The Marcus King Band/The Marcus King Band 感想レビュー

洋楽レビュー:
『The Marcus King Band』(2016) The Marcus King Band
(ザ・マーカス・キング・バンド/ザ・マーカス・キング・バンド)
 

いや~、度肝を抜かれた。アラバマ・シェイクスのブリタニーさんにも驚いたけど、今回のマーカス嬢にもびっくらこいた。タワレコで聴いたらあまりにもカッコよかったもんでYOUTUBEで観たら驚いたのなんのって。見た目のインパクトも凄いけど、超絶ギター・プレイに渋い声。しかも20才やっちゅう。いや~、米国はやっぱ凄いね。
 
分かり易くいうと、テデスキ・トラックス・バンド(以下、T・T・B)の若い版みたいな感じ。若いだけあって、T・T・Bのようなイナタイ感じはないけど、その分手数も多くて落ち着かない感じがいい。この手の音楽にありがちな下手に老成した態度は丸っきりないので、安心して聴いて欲しい。前のめりな感じが最高だ。
 
で、マーカス嬢のギターやボーカルもホントにスゴイ。ホントに素晴らしいんだけど、極端に言っちゃうとそれだけじゃこれだけの聴き耳は立てて貰えない訳で、やっぱそこはいい曲があって初めて成立する話なんじゃないかと。クレジットを見ると、全曲マーカス嬢の作。#5『Jealous Man』なんて男が主人人公のグッとくるいい曲だ。いい曲があってこその間口の広さに繋がっていくのだと考えると、このバンドの売りは、彼女のボーカルやギターだけじゃなくソング・ライティングにもあるわけだ。
 
あと個人的に好きなのは要所要所でキーボードが聴こえてくるところ。余所でもピアノっぽいのは結構あるんだけど、こんぐらいオルガンとか電子ピアノがフレーズに沿ってバシッと決めてくれんのは実はそんなになくて、#3『Rita Is Gone』で鳴ってんのはローズ風かな、こういう風にバシバシ絡んでくれるとホントに嬉しくなってしまう。
 
パッと見、ああ、ブルース調のイナタイやつねと敬遠されがちだけど、若くて楽しくて前へ前へって音楽だから誰が聴いてもきっと楽しいんじゃないかな。#1『Ain’t Nothin’ Wrong With That』なんてほんとカッコよくて、掴みにしちゃ最高だ。Jポップ好きであろうとヒップホップ好きであろうとEDM好きであろうとこれを聴いてなんとも思わない奴は音楽聴かねー方がいーんじゃねーかっていう、そんぐらいの代物です(笑)。
 
なんでも今年のフジ・ロックにやって来るそうで、やっぱイメージとしちゃフジかな。JポップやらEDMとごった煮のサマソニで観ても面白そうやけどね。一般的にはサウンドが売りかもしれないけど、このバンドは歌詞をちゃんと読みたくなる。次は和訳の付いた国内盤が出ないかな。
 
★1. Ain’t Nothin’ Wrong With That
 2. Devil’s Land
 3. Rita Is Gone
☆4. Self-Hatred – (featuring Derek Trucks)
 5. Jealous Man
 6. Man You Didn’t Know
☆7. Plant Your Corn Early
 8. Radio Soldier
 9. Guitar in My Hands
 10. Thespian Espionage
 11. Virginia
 12. Sorry ‘Bout Your Lover
 13. Mystery of Mr. Eads
 
 #4でT・T・Bでは聴けないデレクの派手なソロが聴けるのが嬉しい。

Different Creatures/Circa Waves 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Different Creatures』(2017) Circa Waves
(ディファレント・クリーチャーズ/サーカ・ウェーヴス)


このバンドの特徴は何と言ってもソングライティング。とりわけその親しみやすいメロディにあると言ってよい。2年ぶりにリリースされた本作は、屈託のないギター・バンドから幾分ハードになっているものの、要はメロディ。彼らの場合はどれだけ風を切れるかにかかっている。
 
その意味で言えば、まあ悪くない。なんて偉そうに言ってはなんだけど、折角のメロディという最大の武器が、ハードなサウンドに引っ張られている感が無きにしも非ず。証拠に1stの延長線上にあるボーナス・トラックがやっぱ気持ちよかったりするのだが、これは好みの問題か。
 
ライナー・ノーツにはアークティック・モンキーズのセカンドに似たハード志向なんて書かれてあったけど、僕がイメージしたのはアッシュの『メルトダウン』。どちらもメロディ勝負のギター・バンドだけど実はメタル好きで、自分たちの好みを素直に出してみましたって感じ。で、面白いのはアッシュが結構振り切っちゃってるのに対し、サーカ・ウェーヴスはそこまで振り切れてないってとこ。恐らく彼らはどうも極端なことがしにくいタイプというか、そういう体質のようで、穿った見方をすれば、十代の時から脚光を浴びたアッシュと20代後半になってやっと世に出たサーカ・ウェーヴスとの違いかも。やっぱ売れなきゃどうにもなんねぇ、みたいな。もっと思い切ってやって欲しかった気もするけど、そういう体なんだろうねぇ。
 
ただまあその生真面目さというか職人気質的なところが彼らの良いところとも言えるし、その上でスピード感は損なわず、風を切っていく疾走感は流石。理屈よりも感覚が少し勝ってるところがいい。この辺の気質というか、理屈と感覚のバランス感はフォスター・ザ・ピープルに近いものがある。
 
今回のサウンドが継続的なものか次はまた違ったものになるのかは分からないが、どっちにしてもキエランのソングライティングが錆びない限り、この鮮度は保たれるだろう。そうそう、どうあってもスピード感が出ちゃうキエランの声も肝。これは天性のモノだ。
 
 1. WAKE UP
 2. FIRE THAT BURNS
 3. GOODBYE
 4. OUT ON MY OWN
 5. DIFFERENT CREATURES
 6. CRYING SHAME
 7. LOVE’S RUN OUT
 8. STUCK
 9. A NIGHT ON THE BROKEN TILES
★10. WITHOUT YOU
☆11. OLD FRIENDS
☆12. TRAVEL SICK (JAPAN BONUS TRACK)
 
 #10~#12が三者三様でいい。ソングライティング力が光る。

I See You/The XX 感想レビュー

洋楽レビュー: 
『I See You』(2017) The XX
(アイ・シー・ユー/ジ・エックス・エックス)
 

ロンドン出身。ギターとベースの男女ボーカルにトラックメイカーという3人組。ミニマルで繊細なサウンドで2009年のデビュー作から軒並み高評価。今やアラバマ・シェイクスやTHE1975らを横目に、次世代ヘッドライナーの筆頭格と言われているらしい。僕も名前はチラホラ聞いていたが、今までロクに聴いたことがなかった。今回、何となく興味を持ってユーチューブで『On Hold』を聴いたところ、心に何か余韻に近いものが残った。それは体験と言ってもよいものだった。
 
昨今、ジャンルをまたにかけたクロス・オーバーなんて言葉をよく耳にするが、このThe XX はその典型。ロックが、ある熱に浮かされた非日常とするならば、ここにあるのは平熱のまま歌われるただの日常。これが最新型のロックと言われれば、そうですかとしか言えないが、そう言わせるだけの説得力があるのも確か。日常であるのに地に足のつかないフワフワとした所在なさ。我々の心に何かを残すこの感覚の正体は何だ?
 
インタビューを読んでいると、互いに理解しあって、互いに認め合って、3人でいることが最もよい結果をもたらすなんて言い切っているけど、まあそれは大人の僕らからすれば、そうかそうかと聞くしかないのであって、結局彼ら自身はそう信じているのは間違いないんだろうけど、今その儚さについても知りつつある状態というのが現状に最も近いところではないだろうか。僕ら分別めいた大人もかつては知った道であり、今の彼らにとってはそれが真実に違いないというのも知っていて、だからそれを否定する気は全くないんだけど、それがずっとこの先続いていかない、変容していくことも知っているわけで。その狭間にある不安定さがここにある音楽で、この美しさとか無垢さの由来するところは結局そういう事なのではないかと思う。
 
『I See You』、僕は君を見た、私はあなたを見た、というのはまさしくそういうことで、間違いなく事実で真実なのだ。僕たちはそれを知っているし、彼らは今そこにいる。彼らの無防備な音楽を否定しきれないのは、僕らにとってもそれは愛しくてたまらないものだから。
 
隣に座るあの子にしか聞こえないような声で外の世界へ向かおうとしている彼らはかつての僕ら。この居たたまれなさややるせなさは万人に開かれている。
 
 1. Dangerous
☆2. Say Something Loving
 3. Lips
 4. A Violent Noise
 5. Performance
☆6. Replica
 7. Brave For You
★8. On Hold
 9. I Dare You
 10. Test Me
 11. Naive – Bonustrack for Japan –
 12. Seasons Run – Bonustrack for Japan –

OK Computer/Radiohead 感想レビュー

洋楽レビュー:
『OK Computer』(1997) Radiohead
(OK コンピューター/レディオヘッド)
 

『ザ・ベンズ』 の時に僕はこれは死の直前のほんの数秒の物語と書いたが、『OK コンピューター』はそこから更に天空を漂っているイメージ。 歌詞にも great height なんて言葉が出てくる。 主人公は黄泉の国をさまよっているかのよう。
 

『ザ・ベンズ』と『キッド A』の間に位置するアルバムであり、アルバム・ タイトルからも想起されるイメージとしてはその中間期に当たるサ ウンド。しかしここではまだギター・メインでどちらかと言えば『 ザ・ベンズ』寄り。やはり『キッド A』は相当特異なアルバムのようだ。とはいえ『ザ・ベンズ』 が純粋なギター・ロックの極致なら、『OK コンピューター』はそこを更に突き破った新しいギター・ ロックの世界。もう美しいという言葉は妥当ではない。 成層圏のギター・ロックと言っていいだろう。

そのイントロダクションとなる『エアバック』と中盤で曲調が飛躍する『パラノイド・アンドロイド』で得られるカタルシスは格別だ。ここでグッと『OKコンピュータ』の世界に引き込まれてしまう。『レット・ダウン』や『イレクショニアリング』のような伝導率の早い曲もあるが、押しなべて言葉の方はかなり込み入っている。が、僕はそこまで読み込めない。まあ、それでいい。僕はトム・ヨークの言葉は話半分で聞くことにしている。『フィッター・ハッピアー』なんてホント馬鹿馬鹿しい詩だ。物知り顔で分析する類のものじゃないだろう。

そんなことより『ノー・サプライゼズ』のアルペジオを聴いていると此処はどこだか自分は誰だか分からなくなる。そんな風にして思考力が停止した僕はあらゆるものを無条件で受け入れてゆく。そこがユートピアなのかディストピアなのかは分からない。

☆1.エアバッグ
★2.パラノイド・アンドロイド
  3.サブタレニアン・ホームシック・エイリアン
  4.イグジット・ミュージック
  5.レット・ダウン
  6.カーマ・ポリス
  7.フィッター・ハピアー
  8.イレクショニアリング
  9.クライミング・アップ・ザ・ウォールズ
☆10.ノー・サプライゼズ
  11.ラッキー
  12.ザ・トゥーリスト

The Bends/Radiohead 感想レビュー

洋楽レビュー:

『The Bends』(1995) Radiohead
(ザ・ベンズ/レディオヘッド)


レディオヘッドというのは不思議なバンドだ。 陰鬱そうに見えて希望を覗かせるし、 悲痛そうに見えてユーモアをほのめかせるし、 案外悲観的ではなく楽観的な気持ちの方が強いような気もする。 但しそれはあくまでも僕の意見。人によって見方は様々だろう。 しかし彼らの言葉や声、メロディはそれら全てを許容する。 そもそも言葉自身が、メロディ自身が、 サウンド自身が力を持っている、両面を持っているから。 あらゆる見方を全て飲み込んでしまえる度量を持つ音楽こそがロッ ク音楽だとしたら、これは間違いなくロック・アルバムだ。 それにしてもこんなエモーショナルで美しいギター・ ロックにはそうお目にかかれるもんじゃない。

行き場のない言葉。しかし悲痛さとはユーモアを伴うものだ。 美しいメロディ。エモーショナルなギター。トム・ ヨークは人間的でプラスチックな声で歌う。 ひどく感傷的でありながら、 感情に浸れない無機質な手触りの向こうにあるのは正しさ。 それはやはり憂鬱さと不可思議な可笑しみだ。これは死の直前、 スローモーションになるほんの数秒の物語。意識は明瞭となり、 全ては正しく網膜に映写される。

これだけ正しくギター・ロックを奏でてしまったからには、 もう後へは引けない。『キッドA』という被膜をめくると『 OKコンピューター』があり、『OKコンピューター』 という被膜をめくると『ザ・ベンズ』がある。

  1. プラネット・テレックス
  2. ザ・ベンズ
3. ハイ・アンド・ドライ
  4. フェイク・プラスティック・トゥリーズ
  5. ボーンズ
  6. ナイス・ドリーム
☆7. ジャスト(ユー・ドゥー・イット・トゥ・ユアセルフ)
☆8. マイ・アイアン・ラング
  9. ブレットプルーフ…アイ・ウィッシュ・アイ・ワズ
 10. ブラック・スター
 11. サルク
 12. ストリート・スピリット
 13. ハウ・キャン・ユー・ビー・シュアー
 14. キラー・カーズ

アオイノシシの生態

ポエトリー:

『アオイノシシの生態』

アオイノシシはこじる

地面をこじる

何が埋まってあるのかは知れず

アオイノシシ

懸命にこじる

隣の奥さんの午睡などつゆ知らず

アオイノシシ

懸命にこじる

時限爆弾を掘るような勢いで

明日の事でも書いてあるのか

 

前に向かってひたすら

飯を食うために生きてきた

お前への手向け

ひとつも揺れもしない地面

一向にすり減らない地面

ただ一様にひたすら地面

地面


2017年5月

花びらのロンド

ポエトリー:

『花びらのロンド』

 

家族で醍醐寺に花見に行った。境内にある霊宝館の傍には大きな枝垂桜があり、満開の花を咲かせていた。眺めていると数枚の花びらがゆらゆらと落ちてゆくのがよく見える。花びらは「先に往くよ」って言っているみたいだった。だんだん僕は花びらに見られている気がしてきた。すると花以外にも木や土やお堂や漆喰にも見られている気がしてきた。

知り合いに赤ん坊が生まれた。よく子は親を選んでくると言うが正にそんな感じ。過去のどこかで一緒にいた。「はじめまして」というより「久しぶり」。そんな気さえしてくる。うちの子は8才と4才だが、そういう気持ちは年々強くなってくるから不思議だ。

僕の方が先に地面に現れたに過ぎない。お先ってね。それから僕が先にこの世界から出てったとして、また別のどこかで落ち合う。家族や友人や、好きな人や嫌いな人や、よく知っている人や名前さえも知らない人。いずれみんな、どっかの見えるものや見えないものになって落ち合う。例えば桜の木の下に舞い降りたとして。やがて木の一部となり、花びらとなり、しまいにゃ、じゃあまたねってまた別の場所へ。出会っては別れ、別れてはまた集う。それは時間のない営み。絶え間のない命の旅。僕らにはその記憶が残っている。古い太古の地層のように。

 2013年4月

詩想

ポエトリー:
『詩想』

 

世界大会のやり投げで

アメリカを飛び越え

アフリカを飛び越え

地球を飛び出した

 

君の詩想はコズミック

自然の摂理のハルカカナタ

何処へ行く?

何をする?

 

スカーフの結び目を解いてあからさま

風がヒュッと空を跨いだ

我儘は頭から消え去って煙と化す

 

その吹き出しもコズミック

宇宙から確認できるはずだ


2015年8月