Sad Happy / Circa Waves 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Sad Happy』(2020年)Circa Waves
(サッド・ハッピー/サーカ・ウェーヴス)
 
 
近頃はスポティファイで聴くことが多くなったのだけど、これのいいところは自分の好みのバンドの新作が出たら、すぐに知らせてくれるところ。マイナーな人たちだと新作リリースの情報は自分から探さないと入ってこないから、この機能はすごくいい。てことでサーカ・ウェーヴスの新作です。
 
サーカ・ウェーブスは過去3作がどれも全英10位前後だからマイナーとは言えないのだけど、非常に中途半端なポジションにいることは間違いなく、彼らの特徴といえば2015年のデビューから5年でアルバム4枚と今時珍しいハイペースで新作を作り続けることぐらい(と言ったら怒られるか)。とは言えそんなペースで作りつつ、今作は自己最高位の全英4位!だそうだ。
 
爽やかなギター・ロックで登場した彼らだけどデビューしたのが20代後半と遅かったせいか、今一つ迫力に欠ける感は否めない。もう少し若けりゃ、かめへんわい、行ったらんかい!的な思い切りの良さも出てくるのだろうけど、曲は抜群にいい割には頭一つ抜け切らないもどかしい存在ではある。ていうか一番もどかしいのは本人たちだろうな、とこちらにそう思わせるサウンドの迷ってる感が半端ない。
 
という中でリリースされた本作。全英4位ということもあって底上げはされとります。されとりますというか、めちゃくちゃ曲ええやん!ということで冒頭の#1『Jacqueline』から4曲目の『Wasted On You』まで息もつかせぬポップ・チューンが並びます。4者4様、これでもかというキャッチーさで普通の人なら間違いなくギュッと掴まれるやろというスタートダッシュぶり。特に#3『Move to San Francisco』はめちゃくちゃキャッチー。しかしまぁえらい手の広げようですな。
 
アルバム中盤には#9『Wake Up Call』という曲があってこれなんかはフェニックス丸出しのシンセ・ポップ。ここまで幅を広げられるというのは凄いっちゃ凄いですけど、サーカ・ウェーヴスと言えばのギターじゃかじゃかじゃないのという聴く側のとまどい感というか、これはどう聴けばいいんだと。
 
これまでの3作は外部のプロデューサーを招いていたのに対し、今作はソングライターでありフロントマンのキエランによるセルフ・プロデュース。彼らの意気込みぶりが伺えるし、ここまであれっぽさやこれっぽさを出せるのは大したものだと思うけど、サーカ・ウェーヴスとしての記名性はどこ行ったんじゃい!という懸念が行きつ戻りつ。曲はいいんだけど、あぁやっぱもどかしい!
 
色んな事やるのは今のトレンドだし、The 1975 にしたってウルフ・アリスにしたってジャンル的にはあちこち飛びまくってるんだけど、全体としては誰がどう聴いたってThe 1975 だしウルフ・アリス。サーカ・ウェーヴスもやってることも変わらないのかもしれないが、その辺りの根本となるキャラが弱いのは否めないかな。誰がどう聴いたってサーカ・ウェーヴスじゃい!という確固たる記名性が欲しい。

待ちぼうけ

ポエトリー:

「待ちぼうけ」

 

世界一大きなあなたの言葉を重しにして
私は日々を繋いでいます
その重しに絵を描いて落書きをして眺めていると
身近に感じられます

公園で拾いものをして
それは綺麗な丸みをおびた石で
軽く握ったら冷たくて
思わずポケットにしまい込みました

家に帰る間
ポケットの中で手は軽く握られたままで
それはどうしようもなく
ヒナのように優しく包んであげないといけないものでした

家に帰るとそれを靴箱にはのせず
ダイニングテーブルの花瓶の横に置きました
もちろんすすいだりはせず
軽く握ったままを保つように

私たちは朝日を見て目が覚めるけれど
固く閉じたままのヒナをかえすのは難しい
心に閉じた楽園をいつか目にすることが生きることだと
あなたが言った重しのような言葉を
ためらいがちにそっと吐くと
白い息に混じって
絵を描いて落書きをしている私が見えます

そこに置いたのは待ちぼうけの心
軽く握ってなぐさめた

世界一大きなあなたの言葉を重しにして
私は日々を繋いでいます
どうすればもっと身近に感じられるでしょうか
私はあなたに会いたいです

 

2020年8月

How Long Do You Think It’s Gonna Last ? / Big Red Machine 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『How Long Do You Think It’s Gonna Last ?』(2021年)Big Red Machine
(ハウ・ロング・ドゥ・ユー・シンク・イッツ・ゴナ・ラスト?/ビッグ・レッド・マシーン)
 
 
ザ・ナショナルのアーロン・デスナーとボン・イヴェールことジャスティン・ヴァーノンによるコラボレーション第2弾。ビッグ・レッド・マシーンというとこちらも最新型のサウンドを期待してしまうのだが、その点で言えば少し肩透かし。
 
ただこのコラボの元々の始まりはアーティスト同士が自由に出入りできるオープン・コミュニティという趣旨だったと思うので、この2ndアルバムの方が本来の形なのかもしれない。てことでゲストも盛んにフィーチャリング・ボーカルも増え、随分とバラエティー豊かな。しかもアーロンさん、今回はご自身で初めて歌っています。なのでアーロン・デスナーとジャスティン・ヴァーノンが主催する音楽祭に招かれたという感じかな。
 
ただ肝心の曲がどうなのかねぇというのは正直ある。コロナ禍になってからというものの、アーロン・デスナーはテイラー・スウィフトとの2枚のアルバムもあって曲を作りどおし!いくら天才といえど2年ばかしの間にそんな名曲ばかり生まれないだろうというのが素直な感想。このアルバムにしても計15曲の64分!もう少し厳選してもよかったんじゃないかなと。。。テイラーさんのアルバムも曲数多かったもんな。
 
そのテイラー・スウィフトをボーカルに迎えた#5『Renegade』。なんかテイラーさんとアーロンの共作アルバム『evermore』に収録された『Long Story Short』に雰囲気近いぞ!ていうか『Long Story Short]』の方がカッコいい! と、そういう中で#5『Renegade』がこのアルバムでは際立ってしまうというのがね、ちょっと微妙な気持ちにはなります。
 
今回は沢山のボーカルを迎えているものの基本はジャスティン・ヴァーノン。ボン・イヴェールを僕は狂気の音楽と思っているので、彼のボーカル曲にはそのいたたまれなさを求めてしまう。ただ今回は仲間と共に作り上げていくというところでの創作になるので、そこのところは薄まったかなとは思います。その点で言えば、ラッパーのナイームとの共作#9『Easy to Sabotage』は一緒に狂ってる感じがして面白いです。
 
ちょっとネガティブな意見を書いてしまいましたが、単純にこちらの耳の鮮度が落ちてしまったのかなという気はします。やっぱりアーロンとテイラー・スウィフトの出会いは互いに新しい音楽への目覚めをもたらしたしあれは現時点でのクリエイティビティなピークとも言えるわけで、あっちが光輝いている間はこっちはやや曇った印象になるのは致し方ないかなと。
 
ただ始めて聴いたときのなんじゃこれ感は減退したものの、良い作品であることには変わりなし。アーロン・デスナーのサウンドとジャスティン・ヴァーノンの声とよく分からないリリック(笑)、が基本的に僕は大好物ですから、なんだかんだ言ってこれからも聴くでしょう。ていうかバラエティーに富んでいるので聴きやすさで言ったら、ビッグ・レッド・マシーンは1stよりこっちかもしれない。
 
アーロン&ジャスティン色が薄いのに物足りなさを感じつつもも、これこそが彼らが求める本来の形と思えば納得感はある。これは彼らの主催する自由な音楽祭なのだから。

かつて理解して

ポエトリー:

「かつて理解して」

 

熱い涙は体温だ
森の真ん中に迷い込んだ
かつて人類は東へ向かい
新しい道を歩き始めた

かつて かつて
かつて わかって
かつて かつて
かつて 理解して

空回りでも心は回る
やがてその軸を焼き尽くした
かつて人類は渚へ向かい
仲間とはぐれて暮らし始めた

かつて かつて
かつて わかって
かつて かつて
かつて 理解して

僕のお母さんは朝早くに出かけ
夜遅くに帰ってきた
僕は海原に小舟を浮かべ
釣糸を眺めていた

かつて かつて かつて わかって
かつて かつて かつて 理解して
かつて かつて かつて わかって
かつて かつて かつて 理解して

かつて人類は
空をつかむように
同じ体温の誰かと
手を繋ぎあった

 

2021年8月

Collapsed In Sunbeams / Arlo Parks 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
 
Collapsed In Sunbeams (2021年) Arlo Parks
(コラプスド・イン・サンビームス/アーロ・パークス)
 
 
 
デビュー作ながら2021年のマーキュリー・プライズに輝いた本作。マーキュリー・プライズというのは英国のグラミー賞ですね。グラミー賞は芸能界的なとこがありますが、マーキュリー・プライズは純粋に音楽のみで評価するというイメージがあります。ノミネート作を見ても断然こっちの方がカッコいいですね。そういうメンツの中で受賞したアーロ・パークス。そんな凄い賞獲るような人には見えない、なんか愛嬌があってとても親近感ある人ですね。
 
このアルバムは出た時からずっと評判が良くって、僕も時折聴いていたんですけど、実はあまりピンとこなかった。というのもサウンド的なインパクトはあんまりないんですね。勿論、聴く人が聴けばその凄さは分かるんでしょうけど、僕にはそこまで分からない。ただ曲はいいし、全体的に優しい雰囲気で聴き心地がよいので仕事帰りの電車なんかでよく聴いていたんです。
 
そんな中、歌詞がすごくいいというのを知ってですね、YOUTUBEには親切にもMVに和訳つけてくれてる人も結構いるので、そういうのを何曲か聴いてみました。彼女はビリー・アイリッシュと一緒で割と私生活を歌詞に変換して歌っているんですけど、あんまりそんな感じはしない。要するに私は私は、ではなく聴き手が入っていける隙がいっぱいあるんです。
 
その理由として彼女は名詞を上手に使うというのが挙げられると思います。「アーティチョークをスライスする」とか「ターコイズのリング」といった表現が何気に出てくる。更には「トム・ヨークを引用する」とか「一人でツインピークスを見ている」といった具合に固有名詞もいっぱい使っている。つまり聴き手に具体的な情景を喚起させるんですね。ポップ・ソングというのは喜怒哀楽といった感情で歌詞をリードしていくというものが非常に多いですけど、アーロ・パークスはそうじゃなく、自分の過去の出来事であってもそれをスケッチして歌に載せていく。この年齢でそんなことできるのって凄いと思います。
 
彼女は元々、詩が好きでオードリー・ロードやシルヴィア・プラスなどを愛読していたとインタビューで語っています。なので詩を作ることが先行してあったんですね。そういう影響がソングライティングにも出ているのかもしれません
 
あと電車で流し聴きではなく家でちゃんと聞いていると、サウンドの良さが私にも分かってくるようになりました。時折いい具合でギター・リフやオルガンなんかが薄っすらと聴こえてくるんですけど、この薄っすらがいいんですね。電車じゃ聴こえないですけど(笑)。基本はバンドなんですかね。今時はプログラミングと生演奏の区別はつかないので、よく分かりませんが全体的にアナログなこんもりとしたイメージではありますね。
 
あと#10『Eugene』なんかはレディオヘッドですよ。こういうロック的なサウンドもあれば、私はちょっと疎いですがネオ・ソウル、R&Bであったりもすると。なので、あ、私これ好き、って言ってもらえる間口が広いんですね。私がレディオヘッドっぽさに食いついたように色んな人にアプローチしてもらえるのも彼女の強みかなと思います。
 
彼女は同性愛を公言していて、#7『Green Eyes』は自身の体験に基づく歌なんですけど、「公然とは手は繋げなかったわ」みたいな歌詞が出てくるんですね。最近はLGBTQのニュースもよくやってるし、特にヨーロッパは全体として理解が進んだ国というイメージがあるけど、実際には高校生が大っぴらに同性同士で手をつなげるような状況ではないんだということ。そういう実際のところが歌を通して分かるというのもポップ・ソングの良さですね。

映画『オアシス:ネブワース 1996』(2021年)感想レビュー

フィルム・レビュー:
 
『オアシス:ネブワース 1996』 (2021年)
 
 
劇中で「リアムはこの時が声もルックスもピークだ」なんて言っている人がいましてですね、いやいやデビュー当時もカッコエエし、なんなら今の大人な渋さもエエやんって心の中で思いまして。で、映画を観終わって帰る道すがら当然のごとくYOUTUBEだなんだと色々見返していたんですけど、やっぱり思ったんですねぇ、「ネブワースのリアムが一番カッコエエやん!!」と(笑)。
 
そりゃデビュー当時は『Live Forever』の裏声だって自分で歌ってたし、アラフィフの今は今で渋くって好きなんですけど、あの大声と爆発力はやっぱネブワースの頃だなと。しかも映画観てるとタバコ吸いながら歌ってるシーンもあって、それであの声ですからやっぱこの人すげえなと。ま、この不摂生のせいでこの後は声がダメになっちゃうんですけどね(笑)。それにしても『Slide Away』のラスサビ後のコーラスをリアムががなり立てるとこはめちゃくちゃカッコエエ!!
 
オアシスが解散して十数年経ちますけど、過去に一度でも彼らの音楽に夢中になったことがある人なら、この映画はきっと気に入ると思います。僕もちょっと忘れかけてたんですけどね、この映画を観て思い出しました、リアム、すげぇって。ネブワース公演自体は何年も前からYOUTUBEで見れるんですけど、多分もう皆忘れてしまってると思うんですね。そこへこうやって改めて映画館で観るとですね、『Don’t look Back in Anger』と『Wonderwall』を同じ週に書いて『The Masterplan』をB面にするソングライティングの化け物ノエルと、天性のフロント・マンであるリアムがいるあのとんでもなかったオアシスの特別感というのがまたよみがえってくる感じはありますね。
 
映画は、僕はてっきりフィルム・コンサートみたいな感じかなと思ってたんです。でも全然違って、ネブワース・ライブに参加した当時の若者、25年経ってますから今はもういい年をしていますけど、彼彼女らの証言で進んでいきます。彼彼女らがどういう思いであの日に臨んだのかっていうところに焦点を当ててですね、何しろイギリス国民の2%がチケット争奪をしたっていうぐらいですから、そのチケットをどうやってゲットするかというところから始まって、片田舎のネブワースに到着するまでの姿を、それだけじゃなくラジオ中継もあったので参加できなかった子たちがラジカセの前で準備する様子とかもね、当時の映像なんかも交えながら進んでいきます。
 
これがすごくよかったです。こういう映画にありがちな業界関係者の証言とかじゃなく、ファンの声ですよね、それがいかに彼彼女らにとってオアシスがどういう存在であったというのをちゃんと伝えてくれるんです。今じゃもう彼彼女たちは中年ですよね。ここまで色々ありながらも何とかサバイブしてきた。その人生半ばを過ぎた今、過去を振り返ったときに何があったかというとね、人に自慢できるものはなかったかもしれないけれど、あのオアシスとの日々があったという事実。実際栄光を掴んだのはオアシスであってファンの子たちではないんですけど、俺たちも栄光を掴んだ、あの時の俺たちは輝いていた、そんな風に思わせる力がやっぱりオアシスにはあった、その象徴としてネブワースはあったんだなというのがヒシヒシと伝わってきて、これはちょっと感動的でもあるんです。
 
今はコロナですからライブにも行けなくて、僕自身もこれまでにチケットを買ったものの行けなかったライブが4つあります。エンターテインメントは不要不急呼ばわりされて、それも仕方ないとは思うんですけど、音楽が必要なんだという人は世界中に沢山いて、実際に誰かの人生に寄与してきた、そういう事実をこのコロナ禍にあって図らずもこの映画は示してくれた、そんな気もします。
 
あとさっき当時のイギリス国民の2%云々って話をしましたけど、映画を観る限りは白人の若者ばかりなんですよね。たま~に黒人とかアジア系とかいますけど、ほぼ白人。イギリスはパキスタン移民も多いはずなんですけど、ネブワース公演の映像を観る限りはほとんどが白人の男女。だからどうなんだということではないんですけど、2021年の今ではそういう目でも見てしまうとこあるなとは思います。当時の白人じゃない若者はどうだったのかなぁって。
 
映画は2週間ほどで公開を終了するみたいですから、今更オアシスっつってもな~って迷っている人がいたら、ちょっと時間に余裕があれば、観に行ってもらいたいなと、得るものはあるんじゃないかなとは思います。
 
私はなんか今の勢いじゃ、もうすぐリリースされるネブワースのCDを買ってしまいそうです(笑)。映画を観た後だと、オリジナルのスタジオ録音バージョンは物足りないんだよなぁ(笑)。

小指は震える

ポエトリー:

「小指は震える」

 

小指を
遠くに見える鉄塔と重ねてみた
すると、
ぶるっと音がして
小指から四方に電線が走った

目に見えるものはすべて捉えよと
うろ覚えの歌が言う
君は困らない
このままゆけるところまでゆける
はずだ

小指がぶるっとして
それは嘘だと弾けた

ところが
積み上げた仕草が
小指以上に語りかけてくる

すべて君の手柄だ
すべて君の手柄
すべて君の
すべて…
す…

小指が震える

 

2021年8月