古い時代の陶器のように

ポエトリー:

「古い時代の陶器のように」

 

今、僕の中で
できることと
できないことが
こんにちはしている

できないことは過去から来たと言う
できることは未来から来たと言う
そりゃそうだ過去のことはできないから

ひるがえって
未来のことはできるのだろうか

未来がこんにちはしてきたとき
過去は言うだろう
できやしないよ
結局ぼくはなにもできなかった

そうだろうか
未来はこたえる
できたから君がいるんじゃないのか
できなかったら過去はいないよ

過去は言う
でもぼくは野球選手になれなかったし
好きなひとと一緒になれなかった
ぼくは過去だから できたこともある かもしれないけど
できないこと はできなかったんだ

 未来:でもきみはちゃんと答えてくれている
    大切なことはできてるじゃないか

 過去:それはぼくときみはひとつだからだよ

 未来:そうか
    ひとつか

自分でそう言っておいて過去はうれしそうだった
未来もうれしそうだった

それはまるで古い時代の陶器のように
自然な様子だった

いつのまにか過去と未来は
もうそんなにもすんなりとしていた

 

2025年9月

ようやくに

ポエトリー:

「ようやくに」

 

歌がはじまってまもなく
滝の音が出でて
すべては覆われた

かなしみは
空に吸い込まれることなく
彼らの頭上は
重く立ちこめたまま

われらの空は待ち望む
ようやくに
かなしみの歌が歌われんことを
かなしみが吹き上がらんことを

 

2025年11月

荒地

ポエトリー:

「荒地」

 

今日の音楽は
生身でグラグラしているから
リズムがとれない

脳内で型にはめ
補正する
フェイク
弦が切れた

裸足の感度が
ひとびとから剥がれ
今焼け野原

いいや
ガレキを足場にして
また歌を唄いはじめれば

 

2025年10月

新年によせて

ポエトリー:

「新年によせて」

 

新しい夢を見て
新しい街へ出た
わたしたちは毎日
新しいに手をかける

ただの、あるいは特別な
生命あるものとしての営み

新しい労働をし
新しい食事をし
新しく学び

新しい嘘をついて
新しい諍いをし
新しい和解をする

わたしたちは今日も新しいに手をかける
それは人類史上初めての経験
間違いもクソもない

 

2026年1月

秋風

ポエトリー:

「秋風」

 

秋風
あなたの目はもう死んでるね
疑いようがなく晴れわたる空

間違っても
人のそばに寄ることはないだろう
この先

それぐらい
傷ついたことを知って
あなたは許してくれるだろうか

それとも
ひとりぼっちでいることに慣れたのか
秋風よ

 

2025年10月

三日遅れてやってくる

ポエトリー:

「三日遅れてやってくる」

 

熱波熱波と言うがここは孤島なので
潮風がすべてを防いでしまう
潮風は他にもいろんなものを遮るようで
ここではすべてが三日遅れてやってくる

そんな具合なので天気予報も当てにならない
うわさ話も三日遅れでやってくる
それでも島民はスマホを手放せない
どうやらそういうことではないらしい
ということで災害なども三日遅れでやってくる
このところ小さな地震が続く

三日後のことは本島ではとうに分かっているのだが
誰も本島に行って確かめようとはしない
ひとびとの暮らしはいつもと変わらない
みんな変わらずのんきに暮らしている

本島では米が足りないらしいが、ここでは梅雨には梅雨の雨が降る
夏は夏でほどほどに暑く、冬は冬でほどほどに寒い
そんな気候もあってわたしはここに越してきた

今朝も田んぼに出かけた
本島を尻目に朝は卵ご飯、昼はどんぶり、夜は締めの雑炊
今日もたらふく米を食う

とはいえ三日後にはどうなっているのか分からぬ身
今の感じでは三日後のこの島も危ういかもしれない
が、かと言って本島まで見に行かないのはわたしも同じで
今もぐらり、ぐらりと来た

とにかく腹ごしらえでもして三日前(つまり本島で言うと六日前)に録画したテレビを見る
この腹減りも三日前のもの
厄介なのは腹いっぱい食っても腹いっぱいになるのは三日後だということ
初めの頃は調子にのってえらい目にあったがもう大丈夫
ここの暮らしもすっかり身についた

言い換えれば今のわたしも三日遅れの録画みたいなもの
どうにかすればどうにかすることができるものでもなく
とにかく三日後にえらい目にあわないよう努める
でもそれだって大したものだ
わたしたちは相変わらず確かめることなくどうにかしようと暮らしている

わたしたちは三日前のことを受け入れ、三日後のことに先回りする
たかが三日前、三日後
それで米をたらふく(といっても加減が必要だが)食えるなら言うことはない

今もぐらり、ぐらりと来た
住民は三日後に備える
なぜならここではすべてが三日遅れてやってくるから

 

2025年9月

わたしの家

ポエトリー:

「わたしの家」

 

ひとつひとつは小さいけれど
積み上がったことばかりが
重くのしかかる

そのひとつひとつが家をなしていて
ローンを払い続けている
払う気はないのだけど

朝歯を磨いていると
首筋に歯型を見つけた
いつ付いたのか定かでない

街へ出るとひとそれぞれに
等しく歯型があることに気づいた
が、向こうは気づいていないようで

なぜ今朝のわたしには見えるのか
わからないがローンが満期を迎えるものだけの特権
のような気もしてきた

そうだ
そろそろそれは
わたしのものになる

 

2025年10月

忘れたらごめんなさい

ポエトリー:

「忘れたらごめんなさい」

 

朝早く、ほうぼうからトングを手にした人々が集まる。品定めして、名物の大きめのクロワッサンから売れていく。今朝思いついたことは噛りかけ。できることは今ないです。

ここまで来ることができたのは、スピードに乗って空を仰いだことがあるからで、たとえこんな日でも、何にしようかと迷うのことの方が、大事だと思ったから

けれどそのスピードとは裏腹に、トングは大きめのクロワッサンすら掴めずに、手首から先はほどなく、恋しくなるほどふがいなく、記録も何も残らない。

帰り道の商店街を過ぎた辺りから、不意にロケットにでも乗って何処かへ行きたい気分がして、でもそれが望めないから、せめて通りの向こうの高台へジャンプする、気持ち。雲の水分をひと煮立ちして蒸発させれば、水素ロケットぐらい作れるのじゃないか、そんな気持ちで。

パン屋で焼かれる大きめのクロワッサンと普通のクロワッサン。手間はどちらがどうでどちらを多く焼くのだろう。などと思いながら、注文した食パン一斤分ならトングは使わなくていいから大丈夫、たぶん夕方には取りに行ける。

そのままでも美味しいし、ベーコンやトマトをはさんだらもっと美味しいことを想像して、でも夕方にはまだだいぶ時間があるし、午後からはお客さんが来るから、パン屋の皆さん、うっかり忘れたらごめんなさい

 

2025年4月

夕暮れ

ポエトリー:

「夕暮れ」

 

夕暮れに眠る存在が
わたしたちの今日を明るくする

それは頬をなでる平たい手
収穫の時の流れる汗
ショーウインドウのドレス

母親の自慢の百日紅がこちらを向いて咲いている
あの日、戯れに腰掛けようとした少年のわたしは
触れることさえできずに
眺めているだけだった

問題があった方に手をかざしても
それはなかったことにはできないし
ただ物質的に日差しを遮るだけ

それでも
分け隔てなく手を伸ばし
凍りついたものは溶けて
緩みきったものは固まる
そんなふうにして
今日も夕飯の支度

知ったり知らなかったりするものが
入れ替わり立ち代わり現れては
夕暮れに眠る存在が
わたしたちの今日を明るくする

 

2025年7月

お逃げなさい

ポエトリー:

「お逃げなさい」

 

これは本物の銃だから
あなたは早く背中を見せてお逃げなさい
けれどどんな痛みもあなたを撃ち抜く事はないだろう

なぜならあなたの胴は鋼より硬く葉脈より静かだから
なぜならあなたの問いは山脈よりも険しくせせらぎよりも掴めないから

そういう事を知るまでは
十年はここに戻らずお逃げなさい

ある日仕打ちが
それまで幸福の裏返しの仕打ちが
あなたの社におとずれるでしょう

そのときには黙ってお受けなさい
変わり果てていくこと
ものが壊れていくこと
忙しさにかまけること
夏の暑さにばてること
流れていくこと
雨が降ること
それでも社は森の奥で静かでいること

ときに誰かと会い
ときにあせり
ときに祈り
ときにあれをし
けれどどんな痛みもあなたを撃ち抜く事はできないないだろう

転がっているのは
本物の塊
本物の石
本物の祈り

だから早くここを去りなさい
あと十年は背中を見せてお逃げなさい

 

2025年7月