ポエトリー:
『お日さん』
太陽をお日さんと呼ぶのは
子供っぽいからではなく
それが私たちの宗教だから
宗教って言うとちょっと重たいけど
お日さんに顔向け出来ないことはしちゃなんめぇってことで
母なる太陽とはよく言ったもの
やましい時は
夜に隠れても
心は落ち着かないものなのです
ポエトリー:
『お日さん』
太陽をお日さんと呼ぶのは
子供っぽいからではなく
それが私たちの宗教だから
宗教って言うとちょっと重たいけど
お日さんに顔向け出来ないことはしちゃなんめぇってことで
母なる太陽とはよく言ったもの
やましい時は
夜に隠れても
心は落ち着かないものなのです
洋楽レビュー:
『Why Me? Why Not.』(2019)Liam Gallagher
(ホワイ・ミー?ホワイ・ノット/リアム・ギャラガー)
いや、いいんじゃないですかこのソロ2枚目。いい具合に肩の力が抜けてリアムの声がスゥーッと入ってくる。まぁここに至るまで紆余曲折があったわけで、ソロ1作目の手探りな緊張感もいいですが、ここでようやくリアムも本来の調子を取り戻したってことでしょうか。
肩の力が抜けてホントいい声なんですよ。若き日のあの行ったらんかいボーカルではなく、年相応の声といいますか、いやでも妙に瑞々しいんです。このイノセント感はなんなんですかね?
てことで改めて『Definitely Maybe』と『Morning Glory 』のさわりを聴いてみたんですけど、やっぱ当然ながら若い(笑)。だから声質が全然違う。けど今回の声はそん時とはまた違った意味で若く聞こえるんですね。我々は一時期のあの声が伸びなくなったリアムを知っていますから、これは余計にね、リフレッシュして新しい声を手に入れたなと。ちょっとおおっ!となりますね。
てことで今回のリアムさんは歌うことに徹してます。前回は8曲もあった自作曲は今回は無しです。この辺の潔さ。リアムのソングライティングもそんなに悪くないのですが、もうちょっとトライしてみようとかそういった半端な欲が一切ない!俺は歌うからもういいと(笑)。流石、はっきりしてる!
ではっきりしてるのはソングライターチームも同じでもう方向性が一貫している。前回に引き続きグレッグ・カースティンとアンドリュー・ワイアットの2名を筆頭に多くの制作陣が名を連ねているんですが、皆いい曲を書くことに注力している。少々ベタでも兎に角いい曲を。はっきり言って他のミュージシャンには出せないような、ビートルズ丸出しのキャッチーな曲だって沢山あります(笑)。一部、「リアム、ビートルズを歌う」になってます(笑)。でもいーんです。いーんですというか、言い換えるとそういうあからさまな曲を歌ってもリアムの曲になってしまうぐらい今のリアムの声は絶好調なんです。
ここまで来るともうリアムさん、シナトラですね。なんでも自分のものにしてしまう伝説のシンガーです。つーことでこのアルバムは別名「リアム、ビートルズを歌う」、もしくは「リアム、シナトラになる」でどうでしょうか(笑)。
まぁそれぐらいですね、制作陣も惜しみなくよいメロディを注ぎ込んでいる。その意図がよ~く分かるのがどの曲もアウトロ、めっちゃ短い!リアムの歌が終わったら、スッと引いちゃう。もうちょっと余韻があってもいいなと思うような曲でも歌が終わるとバッサリいっちゃいます(笑)。ここまではっきりしてると逆に気持ちいい!
それにしてもリアムがこんな普通の素晴らしい歌のアルバムを出してくるとは思わなかったですね。でもって唯一無二の声の持ち主ながらここに来て、相反する誰の所有物でもない普遍的な声になっている。やっぱそこですよね、このアルバムは。
音楽的に新しい訳でもないし、批評家たちからは相変わらず評価されないけだろうけど、色んな音楽ジャンルがごちゃ混ぜになって益々細分化されていく時代に、ただいい歌をいい声が歌うっていう。そういう埃をかぶった価値観を図らずも改めてここで提示した。ちょっとおおげさかもしれないですけどね、そういう意味では新しくないけど新しいと言える、新鮮な空気を運んでくれるアルバムだと言えるんじゃないでしょうか。
Tracklist:
1. Shockwave
2. One of Us
3. Once
4. Now That I’ve Found You
5. Halo
6. Why Me? Why Not.
7. Be Still
8. Alright Now
9. Meadow
10. The River
11. Gone
(Deluxe edition bonus tracks)
12. Invisible Sun
13. Misunderstood
14. Glimmer
TV Program:
「スカーレット」はおもろい!!
朝の連ドラ「スカーレット」が面白いねぇ~。人生初です、朝ドラにハマったの(笑)。ドラマを見るにあたっては私の場合、どうも「いだてん」とか「スカーレット」とかみたいに合間合間に笑いがないとダメみたいですね(笑)。
朝ドラは何年か前からか家内が録画して夜に観てるんです。なので私もチラ見というか、今までもなんとはなしに観ていたのですが、こうもハマるとはね。今や「スカーレット」を観るのが一日の楽しみの一つになってしまいました(笑)。
最初はね、やっぱ子供時代の喜美ちゃんですよ!この子がすっごく面白くってですね、活発でしっかり者で、またお父さんとの掛け合いも楽しくって、ホンマおもろい子やったんです。なので、主役がね、当然のことながら成長すると演じる人が変わるんですけどね、ここがちょっと心配だったのです。あの喜美ちゃんじゃなくなるのかって。ところがですよ、長じた喜美ちゃん演じる戸田恵梨香さんがまた素晴らしくって、あぁもう大きなった喜美ちゃんこんな感じかもっていう自然な演技を披露されている。繋がりがちゃんと見えるんですね。戸田さん演じる喜美ちゃんももう最高です!
でやっぱお上手です。比較するわけじゃないんですが、前回の「なつぞら」の広瀬すずさんはやっぱりお若いですから、大人になって母親になってっていう主人公を演じるにあたっても広瀬さん自身が発する若さ、光が隠し切れないんです。手で押さえても指の隙間から光が漏れてしまう。
そこがですね、戸田さんは今年30才になるらしんですけど、ちゃんとその光を手の平で抑えることが出来るんですね。光が漏れてこないんです。そこがまた喜美ちゃんの切なさと快活さのコントラストとなってですね、劇中の喜美ちゃんはまだ18才かそこらなんですけど、やっぱ18才ですからそこのところのコントラストに自覚がないわけですよ。その辺りの出し入れを戸田さんはホントに上手に演じてらっしゃてて、私は普段ドラマをあまり観ないのでよく知りませんでしたが、戸田恵梨香さん、ほんと素晴らしい俳優さんだなと思いました。
私が「スカーレット」を好きなのはもう一つ理由がありまして、それは言い過ぎないということでしょうか。例えば大久保さんのくだり。大阪へ下働きに来た喜美ちゃんの前に女中のプロッフェッショナルである大久保さんが立ちはだかるんですが、この喜美ちゃんと大久保さんとの交流、見どころでもあるんですけどね、ここがサラッとしてるんです。過剰な表現がないんです。あと圭介さんとの初恋もサラッとしている。変に感動させようとか、変に盛り上げようとかってのが一切感じられなくて淡々と進む。恐らくここは製作陣、意図的にそうしているのだと思います。観てて窮屈さがない。クドクドと言わない。観る方に委ねられている。そういう部分にも風通しの良さ、自由さを感じているのかもしれませんね。
あと登場人物もみんな面白いです。私のヒットはお父さんに始まり、荒木荘のちや子さん。そしてなんと言っても大久保さんです!ほんと素敵な大阪弁を話すんですよ。昔の大阪弁っていうんですか、昭和の時代の、私の母親もまだそういう懐かしい大阪弁を使いますが(母の場合は泉州弁ですね)、上方落語で言うところの5代目文枝師匠みたいな耳当たりの良い大阪弁が、昭和の子供だった私にはなんとも気持ちいいんです。
「スカーレット」、まだ始まってそんなに経っていないんで、これからも沢山楽しめるかと思うとウキウキしてしまいます。今のところ私にとっての名場面は、喜美ちゃんが働き始めた頃、寝る前に枕を大久保さんに見立てて何度も「大久保っ!!」と投げ飛ばす場面ですね(笑)。
ポエトリー:
『同級生のS君』
同級生のS君はいつもにこにこしている
遊びの誘いも断らない
昼メシもなんでもいい
テストの点数は抜群に良くないけど抜群に悪くもない
僕らが誰かの悪口を言ってもにこにこ聞いている
僕らがしくじってもにこにこしている
S君は解決してくれないけど
S君は野球部
特別上手くはないけど、なんとはなしにレギュラー
僕たちの草野球にも来てくれる
凄いピッチャーが来てもスコーンとショートの頭を越してしまう
僕たちは感嘆の声を上げる
S君は意見を言わない
その代わり文句も言わない
S君は自分から誘わない
S君にも悩みはあるだろうけど
今はS君が懐かしい
2017年2月
洋楽レビュー:
『i,i』(2019)Bon Iver
(アイ、アイ/ボン・イヴェール)
4枚目。なんでも、デビューアルバムが‘冬’で2枚目が‘春’。3枚目は‘夏’で今回は‘秋’をイメージしているそうだ。言われてみるとそんな気はする。
ボン・イヴェールことジャスティン・ヴァーノンは不思議な人で、自分たちのコミュニティを大事にする所謂やりたいことをする音楽家という立ち位置ではあるけど、実際はローカルな感じはしないし、メジャー・アーティストともコラボしたりする。要するにどちらがどうということではなく、自身の要求に忠実ということだろう。最初は変なところから変な音楽を発表していたボン・イヴェールも今や2010年代を代表するアーティスト。今やこういう人が主流、当たり前なのだから面白い。
肝心の音楽の方も最初は何じゃこれ感があって、これオレにも聴けるかなぁという敷居の高さがあったのだが、段々と馴染んで来て今はもうこれが普通になっているから不思議。というかむしろこれ、すご~くしっくりくる。というのは時代の為せるわざか。
相変わらず詩は分かるような分からないようなヘンテコなものだが、そのヘンテコさがもうそういうもんじゃん、って。このヘンテコなものが違和感なく溶け込む感じはウィルコと同質かもしれないが、ただウィルコと違うのはそうは言ってもそのうちまた付いていけなくなってしまうかもしれない可能性があるということで、それがいい方向ならいいけど、そうじゃない場合も含めてまだ不安定さは含まれている。それこそまさに2019年的か。
傷心のジャスティン・ヴァーノンが一人片田舎で音楽を作って、やがてそれが大きなうねりとなって一つのコミュニティを生む。そして仲間との祝祭のような音楽があって、今回は秋の収穫。それが終わればまた皆それぞれ場所に帰っていく。けどそれはまた一人になるということを意味するのではなく、ただ生活という営みに過ぎない。
このアルバムは個という視点が再び強くなっているけど、それはかつてのそれとは性質が異なるもので、言ってみれば内から外へ向けられたものではなく、外から内に向けての優しい視線。ここにあるのは孤立とはかけ離れた、開かれた孤独だ。i,i と小さく並んだ小文字が可愛らしい。
Tracklist:
1. Yi
2. iMi
3. We
4. Holyfields,
5. Hey, Ma
6. U (Man Like)
7. Naeem
8. Jelmore
9. Faith
10. Marion
11. Salem
12. Sh’Diah
13. RABi
アート・シーン:
大阪市立美術館 特別展「仏像 中国・日本」感想
天王寺にある大阪市立美術館で開催中の特別展「仏像 中国・日本」に行って参りました。サブタイトルは`中国彫刻2000年と日本・北魏仏から遣唐使そしてマリア観音へ`というもの。内容はそのサブタイトルのまんまですね。非常に統一感のある展示でした。
入ってすぐに展示されているのが、銀製の男子立像。これ、紀元前200年くらいの作なんですけど、あまりの精巧さにびっくりしました。デザインも含めまるで現代の作品のようです。紀元前200年にこれだけの技術があったというのは驚きですね。加えてデザイン。とてもチャーミングで2019年のセンスと変わらないというのがスゴイ!恐るべし、中国2000年の歴史!
展示が多かったのは石仏ですね。この石仏がですねぇ、また精巧なんですよ。また立ち姿が抜群
に素敵!特に横から見ると最高です!
仏様なので、少し前傾気味。といっても不自然な感じではなく程よく前傾なんです。でもってそこにはちゃんと軸が存在する。背骨の婉曲がはっきりと存在するんですね。このなんとも柔らかでキリッとした姿勢に私は惚れましたね。しかもほとんどの石仏がそんな感じなんで、こりゃやっぱり彫師の技術なんだなと。昔の職人、スゲー!
あと中国の仏像の特徴としてはやはりお顔立ち。実際の日本人と中国人の顔立ちはそんなに変わらないのですが、あっちの仏様はやっぱ本場インドの面影が色濃いです。鼻梁がスッと伸びて彫り深っ!鼻、とんがってます(笑)。日本にも西アジアの影響を感じさせるお顔立ちの仏様がいらっしゃいますが、ここまではっきりとインド!ってのは私あんまり知らないです。
そんな感じで仏像の方は8割方が中国仏像でしたが、あんまりあちらの仏像に触れることはないので、へぇーって感じて面白かったです。私としては見慣れているせいか日本ののっぺりとしたお顔立ちの仏様の方が落ち着きますけどね(笑)。中国仏像、なんか個性強過ぎっ。
それにしても金製や銀製の仏像や石仏、もちろん木製の仏像にしても技術の高さは目を見張るものがありました。日本の仏像はやっぱり俳句的というかシンプルイズベストが基本ですからね。中国仏像、情報量多いっす!
あと、仏像の法衣や装飾を見るのも面白いです。あんな昔にこんな格好してたんだというのが結構驚きます。じゃらじゃらいっぱいぶら下げてたり、派手な格好は新鮮でしたね。しかもバランス良くてセンスいいんですよ。意外と昔って美的感覚が今と変わらないのかもしれないですね。
フィルム・レビュー:
『イエスタデイ』(2019年) 感想レビュー
もし世界にビートルズが存在していなかったら。この誰もが思い付きそうで思い付かないアイデアが先ず秀逸ですね。このアイデアを思い付いた時は「よし、これだ!」と小躍りしたんじゃないでしょうか(笑)
そこでです。設定としては最高なんですが、じゃあこれをどうやってドラマに仕立てていくか。そこがこの映画の見どころです。
話の筋としては、ミュージシャン志望の冴えない青年がそろそろ夢を諦めようとした時に、あるきっかけで世界は彼以外の誰もビートルズのことを知らない世界になってしまう。そして彼はビートルズの曲を自作の曲として歌いスターダムにのし上がってゆくというものです。
この誰もビートルズを知らない世界になるっていうきっかけが何じゃそりゃ感はあるのですが、その辺は冒頭のことですから、ここは設定の面白さで押し切れちゃいます。
その青年、ジャックは一躍時の人になるのですが、やっぱりね、後ろめたさはあるわけです。そういう意味では普通の人が一気に出世をして我を失う、けれど最終的には色んな人の助けを借りて自分を取り戻す、っていうよくあるパターンとはだいぶ異なります。ジャックは基本ずっと好人物ですから。
面白いのはジャックの後ろめたさが観ているこちらにも伝わるというところ。ジャックは真面目で優しい奴なんですが、事情が事情なもんでスターダムにのし上がったとしても観ているこっちは単純に喜べない。例えば『ボヘミアン・ラプソディー』のフレディみたいによし頑張れとはならないわけです。好青年のジャックを応援する気持ちはあっても観ているこちらの気持ちとしては中々盛り上がっていかない。そういうもどかしさを共有していく映画でもあります。
で、そこをどう決着を付けていくか、ビートルズが存在しないという世界を最終的にどう回収していくのか。その解決法がこの映画を好きになるかどうかの分かれ目なんじゃないでしょうか。
その結末ですが、ここは非常に真面目に取り組んでいると思います。気をてらった、或いはどんでん返しが待っているということではなく真面目に向き合っている。納得感を持たせるべく少しずつ積み重ねている気はします。ありがちな安易なクライマックスへ持っていかないところは好感が持てますね。そこはやっぱりビートルズへのリスペクトがあるからではないでしょうか。
ジャックはクライマックス前にある人物に会いに行きます。もしかしたらここはやり過ぎという声があるかもしれませんが、この出会いが最後のジャックの決断を後押しすることになる。ちょっとしたサプライズも含めここは感動的でした。
あと最後に付け加えると登場人物が皆いい人(笑)。ジャックの友達で何かと面倒臭いキャラのロッキーも最後はいい事言います(笑)。そういう意味でもこの映画は設定上、感動ストーリーと思われがちですが、基本はコメディと捉えて観た方がよいのではないでしょうか。実際笑うとこはいっぱいありますし(笑)。
もうひとつ。主人公のジャックは白人ではなく移民系ですね。『ボヘミアン・ラプソディー』もそうでしたし、今アメリカで公開されていて話題のブルース・スプリングスティーン絡みの映画『Blinded By The Light』もそうです。この辺りも物語にリアリティーを与えているのかなという気はします。
ポエトリー:
『虹の根元』
虹の根元で小さなコビトが手をふるよ
濡れた路面はテレグラム
コビトは明日を占うよ
がぜん元気な声出して
虹の根元に呼び掛ける
こっちは大丈夫だよおぉ
雨は止んだよありがとおおおぉ
2019年4月
ポエトリー:
『昨日の前提』
世界の歴史を
手のひらに集めて
新しくしつらえた
無地のシャツ
長い袖の
早くもところどころ絶え
微かに聞こえる
行進は
新調されたブーツで
やがて微かに
耳も遠くなる
発明家はいつも
正しいとは限らず
新しいものに
手を引かれがち
いつも時間を忘れて
せっせとせがんだ
やつら前傾姿勢だから
短く刈り上げた空は
午前六時の最もよい時間帯
真っ先に扉を開けたのは
行進から今しがた帰った
真新しいブーツでした
真新しいブーツに占められた教室の汚れ
真新しいものとして処理していく
自動的な段階を踏んで
私たちは居場所をしつらえる
馴染んだ影は私たちのものではないけれど
私たちが孕んだモノとして
処理するしかない
配置、
その仕事で明日は塗り替えられる
前代未聞は毎日起きて
まるで昨日の前提だ
2019年8月
フィルム・レビュー:
『ミルカ』2013年 感想
『ミルカ』。2013年公開のインド映画です。2時限半と結構長いのですが(インド版のオリジナルは3時間!)、飽きることなく最後まで楽しく観ることが出来ました。
インド映画ということで登場人物や話の展開が今まで見慣れた映画とは異なりますので、そこが先ず新鮮でしたね。あら、そういう話しになるのね、という感じで全然先が読めません(笑)
あと悲惨なシーンもあったりするのですが、基本的には明るく楽しい映画ですので、重たい気分にはならない。まぁそれは主人公ミルカのキャラクターにもよるのですが、清々しい印象を与えてくれる映画でした。
『ミルカ』というのは実在する人物、ミルカ・シンのことです。かつて陸上400m競技で世界新記録を出したインドの国民的英雄とことだそうです。てことで言ってみれば、インド版『いだてん』といったところでしょうか。
導入部を簡単に説明するとこんな感じ。400mの世界記録保持者であるミルカは1960年のローマ・オリンピックで国民の期待を一身に集めますが、金メダル直前のゴール間近で大きく後ろを振り返り順位を落としてしまいます。そこにはミルカの悲しい過去があったのです。
その原因となるのがインド・パキスタン紛争。それはこの映画の重要や背景となるのですが、物語はそれだけではありません。流石インド映画と言いますか、映画は孤児となったミルカの成長譚でもありますし、コーチとの熱い友情やライバルとの戦いといったスポ根ものでもありますし、もちろんロマンスあり、しかも何度もあり(笑)、インド映画らしく唐突な歌ありダンスあり。社会派とか感動ものといった一つのジャンルにとどまらないエンターテイメント要素をこれでもかとぶち込んだ全部盛りの映画です。でも不思議なことに支離滅裂な感じは一切しないんですね。この辺の監督の手腕はお見事!
加えて最初にも言いましたが、ミルカのキャラクターが生き生きしていて明るく屈託がない。前向きでポジティブ。ミルカはあっち躓きこっち躓きするんですが、この度前を向いて歩いていく。そこに引っ張られる部分は大きいですね。
そういう意味でもこれはやはり大河ドラマ。あちこち飛ぶストーリーをバイタリティー溢れる主人公が統べていく。根底には陽気なポジティビティが流れていますから、これはやはりインド版『いだてん』という見方で間違いないんじゃないでしょうか。
あとミルカさん、若い頃の髭もじゃブルース・スプリングスティーンにそっくりです。私の中ではその時点で高ポイントでしたね(笑)