E-girls PERFECT LIVE 2011-2020 in 三重県営サンアリーナ 2020年2月22日 感想

邦楽レビュー:

E-girls PERFECT LIVE 2011-2020 in 三重県営サンアリーナ 2020年2月22日 感想

 

中3のうちの娘がですね、E-girls の大ファンでして、年中歌ったり曲を流したりしてるんです。でライブに行きたいと、今年で解散するからどうしても行きたいと。まぁ娘の受験もめでたく終わったんでね、じゃあ合格祝いで行こうかということになりまして、で付き添いはママ、ではなく何故か私が行くことになりました(笑)。

ママはね、中学生がそんなん行くもんちゃうなんて言ってたんですけど、私としては行かせてやりたいなと。中3ですから1年間頑張ってきましたし、それに彼女にとって人生初のコンサートになるわけですから、これは心に大きく刻まれるわけです。15才で観た初めてのライブというのは彼女にとってかけがえのない思い出になるんじゃないかなって、それは春からの高校生活への励みになるんじゃないかなって。ですから反対するママを説得してですね(笑)、いつもはそう簡単に説得できないんですけど今回は分かってくれたみたいで、娘を念願のE-girlsライブへ連れていくことができました。

私としても娘と二人でライブなんてこれが最初で最後かもしれないわけですから、おっさんがE-girlsのライブへ行くという気恥しさはあったんですけど、私も基本的に音楽は好きですから。それに娘の本当に喜ぶ顔が見れる、大切な場に一緒に居れるっていうね、そこがやっぱり大きかったですね。

私たちが行ったのは三重県営サンアリーナでのライブです。大阪在住なんで5月の大阪公演に行けばよかったんですが、春からの高校生活がどうなるか分からなかったので今行こうと。はるばるアーバンライナーに乗って三重まで出かけました。

18時開演だったんですけど着いたのは15時前。娘がグッズを買いたいと、なんでもライブ会場限定のグッズがあるとかで、グッズ販売は13時からだったので本当はもっと早く行きたかったみたいですが、そこも色々話し合いをしまして(笑)。結局15時前に着いたんですけど、それでも娘が欲しかったグッズはちゃんと買えたみたいだったので、ほれみぃ、買えたやないか、ということでここは丸く収まりました(笑)。

と前置きが長くなりましたが肝心のライブ。こういうのは私も初めて観たのですが素直に良かったです。ていうかちょっと感動しました(笑)。理由は二つあります。一つはやっぱり娘ですよね、横で見てると大好きなE-girlsのライブということで本当にいい顔をしてるんです。そこに先ず感動してしまいまして、ハイ、親バカですな(笑)。でも彼女がどれだけ好きかっていうのは日常を見て知ってますから本当によかったなって、そこはもう親として胸が熱くなりました。

でもう一つ、これはE-girlsのパフォーマンスですね。彼女たちも本当に精一杯歌って踊っていて、これが解散コンサートということで、私はこれまでの彼女たちの活動は全然知りませんけど、想像するに十代のころからここに青春をかけて頑張ってきたわけですよね。それがこの日の彼女たちの素晴らしいパフォーマンスに繋がっているって考えると、私は全く彼女たちの肉親でもなんでもないんですけどね(笑)、これもやっぱりここまでようやったなぁと、これはやっぱりグッと来ますよ。

あとこれは私独特の楽しさだったかもしれませんが、一応娘が普段歌ったりしているので何となくE-girlsの歌は知っているんですね、まぁ何となくですけど。それが実際に聴いて、あぁこれはこういう曲だったのかとか、はいはいこの曲ね、ということでいちいちストンと腑に落ちていく瞬間が幾度かありまして、それはそれで面白かったですね。あと、娘にこの歌のこのサビの時はこのフレーズで合いの手を入れるんだとかいうのをピンポイントで教わったりしていて、それもまぁ恥ずかしながら楽しかったです(笑)。

でやっぱり生で聴くと歌もダンスも上手いなぁと、当たり前ですけど。ほら、ここ数年ダンスって流行ってるじゃないですか。だからテレビやなんかで見る機会はあるんですけど、プロのダンスってのは初めて直に見るわけですからこれはやっぱり凄いなと。途中、ソロのダンスコーナーもあったんですけど、ここは相当カッコよかったですね。

歌も抜群にうまかったです。あとラップをするメンバーもいて、すみません、娘に名前を聞きましたが誰か忘れました(笑)、彼女のラップもバッチリ決まってましたね。少ししかなかったんですけど、ここをもう少し押し広げてもいいんじゃないかと思いました。

でまぁ色々と工夫があってね、Youtube風の動画コーナーがあったり、LINEを模した掛け合いがあったり、ここはお客さんも喜んでいましたね。ただちょっと広告的な、彼女たちの所属する事務所の他のグループ云々のところであったり、メンバーの出演する映画の宣伝だったりというのはちょっとね。折角のE-girlsのライブという全体の流れがちょっと阻害されるかなと。野暮だなと大人の私は思いました。

あとこれは言ってもしょうがないのかもしれませんが、トラックですよね。ここがもう少し何とかならんかったのかなと。歌も踊りも相当なレベルにあると思うんですが、それに引き替え音がやっぱり弱いというか。フル・バンドとは言いませんが、せめてドラムだけでもいたらなと。あとホーン・セクションが何人かいるだけでダイナミズムが相当出ると思うんですけど、そう簡単な話ではないのですかね。

というのもやっぱり彼女たちのパフォーマンスが素晴らしかったんですね、他の部分にもう少し力を入れたらエンターテイメントとしてのレベルが更にグッと上がったんじゃないかなと思うんです。なんかこれだけの素材があるのに勿体ないなと思いました。

勿体ないというと解散もね、私はその辺の事情を全く知りませんが、これだけの実力があるのに解散なんてなんか勿体ないなぁって、ただの通りすがりの人間としてそこは素直に思いましたね。

ライブは18時開演で終わったのが21時50分頃でしょうか。最初の30分ほどが若いグループによるオープニング・アクトで、途中動画コーナーもあったり宣伝コーナーもあったりしましたから、実質のライブはそんなにも無かったのかもしれませんが、兎に角で最後まで娘は楽しんでましたし、なんだったらこれだけあっても物足りないくらいに思ってたんじゃないですかね、なにしろ体力が有り余ってますから(笑)。

ただまぁ残念なことに私たちは大阪から来ていますから最終電車の時間が迫っている訳ですよ(笑)。ライブが終わって大勢が一挙に出てきてゾロゾロ歩いていたら帰りの最終特急に乗り遅れてしまう。ということでここは事前に娘と何があっても21時45分になったら会場を出る、という取り決めをしていたんですけどね、娘としちゃそりゃあここにきてのそれは納得いかないですよ(笑)。

とはいえ親として冒険は出来ませんから娘をちゃんと家に帰すべく、だから娘の気が収まるまで険悪な雰囲気になってしまいましたが(笑)、無事に家に帰ることが出来まして、まぁ長い一日でしたけど、娘にとっても私にとっても思い出深い日になりました。

あとですねぇ、お客さんが非常に行儀よかったです。若い子ばっかりだったんですけど、妙にはしゃいでる子やいちびっているような子は全然いませんでした。これは前から思っていたことなんですけど、今の子ってちゃんと教育を受けてるし、色んなことを理解していて、我々の世代とは比べものにならないぐらいちゃんとしてるんです。今やもう圧倒的に年寄りの方がマナー悪いですから。その事も改めて知る機会になりましたね。

最後に新型コロナウイルスの件。2月26日の政府の発表で人が大勢集めるイベントの中止要請が出ました。これ、1週間早く出ていたらE-girlsのライブへ行けなかったわけです。ここは日本政府の対応のノロさに感謝するしかないですが、まぁあの日会場にいたことによって感染した人がいたとすれば、我々も含めてですけどね、感謝とか言ってられないですが、その日を楽しみにして26日以降のイベントに参加出来ない人たちが沢山いるわけですから、とりあえず私たちとしては今は幸運だったということですね。

あと主催者に苦言を呈すとですね、やっぱりチケット代ですね。1万円越えというのはお客さんが10代20代の子中心ということを考えるとこれはちょっとね、もう少し何とかならないのかなと。あと娘に解散ツアーの詳細を教えてもらったんですけどこれが大都市中心なんですよ。解散コンサートですから地方の子も参加できるようにね、もうちょっときめ細かく回ってあげられないものかなと。それが無理なら開演時間を早めるとかね。一人で帰る女の子もちらほらいましたから、一時間早めるだけで随分と違うのになとは思いました。

今、ライブを観に行きたい人シリーズ まとめ

その他雑感​:​
「今、ライブを観に行きたい人シリーズ まとめ」
 
 
今回、 ライブを観に行きたい人シリーズとして3名の方を紹介しましたが、先ず目に付くのはパフォーマーとしての存在感です。それも演出してどうこうというのではなく、自然な振る舞いとして表立ってくるものがある。曲を演奏するという行為がイコール表現になっているんですね。音楽というのは肉体的な動作も相まって表現されるものとすれば、そこを自発的に表現されている、自覚されているのだと思います。
 
プラス知的要素。それも色々あるでしょうが僕の場合は言葉がついつい気になりますから言葉に目が行きます。その点、折坂さんも中村さんもカネコさんも自分の体を通して出てきた言葉を持っているから聴き耳を立てさせるんですね、なんだなんだと。で言葉が強いから自然声も強くなる。言葉が前面に立つ、矢面に立っても負けないんです。
 
つまりそれはソングライティングに長けているということだと思います。 ライブを観に行きたい人シリーズとして話をしているので、ライブ表現の話が多くなりましたが、やっぱり最初に来るのは単純に曲がいいってことですね。
 
勿論音楽を作る時は慎重になるだろし、細かいところまで丁寧に作るというのはあると思うんですけど、ライブで表現する時っていうのはもうそこは無頓着なんですね多分。何も音源どおりにする必要はない。たった一度しかないその日の公演はその日の流れに任せてしまえばいいんだと。3人ともそういうスタイルなのではないかなと。
 
それが出来るってことはさっきの曲の話に戻りますけど、自分はこうなんだというオリジナルの表現を持っているからなんだと思います。借り物の表現ではなく、もちろんすべてがオリジナルということはあり得ないんですけど、自分はこうしたいというのがある。まぁ本来はそうでないと歌う必要ないわけですけど(笑)、そして今回ご紹介した方々はそれを表現出来る力量を持っているということなんだと思います。
 
ちなみに今回ご紹介した折坂さん、中村さん、カネコさんを僕が知ったのは、それぞれ紙媒体にYoutubeにラジオでした。それっぽい経路なのが面白いです。

今、ライブを観に行きたい人シリーズその③ カネコアヤノ

その他雑感:
「今、ライブを観に行きたい人シリーズその③ カネコアヤノ」  
 
カネコさんを知ったのはラジオです。たまたまですけど弾き語りで「かみつきたい」という曲を歌ってらっしゃるのを聞いて、弾き語りですから言葉がダイレクトに響いてきたんですね。そうすると、いい曲を歌おうとか人を励まそうとかそういった外側の部分が何ひとつ感じられなくて、あぁこの人は歌いたいことがあるんだなぁとそれだけが全面に来たんです。で、その潔さになんだなんだと興味を引かれたわけです。ですので僕がカネコさんを好きになったのは見た目からではありません。ラジオです。一応言っときます(笑)。
 
前述の折坂さんや中村佳穂さんは何と形容すればよいか分からない人たちでしたけど、カネコさんはもう完全にロックの人ですね。サウンドがどうとか以前の段階として立ち居振る舞いが完全にロックです。めちゃくちゃ格好いいです。チャーミングなルックスに目が行きがちですが野性的です。どんな感じかというと、とりあえずこちらをご覧ください。
 
 
普段はどんな方が知りませんが、インタビューなんかを聞いてると物静かな印象ですね。それがステージに立つと、ていうかギターを抱えるとスパークするんです。これですよこれ。逆に普段カッコつけてるくせに歌い出すとからっきしカッコ悪い人いるじゃないですか(笑)。でもカネコさんは恰好つけようとか演出云々ではなくナチュラルにスパークしちゃうんです。これはもうロック以外の何物でもないでしょ。
 
あとやっぱりバンドがいいです。スタジオで録音されたオリジナル・バージョンよりライブ・バージョンの方が圧倒的にいいです。多分同じメンツだと思うんですけど、こんなに違うかっていうぐらいダイナミズムが全然違います。ここは課題なのかもしれませんが、彼女の場合は2パターンあるってことで、これはこれでいいような気もします。
 
男だろうが女だろうが立ち居振る舞いが格好いいミュージシャンてそんなにいません。曲が格好いいってのはありますよ。単純にルックスがいいってのはありますよ。でも歌ってる姿が格好いいってあんまりいないんです。しかもちょっと意識してっていうのではなく、本人にその気がなくても、いや多分むしろそんなこと無頓着なのに自然と格好よくなってしまうっていう、そういうお方なのだと思います。
 
てことで僕がライブを観に行きたい人シリーズの最後を飾るにはネコアヤノさんです。

今、ライブを観に行きたい人シリーズその② 中村佳穂

その他雑感:

「今、ライブを観に行きたい人シリーズその② 中村佳穂」

中村佳穂さんを知ったのは昨年のフジロックでのYoutube中継で、中継と言ってもずっとは見てられませんから空いた時間にちょいちょい見る程度だったのですが、たまたま覗いて見た時に演奏されていたのが中村佳穂さんでした。

スマホの小さな画面だったのですが、一気に中村さんの世界に引き込まれまして、フジロックと言っても大体はながら見になるのですけど、もうこの時ばかりは食い入るように見て、勿論演奏も素晴らしかったんですけど、この方のパーソナリティーですね、ホントに開放的でフジロックの森の中のステージとの組み合わせとも相まってドンと心に響いたんです。

じゃあ中村さんのステージはどんなのかっていうと下にリンク貼っときます。この映像では太鼓を叩いていますが、本来はピアノを弾く人です。最近見た映像でこれが凄くよかったので先ずはこちらを。ちょっと長いですけど凄い展開になってますんで、最後まで見ていただけたらと。

偶然聴いたラジオでこの時のステージの話をされていて、今年はなんだ色んな楽器に挑戦する年にしたいんだとか。それでこういうことになったらしいです。途中、「最後やだな」とか「助けて」とかアドリブが入るのがいいでしょ?

ピアノの方は凄いスキルをお持ちです。もう体の一部って感じでして、イメージとしては自由奔放ですからジャズってことですかね。ただそこに至るまでに物凄く準備を整えていそうで、これは完全に僕の想像なのですが、完璧に近い準備をしてステージに立てばあとはもうその場次第。準備したものに囚われない。そんなイメージですね。

ですので例えて言うと矢野顕子さんということになるのでしょうが、そこは最近の方ですから、エレクトリカルとかヒップホップとかさっきの太鼓とか、もう色々な要素がごちゃ混ぜでフリー、ボーダレスです歌い方も含めて自由なんです。

てことでこの方のライブもやはり一度は観てみたいなと。むしろ観たいというより体験したいという言い方の方が近いような気はしますが、とはいえこの方もですね、もうすぐ来阪されるのですが、チケットはとっくにございません(笑)。やっぱり、大々的にブレイクしていなくても凄い人は人気があるのです。

今、ライブを観に行きたい人シリーズその① 折坂悠太

その他雑感:

「今、ライブを観に行きたい人シリーズその① 折坂悠太」

折坂さんのことはこのブログでも何回か取り上げたことがあるのですが、きっかけは某音楽誌の2018年邦楽部門の年間ベスト1に選ばれたことですね。気になってYoutubeを見たらもうたまげたのなんのって、早速そのアルバム『平成』を購入。世の中にはまだまだスゴイ才能をお持ちの方がいらっしゃいます

やっぱりこの方はですね、生で観ないと本当の素晴らしさは分からないのではないかなと。Youtubeでしか見たことがないので偉そうなことは言えませんが、ライブが圧倒的に素晴らしいんです。ちょうど僕が『平成』アルバムを買った頃にライブがありましたので、チケットを買おうとしたのですが、まぁほぼ即売に近い感じでして見事に撃沈しました(笑)。

昨年はテレビドラマの主題歌を歌っていましたから、現状、更にチケット入手が難しくなっているとは思うのですが、この春、3月23日大阪にお立ち寄りのこと。懲りずにチケットゲットにチャレンジしたところ見事にゲットできましてもう思いっ切り満喫しようかなと、今から楽しみでどうしようもございません。

 
折坂さんは弾き語りでも抜群に素晴らしいのですが、バンドも魅力ですね。ドラムというか太鼓の響きが結構独特で、パーカッションも入ってるんですかね。キーボード関係も特徴的で、なんていうか大正昭和期の日本歌謡とでもいうような感じですかね
 
極端にいうとチンドン屋さんみたいな、ま、実際そういう楽器編成ではないんですけど、イメージとしてね、日本のポップ音楽をJ-POPなんて言いますがそっちじゃなくて、どっちかって言うと戦前戦後の大衆歌謡の系譜のような、日本人の琴線に触れる音楽とは実はこういう感じじゃないかとでも言うようなイメージと言いますか、そういう和洋折衷なごちゃ混ぜ感がごちゃごちゃしたまんま提示される面白さがあるような気はします。
 
てことで今、僕がライブで観てみたい人と言えば先ずこの方折坂悠太さんですね

834.194/サカナクション 感想レビュー

邦楽レビュー:

『834.194』(2019)サカナクション

 

個人的には随分と久しぶりのサカナクションです。彼らのアルバムを買うのは2010年の『kikUU-iki』以来。ということで僕は熱心なサカナクションのリスナーではないので、あしからず。

その間、世間的には大ブレイクしたわけだけど、僕としてはなんか物足りないというか、もっとグワッとした塊というかロック的な衝動というか、何じゃこりゃ?というような過剰さが欲しかったというのがあって。勿論好きは好きなんだけど、アルバムを買うまでには至らなかったのは、なんか綺麗に洗練されて小ざっぱりしたバンドだなという印象が拭いきれずにいたからかもしれない。

そこでこの2枚組。CDが売れない、しかもアルバムとしてのコンセプト云々というのが顧みられなくなったこのご時世において2枚組を出すという。これはもう聴かなきゃいけないなと。

本作に伴う山口一郎のインタビューで印象深かったのが、作為性/無作為性という話。「天才というのは尾崎豊やブルーハーツのことで、彼らは本能で書いてそれが認められる。けど僕たちはそれが受け入れられなかった。そこでどうしたら受け入れられるかを考えるようになり、そこで見つけたのがダンスやエレクトロニカを導入した今の形。」というような発言。山口によると、札幌でのアマチュア時代が無作為性で、認められて東京に出てきて今に至るというのが作為性ということになる。

なんかメンドクサイことを言ってやがると思いつつ、けどそれは大いに共感できる話で、つまり音楽家に限らずある程度認知されているアーティストというのはすべからく作為的なところが恐らくある。つまり作家性と商業性で、そこの使い分けは別に悪い事でも何でもなくて当然なのではと、素人だからこそ思ったりもするのだけど、山口一郎の場合は長くやってきたけど未だにそこのところがしっくりと来ない。つまり今回の2枚組はその気持ちのわだかまりが形になって現れたという風にも受け取れるのではないか。

そういう意味では僕がサカナクションに対しなんとなく物足りないと感じていた部分は的外れでもなかったし、当の山口一郎本人がそうだったのだから、そりゃ当然だろうと思うのだけど、その揺らぎというのがこのアルバムにはちゃんと出ていて、そこは本人が意識していたのかどうかは別にして、見事に揺らいでいるなぁ、というのがこのアルバムに対する僕の印象です。

つまり山口本人の言として、Disc1は作為性であると。認められて東京に出てきたスタイルを表し、だからキャッチーだしアッパーな曲もある。一方のDisc2は無作為性、本当はそんなこと言っている時点で作為的なんだけど、兎にも角にもウケるウケないは横に置いて内面に糸を垂れる、ありのままの音楽表現で行くんだというDisc2をセットする。

で実際に聴いていると確かにそんな感じはするし、具体的に言うと家で休みの日なんかにDisc1をかけてたら家族は喜ぶし、いい感じのリビングになるんだけど、Disc2はやっぱりそうじゃねえなって。家族が寝静まった夜に一人イヤホンを差して聴くというのがしっくりくる。

けどこれが聴き続けているとどうも違ってくるというか、だんだんそういう境目が無くなってくる。言う程1枚目は作為的でもないし、言う程2枚目は無作為でもない。当然ながら、時間の経過と共に彼らは成長しているのであって、無作為性なんて言ったって、もうそういうところへは戻れない訳だし、しかし戻りたいとする意識はここにあって、そういう作為性と無作為性が混ざり合う感じ、まだ完全に混ざり合っていない、不確かな感じがこのアルバムの魅力として横たわっているような気はする。

ということで、今この時期に2枚組にする必要はあったのだろうけど、山口一郎はこういうメンドクサイ人だからこそ信用できるのかなと。いずれこういう不器用な事をせずとも、全く自然な作為/無作為の交わったサカナクションというものが立ち現れてくるだろうけど、それは随分と先の話ではなく意外とすぐそこに来ているのかも。

個人的にはソロ活動をジャンジャンやりゃあいいのになぁと思ったりもするけど、それは余計なお世話(笑)。

 

Tracklist:
(Disc 1)
1. 忘れられないの
2. マッチとピーナッツ
3. 陽炎
4. 多分、風。
5. 新宝島
6. モス
7. 「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」
8. ユリイカ (Shotaro Aoyama Remix)
9. セプテンバー -東京 version-

(Disc 1)
10. グッドバイ
11. 蓮の花 -single version-
12. ユリイカ
13. ナイロンの糸
14. 茶柱
15. ワンダーランド
16. さよならはエモーション
17. 834.194
18. セプテンバー -札幌 version-

平成/折坂悠太 感想レビュー

邦楽レビュー:

『平成』(2018)折坂悠太

 

講談師の神田松之丞が大変な人気らしく、私は確か一昨年ぐらい前にEテレでやってたインタビュー番組「SWITCH」で彼を知って、こりゃ面白れぇと早速音源を聴いたところそりゃ驚いたのなんのって。

私は同じくEテレの「日本の話芸」を毎週録画していますから、じゃあそこで時たまやる講談もいっちょ観てみようかなんて思って観てみますと(いつも落語以外は大概すっ飛ばします、すみません)、まぁ昔ながらの、あぁ講談ってこんな感じだったよなっていう印象で、なるほど、神田松之丞がだいぶ変わってんだなと。ま、それからは相変わらずすっ飛ばしております、あい、すみません。

で落語好きの友人に神田松之丞を紹介したところ、そいつは神田松之丞の講談を聴いても別に何とも思わなかったみたいで、私は拍子抜けした気分にもなりましたが、そういやそいつは音楽を聴かねぇやつだったじゃねぇかと、なるほどと一人得心しておりました。

どういうことかと申しますと、神田松之丞という講談師は兎に角大げさで、過剰で、やたらめったらエネルギーを放射する。恐らくその過剰さを私は気に入ったんですけど、要するにその過剰さというのは私にとってはロック音楽なんです。それも若い奴のやるロック音楽。過剰っつってもパンクやメタルなんていう騒がしい音楽という意味ではなくて、大人しくったって過剰で心象が騒がしい音楽はそこらじゅうにあるわけで、いちいち表現がオーバーな奴っているでしょ?でもその過剰さっていうのは重要で若さの特権なんです。

若いくせに過剰じゃねぇロック音楽なんての私は興味ないです。てことで、落語好きなのに神田松之丞がピンと来なかったのはそいつが音楽を聴かねぇやつだったからという理屈です。

前置きが長くなりましたが、折坂悠太です。過剰です。苦味とか雑味だらけでやたらめったらエネルギーを放射して暑苦しいです。どういうわけか「みーちゃん」とか「夜学」とかを聴いてると、米国のジャム・バンド、デイヴ・マシューズ・バンドを思い出しまして、ジャカジャカした感じとか、サックスの感じですかね?暑苦しいなんて言いましたけど、デイヴ・マシューズ・バンドっぽいっつってんだから、悪い気はしないでしょ、折坂さん。

なにしろ言葉がいいです。例えば1曲目の『坂道』。「重心を低く取り / 加速するこの命が / 過ぎてく家や木々を / 抽象の絵に変える」。続いて2曲目『逢引』は「互いの生傷を暗闇に伏せている」。いい表現するじゃないですか。

言葉で言うとダブルミーニング、掛詞が目に付きました。#2『逢引』の「各都市のわたくしが」は「各年(若しくは各歳)」にも聞こえます。#6『みーちゃん』の「みーちゃん、だめ」は「見ちゃだめ」だろうな。#7『丑の刻ごうごう』の「朝間近」は「浅まじか」或いは「マジか?」に聞こえます。

意図的なのか偶然なのかは知りませんが、たとえ偶然だろうと見て見ぬフリをする大胆さをお持ちではないかと。何かのインタビューで「字余りになるのが嫌で、言葉を綺麗に揃えてしまう」などと几帳面な事をぬかしておりましたが、この緊張と緩和はやはり日本の話芸と相通ずるものがございます。

ちなみに私が折坂悠太の『平成』をウォークマンに取り込んだ日は、昭和の大名人、5代目古今亭志ん生と5代目柳家小さんの落語を取り込んだ日でもありまして、只今、私のウォークマンにはこの3名が‘最近録音したもの’という同じカテゴリーに並んでおります。どうだい折坂、恐れ入ったか、コノヤロー!

 

Tracklist:
1. 坂道
2. 逢引
3. 平成
4. 揺れる
5. 旋毛からつま先
6. みーちゃん
7. 丑の刻ごうごう
8. 夜学
9. take 13
10. さびしさ
11. 光

Lush Life/川村結花 感想レビュー

邦楽レビュー:

Lush Life(1999)川村結花

 

もう20年も前の話になるが、夜遅くにこの人のピアノ弾き語りライブをテレビで観たのを覚えている。それでこのアルバムを買ったのか、元々持っていたのか、そこのところの記憶は定かではないが、先日たまたまウォークマンに入れているこの『Rush Life』というアルバムを何年かぶりに聴いて、本当に声がいいし、メロディがいいし、言葉がいいし、とても素晴らしい歌い手だなぁと改めて思った。

なんでも現在彼女は裏方に回っているそうで、なんでこんなに素敵な声の持ち主が裏方なんだと、これだから日本の芸能界は駄目なんだと、思わずクダを巻いてしまいそうになったが、実際のところはどうして自分で歌わなくなっちゃったんだろうか。

当時は彼女の声が好きでよくこのアルバムを聴いていたんだけど、今聴いてみると豊かなメロディがとても耳に残る。彼女が作曲した超有名曲、『夜空ノムコウ』もこのアルバムの中ではあまり目立たない。どちらかと言うと大人しくて、つまりはそれだけ他の曲が色鮮やかな色彩を奏でているからで、例えば1曲目の『マイルストーン』を見ていくと、「僕らはどこに忘れてきたんだろう」という冒頭の歌詞がラストに「何でもできると思っていた どこでも行けると思っていた」という言葉に変換され、それが印象的なピアノのフレーズとコーラスでダイナミックに持っていかれる。ところが程よい高さというか、彼女の声もそうなんだけど無理のない高さでそのまま届いてくるから、ドラマティックなんだけど大げさじゃなく、こちらも自然体で受け止められる。

ドラマティックといえば6曲目の『イノセンス』もそうだ。特にサビの後のエキゾチックなコーラスは盛り上げるのに一役買っている。で、やっぱり立体的。一転、4曲目の『アンフォゲタブル』は静かなバラード。ブリッジでは「痛みに出会う度 強くなれるなら なれなくていい」と情感たっぷりに切なく歌うが彼女の高くない声は性別を越えるから地面に沿ってこれも具体的に形作られてこちらに響いてくる。

おどけた8曲目の『A Day He Was Born』や10曲目の『Rum & Milk』もいいアクセントになっているが、アクセントどころかこんなコミカルな曲でも抑揚があるからメロディが綺麗に景色を描いてくれる。やはり2次元じゃなく3次元で。

所謂ストーリーテリングというものは言葉が物語を紡いでいくんだけど、彼女の場合はもちろん言葉もあるけどメロディが物語の輪郭を形作り、声がそこに色を付けていく感じ。こういうタイプの歌い手ってなかなかいないから、表舞台に出なくなったのは本当に残念だ。

今はいくつか知らないけど、年齢を重ねた川村結花さんがピアノの前で歌う姿を僕はもう一度、夜中にテレビかなんかで偶然観たら、何か素敵な話だなぁなんて勝手に面映いことを思ってしまいましたが、そんな僕の妄想はさておき、もし本当に何処かで歌う機会があるのなら、直に聴いてみたい。そんな歌い手さんです。

 

Tracklist:
1. マイルストーン
2. 遠い星と近くの君
3. ヒマワリ
4. アンフォゲタブル
5. Every Breath You Take (Album ver.)
6. イノセンス
7. 夜空ノムコウ (Album ver.)
8. A Day He Was Born
9. home (Album ver.)
10. Rum & Milk
11. ヒマワリ -reprise-

Bonus Track
12. ときめきのリズム(Mellow Groove ver.)

折坂悠太さんという歌い手にちょいと感動しています

邦楽レビュー:

折坂悠太さんという歌い手にちょいと感動しています

 

折坂悠太さんという歌い手にちょいと感動しています。年の終わりに音楽各紙やネットで発表される2018年のベスト・アルバム選に折坂悠太という名前が散見されて、国内の老舗音楽誌、ミュージック・マガジンでは日本のロック部門で彼のアルバム『平成』が1位となっていました。てことで、最近になってようやくYoutubeで観だしたのですが、そしたら驚いたのなんのって。いや、驚いたんじゃなく、冒頭で述べたとおりちょいと感動しています。

僕は洋楽をメインで聴いているけど、別に邦楽を避けている訳じゃない。むしろ普段からなんか日本のいい音楽ないかなぁなんて思っている方だ。やっぱり母国語でしか得られないカタルシスは格別だから。

でも面白い表現、カッコイイ表現に時折出くわすことはあっても、心を揺さぶられるような言葉にはなかなか出会えない。勿論、音楽としてカッコよくなきゃ話になんないし、母国語なるが故、ついハードルが高くなってしまう。洋楽だと歌詞が少々アレでも曲が良けりゃ聴けちゃうからね。

折坂悠太さんの歌唱は独特だ。こぶしの入った節回しで合間にスキャットだのヨーデルだのを放り込んでくる。『逢引』という曲ではポエトリーリーディングもあって、いやこれも独特の口調でリーディングというより講談の口上っぽい。こういう声にならない声を発声する人はなかなかいない。

歌詞の方も独特で、最初は聴きなれない言葉遣いなので分かりにくいかもしれないが、独特の歌唱と相まって言葉がスパークしている。ぶつかり合っている。芸術というものは市井の人々の暮らしの中から湧き上がってくるもので、それはどうしようもなく地面を突き破って表れてくる。その時の地響きがここには記録されているということだと思う。

けれど折坂さんはそれを情感たっぷりに歌い上げるのではない。力を込めて目一杯歌っているけど、突き放している。それこそ講談師や浪曲師のようだ。宇多田ヒカルさんみたいに自分のことをまるで他人事のように歌える人と見たがどうだろう。どっちにしても言葉とメロディが有機的に機能している音楽に出会うことは楽しいことだ。

 

下に貼り付けたのはYoutubeのスタジオライブです。3分57秒後に始まる『逢引』という曲。僕には宇多田さんが登場してきた時のようなインパクトがありました。

Baby Cry For Me/Date Of Birth 感想レビュー

邦楽レビュー:

Baby Cry For Me(1991)Date Of Birth
(ベイビー・クライ・フォー・ミー/デイト・オブ・バース)

 

デイト・オブ・バースをご存じでしょうか?バブル全盛期の1992年、フジテレビのドラマ主題歌というこりゃヒットするに決まってるや~んていう絶好のポール・ポジションに抜擢されながらも、気持ちいいぐらい見事にヒットしなかった、まるでフォーメーション・ラップ中にリタイアしてしまったアラン・プロストのような伝説のバンド。当時、全編英語詞、しかもバブリーさの欠片もない地味な曲を聴いて、折角のチャンスやのになんでやね~んとツッコミを入れた方も大勢いらっしゃるかと思いますが、以前からこのバンドをイチオシしていた私も全くその通り。しかも曲名が「You Are My Secret」っていうホントに秘密にしたいぐらいのオチまで付いて、私も後にも先にもあれぐらいびっくりしたことは御座いません。

てことで実は私、ドラマ主題歌に抜擢される前からこのバンドを知っていまして、きっかけはこちらもかの伝説のテレビ番組「ミュージック・トマト・ジャパン」。関西地方ではサンテレビでやっていて、たまに私も観ていたのですが、そこに颯爽と登場したのがデイト・オブ・バースの「ベイビー・クライ・フォー・ミー」(1991年)という曲なのです。

まぁ騙されたと思って聴いてみてください。この一瞬でロッキン・ボーイズの心を鷲掴みするイントロ。タンッ!タンッ!タンッ!タンッ!っていうドラムがこれから楽しいポップ・チューンが始まるぞっていう予感に溢れて最高でしょ。続いていい具合にリバーブな(←憂いがかったという意味です)ギター・リフ。そして始まるボーカルがいきなり「ビジュアルよりマイ~ン♪」ですよあーた。これがまたノリコさんっていうボーカリストで綺麗なお姉さんで、こんな素敵なお姉さんに「ビジュアルよりマイ~ン♪」(←正確には「ビジュアルよりマインド」)なんて歌われた日にゃ、どこぞの田舎のロッキン・ボーイズはそりゃやられるやろっ!

この曲、前述のドラマ主題歌と同じバンドとは思えないぐらいのご機嫌なポップ・チューンで、とにかくドラムが終始跳ねてるんすよ。当時ポップ・ソングにはホーンが絡んでくるっていうの一つの定型だったんですけど、この曲も途中からラッパ隊が入ってきて、ウキウキ感に拍車をかけるんですね。そうそう、懐かしのスイング・アウト・シスターズの「ブレイク・アウト」なんかを思い出してもらうといいかもです。まさしくあんな感じですね。

今回私も何を思ったか急に思い出して、ネット検索して聴いたんですけど、久しぶりに聴くとやっぱ簡潔で歯切れよくってホントいいんですよね~。シンプルだけど、この人達は音楽的な素養がふんだんにあったんだろうなって。今になってギターがすんげー格好いいフレーズ弾いてるのに気付いたり、それとやっぱりドラムの乾いた感じ。こんな小気味いい音、なかなかお目にかかれませんぜ!

で繰り返すようですけど、非常にシンプル。それでいて伝わるものはいっぱいあって、これこそ正に優れたポップ・ソングの王道。なんてったってサビは「ベイビー・クライ・フォー・ミー♪」のひと言だけなんですから。そうやね、竹を割ったようなスパッとした歌詞も心地いいっス。思わず、あ~この曲がドラマ主題歌になってたらヒットしてたのにな~なんて野暮な事を思ったりもしますが、それはそれ。バブル全盛にあっても全く浮かれなかった大人なバンド、今思えば大したもんです。

ところでこの曲入ったアルバム、昔々どっかの中古店に売っちゃたんだよな~。なんてことしたんだ昔のオレ。皆さんも聴かなくなったからといって、すぐ売らないように(笑)。

※Youtubeにあったので貼り付けていましたが、削除されているようで。
 また見つけたら貼っておきます。