Author: よんきー
『Ethereal Essence』(2024年)コーネリアス 感想レビュー
今頃はもう
ポエトリー:
「今頃はもう」
あの頃のボクは
風雲たけし城のジブラルタル海峡を渡り切る自信があった
横断歩道の白だけを歩くことだってできた
それでも見境なく飛んでくるロケットをよけることはできなかっただろう
そこにいればボクはもう死んでいる
2024年8月
つい今しがた
ポエトリー:
「つい今しがた」
つい今しがた
かつてない魂が
家の両端に並び立ち
息をする惑星の静かな囁きが
その家の両端に小さく呼応した
旗は静かに立っていた
殺戮と凶作が待っていた
藁をもすがる人人の足を踏んでいた
数奇な運命のわたしたちには
まるでそぐわない新しい歌が
旗と共に流れていた
コントラストは甚だしく無謬だった
わたしたちの知る権利はイエス
耐えうるだけのネガや文机はノー
文字通り、八方ふさがりの街で
わたしたちは鴨居に頭をぶつけるほどに育ちすぎた
足元には草の根の結び目
幾度目かの最適解
2024年6月
些細な夜明け
ポエトリー:
「些細な夜明け」
多くのことばが微弱な電波を発し
思い思いに暇を弄ぶ
わけでもなかろうに
ぼくたちのあいだに広がる些細な夜明け
見た目にも鮮やかな
わけでもなかろうに
脆弱な電波に乗ってきみが来る
それ自体がフェイクニュース
意外とよく喋るきみの広がり
だったとしても
よそ行きの声が次第に遠ざかる
水面のようにささやかな方便
群がるひとびとの声だけがして
教えられてきたことが失念する
ご名答
実にいじわるなことだけど
泣きたいわけじゃない
失念することが輝き
チャンスをくれたきみに
ぼくの抽斗の序列を教えてあげる
めったにないことが
きみに起きますようにと
ねぎらうことができますようにと
2024年5月
よき一日
ポエトリー:
「よき一日」
なぜかきみの庭に羽が降りてきて
そこの一点にだけ
調和を乱す
見事に
縁側へ降りる石段の足が一歩
止まる
夕方の静かなときにだけ訪れる
博愛の自由な精神
意外なことに
きみの声は二手に分かれ
翌日の出来事を掬いはじめた
そうか、目覚めたときはなかったね
道のうねりの理由に
少しだけ気づけたような気がした
わかっていたことが存分に折れはじめた道中で
最近きみはよく笑いはじめる
背恰好がよく似た兄弟姉妹たちの影が
庭に現れては軽口をたたくようになった
きみは炭酸をぐびっと飲み干す
よい一日だったと
2024年5月
Flying On Abraham / Diane Birch 感想レビュー
骨格
ポエトリー:
「骨格」
ゆれる骨格。
バランスを取るために片足で立つ。
傍らには工事中の立看板。
足元の水たまりはゆうべ出来た。
泥水で姿は映らないが
日差しはたっぷりで反射する。
無理すんなよ。
ゆうべの記憶。
さしあたってあなたがすることは
シチューのダマを丹念に潰しなさい、
白い方の。
仕事ができる人になりたかった。
素晴らしい背伸びをするひとの足元、
特につま先を見て学ぶ。
一学年下の後輩が元気に横を通りすぎても
よろしい、今は気にするな、
追手はそこじゃない。
日差しに匿われたわたしと
日焼けした人々が交錯する日々。
締めなおすにもたついた身体。
視線は何処にやればよいのやら。
気位ばかり高く、
骨格はゆれて足元にはたっぷりの水たまり。
泥水で姿は映らない。
でも反射する光。
2024年4月