018年1月

語りだす

ポエトリー:

『語りだす』

 

一日の最後に
気になる部位が
今日は何も無かったですかと
語りだす

世話のやける女の子の
父親になりたかったという声が
先発した大人の
傷んだ手帳から見つかった

それが叶わぬのなら
盛り場で台所仕事をする
手の荒れた女の人になりたいと
その手帳は続いていた

十代最後の夏
焼けただれた青春が
仁王さまの格好で
門の所に立っていた

私ではないですよと言っても
いっかな怒りは収まらず
怖い目つきは
今日は何もなかったですかと語りだす

だから終いにゃ
酷い言葉のほとんどは嘘だと言った
母との一番の思い出が語りだす
冷蔵庫に麦茶が冷えてるよと言った
母の言葉が語りだす

 

2019年5月