Drunk Tank Pink / Shame 洋楽レビュー

洋楽レビュー:
 
『Drunk Tank Pink』(2021年)Shame
(ドランク・タンク・ピンク/シェイム)
 
 
昨年あたりからUK、特にサウス・ロンドンが活況づいているとの記事が散見されるようになり、僕もどれどれとチェックはしていたのだけど、あまりピンとは来ず、ところが今年に入ってもその熱は収まるどころか更に大きなムーブメントになっていると。でその大きなトピックとして、シェイムなるバンドが2ndアルバムを出したと言う。それがもっぱら評判がいいので、じゃあと聴いてみたら、なんやめっちゃカッコエエやん。ということで、ここんとこ毎朝の通勤ではこれを聴いていました。朝から激しいなオレは(笑)。
 
ボーカルとツイン・ギターにベースとドラムの5人編成ですね。全員20才そこそこ、見た目も尖がっててイイ感じです。ことに激しいライブが売りだとのこと。なのでイケイケかと思いきや、音楽は全くもって丁寧。プロデュースがアークティック・モンキーズを手掛けたジェイムス・フォードだそうですけど、彼の手腕も大きいのかな。でもかと言って角が取れたということではなく、シェイム独特のやさぐれ感、ダークな感じはしっかり残っている。曲自体がそれを内包しているからか。
 
てことで一応ポスト・パンクということですが、メロディは人懐っこいです。曲調もイケイケ一辺倒では全然なく、中には転調もあったりトーンが変わったりと凝った作り。でも印象としてはシンプルに聴こえるっていう。ていうかギターがいちいちカッコイイ!それにどの曲もつかみのイントロが最高!躍動感のある#6『Snow Day』や#9『6/1』でのドラムとギターのコンビネーション、磁石のようにへばりつくベースはめちゃくちゃカッコイイぞ。このバンドを評するに色々あると思いますが、ま、単純にカッコイイ。そういうことだと思います。
 
あとボーカルの声がジョー・ストラマーに似てますね。あんまりそういう指摘はないみたいですが。だからさっき言った手の込んだアレンジを加えてくるという点ではクラッシュに近いかも。クラッシュみたいに今後アルバムを重ねるごとに新しい音楽的な実験をしていくんじゃないかなと。ということで、一つの道を究めていくというより、いろんなことを吸収して表現の可動域を広げていきたい、そういう傾向のバンドなのかもしれません。

W.L. / The Snuts 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『W.L.』(2021年)The Snuts
(W.L./ザ・スナッツ)
 
 
このところ英国初のロックが元気だ。長い間ヒップ・ホップやダンス・ミュージックに押されっぱなしだったが、若い才能が次々と登場している。当初はアイドルズやフォンテインズD.C、シェイムといったポスト・パンクと呼ばれる威勢のいいバンドが多かったが、今年に入り、長尺ジャム・バンドのブラック・カントリー・ニュー・ロードやポエトリー・リーディング主体のドライ・クリーニングといった風変わりなバンドまでもが英国アルバム・チャートのトップ10入りを果たしている。
 
長尺ジャム・バンドやポエトリー・リーディングがトップ10ヒットになるなんて流石ロックの国だなと感心するが、そことは真逆のポップ・サイドの真打と言えそうなのがザ・スナッツ。中学校で出会った仲間とバンドを組み、アークティック・モンキーズに影響を受けたというから、その背景もまさに正統派ロック・キッズだ。
 
アークティックへの憧れで言えば、#3『Juan Belmonte』はアルバム『AM』期のアークティックだし、続く#4『All Your Friends』はまんま初期のそれ。けれどアルバム全体を聴いていると、アークティックだけではない、00年代、10年代ロック音楽の影響をそこかしこに感じることが出来る。
 
まず思い浮かべたのは、彼らと同じスコットランド出身のザ・ビュー。シャウト気味に歌う時の声がカイル・ファルコナーそっくりやね。このところ名前を聞かなくなったが、ザ・ビューも勢い重視と思いきや音楽的素養確かな連中で、しかもとっつきやすいメロディーが最大の持ち味という点では割と近いかなと思います。
 
あと、#10『Don’t Forget It (Punk)』とか#11『Coffee & Cigarettes』の職人的なソングライティングには、これは英国じゃないけど、フォスター・ザ・ピープルに通じるところがあって、そう思うと声までマーク・フォスターに似ている気がしてくる。マーク・フォスターはデビュー前にCM音楽なんかを手掛けていたというから、それに近い職人気質だってザ・スナッツはあるのかもしれない。
 
あとやっぱりロック・バンドと言えども2020年代でもあるわけだから、当然のことながら4ピースだけでドカンということじゃなく、ちゃんと電子的なアレンジも施されていて、コーラスもそうだけど耳を凝らせばいろんなフレーズが飛び込んで来る。彼らを代表するロック・チューンになりそうな#6『Glasgow』だって単純にドカンじゃないもんな。この辺はそれこそフォスター・ザ・ピープルもプロデュースしたことのあるトニー・ホッファーの手腕も大きいのかもしれないけど、そうは言っても、やっぱり彼らにその素養があるのだと思います。あ、勿論4ピースでドカンも僕は好きです。
 
いい曲を沢山書けて、それを料理する技術とセンスも持っている。今後これがどこまで続くか分からないが、多分彼らの推進力は初期衝動だけではなさそうだ。あちこちに気の利いたギター・フレーズを忍ばせたり、アルバム最後をしっかりロック・バラード#13『Sing For Your Supper』で締めるとこなんざ、まさに王道ギター・ロック・アルバムと言っていいだろう。
 

The Shadow I Remember / Cloud Nothings 感想レビュー

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『The Shadow I Remember』(2021)Cloud Nothings
(ザ・シャドウ・アイ・リメンバー/クラウド・ナッシングス)
 
 
前作『The Black Hole Understands』(2020年)をYoutubeでタダで聴いたので、今回はちゃんとCDを買いました(笑)。日本盤にはボーナストラックが付いていて、#2『The Spirit Of』と#6『Open Rain』のデモトラックです。この2曲のデモはリモートで作られた前作とニュアンスが似ていて、ボーカルが大人しめ。前作を気に入っていた僕としては最初、本編よりも軽めのこっちの方が良かったりもしたんですけど、何回も聴いてるとやっぱ本編の荒々しい感じが好きになりました。そりゃ当然か。それにしても、、、日本盤をせっかく買ったのに対訳付いてないやんけ~。
 
キャリア20年の8枚目だそうです。名前は知ってたんですけど、ちゃんと聴いたのは前作が初めてでして、まぁビックリするぐらいキャッチーですね。基本荒々しいパンクなんですけど、曲がことのほかチャーミング。このギャップが彼らの魅力でしょうか。う~ん、クセになる。
 
僕は直近の2作しか聴いていないのでよく分かりませんが、多分今までもそうだったんでしょうね。だからその時々でサウンド的な変遷はあるのだろうけど、やっぱ売りはこの愛らしいメロディですよね。しかも今回は特に敢えて短い3分の中に長尺の曲のような変化をつけようと取り組んだみたいですから、尚更。ここがやっぱり彼らのストロング・ポイントなんだと思います。
 
それにしても、キャリア20年でこれだけ瑞々しいメロディを書け続けるのはちょっと異質な才能だ。ボーカルないとこのメロディも抜群で、しかも未だに早い曲ばっか。デビュー間もないみたいなナチュラルなざらつき。とうに初期衝動とは違うところで作曲をしているのだろうから、なにか秘訣があるのかもしれない。この技術、もっと注目されてもいいかも。
 
ソングライターのディラン・バルディなる人物、パッと見は垢ぬけない髯モジャ男だが、その中身は未だに瑞々しさを保ち続けているのか。やはり凄いギャップだ。

When You See Yourself / Kings of Leon 感想レビュー

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『When You See Yourself』(2021年)Kings of Leon
(ホエン・ユー・シー・ユアセルフ/キングス・オブ・レオン)
 
 
前作の『Walls』が2016年だったので、5年ぶりということになるが、全くそうは感じない。キングス・オブ・レオンは大体いつもそんな感じで、忘れた頃にあぁそういえばという形で新作がリリースされる。それでも出たら出たで年間ベストにしそうになるほど気に入ってしまうから不思議。でも時間が立ってみるとそうでもなかったり。今回も久しぶり、で気に入ってほぼ毎日聴いています。そのくせ待ち焦がれ感0。僕にとってキングス・オブ・レオンとはそういうバンドである。
 
そういうバンドは他にもある。ステレオフォニックス。なんだかんだ言ってこの2組は新作が出たら必ずチェックしてしまう。どちらもどっちかっていうと地味なバンドだ。でも間違いない。盤石だ。毎回特に目新しいことはないが、あの声とあのバンドの演奏はそれ以外の何物でもない。どちらも泥臭い男4人組。今時こんなロック・バンドは珍しい。とか言いながら、キングス・オブ・レオン、前作に続き全英1位。
 
キングス・オブ・レオンのアルバムには毎回、キラー・チューンが2、3曲入ってる。今回で言えば、#5『A Wave』とか#6『Golden Restless Age』なんかがそうだ。中でも#10『Echoing』は白眉。彼らの曲って演奏もそうだけど、馴染みがいい。もしかしたらどっかで聴いたことある?っていう。良い曲にはあらかじめノスタルジーが宿っていると言うのを聞いたことがあるがまさしくそれ。つまりこちらが求めているサウンドを期待通り奏でてくれるということ。そうか、#10『Echoing』が一番好きなのはそういうのがいっぱい詰まっているからか。
 
勿論基本的によい曲を書くのだろう。演奏も上手いのだろう。でもあからさまじゃない。なんとなくいい。琴線を突いてくる。あの声だし、抜群のギター・フレーズだし、勿論ベース・ラインも畳みかけるドラムも。でも多分それらはビッグ・マックじゃない。フィレオフィッシュぐらい。ただ久しぶりに食うとやっぱオレ一番好きなのフィレオフィッシュかもって。そして時間が経つとそれも忘れちゃう。ビッグ・マック派手だしね。
 
僕は自分で思ってる以上にキングス・オブ・レオン好きかもしれない。そこで『Walls』(2016年)、『Mechanical Bull』(2013年)と遡って聴いてみた。うん、やっぱり好きだ。これ、絶対ライブ楽しいで。
 
キングス・オブ・レオンとステレオフォニックス。ともに待ち焦がれ感0。でも新作が出たら嬉しくなる。恐らく僕が頭に描くロック・バンドとはこういうバンドなんだろう。

Evermore / Taylor Swift 感想レビュー

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『Evermore』(2020年)Taylor Swift
(エヴァーモア/テイラー・スウィフト)
 
 
 
『フォークロア』に続くサプライズ第2弾。『フォークロア』とほぼ同じメンツによる続編です。なんにしても『フォークロア』全17曲、『エヴァーモア』全17曲、短い期間にこれだけの曲を作り上げる旺盛な創造力が凄まじい。しかも全部ちゃんとシングル切れるぐらいの完成度なんだもんなぁ。今更ながら、テイラー・スウィフト恐るべし。
 
つまり彼女は純然たるソングライターだということで、デビューは育った環境のせいかカントリーという船出だったけど、作品を重ねるごとに新しいサウンドに取り組んで、ていうか彼女ぐらい巨大になると自分の意向だけでは済まないだろうから、レーベルとのすり合わせもあるだろうし、ただ今となって思うのは、その中でサウンド云々というのは特別なこだわりというのは無かったんじゃないかな。
 
もちろんそんな簡単は話ではないだろうけど、彼女にはやっぱりこの圧倒的なソングライティングがある。ソングライター・チームと組んで何人かで、っていうことも時にはあるだろうけどそこは彼女が絶対的な主導権を取る、譲れない線としてあったのはそっちだったのかなとは思います。
 
だから『フォークロア』と『エヴァーモア』の2部作というのは、もちろんアーロン・デスナーを中心にしたザ・ナショナル周辺とのコラボレーションというのが大きなトピックではあるけれど、後年に彼女のキャリアを眺めた時に、ここはテイラー・スウィフトのソングライティングの爆発期というべき見方もできるんじゃないかとは思います。しかもどんどん深化していくという。
 
つまり『フォークロア』は初めに聴いた時はその新鮮さに驚いた。けど、やっぱりそれまでの彼女のソングライティングの流れではあったと思うんです。『エヴァーモア』と比べると明らかにキャッチーだし、ストリングスでの盛り上げであったり、今聴くとやっぱりマーケットを賑わせてきたテイラーの作品だなという感じはある。それが『エヴァーモア』になると純化していく、キャッチー云々とは違うところでソングライティングしている、ウケるウケないという雑念とは関係のないところで曲が出来てあがったんじゃないかなという気はします。
 
そして『フォークロア』はやっぱりアーロン・デスナーとタッグを組んだ、ボン・イヴェールを招いた、という個々が組み合わさったという印象がある。けれど『エヴァーモア』に至っては混ぜ合わさっている、コラボレーションというより一体化している、もっと言うとテイラーが完全に取り込んだ、テイラー印のサウンドになっているということだと思うんです。だから『フォークロア』でグラミー賞は獲りましたけど、実際のこのコラボレーションでの達成は『エヴァーモア』にあると僕は思います。だからどっちかと言われると僕はこっちが好きですね。
 
このアルバムは通勤時にSpotifyでよく聴いていたんですけど、僕はCDも買っていたので後からCDで聴くとですね、家のしょぼいコンポですけど、全然CDの方がいいんです。やっぱり端末だと聴こえない音がちゃんと聞こえるし、空気感というか空気の泡だとかがちゃんと感じられる。サウンドがサウンドなので、端末を通してでしか聴いていない人がいたら、是非CDでも聴いてもらいたい。このアルバムがまた違う形で見えてくると思います。

CATCH / Peter Cottontale 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『CATCH』(2020年)Peter Cottontale
(キャッチ/ピーター・コットンテイル)
 
 
久しぶりにピーター・コットンテイルの『Forever Always』が聴きたくなってSpotifyで検索したら、このアルバムが引っ掛かりました。出てたんですねアルバムが。こんなことも分かるんですから大したものですSpotifyは。
 
ピーター・コットンテイル、本名はピーター・ウィルキンスという人です。シカゴを拠点に活動するプロデューサー兼アーティストで、ザ・ソーシャル・エクスペリメントのメンバーです。ザ・ソーシャル・エクスペリメントというのはこれもシカゴを拠点に活躍するチャンス・ザ・ラッパーが中心となったバンドで、チャンスさんの曲を聴いたことある人なら分かると思いますけど、あのポジティブで寛容な空気がこのアルバムにも流れています。
 
このアルバムにはチャンスさんもラップで参加していますが、全体としてはラップだけじゃなくソウル、R&B、ゴスペル、そういったものが混ぜ合わさったアルバムで、特にゴスペル、こっちの要素が強めですね。ゴスペルといえばということで、あのカーク・フランクリンも登場するし、ま、ピースフルでグレイシーなアルバムですね。個人的にはこちらもシカゴ関連のジャミラ・ウッズのボーカルが2曲聴けるのが嬉しいです。
 
チャンスさんをはじめこの手のサウンドには随分聴きなれてきた感があるので、特に目新しいものがあるというわけではないんですけど、曲の良さ、トラックの良さ、幸福なムード、そうしたものはやっぱり何度聴いても心地よいです。もちろんポジティブ一辺倒ではなく、『Don’t Leave』という切ない曲もあるし、なによりこうしたプロジェクトによくあるようにゲストが多彩ですから、アルバム通していろいろな表情を楽しめます。しかしピーターさん、えぇ曲書きますなぁ。
 
残念なのはシカゴ一派特有のフィジカル盤は出さないというやつで、このアルバムもネットを介してしか聴けません。折角いいバンドが心地よいサウンドを鳴らしているのだから、ま、うちのミニコンポも大したことないですけど圧縮されたものよりずっといいし、スピーカーを通したなるべくいいサウンドで聴きたいなと思うんですけど、連中はフィジカル盤出す気にならんもんですかね(笑)。

2020年 洋楽ベストアルバム

洋楽レビュー:

『2020年 洋楽ベストアルバム』

 

コロナ禍に見舞われた2020年はライブにも行けず寂しい思いをしたのだが、こんな状況でも音楽は沢山生まれていて、逆にこの機を利用しこれまでと違った音楽を届けてくれるアーティストもいた。昔と違って、圧倒的な作品というのは生まれにくくはなっているのかもしれないが、その分全体のレベルは高く、つまりデビューアルバムであろうがベテランの作品であろうが横一線で評価されるサブスク時代で、ていうか2020年はBTSはじめ韓国勢が海外のチャートを賑わしたり、音楽においてはますますボーダレス化が進み、日本のアーティストだって普通にチャンスがあるという非常に進歩的に世界になっている。勿論それはmetoo であったりBLM というところで顕著で、アーティストというのは’炭鉱のカナリア’なんて言葉もあるが、まさに文化が僕たちをリードしていくというのを実感する年でもあった。

そんな中コロナ禍というのを逆手にとったテイラー・スウィフトのまさかの2作連続リリースは音楽界にとって非常に心強いものだったろうし、彼女に限らず2020年は女性陣の活躍が大いに目立った。フィオナ・アップル、フィービー・ブリジャーズ、ビッグ・シーフのエイドレアン・レンカー等々、みんな流行り廃りや商業ベースから一歩離れたシンガーソングライターたち。僕は元々ウィルコとかボン・イヴェールとかUSインディ・フォークが好きだっていうのもあるけど、女性においても個人の声が世界の声につながるようなシンガーが好きなんだと改めて実感した。そう見ると、どメジャーからそれをやってのけたテイラー・スウィフトは異端とも言える。

その中でハイムというのはオルタナティブな存在であっても、インディ感はないし、テイラーほどメジャーでもない。どちらにも足を突っ込めそうで突っ込まない独自のスタンスが今回出たアルバムで更に確固たるものになった気はする。自然体(本人たちはそうではないかもしれないが)でここまで意見を申しつつ、一方でポップで一方で辛辣、このアルバムで一気に海外でもあまり例のない女性ロッカーとしてのヘッドライナーになってもおかしくないと思いつつ、そうなるとやはりコンサートが軒並みキャンセルとなったコロナ禍は残念極まりない。ていうか彼女たちはそんなもの求めてないか。

この1年、自粛自粛で出歩かなかったせいか、もうお正月かと1年の速さを実感しつつも、ストロークスの新作が出たのが4月かと思えば、それもえらく遠くに感じる。やはり年は取ったのだ。そして僕たちは目に見えない傷を沢山負った。という自覚がないことを自覚しつつ、今年も音楽に随分とよい気分にさせてもらった。聴きたいけど聴けてない2020年の音楽はまだまだある。嬉しいことです。

 

 極私的2020年ベスト・アルバム 『Women in Music Pt. III 』 Haim

 極私的2020年ベスト・トラック 『人間だった 』 羊文学

Untitled(rise)/Sault 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Untitled(rise)』(2020)Sault
(アンタイトルド(ライズ)/ソー)
 
 
今月からようやく Spotify premium を始めまして、随分迷ったんですけどやっぱこれ、便利です(笑)。気になる曲とかすぐ聴けるし、アルバム単位も10秒ほどでサクッとダウンロードできちゃう。外でもギガ使わずに聴けるんだもんなぁ。今までYoutubeだなんだって面倒くさく視聴してたの、なんだったんだろ(笑)。ということで始めて2週間ほどですけどダウンロードしまくりで聴く方が全然追い付けていないんですけど、一番最初にダウンロードしたアルバムについてそろそろ何か書けそうかなと。それがこの Sault の4枚目のアルバム『Untitled(rise)』です。
 
Saultというのはプロデューサーであるディーン・ジョサイアが中心となったプロジェクトらしいんですけど、あんまり詳しくは明らかにされていないみたい。2019年に立て続けに2枚のアルバムで世に現れて、2020年もこれが2枚目。一気呵成に出てきたチームです。このディーン・ジョサイアって人は Inflo という名前で活躍されているんですけど、どっかで聞いた名前だなぁと思っていたら、The Kooks の4枚目ですね、『Listen』というアルバムをプロデュースしています。
 
この『Listen』アルバムは The Kooks がそれまでのギターロックからファンクなサウンドへ舵を切った意欲作で、世間的にはあんまりだったみたいですけど僕はこれぞクークス!って凄く好きで聴いていました。というのもあって、今年大評判な Sault ってどんなんだと興味を持ったわけですけど、これ、凄くかっこいい。何がいいって、ブラック・ミュージックに疎い僕でもすんなり入っていけて、つまり非常にポップ、大衆向けなんです。
 
恐らくこのSaultってプロジェクトは時代を反映して、要するに不寛容な時代と定義される現在に物申す形で作られたんだと思うんです。この2年でガッツリとしたアルバムを4枚も出したわけですから、ここでやっぱ何か言いたいんだと。で名うてのプロデューサーですから、それこそ凝ったサウンドでマニアックなことを幾らでも出来たと思うんですね。それがうちの子供が聴いても踊りだすようなワクワクするサウンドで構成されている。でワクワクする要素、何かなというとこれはやっぱり随所で鳴らされるアフリカン・ビートです。
 
よくテレビとかでアフリカの演奏家たちの映像があったりすると、股に太鼓を挟んでドコドコ叩くってやつあるじゃないですか、しかも大勢で。ああいう大地と直結したビートというんですかね、せりあがる太鼓のリズムがところどころにあって、でも民族的な、ローカルな響きではなく、現代的なソウルとかクールなファンク・ミュージックとして昇華されている。これはやっぱアジアンな僕でも心地いいですよ。しかもリズムに乗って「go back to Africa~♪」なんてコーラスされた日にゃそりゃテンション上がります。
 
あとリリックが非常に簡潔。洋楽の歌詞って響き優先で文法を気にしない面があるから、なかなか難しいんですけど、このアルバムに関しては学校で習った英語程度で解せるというか、勿論単語レベルでは分からないことあったりするんですけど、それも少なくてスマホですぐ調べられる程度だし、文法的には凄くシンプルなんです。だから簡潔で分かりやすいリリックをポンと置くことでメッセージがより鮮明になるというのはあるんですね、しかもリフレインが多い。だからこれ、一部の音楽好きの人ってことじゃなく全方位に向けられたものなんだと思います。極端な言い方すると音楽によるデモ行進、そんな見方もできるんじゃないでしょうか。
 
ポップなゴスペルもあるし、スポークンワーズもある。ラップじゃなくスポークンワーズっていうのがいいですね。個人的には日本人にはラップよりこっちの方がとっつきやすいと思っていますし。だから黒人音楽バリバリってわけじゃなく、根っこの部分は保持しつつも、ブラック・ミュージックが苦手って人でも非常に楽しめる大衆に向けた音楽、言ってみれば音楽版、『ブラック・パンサー』という感じかもしれません。

Letter To You/Bruce Springsteen 感想レビュー

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『Letter To You』2020)Bruce Springsteen
(レター・トゥー・ユー/ ブルース・スプリングスティーン)
 
 
ブルース・スプリングスティーンの新作が届いた。昨年の『Western Stars』アルバムから短いインターバルでまた新作が聴けてとても嬉しい。でもEストリート・バンドの全面参加となると2012年のアルバム『Wrecking Ball』以来だから随分と久しぶりだ。
 
ここ数年ブルースの新作はいろいろな形で発表されてきたし、Eストリート・バンドと言ってもずっと昔から聴きなれたサウンドなので、特に感慨はなかったんだけど、実際CDをトレーに置いてEストリート・バンドをバックに歌うブルース・スプリングスティーンを聴くとやはりワクワクする。改めて僕はこのサウンドが好きなんだと実感する。
 
Eストリート・バンドを特徴づけているのはクラレンス・クレモンスのサックス。それにロイ・ビタンのピアノとダニー・フェデリーシのオルガンも大きなポイントだ。残念ながらビッグ・マンとダニーはもういないけど、今のチャーリー・ジョルダーノもいかにもなオルガン・プレイを聴かせてくれている。ロイ・ビタンのピアノとチャーリー・ジョルダーノのオルガンからいつものフレーズが聴こえてくると胸が高鳴る。キーボード2台ではなく、ちゃんとピアノとオルガンというのが嬉しい。
 
本作は昨年の秋にたった5日間でライブ・レコーディングされたらしい。それでこれだけの完成度なんだから流石のキャリアと言うしかない。ただスケジュールの都合でビッグ・マンの甥、ジェイク・クレモンズのサックスが少ないというのが本作で唯一の残念なところ。5曲目の「Last Man Standing」でようやく聴けるジェイクのサックスは「よっ、待ってました!」と思わず言いたくなる。続く#6「The Power of Prayer」でのブロウ・アップも最高。やっぱりEストリート・バンドはこれがないとな。
 
前作の『Western Stars』もそうだったけど、ブルースのソングライティングはこのところシンプルでメロディアスなものになっている。新しいことをしようという力みもなく素直なメロディで、このアルバムもよい曲ばかりだ。うん、ホントどれもいい曲。実はここ数年バンド用の曲が書けなくなったという問題を抱えていたらしいけど、齢71才にして創作はまた新たな山を迎えている。
 
全12曲のうち、3曲が初期に書かれたものだそうだ。その3曲は初期感がありあり。特にリリックはあの頃のエネルギッシュで雑多な感じが出ていて「そうそうこんな感じだった」と思わずニヤけてしまう。#4「Janey Needs a Shooter」なんてまんま1978年の『闇に吠える街』に入ってそうだし、#9「If I Was the Priest」はディラン風ボーカルをめいっぱい楽しんでいるようだ。当時を思い出してかブルースの熱量も幾分か上がっている気がする。3曲ともゆったりとした曲で、Eストリート・バンドぽさ全開だ。
 
ブルースももう71才。ビッグ・マンはいなくなったし、ダニーもそう。最近はデビュー前に地元で組んでいたバンド仲間との別れもあったそうだ。心が引き裂かれただろう。落ち込んだだろう。もしかしたら今もまだそうかもしれない。けどブルースはここでこう歌っている。彼らは心の中にいる、いつもそばにいる、そこに実態はなくても呼べばまたいつものようにセッションできる。そういう心境の中で初期に作った曲を今改めて披露するというのはやはりブルースなりの意味があるのだと思う。
 
その手掛かりになるのはオープニング曲の「One Minute You’re Here」ではないか。「 One minute you’re here / Next minute you’re gone」。自らを育んだ大切な出会い。今ここにいると思ったら、次の瞬間もういない。逆に言えばこの感慨があるからこそ、まだ傍にいると感じられるのかもしれない。自然な態度としてそういう感覚がブルースの元にやってきて、それを自然に受け入れている、そういうことなんだと思う。
 
ルバム屈指のロック・チューン#10「Ghosts」ではこんな風に歌っている。「 I hear the sound of your guitar(あなたのギターが聞こえてくる)」、「It’s your ghost / Moving through the night(それは夜を突き抜けるゴースト)」「I need,need you by my side(あなたが必要、私のそばに)」。そして「I can feel the blood shiver in my bones(骨の中で血が震えるのを感じる)」。そして感動的なのは最後のライン、「I’m alive and I’m comin’ home(私は生きている、そして家に帰る)」。そしてそれは#1「One Minute You’re Here」の「Baby baby baby / I’m coming home」にも繋がっていく。
 
このアルバムはブルースから僕たちへの手紙だ。サヨナラは寂しいことじゃない。大切な人はいつまでも心に生き続ける。サヨナラが来たとしてもまた夢の中で会えばいいのだ。でも今はまだ「 I’m alive 」、これほど心強いことはない。

The Ascension / Sufjan Stevens 感想レビュー

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『The Ascension』(2020)Sufjan Stevens
(ジ・アセンション/スフィアン・スティーヴンス)
 
 
前作の評判が良かったので名前は知っていたのですが、ちゃんと聴いたのは映画『君の名前で僕を呼んで』が初めてでした。あの映画はとても美しかったんですけど、とても印象的なシーンで流れていたのがスフィアン・スティーヴンスの曲でした。その後の最新アルバムということで期待をして聴いたんですけど、違いましたね、サウンドが(笑)。このアルバムはかなりエレクトロニカです。
 
調べてみるとスフィアンさんは元々そういう人らしく、アコースティックとエレクトロニカを交互にリリースされているようで、今回はエレクトロニカの番だったようです。ただクレジットを見ているとほぼ全曲で生楽器が使用されているんですね。確かドラムとギターは全ての曲にクレジットされてたんじゃないかな。
 
でも聴いているとそんな感じは受けないです。やっぱ冷えた感じというか硬質感は否めない。恐らくそれはアルバム全体を覆うムードですよね。全体としてのディストピア感がそうさせるんだと思います。最近の映画は詳しくないんですけど昔で言うとリュック・ベッソンの『フィフス・エレメント』みたいな近未来の監視社会。そこに暮らす青年がそれこそ『フィフス・エレメント』でブルース・ウィリスが住んでいたような小さなアパートで密かに制作をしてできたレコード(記録)。そんなイメージです。
 
だからそれはレジスタンスのレコードですよね。それも社会的な強いメッセージを出しているということではなく、かつての人類は緩やかな連帯の中で人々はそれぞれに必要で必要とされていたんじゃなかったっけ、そんな人類の記憶を掘り起こしている、この閉塞感ってなんなんだって、そんな人間らしさを求めるレコードなんじゃないか、そんな気もしてきます。
 
だからこれ15曲、80分以上もあるんですけど、そんな疲れないですね。ある意味リアリティが希薄だから。夢うつつというか白昼夢みたいな。まぁ実際80分も集中力は持たないですから、半分に分けて聴いたりはしているんですけど、それでもやっぱ聴いてても興奮したり逆に悲しくなったりしない、体温は保たれたまま、という感じですかね。
 
アルバムの最後は『America』という曲で、これ12分30秒ありますからタイトルといい大作感めっちゃありますけど、実際、レビューでよく取り上げられていますね。ただこのアルバムの核はその前のアルバム・タイトル曲『 The Ascension』なんじゃないかなと思います。
 
コーラスの対訳をそのまま載せますと「なのに今、手遅れながらもこの心に突き刺さる/僕はあまりに多くを周りの人たち皆に頼みすぎていたということが/そして今、手遅れながらもこの心に突き刺さる/僕は自分自身の責任を取るべきだということが/昇天の日が訪れたら」。
 
これが非常に抑えたサウンドで独白のように歌われるんですね。まるで教会のなかでひっそりと聴こえてくるかのように。だから贖罪の歌に聴こえます。社会に違和感や閉塞感を感じながらも最後は自分自身でごめんなさいと言わざるを得ない。なんか切ない話になってきましたけど(笑)、これってやっぱりリアルな話ですよ。
 
まぁそんなアルバムではありますけど、基本、スフィアンさんのメロディは美しいですから、そんな暗いアルバムではないですよ(笑)。こういうテーマでもメロディの美しさは消せない、そんなアルバムです。