映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』 感想レビュー

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『ヴィンセントが教えてくれたこと』(2014年 監督:セオドア・メルフィ)感想

 

冒頭にジェフ・トゥイーディーの曲が流れてきたのを聴いて、僕はこの映画とは馬が合うと思った。この映画は他にもいい曲が沢山流れていて、エンドロールでかかるディランの曲なんかは主役のビル・マーレイがアドリブで演じていて、滑稽な佇まいはそれだけで一つの作品になる程の出来栄えだ。

監督のセオドア・メルフィはこれがデビュー作ということなので、きっと映画を作るにあたっては使いたい曲が山ほどあったのだろう。どっちにしてもジェフの曲が2曲も採用されていたので、僕としてはそれだけで何ポイントかは上がる。

先に述べた主役のビル・マーレイは飲んだくれで嫌われもののロクでもない爺さん。家には時折妊婦ながらも商売に懸命な馴染みの‘夜の女’が真昼間からやって来る。そんなある日、隣に親子二人が引っ越してくる。小学生にしては小柄な少年とその母親のシングルマザーだ。メインの登場人物はこの4名で、言ってみれば皆、人生につまずきまくっている連中だ。

話は変わるけど、Eテレでやってた大阪釜ヶ崎の特集「ドヤ街と詩人とおっちゃんたち~釜ヶ崎芸術大学の日々~」の録画をようやく観た。釜ヶ崎大学なる地域に根差した芸術学校を立ち上げた詩人の上田 假奈代(かなよ)とドヤ街のおっちゃんたちのドキュメンタリーだ。

そこでは芸術に関するワークショップが連日行われる。最初は怪訝な顔をしていたおっちゃんたちも自身の作品を持ち寄るようになる。次第に芸術やそこでの文化的交流ががおっちゃんたちの人生に違った側面から光を照らすようになる。勿論いい事ばかりではない。暴力沙汰やややこしい問題は起きる。それでも上田假奈代始め、そこに関わる人たちは釜ヶ崎という場所に根を下ろし続ける。

映画のビル・マーレイ演じるヴィンセントは確かにろくでもない奴だ。けれど、隣に越してきた親子を捨て置かない(最初は金目当てであるけれど)。少年もヴィンセントを捨て置かないし、身重の娼婦も何かとヴィンセントの世話を焼く。一方のヴィンセントだって、少年のことを考えているし、母親のことを考えてるし、娼婦のことも気に掛けている。人生につまずきまくっている4人は誰かを頼らざるを得ない一方で、誰かを捨て置いたりは出来ないのだ。

僕は果たしてどうだろう。この映画は基本コメディだし、最後もいい感じで終わるし、観ている方は、あぁいい話だなぁで終わるかもしれない。けど実際、そんな人たちが目の前に現れたとしたら。僕たちは映画の登場人物のように振る舞えるだろうか。

簡単な事ではないけれど、人生がこの映画のように基本コメディであるならば、手の届く範囲でもう少しやっかいなことになってもいいのかもしれない。それが僕たちの人生にも違った側面から光を照らしてくれるのかもしれないのだから。

「ヴィンセントが教えてくれたこと」とは。いや、ヴィンセントだけじゃなく、彼らが教えてくれたことは、もしかしたら人生を少しだけ楽しく生きる工夫なのかもしれない。

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