かつて理解して

ポエトリー:

「かつて理解して」

 

熱い涙は体温だ
森の真ん中に迷い込んだ
かつて人類は東へ向かい
新しい道を歩き始めた

かつて かつて
かつて わかって
かつて かつて
かつて 理解して

空回りでも心は回る
やがてその軸を焼き尽くした
かつて人類は渚へ向かい
仲間とはぐれて暮らし始めた

かつて かつて
かつて わかって
かつて かつて
かつて 理解して

僕のお母さんは朝早くに出かけ
夜遅くに帰ってきた
僕は海原に小舟を浮かべ
釣糸を眺めていた

かつて かつて かつて わかって
かつて かつて かつて 理解して
かつて かつて かつて わかって
かつて かつて かつて 理解して

かつて人類は
空をつかむように
同じ体温の誰かと
手を繋ぎあった

 

2021年8月

小指は震える

ポエトリー:

「小指は震える」

 

小指を
遠くに見える鉄塔と重ねてみた
すると、
ぶるっと音がして
小指から四方に電線が走った

目に見えるものはすべて捉えよと
うろ覚えの歌が言う
君は困らない
このままゆけるところまでゆける
はずだ

小指がぶるっとして
それは嘘だと弾けた

ところが
積み上げた仕草が
小指以上に語りかけてくる

すべて君の手柄だ
すべて君の手柄
すべて君の
すべて…
す…

小指が震える

 

2021年8月

イカヅチ

ポエトリー:

「イカヅチ」

腕に繋がれた鷲が
猛禽類であることを自覚するが如く
如く
威嚇する
何を
この世界を

かつて、
己が身体で威嚇するものは
するものは
その隆々たる羽や
筋張った足や
足や
まっしぐらな眼光や
鋭い嘴や

今や、
開かれた空に放たれる
繋がれたままでも離さないお前の前夜はイカヅチ
イカヅチ
這い出る隙間もなくこの世の無情
無情

今夜、
お前の命はうるさい
うるさいにもほどがある

 

2021年7月

無数の冷たい雨

ポエトリー:

「無数の冷たい雨」

 

無数の冷たい雨が頬にへぱりつく
無数の光を乱反射させるために

わたしはそれを祝福とみた
近い将来、あなたが報われるための
つまりわたしが報われるための

とはいえ、
無数の冷たい雨は祝福されない

 オレだってやなんだよ
 うるさいんだよ
 降らせよ降らせよって

 今、
 一刻も早く立ち去るのを待っている
 無数の冷たい雨。
 なんてちょっとヒドイ言い方

時間で言うと午後の6時ぐらい、
喉元を過ぎたあたり
一方は口を開け
一方は蓋をして
驟雨
生き死にを漂わせる匂い

無数の冷たい雨が頬にへぱりつく
無数の光を乱反射させるために
近い将来、あなたが報われるための
つまりわたしが残されるための

 

2021年7月

鳴り続けん

ポエトリー:

「鳴り続けん」

自戒や
自壊を含め
通りすぎたこと
ほぼ慰め

目障りな
あの人の面影
かつて流した
雨の日の体温

どこをどう打って
いたのやら
今や手のひらに
帰りぬと

その日と
その人の
粘り気は
雨の日の湿度

間近に迫った
夏の日のお囃子
いくどもいくども
時計は回りぬ

形は崩れつ
はらわたで
鳴り続けん
はばたいて
鳴り続けん

 

2021年7月

流れり

ポエトリー:

「流れり」

 

薄いピンクの君の頬を柔くかき混ぜてみた
浅い眠りについた朝ならほら
まだそこにあるさ

まごついた手
でシーツを鷲掴みす
みたいに形なす花弁は
次第に痩せ細り
指先に流れり

太陽からの眺めもまた
まごついたまま
己が手でひと掴みする隙間などなく
時はよしなに流れり

listening…
淀みなく
listening…
時間が来たよ

薄いピンクの君の頬を
コップ一杯の水に汲んで
静かな朝の
時計は流れり

 

2021年6月

美しが丘

ポエトリー:

「美しが丘」

 

短い嘘から始まる勇気
間近に迫ったたった今
極端に曲がったガードレール越しに
心臓破りの丘、初めての勇気

思い出してもみよ、これみよがしに
打ち解けた日のお祝い
初日の美しヶ丘
できあがったばかりの首を固定して
春の心地、外へ出かける

十分な潤いに滑りだす
ガシッとコンクリートを掴む足
歩く度、増えるキズに
新品ではなくなることの心地よさ
近くを歩けるだけ歩く
腕を振る角度は固定されていても
その看板に偽りはない

いつからか分からない
毛の生えた程度のドキドキ
心は晴れやかに落書き
そこに飛び出すカラスは西から
雲がよぎり長い影がひとつ傾いて
問題ない、ふたつでひとつ
心の中の相棒に語りかける

四時間ばかり先のこと
口からでまかせのハカリゴト
ことあるごとに口を開き
サブタイトルに心を開き
誤魔化さないでと
虚ろな眩しさたおやかに

ガードレール越しに
心臓破りの丘、初めての勇気
傍には大いなる古時計があって
存分に仰ぎ見る太陽

銀色に光るボディ
視線を投げて光る初日の美しが丘
はじめまして、
私はニンゲンというものですと
丁寧にお辞儀す

 

2021年5月

春の陽気

ポエトリー:

「春の陽気」

 

帽子を取って走る姿に
いま一度ほれおなす
確かあれは
桜並木
賀茂川のほとり

無尽蔵にこみ上げる
大切に想う気持ち
春の陽気に請われて
減じてしまうよ
まさか、
まさかね

眩しい光線
お願いするよ
そのままどこかへ持ち去らないで

伸び盛りの欲望
ほどなく断ち切る
桜並木
賀茂川のほとり
いつか来た道

 

2021年4月

ナケバ

ポエトリー:

「ナケバ」

 

君のこと やめようと思っても
ついてくる風 なびく稲穂の手引き
その時に夜は 星たちの綱引き
オーエス、
そして大事なこと 言う羽目になる

屏風を立てた日 風はおしろいに乗ってやまびこ
こだまする 幾度も幾度も
肯定する心 内側に秘めたるさしたる願い ありもせず
難しい話なら 夜半にして

毎日でも 少しでも あの人のためならばと心
引き留めて まさかね
無味無臭 無害大敵
どうか無事にやりとげて どうか穏やかに

短いあなた 過去に遡る私
いずれ大切なときが訪れる
そう信じてさえ
雨ニモマケル 凡人の行方
なにが恋しい?
それすらわからない

 

2020年5月

尋ねていた

ポエトリー:

「尋ねていた」

 

くぐり抜けてきた
うまくいかないこと
その多くを
さして支障はない

星を眺めていた
窓が濡れていた
ぶつかり合う星のこと
考えていた

誓いは嘘をつかない
泣き出した日のこと
もうこれからは
忘れたりしない

街の隅では
静まり返った太陽が
古い喉を枯らして
口笛を吹いていた
傍らの犬も共に
喉を鳴らしていた

違いは嘘をつけない
アケビがそっぽを向いていた
ごめんなさいと嵐がただならぬ風を吹かせ
他ならぬ君の横を通りすぎた

気がつけば星は
新しい時代の代謝
いくらかでも信じるがための光、
少し分けてくれまいかと
見知らぬ風をつかまえては
尋ねていた

 

2021年5月