ポエトリー:

「時」

 

よどみなく消える、時間は

良いときも悪いときも

見さかいなく

 

わたしたちの舟はゆれる

岸が離れていても近くても

水草に手が届くなら

それが安心

 

いつからかわたしたちは

困り果てた顔をする

自由だからか

不自由だからか

 

しかし確かに

訪れるものがある

 

その日が来るとしたら

きっと今朝のように寒い日かもしれない

それは鉢に薄い氷が張るようなとても寒い日

それは水草の間に花が咲くようなきらびやかな日

 

一番小さなしあわせがわたしたちを満たすとき

時間はわたしたちだけのものになる

それが行って過ぎるまで

 

2025年2月

 

そういう芽生え

ポエトリー:

「そういう芽生え」

ぼんやりと生きることが
暮らしの支えになる
どうやら
そう信じていた節がある

自分に信念のようなものがあるとすれば
きっとそんなようなものだと
それもまた
ぼんやりと気づいた

ひとには
誰に教わるわけでもなく
そういう芽生えが
生まれながらにあるらしい

 

2025年2月

きみよりの

ポエトリー:

「きみよりの」

きみが何に急ぐのかぼくにはわからないけど
ぼくは手間どるのが結構すき

きみの手柄はぼくもうれしいけど
余るようならひとに分けてあげてほしい

きみとぼくがうまく合わされば今よりのんきになってしあわせになる
でものんきはぼくの性質だからぼくよりのしあわせということになる

ぼくとしては
ぼくよりもきみの方が少しだけしあわせになってほしいから
きみよりのしあわせがいいと思う
でもそれすら
ぼくよりのしあわせかもしれないけど

 

2025年1月

ペグ

ポエトリー:

「ペグ」

 

よく晴れた日
飛ばされそうでペグを打つ
隣人は片方の靴下をもう脱いで駆け出していた
路面は暖簾のように緩やかで
どこからもようこそと言われているようだった

わたしたちの水銀灯は熱を帯びていた
これから何をしようと責任は取る必要のない朝
二重にした袋からも汁が漏れそうな気がして
振り返るたび路面は揺れる

一方向しかないベクトルの
業務用でしかない喧騒を
我が事として捉えることができるのは
将来の夢が固まったひとだけだと聞いた

「ほんなら誰もおれへんやん」

振り返るとそこに影がいた
影もろとも飛ばされないようにペグを打つ
とてもよく晴れた日

 

2024年12月

片目でものが見えるのは

ポエトリー:

「片目でものが見えるのは」

 

片目でものが見えるのは
海が見える丘にいるからで
眼下に広がる白波の
向こうに富士が見えていた

わたしたちの住む街にゃ
俄に人が増え始め
通りを隔てたお向かいの
ひとに会うのもひと苦労

伝えに聞いたところでは
俄に増えた人たちの
口の端のぼる事柄は
向こうに富士など見えはせぬ

おかしなことを言うものだ
わたしたちの住む街にゃ
そんなひとなどひとりもおらぬ
向こうに富士がきちんと覗く

どれどれ様子をうかがうと
俄に増えた人たちは
両眼をしっかり見る癖を
長い旅路で付けたらしい

ほれほれ皆さん聞きなされ
向こうに富士を見たいなら
ここは海の見える丘
片目でものを見ることです

心配せずともこの街に
ひと月ばかりおりゃあええ
そしたら眼下に広がる白波の
向こうに富士が見えてくる

ここは海が見える丘
片目ぐらいがちょうどええ
片目が世界を映してくれる

 

2024年10月

アプローチ

ポエトリー:

「アプローチ」

 

ここには居たくないからと
おてんばな娘のように
紙のようなシュークリームの皮が破けて
クリームがどっと溢れ出す
順番を待てないのはわがままじゃない
そそっかしいだけだ
ありとあらゆる崩落から身を避けるため
ノートにことばを書き並べては
いちいち頷く
繰り返すがわがままじゃない
目指しているのは
姉弟のような優しさで
つまりそれは等間隔で
お土産のシュークリーム
でも幾種類も買って好きなのを選ぶ
あとは紙のようなシュークリームの皮が破けて
クリームがどっと溢れ出す
それが新しいやり方
わたしの世界を取りに行くわたしの正解

 

2024年11月

ゆがんだ言葉でも

ポエトリー:

「ゆがんだ言葉でも」

 

ゆがんだ言葉でも
お願いがあると
正しく聞こえる

みじん切りにした薬味が
空から
パラパラと降ってくる

上手にできたのか
わたしたちは
今ここにいるということは

無駄な言葉を削ぎ落とし
地面を通過し
空から降ってくる

それを祝祭と呼べるか
あるいは悪意
皮肉としてなら
呼んでもいいか

しかしそれを浴びるべきは
わたしたちであるべきか
気に入らないなら
自分自身で払うべきか

正しく聞こえる
お願いがあると
ゆがんだ言葉でも

 

2024年10月

普通の糸と赤い衣

ポエトリー:

「普通の糸と赤い衣」

 

朝起きて
夢の中でこさえた赤い糸が
じゅんぐりじゅんぐりに糸を吐く
赤い衣を脱ぎながら

まるで普通の糸になって
やがて束になって
やがて皮膚になり
ひとの身体を覆う

矛盾しているが
赤い衣が身体に残り
普通の糸が
身体を守る

わたしの赤い衣はいつもこうして
守られている
ふとそのやさしさに気づき
わたしは皮膚を撫でた

 

2024年10月

星よりもたかく

ポエトリー:

「星よりもたかく」

 

星よりもたかく
月よりもしずかに
今日も無色透明なものが
投下される

土は絶え間なく
海は揺らぎて
塩分を摂りすぎたから
今夜は軽いものにしませんか

変わらないものなど
ありはしない
そうやって大河がひとを飲み込んでしまった

祈ること。
明るい明日が待ちきれなくなるような
ひとが暮らす街となれ

 

2024年1月

 

 

波打ち際

ポエトリー:

 

「波打ち際」

 

 

波打ち際で剥がれた人生が

一歩、また一歩と後ずさりす

真剣に生きた心意気さえ簡単に儚い

小鳥のさえずりほどに

 

目頭が熱くなる瞬間がひとにはあって

後ろめたいことのひとつやふたつ

それでも隠すことのできない腹立ち苛立ち

もくもくと雲が茹で上がり

 

それでいてときとして晴れわたり

またはのこのこと雨がやみ

いやあれはそうではなかったのですという断りは過ぎ

ひとに長く愛されるサイダーの泡

そんなものに憧れる

 

ゆっくりと潮が引いていく間ほどには

ひとは穏やかではないと知りつつ

少しづつ重ねたときを折り返し

少しづつ剥がれていくときを経てもなお

若人のように寄せては高波

生の陽気さへ同期す

 

 

2024年8月