はいはい、そういう人ね、に対するリベンジ

「はいはい、そういう人ね、に対するリベンジ」
 
 

先日アップした『TIME OUT!』でこのブログでの佐野のアルバム・レビューも残すは80年代の作品のみとなった。ブログを始めた当初にその時点での最新作から遡ってのレビューを始めたのだが、もっとスイスイ進んでいくはずが結構な時間がかかっている。この分だといつ終わるか分からないが、誰に頼まれたわけでもなく好きで書いているので、多分これからもこの調子だろう。

過去に書いたものを読んでいると、肩に力が入っていて今ならもう少しうまく書けるのになぁとも思うのだが、それはそれでその時の記録だし、何よりありがちな批評ではなくちゃんと僕なりの視点を持てていると思うので、​これは​そのままにしておきたい。てことで昔の作品のレビューの方がこなれた感じになっていくという不思議な現象になってはいるが、まあいいなんにしても好きなことを書くのは楽しいものだ。
 
僕は思春期でもないのにいまだに人に佐野のファンだと言うことに抵抗がある。二十歳前後の頃、僕の事などロクに知らないくせに、佐野ファンだと言うと「あぁ、そういう人ね」みたいなことを言われたのをずっと引きずっている。2、3年前にも似たようなことがあって、だから嫌なんだと改めて思った。
 
このブログの三本柱は拙い自作詩と洋楽レビューと佐野元春。ブログを始めた理由は色々あるけど、佐野についてはもしかしたら二十歳前後の時に受けたこの仕打ちへのリベンジという意味合いどこかにあるかもしれない。僕自身に降りかかった誤解も含め、レジェンドと言われる割には音楽自体があまりにも知られていない佐野元春という稀有な音楽家のことを出来る限り誠実に発信していきたい。大げさな言い方になるけど、もしかしたらそれは佐野に対する僕の恩返しかも、なんて思っています。
 
最近じゃ、佐野のこと「誰それ?」って人が思った以上に多いから(笑)
 
 

TIME OUT! / 佐野元春 感想レビュー

『TIME OUT!』(1990年)佐野元春
 
 
『僕は大人になった』という曲が好きだ。特にどうと言うこともない曲だと思うけど、佐野自身も好きなのかよくライブで演奏する。昔からのファンはこの曲と『ガラスのジェネレーション』を結びつけてしまうようだけど、後からファンになった僕には関係ない。単純にこの曲の軽さが好きだ。
 
僕はそろそろ50が見えてきて完全なる大人だけど、じゃあ本当にそうかと言われれば随分と心もとない。多分、僕がこの曲を好きなのはその心もとなさがうまく表現されているからだろう。難しい文句を重ねるわけでもなく、「壊れた気持ちで翼もないまま どこかに飛んでゆくのはどんな気がする」とシャウトし、「とてもイカしてるぜ」と結ぶ。とてもいい加減な曲だ。そこがすごくいい。
 
今気づいたが、’飛んで’と’どんな’で頭韻を踏んでいる。こういう跳ねた表現がそこかしこにあるのもこの曲の魅力だ。ていうかこのアルバムはずっとそんな感じだな。なんにしてもこの何気なさにはやられる。
 
80年代の佐野は外に向かっていた。特に『VISTORS』(1984年)以降はその傾向が強い。しかしこの『TIME OUT!』にはその気概が感じられない。時代背景もあってかバブルに浮かれた世相を冷ややかに見ている視点もあるけど、それもちょっと投げやり。らしくない。それどころか佐野自身のプライベートな声がここにある。
 
佐野は自身の喜怒哀楽を歌に表さない。滲ませているかもしれないが、基本的には’自分ではない誰かの視点’で曲を書いている。けれどこのアルバムでは佐野の生な声が聞こえてくる。もちろん自分ではない誰かのストーリーに仕立ててはいるけど、自虐的に面白おかしく内面を吐露させているように思える。そんなアルバムは現時点においても唯一この作品だけだ。『VISITORS』(1984年)、『Cafe Bohemia』(1986年)、『ナポレオン・フィッシュと泳ぐ日』(1989年)とそれ自身ダイナモのようにエネルギーを発する怒涛の作品群と来て、一気にトーン・ダウンの『TIME OUT!』。あの佐野元春にもこういう作品があるんだな。なんかこのアルバム、レアだぞ。
 
この頃は wowow でのアンプラグド・セッション『Good Bye Cruel World』(1991年)もあったりと、自身のバンド、ハートランドとの距離が更に濃くなっていく時期だ。海外を活動の拠点にしていた佐野が90年代に入ってからはハートランドとの時間を密に取っていく。1993年の『The Circle』を最後にザ・ハートランドは解散するのだけど、その頂きに向かって再スタートを切った時期と見ていい。
 
そのピークを迎えていく『The Circle』や『Sweet16』(1992年)での躍動するハートランドも素晴らしいが、この『TIME OUT!』での演奏も地味に目を見張るものがある。いや、ハートランドとTokyo Be-Bop のメンバー一人一人の顔が見えるという点で言えば、むしろこのアルバムかもしれない。完全なるザ・ハートランドお手製アルバム。 あぁ、『Good Bye Cruel World』も音源化してくれないかな。
 
それにしてもこの頃の佐野元春はキレキレだ。活動的にはトーンダウンした時期かもしれないけど、前作から1年しかインターバルがないように創作力は旺盛だ。言葉の妙と言い、その載せ方といい、AメロBメロサビ的なパターンを無視したメロディといいオリジナリティーに満ちている。これは完全に80年代の果敢なトライアルの成果だろう。逆に肩の力が抜けていい感じ。#10『ガンボ』での「あれ、片っぽの靴下がどこにもないだろう」のラインが最高過ぎる。
 
ところでこのアルバムをフォローしたツアーを収録したビデオがあって、6曲しか収録されてなかったんだけど、『クエスチョンズ』とかテンポアップした『愛のシステム』とか見事な佐野元春 With The Heartland ぶりを見ることが出来る。ビデオには収録されていないけど、Youtubeにはビートルズの『Revolution』のカバーがアップされていて、シャウトしまくりの異様にかっこいいこの時期の佐野の姿が捉えられている。 『Good Bye Cruel World』と合わせて、『TIME OUT!』ツアーの長尺パッケージ化も切に望むぞ!
 
随分と昔に佐野がこのアルバムを’ホーム・アルバム’と称していたけど、今改めて聴くとなんとなく分かる気がする。昔からのファンには重いアルバムのようだが、いやいや『VISITORS』~『ナポレオン~』期の方が断然重いでしょう(笑)。僕は純粋にこのアルバムを楽しめている。こりゃ後追いファンの特権だな。とはいえこの時の佐野は33才。とは思えない大人なアルバムだ。

タペストリー

ポエトリー:

「タペストリー」

しあわせ折れる
ふしあわせ 綴れおり
タペストリー 仕舞い込んで
しわは褪せ 踊る

瞼の上 大げさな太陽
染み込んでは 一度に吐き出す
ぐらいのまね してみるんだお前
吐かなかったろ ゆうべ

めぐり合わせ ていうものがこの世にあるなら
次第に遠ざかる太陽 次に現れるの
いつになるん
たるんだ瞼 一度に吐き出してみるんだ

間違っても 思い通りにならない
珍しい生き物飼って 
それで手痺れる

写実な実験を課す
生え際から もらい泣きする輩
もらいなさい
適度にもらいなさい

小細工や小癪な真似通して
うろ覚えの手、握る
徹頭徹尾 私たちが選んだ人生の荒縄
ほどく手指抗うほど伸びやかな
強く引き締めた手綱

マグネットコーティングされた機体を
白熱する有機体を
混ざれ 混ざるな
生ぬるいかんしゃく玉を
はじけ はじけるな

十年くらい前の気持ち ここに集めて
おかわりする気持ち たしなめてください
第一発見者になる能力 ささやかな憂鬱
位置情報で確かめてください

今はどこだか分からぬまま塞ぎ込んで
ふしあわせ 指折り数えました
タペストリー 全部折り
ミリ単位で
つなぎ留める

2021年4月

The Shadow I Remember / Cloud Nothings 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『The Shadow I Remember』(2021)Cloud Nothings
(ザ・シャドウ・アイ・リメンバー/クラウド・ナッシングス)
 
 
前作『The Black Hole Understands』(2020年)をYoutubeでタダで聴いたので、今回はちゃんとCDを買いました(笑)。日本盤にはボーナストラックが付いていて、#2『The Spirit Of』と#6『Open Rain』のデモトラックです。この2曲のデモはリモートで作られた前作とニュアンスが似ていて、ボーカルが大人しめ。前作を気に入っていた僕としては最初、本編よりも軽めのこっちの方が良かったりもしたんですけど、何回も聴いてるとやっぱ本編の荒々しい感じが好きになりました。そりゃ当然か。それにしても、、、日本盤をせっかく買ったのに対訳付いてないやんけ~。
 
キャリア20年の8枚目だそうです。名前は知ってたんですけど、ちゃんと聴いたのは前作が初めてでして、まぁビックリするぐらいキャッチーですね。基本荒々しいパンクなんですけど、曲がことのほかチャーミング。このギャップが彼らの魅力でしょうか。う~ん、クセになる。
 
僕は直近の2作しか聴いていないのでよく分かりませんが、多分今までもそうだったんでしょうね。だからその時々でサウンド的な変遷はあるのだろうけど、やっぱ売りはこの愛らしいメロディですよね。しかも今回は特に敢えて短い3分の中に長尺の曲のような変化をつけようと取り組んだみたいですから、尚更。ここがやっぱり彼らのストロング・ポイントなんだと思います。
 
それにしても、キャリア20年でこれだけ瑞々しいメロディを書け続けるのはちょっと異質な才能だ。ボーカルないとこのメロディも抜群で、しかも未だに早い曲ばっか。デビュー間もないみたいなナチュラルなざらつき。とうに初期衝動とは違うところで作曲をしているのだろうから、なにか秘訣があるのかもしれない。この技術、もっと注目されてもいいかも。
 
ソングライターのディラン・バルディなる人物、パッと見は垢ぬけない髯モジャ男だが、その中身は未だに瑞々しさを保ち続けているのか。やはり凄いギャップだ。

共感

ポエトリー:

「共感」

 

君によせた共感の
ほんの一ミリでもちゃんと伝わっていればいいのに
君の傾きを少しでも思い止まらせることができたらいいのに
なんて
夜の無責任
はな紙みたい

 

2021年3月

くるりと現在の日本のロック・シーンと今年のフェス

その他雑感:
 
 
Youtubeを開くと、くるりの新曲が現れた。タイトルは『I Love You』。と言ってもくるりのことだから、通り一遍のI Love You ではないようだ。3回ほど聴いたけど、まだ何もわからない。今月末にアルバムが出るようだから、そこでしっかりと聴きたいと思う。とか言いながら僕はくるりのアルバムを1枚も聴いたことがない。シングルをつまみ食いしていた程度だ。それがなぜか今回、アルバムが出ると聞いて迷わず購入するをクリックした。
 
くるりは僕が大学生の頃にデビューした。20数年前のことだ。以来、メンバー変更をいとわない野心的なチャレンジを経て、今も一線で活躍している。僕はくるりのアルバムを一枚も持っていないけど、ずっと気になる存在ではあった。くるりの岸田繁は僕と同世代だ。その岸田繫が未曾有のこの一年を経過して出すアルバム。どんなサウンドでどんなメロディで何を歌うのかを聴きたい。
 
思えば、くるりがデビューした90年代の中盤から後半にかけては多くの素晴らしいバンドが登場した。グレイプバイン、ピロウズ、トライセラトップス、サニーデイサービス、TOKYO No.1ソウルセット、スーパーカー、他にも数え上げればキリがない。一般的にはミスチルやGLAYといった巨大な存在に隠れていたが、彼らはJ-POPとはまた別の今に至るオルタナティブな日本のロックの大きなうねりを作り上げた。
 
昨年はフジロック、スーパーソニックが開催されなかった。海外からミュージシャンを呼ぶことが出来なかったということもあるけど、そもそもライブ自体が行われなかった。しかし今年は違う。先ずはフジロックの開催が発表された。出演するのは日本のミュージシャンだけだ。勿論それもコロナ禍が落ち着いていることが前提にはなるが、恐らくスーパーソニックも日本人だけでの開催へ向かうだろう。
 
ひところの日本のロックと言えば、アジカンやバンプの焼き回しみたいな似たようなバンドばかりだった印象がある。けれど今はどうだ。 このブログでたびたび取り上げている折坂悠太、カネコアヤノ、中村佳穂、羊文学。一般的は知られていないが、彼らのライブ・チケットは入手が困難なほど盛り上がってきている。まだ他にも沢山いるし、マスで言えば、髭ダン、King Gnu もいる。音楽に年齢は関係ないというけれど、この数年で幅広いサウンドの若い才能がどんどん出てきている。
 
勿論、海外のミュージシャンは観たいけど、今年に限って言えばフジロックもスーパーソニックも日本のアーティストだけで十分やっていけると思う。今の日本のロック・シーンはそれぐらい質と量ともに充実している。90年代の中盤から後半にかけてのあの黄金期に勝るとも劣らない活況期。彼ら先行する先輩とここ数年に現れ始めた新しい才能。であれば海外勢がいなくても僕はフェスに行きたい。
 
 

輪廻

ポエトリー:

「輪廻」

 

支えられる輪廻
ふた口めをスプーンにすくう
ぼくに出来ること
きみへの目覚め

少しおどかしてほしい
可愛らしいまつ毛におどる
台風のようなひとみ
渦の真ん中には一点
支えられる輪廻

向かわせてほしい
川は流れず吹きこぼれる
スプーンに三口めをすくう
音がして君のうちへ入る

 

2021年1月

When You See Yourself / Kings of Leon 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『When You See Yourself』(2021年)Kings of Leon
(ホエン・ユー・シー・ユアセルフ/キングス・オブ・レオン)
 
 
前作の『Walls』が2016年だったので、5年ぶりということになるが、全くそうは感じない。キングス・オブ・レオンは大体いつもそんな感じで、忘れた頃にあぁそういえばという形で新作がリリースされる。それでも出たら出たで年間ベストにしそうになるほど気に入ってしまうから不思議。でも時間が立ってみるとそうでもなかったり。今回も久しぶり、で気に入ってほぼ毎日聴いています。そのくせ待ち焦がれ感0。僕にとってキングス・オブ・レオンとはそういうバンドである。
 
そういうバンドは他にもある。ステレオフォニックス。なんだかんだ言ってこの2組は新作が出たら必ずチェックしてしまう。どちらもどっちかっていうと地味なバンドだ。でも間違いない。盤石だ。毎回特に目新しいことはないが、あの声とあのバンドの演奏はそれ以外の何物でもない。どちらも泥臭い男4人組。今時こんなロック・バンドは珍しい。とか言いながら、キングス・オブ・レオン、前作に続き全英1位。
 
キングス・オブ・レオンのアルバムには毎回、キラー・チューンが2、3曲入ってる。今回で言えば、#5『A Wave』とか#6『Golden Restless Age』なんかがそうだ。中でも#10『Echoing』は白眉。彼らの曲って演奏もそうだけど、馴染みがいい。もしかしたらどっかで聴いたことある?っていう。良い曲にはあらかじめノスタルジーが宿っていると言うのを聞いたことがあるがまさしくそれ。つまりこちらが求めているサウンドを期待通り奏でてくれるということ。そうか、#10『Echoing』が一番好きなのはそういうのがいっぱい詰まっているからか。
 
勿論基本的によい曲を書くのだろう。演奏も上手いのだろう。でもあからさまじゃない。なんとなくいい。琴線を突いてくる。あの声だし、抜群のギター・フレーズだし、勿論ベース・ラインも畳みかけるドラムも。でも多分それらはビッグ・マックじゃない。フィレオフィッシュぐらい。ただ久しぶりに食うとやっぱオレ一番好きなのフィレオフィッシュかもって。そして時間が経つとそれも忘れちゃう。ビッグ・マック派手だしね。
 
僕は自分で思ってる以上にキングス・オブ・レオン好きかもしれない。そこで『Walls』(2016年)、『Mechanical Bull』(2013年)と遡って聴いてみた。うん、やっぱり好きだ。これ、絶対ライブ楽しいで。
 
キングス・オブ・レオンとステレオフォニックス。ともに待ち焦がれ感0。でも新作が出たら嬉しくなる。恐らく僕が頭に描くロック・バンドとはこういうバンドなんだろう。

ポエトリー:

『線』

会いたくなると 凍えるの 吹きだまり 水色の 当てもない交差点 見上げれば ほら みんなが知っている水色 空 それなのに 頑なに こらえる心と体が一致する 夕刻まで待てないと あなたも一緒でしょ 一瞬で 夕闇にうっとりする人 もがき苦しむほど 場違いなはらわた 煮えくり返り おまえのせいだ おまえのせいだ とせっつく 軽く口止めする 輩 柔な瞳につっかえて 今晩のおかずは スーパーに立ち寄る秘密 冗談でいいから コロッケひとつ おまけしてください 真面目に話しかけると スーパーの店員の笑顔を鳴らし それでも雲の形は 変わらない もしくは変われない 水溜まり それを写す鏡 水色の空を見下ろし 派手に歪んだ似姿が ぼんやりと海の彼方へ あなたの方へ 帰りたい 帰りたいのと呟く 私の色は かまわないで足踏み 見上げれば 当てもない交差点 苦手な骨格が現れる 私の線がそこにある

2021年2月