よき一日

ポエトリー:

「よき一日」

 

なぜかきみの庭に羽が降りてきて
そこの一点にだけ
調和を乱す
見事に
縁側へ降りる石段の足が一歩
止まる

夕方の静かなときにだけ訪れる
博愛の自由な精神
意外なことに
きみの声は二手に分かれ
翌日の出来事を掬いはじめた

そうか、目覚めたときはなかったね
道のうねりの理由に
少しだけ気づけたような気がした

わかっていたことが存分に折れはじめた道中で
最近きみはよく笑いはじめる
背恰好がよく似た兄弟姉妹たちの影が
庭に現れては軽口をたたくようになった
きみは炭酸をぐびっと飲み干す
よい一日だったと

 

2024年5月

Flying On Abraham / Diane Birch 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Flying On Abraham』(2024年)Diane Birch
(フライング・オン・エイブラハム/ダイアン・バーチ)
 
 
ダイアン・バーチ、3枚目のアルバム。前回が2013年だから実に11年ぶりの新作アルバムとなる。その間まったく何もなかったわけではなく、単発的にシングルやミニ・アルバム的なものはあった。が、こうしてまとまったアルバムという形で出るとやはり気持ちが高鳴る。よい音で聴きたいと、久しぶりにCDを購入した。
 
前作、といっても11年前だから比べるべくもないのだが、80年代に回帰したようなポップ・アルバムを目指してやたら熱量の高かった前作に対して、今回はあのデビュー作のようによりシンガーソングライター的なアルバムに戻っている。戻っていると言っても今回の方がより現代的になっているというか、ビンテージさは後退し、より今の時代のシンガーソングライターとしての歌が流れていることが嬉しい。
 
確かにダイアン・バーチは今では他に類の見ないその音楽性で語られがちだけど、根本は歌の人。それはポップさを前面に出した前作でもあのデビュー作でもそう。この度届けられた新しいアルバムを聴いて改めてその思いを強くした。美しいメロディが独特のアルトボイスから境目のないファルセットで伸びやかに歌われる。音楽を聴いてこれほどうっとりする瞬間はそうあるものではない。
 
曲調も一辺倒ではなく、オープニングの#1『Wind Machine』ではサザンロックのようないなたさ。続く既発の#2『Jukebox Johnny』ではそれこそローラ・ニーロのように転調を繰り返し、折り返しの中盤ではスケールの大きな#5『Critics Lullaby』でエモーショナルに。#9『Used To Lovin’ You』はポップなダンス・ビートで上げといて、最後の#10『Trampoline』はこれぞキャロル・キングな歌でしっとり終わる。13年ぶりだからもっと曲数を欲したいところだけど、シンガーソングライター的といえば10曲というコンパクトさがいいのかもしれない。
 
あとはこれをライブで聴きたいところだけど、来日公演は東京のみだとさ。ビルボードだから近くで聴けるんだろうなぁ。うらやましすぎる‼ 約10年前の来日公演も逃したし、まだ一度も行けてない。いつか生で聴いてみたいけど、次の来日も10年後なのかなぁ(笑)。
 

骨格

ポエトリー:

「骨格」

 

ゆれる骨格。
バランスを取るために片足で立つ。
傍らには工事中の立看板。

足元の水たまりはゆうべ出来た。
泥水で姿は映らないが
日差しはたっぷりで反射する。
無理すんなよ。

ゆうべの記憶。
さしあたってあなたがすることは
シチューのダマを丹念に潰しなさい、
白い方の。
仕事ができる人になりたかった。

素晴らしい背伸びをするひとの足元、
特につま先を見て学ぶ。
一学年下の後輩が元気に横を通りすぎても
よろしい、今は気にするな、
追手はそこじゃない。

日差しに匿われたわたしと
日焼けした人々が交錯する日々。
締めなおすにもたついた身体。
視線は何処にやればよいのやら。

気位ばかり高く、
骨格はゆれて足元にはたっぷりの水たまり。
泥水で姿は映らない。
でも反射する光。

 

2024年4月

Hit Me Hard And Soft / Billie Eilish 感想レビュー

Youngbloods(New Recording 2024)/ 佐野元春

New recordings for future generations.
 
 
コヨーテ・バンドによる新録の『Youngbloods(New Recording 2024)』がリリースされた。なんじゃこれ、めちゃくちゃ恰好ええやないか。佐野はこれまでホーボーキングバンドと『月と専制君主』(2011年)と『自由の岸辺』(2018年)という2枚のセルフカバー・アルバムを作っているが、今回はこれらとは全く雰囲気が違う。つまりテーマは’New recordings for future generations.’。昔の曲だけど新しい世代にも喜んでもらえるいいのがあるから、ちょっと聴いてみて。でもどうせだったら今の空気に触れさせてリクリエイトするよ。言ってみればそんな感じ。とてもいい試みだと思う。
 
先の2つのカバーアルバムも僕は好きだけど、選曲もアレンジもちょっと渋すぎるやろという感ありで、どっちかと言うと昔からのファン向けであったかと思う。それに比べて今回はもっとおおっぴろげ、快活にみんな聴いてよっていうサウンドになっている。ここが先ず嬉しい。
 
そしてかつての佐野と言えば、ライブで頻繁にアレンジを変えていて、時には全く別ものになった曲もある。ところがコヨーテ・バンドになって以降、割とオリジナルに沿ったライブ表現を行ってきたように思う。佐野がコヨーテ・バンドの面々と一緒にやるようになって本当によかったと思うけど、この点については少し物足りない気持ちは正直あった。そこに今回の『Youngbloods』新録版。まるでかつての佐野元春 with The Heartland  の時のようなスリリングなアレンジで、本当にワクワクする。
 
新録版ではオリジナルでは英語だったところを日本語に変えて歌っている。秀逸なのは「Let’s stay together」を「夜明けに滲んで君と行く」という歌詞に変えているところ。それを体現するミュージック・ビデオがまた素晴らしいのなんの。ミュージック・ビデオはプロダンスチームCyberAgent Legitをフィーチャーしている。内容は1985年のオリジナル版をオマージュしたもので、場所は1985年版と同じ場所だそうだ。そこに集い踊るチームLegit。なんだなんだと立ち止まる通行人。カッコいいぞ!それにしても充実の『今、何処』の次にこれ、というのがまたいい。
 
公式ページのアナウンスによると他にも数曲のレコーディングを済ませているらしいから、そのうちアルバムとしてリリースするのかもしれない。どうせだったら、『Suger time』とか『Down Town Boy』とか初期の青春ソングでガンガン攻めてほしい。ファンが唸る渋い選曲なんてどうでもいい。’for future generations’なのだから、ここは思いっきり元春のアオハル・ソングで景気よく行こう!
 
それもこれも素晴らしい『今、何処』があったればこそ。6月から始まるツアーも即売だったしとてもいい流れ。新録の雰囲気だとツアーに来る新しい世代にもきっと楽しんでもらえるだろう。かえすがえすもチケットをゲットできなかったのが残念。。。でもまぁいい、またそういう状況になってきたのは本当に嬉しいことだ。
 
それにしても今時こんな風にサラッと、「Come on!」って言えるのは明るい安村か佐野ぐらいだろう(笑)。
 
https://youtu.be/0iz11cvYSTY?si=R9cEdATNA9IlaR6D
 

ぜんぶぼくのせい

ポエトリー:

「ぜんぶぼくのせい」

 

われわれのなかにもし うそつきがいたら
 それはぜんぶぼくのせいだ
われわれのなかにもし よわむしがいたら
 それはぜんぶぼくのせいだ
われわれのなかにもし あくとうがいるなら
 それはぜんぶぼくのせいだ
われわれのなかにもし おちょうしものがいれば
 それはぜんぶぼくのせいだ
われわれのなかにもし わるものがいれば
 それはぜんぶぼくのせいだ

もし はちうえにあたらしいはながいけてあるなら
 こえにだしてよろこぶべきだ
もし はげしくないているひとがいたら
 たとえじゅっぷんでもそばにいるべきだ
もし はんでぃきゃっぷをもつひとがいるなら
 いろいろなくふうをまなぶべきだ

もしわれわれのなかに しぜんのせつりにさからうひとがいたら
もしわれわれのなかに しぜんのせつりにしたがうひとがいたら
だれかおしえてほしい
だれかこたえてほしい
つぎにぼくはどうしたらいいのか

 

2015年11月

 

Can We Please Have Fun / Kings of Leon 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Can We Please Have Fun』(2024年)Kings of Leon
(キャン・ウィ・プリーズ・ハヴ・ファン/キングス・オブ・レオン)
 
 
2021年以来の9枚目のアルバム。約20年のキャリアだから2年に1枚、なかなかのペースでアルバムを出している。米国のバンドだが、英国では出せばチャート1位という人気ぶり。日本ではあまり知られていないが、今や数少ないヘッドライナークラスのロック・バンドである。
 
とはいえなんか垢ぬけない印象があるのも確かで、グラミー受賞歴もあるがなんでそこまで人気があるのか僕もよく分からない。一番はみんなが想像するロック・バンドというイメージに割と近いからかなぁなどと思いつつ、確かにライブ映えしそうなバンドで、キラー・チューンはいっぱいある。かなり盛り上がるんやろうな。僕も一度は見てみたい。
 
ということで本作にもここぞのキラー・チューンがあると思いきや、今回は目玉になるような曲は見当たらない。前作『When You See Yourself』(2021年)はよいメロディがありつつエモい感じもあって、ここ数年のキングス・オブ・レオン作品の中では結構上位に来る好きなアルバムだったんだけど、今回はメロディに関してはちょっと弱いかな。
 
ただ、らしいというか、彼らはギター・バンドなんだけど、単にジャカジャカ鳴らすとか、リフで誤魔化すとかそういう大雑把なことはしないバンドで、凄く工夫をしたギター・アンサンブルを聴かせてくれる。ギター・バンドなんだから音でっかくして隙間を埋めちゃえなんてのはありがちだけど、彼らはいつもしっかりと考え、隙間を活かした凝ったギター・フレーズを重ねる。もしかしたら、そういうところがロックの本場、英国で好かれる要因なのかもしれない。音楽好きはそういう細かいところをちゃんと聴いているからね。

片手で測ってしまえれば

ポエトリー:

「片手で測ってしまえれば」

 

長い運河の成れの果てで
片手で測れる音を聞く
その景色を十分毎に刻み
アニメーションにして語るほどの語彙はあるのかと
急に濁流になるくだり
そこはスナップショットにして
あぁ、そういうことあったよねと
肩の荷を降ろし
向かい合った片方のレンズ
そう、対角線になって
覗くとほら
騙されたような気分になって
一瞬でスカッとするのさ
いわゆるその類いのスピード
コマ送りにするまでもなく全部が全部
窓ガラスにへばり付いた結露と一緒に
サッーと落ちてゆく
それを内気と外気の温度差と言い換えていい
いい、いい、
もう焼きつけたから全部それでいい
長い運河の成れの果て
後になってからででも
片手で測ってしまえれば

 

2024年2月

こんな夜に

ポエトリー:

「こんな夜に」

 

こんな夜に
あなたにおねだりしたいことは
グミ、あるいはチョコ
それともなんのことばだろう

やわらかい海の耳鳴り
その浮き沈みに合わせるように呼吸をすると
静かにしないでもちゃんと聞き分けられる

こんな夜に

目ぼしい魚をひとつひとつ
うお座でなくても空にあて
新しいものでも見つけたように
興奮するひととき

珍しいことにあなたもぼくに合わせてくれて
あれでもない、これでもないと
短いけどそんな交信
あったような気がした

接近する光線に手をかざすあなたが
ガラス戸に映って
出たり入ったりするあいだ
ぼくはこんなにも湿っぽい面してる

でもその場からは
けっして逃げ出したりしないように
健康的な湯上がりのような
正当防衛する体がほしい

こんな夜に
あなたにおねだりしたいこと
グミ、あるいはチョコ
甘いもので心を浸すことができるなら
今はもうそれで満足です

 

2024年4月

Inevitable Incredible / Kelly Jones 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Inevitable Incredible』(2024年)Kelly Jones
(イネヴィタブル・インクレディブル/ケリー・ジョーンズ)
 
 
ステレオフォニックスのフロントマンでありソングライターのケリー・ジョーンズによるソロ・アルバム。バンド以外ではこれが3作目だそうな。2022年にフォニックスとしてのアルバムが出ているから2年ぶりの作品にはなる。相変わらず、デビュー以来2年ごとに新作というペースを守り続けている律義者である。こういうところが英国で抜群の人気を誇る理由のひとつなのだろう。
 
とはいえ、同じことはずっとし続けられない。なので、その時々の時勢に寄ったサウンドになってもおかしくないところだが、ケリー・ジョーンズはつまみ食いみたいなことはしない。インディーロックが流行ればそれ風のを作ってみたり、カントリーが流行ればそっちに行ってみたりもしたくなるだろうが、頑固一徹、ケリー・ジョーンズはもっぱら自らの手の届く地に足の着いたサウンドしかやらない。
 
フォニックスはバリバリのギター・バンドですが、このソロ作はいたって静か。ピアノとオーケストラが主体の厳かなアルバムです。バンドの時もストリングスの使い方が非常に上手い人ですけど、その技量は健在。冗長にならずに必要な箇所に必要なだけ取り入れる。あくまでもソングライティングありきだということ。
 
しかしまぁ不思議なのは、この一見なんの特徴もなさそうな曲が淡々と8曲続くわけですけど、ちゃんと聴いていられるんですね。普通は退屈ですよ、こういう動きの少ない曲がずっと続くのは。1曲の中で派手にメロディが動きまくるJ-POPとは対極になるような単調なメロディ。でも似たような曲にはならないし、なぜか心に響く不思議。
 
あの独特のシブい声というアドバンテージはあるけれど、それだけでは説明できない何かがある、ということを改めて知る。そんなアルバムです。