続く『Prayer Song Feat. Adam Ness』でもそうだが、リズムはかなり複雑だ。人々の感情に最接近する生き物のようにうねるジャズ。その変則的なリズムはどこかノーネームたちアフリカ・アメリカンのルーツを思わせる。そう、今回のアルバムでは2曲目のタイトル、『Blaxploitation』からも想起されるように自らのアイデンティティーへの言及が顕著だ(『Blaxploitation』の意味は分からないが)。黒人であり、女性であること。そのことはサウンドも含め歌詞に置いてもかなり強く言及されている。落ち着いたトーンの(厳しい世界が歌われてはいるが)1作目を聴いて、ノーネームはいかにもヒップ・ホップな言葉遣いをしない人だと勝手に思い込んでいた身としては、今回の‘nigga’や‘bitch’や‘pussy’といった言葉が飛び交う歌詞に随分と面食らってしまった。詩の詳しい中身は英語をあまり解さないのでほとんど分かっていないが、それでも彼女の意図や決意や意志は十分に伝わってくる。肉体的なサウンドはそのメッセージ故だろう。
と言ってもただひたすら地味にって訳じゃなくちゃんとアクセントを効かせていて、背後で控えめにいいフレーズが流れているんですね。だから目をつむって耳を澄ませて、ゆったりしながら聴くってのがホントに決まるっていうか、やっぱ静かな夜の音楽なんやね。それはサビの「ガラッガラッゲッ、バックトゥユー♪(gotta gotta get back to you)」が耳に付いて離れないアルバム随一のキャッチーな曲、#7『Location Unknown』でも変わりません。背後でずっとオシャレなリフが鳴っているのもツボやね。だからいい気分になる。やっぱ日本好きといい、この人達はニッチなところを突いてくるのが好きなんやね。
tracklist:
1. I Might
2. Me & You
3. Day 1
4. I Got You
5. Feels So Good
6. 306
7. Location Unknown
8. Crying Over You
9. Shrink
10. Just Wanna Go Back
11. Sometimes
12. Forget Me Not
日本盤ボーナス・トラック
13. Just Dance
14. Day1 (Late Night Version)
15. Sometimes (Light Night Version)
『Fairytale of New York』(1987年)The Pogues
(ニューヨークの夢/ザ・ポーグス)
12月です。クリスマスです。皆さんはクリスマス・ソングと聞いて思い浮かべるものはありますか?僕が真っ先に思い浮かぶのは「レリッ、スノ~、レリッ、スノ~、レリッ、スノ~♪」ですね。映画『ダイハード2』のラスト、ジョン・マクレーンとホリーが再会する印象的な場面でかかるこの曲の正式名称は『Let It Snow』。歌詞の内容は恋人との別れを惜しむ気持ちを、文字通り「Let it snow, Let it snow, Let it snow(雪よ降り続いて」という言葉で表現しています。1946年に米国で作られ、以来多くの歌手により歌い継がれています。『ダイハード2』ではフランク・シナトラだったかと思います。
世界的に最も有名なのはやはりジョン・レノンの『Happy Cristmas(War Is Over)』かもしれません。お金持ちにも貧しい人にも、どんな人種の人にも、もっと言えばクリスマスなんて知らない人にも等しくクリスマスは訪れる。だからもう戦いなんてやめようよ。そんな歌ではないでしょうか。「Marry Cristmas」の後に「and Happy New Year」と続くところがいいですね。この言葉が加わることで肯定感や希望が増してくる。光がポッと射してくるような気がします。
今お話しした3曲はいずれも超有名曲。けれど今から紹介する曲をご存知の方はいらっしゃるでしょうか。ザ・ポーグス(Pogues)の『ニューヨークの夢(原題 Fairytale of New York)』です。ザ・ポーグスはアイルランド人ボーカリスト、シェイン・マガウアン(Shane MacGowan)を中心にロンドンで結成された、アイルランド民族音楽とパンクロックを融合したアイリッシュ・ロック・バンド。なんのこっちゃ分からないと思いますが、北欧やなんかの酒場でアコーディオンとかフィドル(バイオリンのこと)とか首から下げた太鼓なんかで賑やかに音楽を奏でる場面ってのをたま~にテレビで見かけませんか?あれですあれ。通常のバンド編成プラス、あーゆう感じという具合に想像していただければよいのですが、ま、この曲を聴いてもらうのが一番ですね(笑)。
さっきわざわざアイルランド人ボーカリストって述べましたが、それには理由がありまして、この歌は所謂ストーリーテリングの手法が用いられているんですね。で登場人物がニューヨークへやって来たアイルランド移民なわけです。冒頭、酔っぱらって留置場へ入れられた男はそこにいる先客の老人が「The Rare Old Mountain Dew」を歌っているのを耳にします。これはアイルランドの地名が沢山出てくる歌で、男は、あぁこの泥酔してぶち込まれた老人もアイルランド人だなと悟るわけです。そして「あれはクリスマス・イヴだったな」とちょっとばかり昔を思い出すのです。