洋楽レビュー:
『The Whole Love』(2011)Wilco
(ホール・ラヴ/ウィルコ)
いつも思うんだけど、ウィルコの魅力って何なのだろう。ボーカルにしてもバンドにしても曲にしても、決してインパクトのあるものではないのだが、何か引っ掛かるんだよなあ。ということで、改めて1曲目から順に何か書いていこうと思う。そうすることで、何故僕はウィルコの音楽に惹かれているのかが見えてくるかもしれない。
1. Art Of Almost
冒頭からSEも交えあちこちに飛び回るサウンドで、7分の大作。後半に向け、次第に激しくなってゆく演奏は、抑えつけていた感情が放たれるかのよう。
2. I Might
シングル向けのポップ・ナンバー。とはいえ詩は結構アイロニーが含まれたもので、ジェフ・トゥイー ディの特徴的なソングライティングと言える。キーボードが印象的。
3. Sunloathe
メランコリィ。太陽が嫌いだと言う。ここで言う太陽とは何なのだろう。砂漠でジリジリと太陽に照りつ けられながらも持ちこたえている。敵は誰かであり、自分である。
4. Dawned On Me
シングル向けのポップ・チューン。タイトルがいい。ちょっと直訳しにくいが、ここでいう気配とは良い兆候なのか、悪い兆候なのか。快活なサウンドはやっぱりいい兆候なのだろう。
5. Black Moon
カントリーに属する曲。とはいえ、後半に掛かるとストリングスが待ち受けており、意外と盛り上がる。が、基本的には気だるい曲。
6. Born Alone
「人はひとりで生まれて、一人で死んでいく」、なんて陳腐な言い回しは、普段なら屁にも思わない。でも、素晴らしいメロディと素晴らしいサウンドが伴えば言葉以上の意味が現れ、静かに満ちてくる。
7. Open Mind
実はジェフ・トゥイーディは内気なんじゃないかと思わせる声がとてもいい。好きなんだけど、「君の心を開く人になりたい」としか言えない控えめな態度が僕は好きだ。
8. Capitol City
「此処は君に似合わないよ」って。これも結局自分に言ってるようにも聞こえる。結構厳しい現実認識の唄だが、ユーモア=優しさがある。転調がいい塩梅。
9. Standing O
ゴキゲンなロック・ナンバー。詩は辛辣で小気味良い。何をぐずぐず言ってるんだと誰かに言っているようだが、実は自分に言っている。
10. Rising Red Lung
フォーク調の曲。6弦、及び12弦のエレキ・ギターがとてもいい。こうして聴いていると、単調な曲でもバンド力できっちり聴かせるところもウィルコの魅力なんだな。再認識。
11. Whole Love
個人的には本作のベスト・トラック。タイトルどおりの愛に溢れたサウンドで、このバンドの一体感を強く感じることができる。ラストのコーラスの幸福感はとにかく素晴らしい。
12. One Sunday Morning(Song For Jane Smiley’s Boyfriend)
「ひとりの息子が死んだ」って、これは自分自身のことなのか。ジェフ・トゥイーディの独白のようにも聞こえる。起伏の少ない12分の大作だが、アレンジに感情のうねりがあり聴き応えあり。比較的ポップな本作においても、オープニングとエンディングにこうした長尺の曲を持ってくる辺りはいかにも彼らのスタンスを示しているようだ。
ボーナストラック「Sometimes It Happens」が追加されて全13曲。全ての曲にユーモアと優しさ、そして何より反逆の精神がある。そしてそのいずれもにラブ・ソング、あるいはポリティカルなメッセージ、そして人生についての深い洞察が含まれている。曲によってその比重は違えど、どうとでも取れるその重層性こそがウィルコの魅力なんじゃないだろうか。誰かに言っているようであり、自分に言ってるよう。皮肉と思いきや、正直な言葉とも思わせる。「物事はどちらか一方ということはないんだよ」。ここにはそんなメッセージが見え隠れする。そしてそれらのメッセージがゴキゲンなサウンドにくるまれている。最高じゃないか。