綻び

ポエトリー:

『綻び』

 

君は明日をつかまえた
僕はこころなしか遠くなった
手首には跡が残った
言葉は行ったり来たりして声が残った
冷たい空気に気付いたから
ここに来てからの日々を想う

意味は昨日からやって来た
答えを用意していた
大人しく黙って見ていた
瞼が重くて仕方がなかったが
明け方、用意した答えをそのままに
贅沢なワインの口を開けた
で、どうする?

君は人生の意味を問いかける
形を正確になぞれるか
感受性は試される
神経質な縫い目を合わせたがっているな

 

2015年4月

I See You

ポエトリー:

『I See You』

 

人は生きているうちに何度か真実に触れる。

女に会ったとき、男にはわかった。
太陽が昇るのと同じぐらい自然なことだった。
男に会ったとき、勘のいい女はわかった。
私はこの人にとって特別なのだと。

ふたりの知り合いに美しい人がいた。
あの子フリーだよ。
女は男が自分に気があることを知ってわざとそんなことを言ったりした。
ある年の冬、最初に扉を叩いたのは女だった。

ふたりで旅行の計画を立てた。
暖かい春の日、知らない街を歩いた。
知らない人に写真を撮ってもらった。
夜、月の光がふたりを照らした。

男はまだきちんと自分の気持ちを伝えてはいなかった。
ある日女は言った。
ふたりはもう始まっているのかと。
男は言った。素直な気持ちままを。

ふたりは駅でよく待ち合わせをした。
男はいつも階段で少し斜めになりながら待っていた。
女はいつも小走りで少し遅れてやってきた。
夏の営みみたいに光が満ちていた。

新しい季節が始まろうとしていた。
夢と現実の波がふたりを襲った。
困難に立ち向かうために必要なことは何だったのか。
秋の深まる夜、最初に切り出したのは男だった。

I See You.

ふたりは永遠に友達でいようと誓い合った。
いつも待ち合わせをしたその階段で、
ふたりは永遠のさよならをした。

初めて会ったときふたりにはわかった。
太陽が昇るのと同じぐらい自然なことだった。

 

2017年3月

カエデ

ポエトリー:

『カエデ』

夢の暮らしをしたいと願う
桜並木のカゲロウはカエデ
日々の暮らしを数えて
時折風に大きく
指一本触れただけで
形は崩れ遠退いていく

調べ
床の間に飾れ
萎れた花を流れ
行き倒れの彼方
熱く光れ

災いは振り返り
新たな声を呼び戻す
支えのない価値に
一人聳え立つカエデ

知らないことを知らないままに
知ったことを知ったままに
降り注く雨の最中
信号機の
明滅する時の中で
ひどいこと言うんだなお前
たくさん乱反射して
朝になるのかお前

2018年8月

カクテル

ポエトリー:

『カクテル』

 

クールなふりを装うのなら
我々はゼロに従うべきだ
クローゼットは閉めて
諦めは肝心

買い物帰り、ふと考える
果たしてこれは必要だったか
おもむろに尋ねる
すみません、ボク、コレ、ヒツヨウデスカ?

タオルケットを腰に当てて
いつでも着替える準備はOK
姿見は彼女
いつも貴重なご意見をありがとう

そもそもここへは何を?
さしあたって…
そう、格調高く!

そうさ僕らは旅する楓
試作のカクテル
重なり合って色を付ける
春は春色
秋は秋色
今は何色?

進むべく方角をすっと指で指し示し
来るべき朝を今ある色で調色
あなたはそれを誰に教わった?

冬枯れのコートを次のシーズンまで
持ち越すつもりはない
キッパリと
あなたはどこへ翻す
湯呑みの茶柱は立っている

 

2018年8月

音楽が奏でる球体

ポエトリー:

『音楽が奏でる球体』

 

音楽が奏でる球体が夜分にそっと忍び込む
あなたが夢を見るのは球体のスクリーンのせい
球体があなたの記憶を吸い込むの
朝になって思い出せない幾つかは
もうとっくに運び出された後だから
そうやって私たちは少しずつ記憶を失う

球体は地球に与える
私たち人類の記憶を
輪になって
束になって
雨粒になって
晴れやかな太陽の日差しとなって

地球は健やかに育つでしょう
我々が地球の邪魔をしている?
うううん
私たちがいなければ地球はとっくに枯れてしまっているわ
私たちはそういう関係

私たちはテキストとなって
大切に一枚ずつ削り取られていく
受験生の脳みそのように地球はそれを食い尽くす
それが地球のシンフォニー!!

 

2018年7月

汗でベタベタするそうだ

ポエトリー:

『汗でベタベタするそうだ』

 

氷だらけに熱いコーヒー
今週からまた日本は暑くなるそうだ
暑い夏ってバカだ
ザーッと通り雨が
汗でベタベタするそうだ
だからって体を揺すらない揺すらない
焦っていいことない行方すら分からない
声すらかからない
誰が妨害をするか
汗のせいで手首すら掴めないんだって
いんげん豆の季節か確か
しかし暑い夏の季節感は無しだ
迂回して広げたい
今言った言葉を
狂った説明は不必要だ
しかしせめて名前ぐらいは伝えて欲しい
私としても焦って全てを台無しにしてしまいそうだから
夏は嫌いだ
これって夏バテか?
ジョーシンに行って診てもらうべきか
それなのに…
デビューから3年経っても人は煮えないままだ
責めない責めない
心配しなくても責めないよ
景品で貰った花火の重量みたいだ
夜を根こそぎ引っこ抜きたい
身だしなみまでおかしくなるのは三十六度を過ぎた辺りだ
そんな姿、写真に収めなくてもいいよ
無くなったものを修繕してもいいよ
修繕なんかしないだろうけど
けどもう元のようになった気でいていいよ
景品で貰った花火の重量みたいだ
ズシンと来るよ
実家になんて帰るんじゃなかった
氷だらけの熱いコーヒー
体の欠損まで適度に薄まってはくれない
呉れないままだ

 

2018年7月

パスポート・イズ・レバニラー

ポエトリー:

『パスポート・イズ・レバニラー』

 

レバニラー
交配するデカダンス
回転ドアーに右膝
片足挟まるスリッポン

丁さんはドタドタ店内を闊歩し
パンテオン並み耳の中をかっぽじ
花開くチャン・スー
史上最大のデート
時間が花丸で止まらない

上海蟹の夢をくぐれば
ニッポニアニッポンを
手早く溶き卵とかき混ぜて
よく書けました
速やかに健やかな覚めない夢
冷めない麺
どこまでも伸びていく
手荒れにはニベア
よく効きます

止まらないで
アイマスクしてもらいます
そのままで真っ直ぐ行って路地に突き当たります
毎日の食卓はパスポート
蛇行して出会えるワンデイパスポート
今すぐあなたに会いに行きます

旅、日常、おおむね、流れて、
街、油に、通訳、なしで、
片足、スリッポン、スピード、ラーニング
手際が命、レバニラー

丁さん、やけに声大きいですね

 

2018年7月

ヒューミリティ

ポエトリー:

『ヒューミリティ』

 

頭の先から古い汗を流す
天の邪鬼が来て新しい砂を運ぶ

 ねぇ 君はうなじが近いね
 そんなに近いとのけぞってしまうよ

物語が来て右の頬をつねった
思い出話が夜の町をすべる

小指を立て方位磁針に見立てる
折からの風は駄目な方を指し招く

 会いたい ねぇ君
 二人だけで会いたいね

遠からず汗がいそいそと引っ込んで
通り雨だけが笑い声を立てる

魔が差したのは偏西風
街が吹き上がった
日が射したのは真夜中じゅう
軽くのぼせ上がった

冷たい 君の指示だけが冷たい
締まりのない笑顔は頼りない

物語が来て右の頬をつねった
思い出話が夜の町をすべる
遠からず汗がいそいそと引っ込んで
通り雨だけが笑い声を立てる

 

2018年8月

雨はまだ降り止まず

ポエトリー:

『雨はまだ降り止まず』

 

雨はまだ降り止まず
天気予報は嘘つき
てんでばらばらの太陽
お使いから帰らず

愛しい人は今日もお休み
愛用の枕はへこみっぱなし
正しい事を言うくせに
嘘ばっかし
お酒の力も借りて
今日もお休み

エコーは響かない
思えば若葉の頃
巡り合わせの糸を断ち切る事に精一杯の
欠片拾い集める術はなく
眠たげな眼差しは回り続け
光を求めて立ち尽くす雨

思い出の貝殻を拾い集め
海へ漕ぎ出す夢
見たっけ
目を閉じて
大海原に乗り出した私たちは
風の赴くまま
頼りない帆を上げ
白い波を越えていった

今新しく夜明け
いつまでも変わらない二人は
愛用の枕をへこませたまま
今日も新しい一日を
精一杯ループした

 

2018年6月

詩の状態

ポエトリー:

『詩の状態』

 

詩はおそらく液体 もしくは気体 固体となっては届かない
例えば液体のようにゆっくりと 地面や皮膚に吸い込まれていきます
例えば気体のようにぱっと霧散する 大気中に紛れてしまいます
詩はそのままの形では届かない

指の間をすり抜けて わずか1ミクロン
その届かないところを聞き手は補完します
経験や理知や想像力で
詩はそのままの形では届かない
だからいつしか聞き手のものになる

 

嬉しい時に掛ける言葉はたくさんあるからいい
おめでとうとか よかったねとか ありがとうとか
こういう時の言葉はおそらく固体 言葉のかたまりを笑って相手に手渡しできる

では悲しい時は?
何も言わずただそばにいてあげる それがいいのだとは思います
いいのだとは思うけど 少しでも元気になって欲しいから ついとんちんかんなことを言ってしまう
何も言わずただそばにいることが 実は一番難しいことなのです

悲しい時 一番役に立つのは詩かもしれません
詩は余計なことは言いません(多分)
どちらかというと少し足りないくらいです(多分)

それに
なにしろ液体ですから あなたのもとに辿り着くころには流れ落ちてしまいます
なにしろ気体ですから あなたのもとに辿り着くころには流れ去ってしまいます
届くのはほんの1ミクロン
1ミクロンだからいいのだと思います

なぜなら悲しみはその人だけのものなのですから
人は1ミクロンを頼りに自ら処方してゆくより他はないのです
固体にしてハイって渡しても
それはやっぱりとんちんかんになってしまうのです

詩を道具などと言うと怒られるかもしれませんが 僕の詩は誰かの道具になって欲しいと思います
僕の詩の僅か1ミクロンが どこか知らない誰かが作る処方箋の手助けとなってくれたら
だから僕は固体ではなく うすぼんやりとした言葉を今日も紡ぎます
今日も空に投げ出して 道端にばらまくのです 

 

2017年10月