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Only The Strong Survive / Bruce Springsteen 感想レビュー
洋楽レビュー:
『Only The Strong Survive』(2022年)Bruce Springsteen
(オンリー・ザ・ストロング・サバイブ/ブルース・スプリングスティーン)
2020年の『レター・トゥー・ユー』以来のアルバムはブルースが若かりし頃に愛聴していたというR&B、ソウル・ミュージックのカバー・アルバム。僕は元歌を全然知らないが、カバーであろうが何だろうが圧倒的なボスの声がある以上、こちらの感触としては変わらずボスのアルバムである。古き良きポップ・ソングに倣ってストリングスやホーンセクション、コーラスもふんだんにゴージャスなサウンド。と言ってもそこはボス。時折E・ストリート・バンドっぽさを覗かせることも忘れちゃいない。流石、ファンの気持ちをよく分かってらっしゃる(笑)。
それにしても73才を迎えても素晴らしい歌声。元々、3時間でも4時間でもライブができる強い体と喉を持っている人ではあるけれど、シンガーというよりシャウターというスタイルなだけに、長年の喉の疲労も相当あるはず。本作の告知を兼ねたTV出演を見ていると、流石にかつてのガタイはなく随分とほっそりとしてきたけど、声の方は相変わらず元気。昔懐かしの歌謡ショーではなく、ちゃんと今現在にフィットしているのはブルースの張りのある声があってこそ。プラスこれがアメリカのポップ・ソングの下地の強さでもあるのあろう。
あとやっぱり歌が上手い。聴いてるとこの辺りの曲はもう完全に歌が主役で、歌が前にあって演奏が後ろにあるのだけど、つまりブルースがこのアルバムに取り組んだのもなんとなく分かるというか、俺だってこれぐらい歌えるんだぞっていうかむしろ歌いたいっていうか。昔好きだった曲というのもあるだろうけど、そういう歌に対するパッションが根底にあるのがこのアルバムを前向きなものにしているのだろう。
それにしてもボーカルだけを抜き取ってもブルースは凄い。結局ソウル・ミュージックだし、歌うより叫ぶところもあったりするのだけど、声量もさることながらソウルフルなボーカルは流石。ホント、歌がリードしています。あと歌が主役とはいえ、もちろんサウンドも素晴らしいからちょっと聞き耳を立ててみると、それはそれで気持ちがいい。よいオーディオとスピーカーがあればもっと最高なんだろうな。
2023年にE・ストリート・バンドでのツアーを開始するとの公式アナウンスがあった。6年ぶりだとのこと。バンドと作った『レター・トゥー・ユー』からの曲も沢山演奏するのだろう。E・ストリート・バンドとのライブだってあとそう何回もあるものではない。ましてバンドを連れて日本に来ることはもうないのだろう。あのブルースだってちゃんと年を取るということを胸に刻みつつ、これからの作品もしっかり聴いていきたい。
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このアルバムは前後半、Volume1(Big Steppers)とVolume 2(Mr.Morale)に分かれているんですね。
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Beatopia / Beabadoobee 感想レビュー
洋楽レビュー:
『Beatopia』(2022年)Beabadoobee
フィリピン出身の英国人、ビーバドゥービーの2作目です。これ聴くと、デビュー・アルバムの90年代を思わせるオルタナティブ・ロックは意図的にそちらへ寄せていたのではと思ってしまいますね。これを『Beatopia』を聴いていると本来の彼女は純粋に良い曲を書くシンガーソングライターなんだという事がよく分かります。
なので、ギターをジャカジャカ、ドラムをドカドカ鳴らす必要がもうないというか、なんだこの人は曲の力だけで十分勝負できる人じゃんて。1曲目はイントロダクションでもあるので、実質的なオープニング曲である2曲目の『10:36』は1作目を踏襲したギター・チューンですが、2曲目から7曲目まではゆったりとした曲で占められているんですね。でも全然退屈じゃない。彼女、ほんとに素晴らしいメロディー・メイカーで似たような、ではなくそれぞれ個性豊かでアイデアに溢れたミディアム・テンポの曲が書ける。プラス編曲が抜群ですね。サウンドがすっごいオシャレでセンスがいいというか、#6『the perfect pair』なんてボサノバですよ。曲も含めアレンジはバンドのギタリストでもあるJacob Bugdenって人と一緒にやってるみたいですけど、このチームはもしかしたらかなり最強なんじゃないかと思います。
あと彼女はThe1975と同じDirty Hit レーベルで、少し前に出たEPでは彼らと何曲か一緒に作品を作ってるんですね。そういう稀代のオシャレ・サウンド・メイカーと一緒にやってきた成果というのが出てるのかなと、それも彼女独自の形で進化しているというのがいいですね。今作では#10『Pictures of Us』がマティの提供曲だそうで、聴いてると思いっきりThe1975なんですけど(笑)、この辺のThe1975の面倒見の良さもなんかイイ感じです。
The1975からはダニエルも#12『Don’t get the deal』に参加してるようで、この曲では割とギターをギャンギャン鳴らしているんですけど、後半のシンセかな、この辺の意表を突いた展開も流石に聴かせますね。と思ったら続く#13『tinkerbell is overrated feat. PinkPantheress』はTwiceみたいなチャーミングなポップ・チューンで、この辺の流れなんてすごくセンスを感じます。ラスト付近でこういう見せ場を作ってくるところなんか、本人も今回はかなり自信があるんじゃないかなと想像しますね。
とまぁ、1stから格段に進化した素晴らしいアルバムなんですけど、ひとつ気になるのは今回はずっとウィスパーボイスというか喋り口調に近いトーンなんですね。1stでは声を張り上げるところもあって、そういう激しさも魅力だったんですけど、ずっと囁き声というのは今回だけなのかそれとも今後もこういうスタイルで行くのか、ちょっと気にはなりますね。