ポエトリー:
『稲穂』
君の瞳は黄金色
収穫間近な稲穂のようだ
稲穂は風に乗ってかないけど
君の稲穂は飛んでった
僕は何度も空を見上げたんだよう
2016年1月
ポエトリー:
『稲穂』
君の瞳は黄金色
収穫間近な稲穂のようだ
稲穂は風に乗ってかないけど
君の稲穂は飛んでった
僕は何度も空を見上げたんだよう
2016年1月
ポエトリー:
『バルにて』
バルの奥から見える赤いドア枠の扉の隙間をグレーがかった猫が少し頭をもたげた格好で歩いている。揺れる扉のガラスに写り込んだ猫の姿は乱反射し、一匹が二匹にも三匹にも見えた。僕は心の中で言う。おい、お前、名前はなんて言うんだ?他の誰かも心の中で言う。おばさん、あの猫を捕まえてきて。猫は斜めになったドアガラスに写り込んだまま、石畳みを西の方角へ移動する。僕は跡をつける。
中東の入り組んだ住宅街。ここは一転砂の色。酔っ払いか、或いは普段から酔っ払ったようなオヤジが悪態を突く。オメェはどこの国のもんだ?どうやらどの家にも朝から洗濯物がなびいているのが気に入らないようだ。
自転車に轢かれそうになる。と思ったのはこちら側で、グレーがかった猫は見えているのか見えていないのか分からないような格好で、物売りか若しくはくたびれたビジネスマンのようにとりあえず前に進む。うねりながら若干登り坂になった通りの先にようやく市場が見えてきた。温かいスープにこんがり焼けたポテトの山。そんなような事を頭に浮かべながらバルのおばさんは買い物をする。あぁそうだ。僕は今、バルの奥で栄養価の高いワインを食しているところだった。
今夜もまた真っ直ぐ家には帰らないだろう。でもそこが中東の土で出来た幾つかの四角い窓のあるアパートならこのまま帰ってもいい。
2014年11月
ポエトリー:
『夏から秋にかけては』
夏から秋にかけては
体調を崩すから嫌だ
夏から秋にかけては
体調を崩すから嫌だ
秋から冬にかけては
Virusが舞うから嫌だ
秋から冬にかけては
Virusが舞うから嫌だ
冬から春にかけては
離れ離れになるから嫌だ
冬から春にかけては
離れ離れになるから嫌だ
夏は命の源
夏は命の源
大切な人もきっと良くなる
2016年6月
ポエトリー:
『夕方五時、過去から』
風邪をこじらせた
みたいに咳き込んで
遮断機の音
微かに届く
耳障りな手紙
虚空を流れ
夕飯の流れ
五時の知らせ
持ち運びが未だ
ままならないクラリネット
あいにく今はまだ
向かってはいない
何がこの世で
大切なのかさえ
歯ぎしりする痛み
走り出す陽射し
君なしでまだ
やっていける
地響きみたいな声
この時期だけの蝉の声
非常ベル気取りで
今年の背中蹴り立てる
駅まで伸びていく道
本屋の前で泣いた記憶
今度ばかりは
見知らぬ記憶
真っ暗闇の中
陽射しが高く傾いた
頬杖ついた逆からの光
君はまるで丘の上
輝くヒマワリ
解けた糸がまた絡まるように
途切れた時がまた動き出す
今新たな動き
過去からの働き
低く伸びた影を踏んで
あと一歩
形振りほどく背格好まで
あと一歩足りない
2017年7月
ポエトリー:
『君は心の声に優しく寄り添う』
軽い噂話が君の心を重くさせるだろう
短いすれ違いが君に長い夜をもたらすだろう
心がそばにいて欲しいと君にそっと囁くだろう
八月の雨はもうしばらくアスファルトを叩くだろう
君は長雨を理由に友達の誘いを断るだろう
時間が重たい石となって君の上にのしかかるだろう
悲しみは溢れて二階の窓を開け放つだろう
君の涙は誰もいない道端へこぼれ落ちるだろう
曖昧なままでいいんだよ
誰だってすべてを乗り越えてきたわけじゃないんだよ
そうやって僕たちは少しづつ生きてきたんだよ
時のシーツにくるまって
時間はいつしかおぼろげな過去になる
全ては混ぜ合わさってほどけてゆくだろう
2017年8月
ポエトリー:
『夏過ぎれば』
あの人の三歩は君の一歩になるだろう
でも君にくよくよして欲しくない
何故ならあの人の三歩は上手く立ち回っているだけだから
君の一歩は確実な一歩だから
あの人の声は君の声より届くだろう
でも君に投げて出して欲しくない
何故ならあの人の声は無駄な拡声器が付いているだけだから
君の声は心から出た声だから
あの人は自分勝手な振る舞いは君を悲しませるだろう
でも君に諦めて欲しくない
何故ならあの人は優しさを知らないだけだから
君の振る舞いは誰かの為だから
君は決して損などしていない
決して
小鳥がひと夏で巣立つように
悲しみが声を枯らすように
営みは続いてくだろう
私たちは共にいるだろう
悲しみを少しづつ拭い去るだろう
2017年8月
ポエトリー:
『雨が上がって虹』
雨が上がって虹
土曜の3時
駅へ真っ直ぐ伸びる道
浮き足立つ道
プリズム振りかざす
くちびる振り回す
君といると心地いい
完全なるエコロジー
2014年3月
ポエトリー:
『命の導き』
雲が流れてゆく
雨の日も
終電に乗り遅れた夜も
寝坊した朝も
雲はあちこち移動する
蒸し暑い遊歩道を歩くだけで
夏休みの少年が中男の会社員に
中男の会社員が散歩する老人に
蝉の鳴き声は1985年のもの
伸び放題の夏草は2017年のもの
張り出した高気圧は2040年のもの
一週間泣いて
蝉はカラカラになる
ポエトリー:
『ハンモック』
大きなハンモックの上で世界の悪意が揺れている。
買い物帰りのハンナはレモンを掴む前までの苛立ちは全て机の向こうに、鉛筆やらコピー用紙だかを押しやるように滑らせ、今夜の夕食の支度を始める。時を同じく、夕方のニュースが目の前を横切る。玉ねぎは細かく刻んだ方がいい。
日付が変わる前にアパートに辿り着いたジョーは帰りがけに買った週刊誌のページを繰る。声を立てて笑った約1秒後、ゴミ箱へ丸めた。思わずソファを蹴りあげたくもなるが電話が呼んでいる。お誕生日おめでとう。
南の島の小さな岬には樫の木があり、そこは子供たちの目印だ。今はお昼の真っ只中。大忙しの奥さん連中の頭の中は来週に迫った村の選挙にかかりっきりだ。彼女たちは海に放射能が流れていることを知らない。
8月の朝、前の日に南半球での病が終息したとのニュースがあった。今日は土曜日、シンイチは表に出て子供たちの靴を洗う。新鮮な空気に独り言を放り込み、向こうでは今は冬なんだと、当たり前の事を思う。何処にいても朝は朝の空気があればいい。まして高望みではないだろう。
2014月11月
ポエトリー:
『手紙』
昔からの友達がいた
話が合わなくなった
メールをしなくなった
何度か仕事を変えた
少しづつ遠くなった
新しい蝉の声がした
命の盛りだった
透明な虹
月の重力に抗いながら
人恋しくもある
君は真っ当に生きてきた
誰かはひとりを選んだ
記憶が遠くなった
濃密な時間がまるで他人事のよう
あの時の仲間は今、
どんな暮らしをしているだろう
透明な虹
月の重力に抗いながら
2015年8月