通学路

ポエトリー:

『通学路』

 

手を繋いだまま自転車に乗って

ふらつきながら学校へ向かう

冬は冬でおんなじマフラー

いつの間にリュックもおんなじ

春の日差しを斜めに浴びて

交差する 心通わす 声が笑ってる

 

いつまでも続くといいな

そんなことはどうでもいいか

今は未だに不確かな時代

但しいつか幸せになる

今よりもっと幸せになっている

子供連れて散歩する時も

手は繋いだままふらふらしながら

 

いつか地球が無くなってしまっても

決して迷子にならないように

緩やかに繋いでおくんだ

腰の辺りに巻いておくんだ

二人は繋ぐ 鮮やかな糸

いつか地球が無くなってしまっても

いつかちゃんと巡り合えるように

 

その前にやはり不確かな時代

二人 心 仲違いあるとして

もう二度と会うことがないなんて

そんな日々が巡り巡って訪れたとして

つまるところ僕たちは決して

運命だなあんて何にも当てにしちゃいないから

ただの一度も真に受けちゃいないから

 

但しそんなことはお構い無しに

今の今は鮮やかな糸

ほどけないように 見失わないように

いつか宇宙に漂ってしまっても

いつかちゃんと巡り合いますように

腰の辺りに巻いておくんだ

鮮やかな赤い色と

今の今は自転車 手は繋いだまま

じゃれあいながら学校へ向かう

朝の出来事

二人だけの内緒の話

 

2016年4月

春の訪れ

ポエトリー:

『春の訪れ』

 

都会に立って耳元で囁いた

呟き あさっての方向へ

水際立って立ち姿素敵

あの子はきっと爽やかペテン師

 

4月、

春の口元に書いている

君の耳元に流れている

少し襟元が汚れている

 

5月、

浮かない顔 春の音ずれ

 

2016年5月

今はなき世界の終り

ポエトリー: 

『今はなき世界の終り』

 

味気ない 語るでもない

浮わついている 心の不思議

たまさかに 咳き込むように

昼過ぎのこと 表に出る

 

華やいだ街 ひどい言葉の先

広々とした道の ほろ苦い味

何から始めようか 何を約束しようか

ちらついた風 押されながら

 

果たすべきか 自ら問いかける

バチが当たるのも 覚悟の上

鼻につく 新鮮な檜の薫り

横ざまに 駆け捨てて

 

尚且つ 通りいっぺんの話題にも

ほとほと愛想を尽かし

もう嫌だ あの人の小さな声を

思い出すのも

 

意地悪な 物の見方をするのなら

腫れ物に触るような 先達の鎧に

くびき入れ 苛立ち紛れ

書きまとめを 火の中へ放り込めば

 

若干の後ろめたさも 今はなき世界の終わり

抜群の功績をもって 俄に称えられ

もういいです こんな時どうするかは誰にも教わっていませんからと

ひとり呟く

 

2017年12月

山岳地帯の物語

ポエトリー:

『山岳地帯の物語』

 

物語を語る老婆の好きな花はバラ
語り口は滔々と夢の中の偽り
あったことでもなかったことにしてしまう
口を大きく開いた財布をバッグに忍ばせ
権力にしがみつく輩に噛みつく

油断ならない山岳地帯の王は今年で満八十才
牛の生き血を吸うというもっぱらの噂だが虫も殺せない臆病者
腹が一斗樽のように突き出ているがいつも足元にいる猫の尻尾も踏んだことはない
山岳地帯の王たるゆえん

街へと続く坂道をくどくどと歩いてゆく五十がらみの配達夫はそろそろ後のことを考えている
かといって息子もいず頼るべき親類もいず
あるものといえば三十年以上肩に担いだなめし皮のバッグのみ
しかしそれは魔法のバッグ
薄汚れた空気の攻撃を三十年以上に渡り受け付けずにきた動物性皮脂由来の頑丈さを備えている
配達夫の意味は頑丈である事
五十がらみの配達夫がさんざんぱら言われてきたことを体現するそのバッグこそがかの男の教養だ

物語を語る老婆は小さな菜園を持っている
積み木を重ねた仕切りで覆われた菜園で育つものは何?
言いがかりは山ほどあるが老婆は何も発しない
一言も発しない!

その傍を虚ろな目をした少女が過ぎる
何処の街にもよくある風景
思春期特有の鼻持ちならなさを醸し出しながら正義の器を小脇に抱えている
共に歩く弟の擦り傷とは対照的に彼女の傷口からは鮮血が孵化する
奇妙な思いやりのイメージだが後にそれがこの国を丸くする

街に古くからある肉屋は古くからあるだけあって住人の信頼を得ている
主人はめったに顔を出さないが奥で目を光らせている
その主人に目を光らせているのがその妻女だ
妻女は工場の生産管理よろしく先を打って働く
ということもあってそこの従業員は皆よく足が動く
先月新しく入ったアルバイトの青年もまた同様に

街から少し離れたところにある大きな石の塊は神聖なものだが冒すべからずという程のものでもない
健全なストーンヘンジ
母親たちは生まれたばかりの赤ん坊の名を書き込む
最近生まれた風習だがこれもとやかく言う程のものではない
勿論虚ろな目をした女の子の名前もその弟の名前も肉屋の青年の名前も書いてある
近くに川があるから丁度良い憩いの場でもある
例えば新しい料理屋の味付けがどうとか何組の担任がどうとかこうとか…

この国の気候は目まぐるしい
虚ろな目をした少女より目まぐるしい
母親連中の昼の話題より目まぐるしい
肉屋のアルバイトより目まぐるしい
ぐるぐるとかき混ぜマーマレードみたいに皮は残して満遍なく行き渡る
ゴールドの羽音がする瓶詰めの気候

やがてこの国にグラニュー糖の雨が降り注ぐ
老婆の菜園に滋養を与える雨になるのか
配達夫のバッグの頑丈さを試す雨になるのか
山岳地帯の王の太鼓腹を冷やすことになるのか
当時は誰も知らなかったが、
最も恩恵を受けたのは意外にも老婆の大きく口を開いたバッグだった!

 

2017年1月

自然治癒の法則

ポエトリー:

『自然治癒の法則』

 

容赦ないあなたの目には三センチの涙

頬を伝って国境を越えます

敵と味方を繋ぐのです

つまるところそれは自然治癒の法則

困り果てた老人の物知り顔など用は無いのです

 

はにかんだ微笑みの向こうにある傾げた襟元

襟元の汚れは簡単には落ちないというけれど

簡単に落ちる時もあるのです

例えばフリーマーケットのちょうど時計台の下

インド人みたいな恰好で子供たちの着られなくなった洋服を広げているAさん

Aさんの幸せは売れた服の代金で子供たちに新しい服を与えること

例えば温泉街の三叉路にある案内所

三代続く名物案内人のGさん

言葉の通じない相手でも難なく笑顔にしてしまうその手腕

先日は二駅先まで送っていったそうです

 

風車でも特急列車の如く

胸ポケットの便箋もツイッターの如く

あなたに沿って海へ向かいます

 

海の底の奥深く

人の体と同じ成分を湛えたまま生き物に変え草花に変え空気に変え私たちの元へ還元される

見たこともない景色が見たことがあると感じられるのはそういうことなのです

 

2017年1月

ボクの○

お話:

『ボクの○』

 

算数の時間に書いた○
コンパスが壊れてて○がふくらんだ
お母さんにコンパスを買うからお金をちょうだいと言うとお母さんは

「それはいいけど、コンパスを使っても本当の○は書けないわよ」

ボクは駅前の文房具屋へ出かけた
店のおじさんにコンパスがこんなになったから
新しいのを買いに来たんですと言ったらおじさんは

「それはいいけど、新しいのでも本当の○は書けないよ」

帰り道、ボクは考えた
本当の○ってなんだろ?
マンホールは本当の○?
道路の標識は本当の○?
信号の赤とか青は本当の○?
自転車のタイヤは?
お皿は?
メダルは?

ボクは部屋に入って新しいコンパスで○を書いてみた
鉛筆の先を削って、力加減を同じにして慎重に○を書いた
出来た○をずっと眺めてみた
ボクは○の中に吸い込まれそうな気分になった
○は大きくなって○がボクを包むぐらい大きくなってもっともっと大きくなった

 

ボクは○の端を歩いていた
ボクの歩いた線は太くなっている
まだ○の端っこ、太いのはちょっとだけだ
隣にはお兄ちゃんがいた
お兄ちゃんはボクより少しだけど太いとこが長かった
あ、お母さん お父さんも
もう半分ぐらい来てるのかな ふふ、逆さまになってる

分かった これは僕たちの生きる道なんだ
よく見ると色分けされてる
多分…最初の4ぶんの1はピンクだから春
その次は青だから夏で、赤は秋、白は冬
ボクとお兄ちゃんはピンク え~、ちょっとヤダなぁ
お母さんとお父さんは青と赤の混ざったとこ 変な色…
おばあちゃんは白 あ、だから髪の毛白いんだ

見渡すと他にもたくさん
近所のおばちゃんや文房具屋さん
あ、あの人の○はちいさい あっちも
ホントだ!人によって○の大きさが違う
僕のは、、、よかった ふつうだ

うーん、でもよく見ると○は大きくなったり小さくなったり
きっとその人の歩き方によるんだ
けど○の大きさが違ってもピンクとか白とかの色分けはみんな同じなんだ
へぇ~

 

「お母さん! わかったよ わかったよ!」

「ん?なにが?」

「ほんとの○が書けないってやつ。ボクはまだちっさいから○にならないってことだよね!」

「あ、あれ。それあんた、お母さんとおんなじで ぶきっちょだからよ」

「そうじゃなくて、ボクはまだちっちゃいから○になんなくて、○は人によって大きさが違って、でもちゃんと歩いてたらいいんだよ!」

「あ?あんた何言ってんの?」

「ボク、ちゃんと歩いてるよ!」

「ぶー。靴のかかと踏んでるからダメ~」

 

極東のスタイル

ポエトリー:

『極東のスタイル – style of far east -』

 

海岸線に打ち寄せるオレはカケラ

カケラを運ぶ海洋はオレの中にある

愛する事とは此処で愛すること

愛することとは心の中で愛すること

灼熱の砂嵐はオレのカケラ

砂粒はオレの中にある

愛することとは此処で愛すること

愛することとは心の中で愛すること

風が空を跨いだ

ヒュッ

漂う綿帽子がオレのカケラ

吹き起こる風、今はオレ

退屈しのぎに一句

代わり映えしない日常にキック

オレは全ての中にあり

全てはオレの中にある

style of far east

瞑想して君

支度はすぐに済ませろ

姿を眩ませ

素早く動き回れ

内包する風

に吹き飛ばされるオレ

吹き飛ばすオレ

オレは容れ物

誇張した輪郭

故意に膨らませたままで

されるがまま

するがまま

全ては同時に進行す

速やかに進行す

誰も気にも留めない

心変わりは憂鬱

かけがえのない貴方に向かって

吠える軟骨

根源的な愛

愛することとは容れ物

拡張する輪郭

style of far east

瞑想して君

支度は早く済ませろ

警鐘をならせ

根源的に誓いを交わせ

オレは全ての中にあり

全てはオレの中にある

来年ばかりは君に

ポエトリー:

『来年ばかりは君に』

 

心があるから心が変わる
心があるから言葉が変わる

心があるから思い通りにはいかなくて
思い通りにはいかない物語が生まれる

あなたの物語も
わたしの物語も

ひとしきり嘆いた
ひとしきりはしゃいだ
ひどい霧続いた
ひとしきり続いた

心の何処かのあさはかな
はかない心の何処かから
残りわずかなわだかまり
心は重なり心はかさばる

大晦日だからって捨てることはないんだよ

心があるから心が変わる
心があるから言葉が生まれる

いつもいい物語ばかりではないけれど
来年ばかりは君に
いい物語が訪れますように

 

2017年12月

コーンスープ

ポエトリー:

『コーンスープ』

 

確かに君の瞼に

降り注ぐ雪

遠い記憶などなく

密かに耳打ち

僅か1デシリットル

先走る感じ

零れ落ちる不思議

 

君の肩に積もったそのゴミ

勢いよく掃除機で吸い込んだ

君の冷えた指先

程よく電子レンジで温めた

 

それが真実

歴史は繰り返さず

言葉はただの現実

コーンスープは泡立てず

よくかき混ぜて

新しさに身もだえる

 

間近に差し迫った

問題にしてひとつ、ふたつ、みっつ

大きな半紙に一面

墨汁にして垂らす

しかし思いのほかデジタル

確かに差し迫った問題あるとして

心当たりあるか先細る感じ

 

その襟元の汚れは

洗濯機の渦に放り込んで撹拌

その胸元のほつれは

ミシン目が二列になって行進

 

それが真実

歴史は繰り返さず

言葉はただの現実

高く積み重ねられたものを注視して

今朝もコーンスープ

幾重もかき回す

 

2017年11月

えんそく

ポエトリー:

『えんそく』

 

1.おにぎりのぐ

  好きな色

  じゅんばんに

 

  おかあさんの

  お弁当

  どんな色

 

  おしずかに

  おてんとむし

  にげちゃうよ

 

  お弁当の

  お時間が

  はじまるよ

 

2.かえり道

  おともだち

  てをつなぎ

 

  石だんの

  かいだんを

  よっこらしょ

 

  おおさわぎ

  ヒキガエル

  あらわれた

 

  帰ったら

  おかあさんに

  言わなくちゃ

 

  おかあさんに

  言わなくちゃ

 

 

2017年8月