Working On A Dream/Bruce Springsteen 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Working On A Dream』(2009) Bruce Springsteen
(ウォーキング・オン・ア・ドリーム/ブルース・スプリングスティーン)

 

詳しくは知らないけれど1950年代に生まれたロックンロールは、チャック・ベリーが‘sweet 16’と歌ったように若者のための音楽であった。大人に「なんだあのジャカジャカやかましい音楽は」と思われたかもしれないが、そんなことはお構いなしにウィルスのようにどんどん伝播していった。ヒップ・ホップがあっという間に世を席巻していったことを思えば、僕らにも何となく想像がつく。

以来、様々なミュージシャンの登場で現在に至るわけだが、何も変わらないことがあるとすればそれは‘若者の音楽’である、という一点ではないだろうか。いや、ロック音楽の誕生から数十年経った今では、大人が聞くロック音楽もたくさんあるじゃないか、と言われるかもしれない。この辺は議論が尽きないところだけれども、例えば誰かをを好きになる、友達とうまくいかない、或いは理想の自分と現実の自分とのギャップに苦しむ、でもどうしたらいいか分からない。そんな多感な頃に初めて経験するナイーブな問題に直面したとき、そっと肩を叩いてくれる、時にはケツを引っぱたいてくれる。それがロックン・ロール音楽ではないだろうか。

なんか話が随分それたが、僕が言いたいのはロック音楽というのは‘成長’というテーマを抜きには語れないということ。かつては年老いたロック・ミュージシャンなんて考えられなかった。なんせジョン・レノンは40才でいなくなったんだから。でも現実はロック・ミュージシャンも年をとる。‘成熟’というロックンロールとは相反する事態に直面するのである。

このアルバムはラブ・ソング集とも言える。スプリングスティーンがここで歌うのは他愛もない愛の歌。稀代のストーリー・テラーがなんのてらいもなく真っ直ぐなラブ・ソングを紡いでいる。そんな中、このアルバムの冒頭に据えられたのは9分の大作、『Outlaw Pete』。80年代のアルバム『ネブラスカ』を思い起こさせる、生まれながらの無法者、通称‘アウトロー・ピート’の物語である。

勿論、CDをトレーに乗せて真っ先に聞くのがこの曲なので、この後の展開は知る由もないのだが、2曲目3曲目と続くうちにこのオープニング・ナンバーが本作において、異色な存在であることに気付く。何故、人肌を感じさせるミニマムな‘愛の歌集’とも言える本作のオープニングに、このような深い影のある曲を持ってきたのだろうか?このアルバムを幾度が聞き、僕はふと思った。我々もこのアルバムの登場人物も、アウトロー・ピートとなんら変わらないのではないか、と。

この曲では何度も‘Can you hear me ?’と繰り返される。しかし‘Can you hear me ?’と叫ぶのはアウトロー・ピートだけではない。ときには彼を狙う賞金稼ぎであり、ときには彼の妻でもある。すなわち、こう言い換えることは出来ないだろうか。聞こえてくるのは、アウトロー・ピート自身の声であり、決して消すことの出来ない過去からの呼び声であり、そして新しい自分を呼ぶ声であると。そしてその何れもが紛れもないアウトロー・ピート自身であるのだ。

本作の登場人物は意識的にせよ無意識的にせよ、このことを理解している。ここに出てくる人生の折り返し地点を過ぎた人々は、何も知らなかった自分も、知ってしまった自分も、何かを乗り越えた自分も、何かを乗り越えられなかった自分も全てが自分自身であり、過去も現在も、そしてやがて来る未来も、全てが自分自身なのだという認識に立っている。それは経験であり、成熟ではないだろうか。にもかかわらず彼らは今も尚、一途に希望を歌う。ここに及んでは年齢など関係ない。ここにあるのは成長のしるしであり、現在進行形の成長の歌である。だからこそ僕はたまらなく心が揺さぶられるのだ。

 

1. Outlaw Pete
2. My Lucky Day
3. Working On a Dream
4. Queen of the Supermarket
5. What Love Can Do
6. This Life
7. Good Eye
8. Tomorrow Never Knows
9. Life Itself
10. Kingdom of Days
11. Surprise, Surprise
12. The Last Carnival
13. The Wrestler (Bonus Track)

Hang/Foxygen 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Hang』(2017) Foxygen
(ハング/フォクシジェン)

 

米国の2人組、フォクシジェンの4枚目のアルバム。アルバムを買うきっかけは、YouTubeで見た#1『Follow The Leader』のビデオ。60年代ポップスを思わせるストリングスを聴かせたゴージャスな作品だけど、ちょっとずれてる。ていうかわざとずらして真剣にふざけてる。道化のようにおどけ、「Follow The Leader」と歌う姿がとてもいかしていた。

ライナー・ノーツを読んでいると、ソングライティングと多くの楽器を手掛けるジョナサン・ラドがバンドの核のようにも思えるが、幾つかのライブ映像を見れば、このバンドはフロント・マン、サム・フランスの存在感があって初めて成立するのだということがよく分かる。何かが憑依したかのように振り切ったロック・パフォーマーとしての立ち居振る舞いが、バンドのメッセージを示すビジュアルとしての効果は非常に大きい。

このアルバムを語るに避けては通れないのが総勢40名からなるオーケストラだ。ジョナサン・ラドとサム・フランスが今回のアルバムで導入したのは演劇性とエンターテイメント。自分たちの意見を声高に歌うというのではなく、道化のように一芝居打つこと。だがまあ大したものじゃない。基本、彼らは楽しんでるだけだ。その悪ふざけとも取られるようなお芝居がしかし、フィクションが真実を語るようなシリアスさを醸し出す。#4『America』で「ア~メ~リカ~」と歌い上げる姿は可笑しいはずなんだけど、そこに裏を感じさせるのは恐らく聴き手が勝手に想像しているだけ。この辺は恐らく計算済みだろう。この曲ではオーケストラが何度も転調を繰り返す。ご機嫌なしらべはさながらミュージカルで、途中クレイジーキャッツみたいなコミカルな展開も。単純にご機嫌な曲として楽しんで、勝手に裏読みするってのが正しい聴き方かもしれない。

このアルバムは大ラスの『Rise Up』でクライマックスを迎える。この曲は米国では教科書にも採用されているという『赤いシダの木』というお話がモチーフとなっている。それまでの道化が嘘のように作者のまなざしは優しげだ。曲のラストでは大げさなオーケストラと叩きつけるドラミングがうねる中、エレクリック・ギターのディスト―ションが唸りを上げる。これは声なき者の声。この鳴り方は作者の本音がここに隠されているということか。もしかすると彼らのサーカスは最後の歪んだギターを聴かせるための序章だったのかもしれない。

ここにある音楽は60年代70年代のポップ音楽を切ったり貼ったりして、単純にこれカッコイイやんと遊んでいるだけかもしれないが、芸術が内面や暗部を浮かび上がらせるものだとしたら、彼らの態度はその無邪気さで内面や暗部を浮かび上がらせる。多くのポップ音楽はそうしたものを情緒的に処理してしまいがちだが、それでは真のポップ音楽足り得ない。ここで「ア~メ~リカ~」って歌い上げたら面白いやん、っていうエンターテイメント性はそのことを自覚しているからではないか。

蛇足ながら、この無邪気さゆえのメッセージ性(意図的であれ無自覚であれ)は僕にはフリッパーズ・ギターを思い浮かばせた。

 

1. Follow The Leader
2. Avalon
3. Mrs. Adams
4. America
5. On Lankershim
6. Upon A Hill
7. Trauma
8. Rise Up

Chasing Yesterday/Noel Gallagher’s High Flying Birds 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Chasing Yesterday』(2015) Noel Gallagher’s High Flying Birds
(チェイシング・イエスタデイ/ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ)

 

僕にとっていいアルバムは後半がいいアルバムである。その点、ノエルのソロ第二弾は十八番のロック・バラード、#5『ザ・ダイイング・オブ・ザ・ライト』から俄然よくなってくる。そこまでは軽い手鳴らし、いよいよこっからが本編とばかりにグイグイやってくる。重い足枷から解き放たれた自由な感じがしてとてもいい。この人が好きなようにやると、こんな凄いことになっちゃうんだ。

表現も多彩でいろんなパターンを見せてくれるし、曲間のつなぎもオアシス時代みたいな遊びがあって、ニヤっとしてしまう。重厚なのが続いた後の9曲目に一番カッコイイのがスカッと入る解放感がまた最高だ。

僕の中ではノエルのボーカルは相変わらず地味な感じなんだけど、それでもこれだけいいというのは単純に曲がいいということ。曲がいいからこりゃ別に上手くもない普通の4人組のバンドでやってもそれはそれでよさそうとも思ってしまうが(それって最初の頃のオアシスやん)、今回はノエルのサウンド・デザインの素晴らしさがいい曲を更に高い所へ引っ張り上げている(意外だけどオアシス時代を含めて初のセルフ・プロデュース!)。#6なんてその典型で、インスト部の長い下手すりゃ退屈なものになってしまうんだけど、こういうのもカッコイイ曲に仕上げてしまう。単にいい曲を書くってだけの人ではないのだ。

ある一定の水準以上の曲を20年前と変わらず書き続けられる凄み。長くやってると似たような曲になってしまうんだろうけど、似たような曲に感じさせないこの鮮度の損なわなさは何なんだ。久しぶりに本気を出したノエルのソングライティングはやっぱり圧倒的だったっていう身も蓋もない結論。今も昔もノエルが歌ものロックの世界基準だ。

ボーナス・ディスクもカッコイイ。ホント、どうなってるんだこの人は。

 

1. リヴァーマン
2. イン・ザ・ヒート・オブ・ザ・モーメント
3. ザ・ガール・ウィズ・エックスレイ・アイズ
4. ロック・オール・ザ・ドアーズ
5. ザ・ダイイング・オブ・ザ・ライト
6. ザ・ライト・スタッフ
7. ホワイル・ザ・ソング・リメインズ・ザ・セイム
8. ザ・メキシカン
9. ユー・ノウ・ウィ・キャント・ゴー・バック
10. バラード・オブ・ザ・マイティ・アイ

(ボーナス・ディスク)
11. ドゥ・ザ・ダメージ
12. レヴォリューション・ソング
13. フリーキー・ティース
14. イン・ザ・ヒート・オブ・ザ・モーメント (リミックス)
15. リーヴ・マイ・ギター・アローン

ボートラをちゃんと分けてるところが〇

Sacred Hearts Club/Foster The People 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Sacred Hearts Club』(2017) Foster The People
(セイクレッド・ハーツ・クラブ/フォスター・ザ・ピープル)

 

2014年以来、3年ぶりの3rdアルバム。僕はいつかこの人達は他愛のないポップ・アルバムを作るんじゃないかと思っていたんだけど、アルバム・リリースに先駆けて公開された3曲(『Pay the Man』、『Doing It for the Money』、『SHC』)が、凄くポップな作品だったので、こりゃ遂に来たぞなんて勝手に思っていたら、いやとんでもない、他愛ないどころかすんごいアルバムでした。

サウンド的には1枚目、2枚目を通過した今の彼らの集大成となるようなアルバム。マーク・フォスターのDIY的な1st、そしてバンドとしての実質デビューとも言える2ndからの道筋がしっかりと見えるようなフォスター・ザ・ピープルの最新型であり、同時に今成し得るロック音楽の最新型のひとつの形とも言える作品だ。

ヒップ・ホップ色が強くなったのも今回の特徴だ。前作にもラップ調のボーカルがあったけど、今回はそれを更に推し進めたような恰好。1曲目の『Pay the Man』や最後はリーディングになだれ込む#10『Loyal Like Sid & Nancy』、ゆったりとした#2『Doing It for the Money』などなど。全体的に見ても言葉の切れ味は更に鋭く、リリックがどんどん転がっていく様はめちゃくちゃカッコイイ。

曲もいいし歌詞もいいしボーカルも最高で何より圧倒的なサウンド・デザイン。ライナー・ノーツにはサポート・メンバーから正式にバンドに加わったアイソム・イニスの力が大きいとか、今回は外部とのコラボレーションが沢山あったとか色々書いてあるけど、そういう個々の事情だけじゃなく、ここに来てバンド全体のクリエイティビィティが一気にスパークしたってことなんだと思う。

で僕がスゴイなと思うのは、そういう風に色んな音楽形態を採用して難しいことをやってるんだけど、最終的にはポップなところへ戻ってきちゃうってとこで、この辺のバンドとしての大らかさというかバランス感覚は大したもんだと思う。

ただ歌詞を見ていくと、やっぱ世界がやな方向へ進みつつあるっていう現実認識があって、そこに対する彼らの意志表示が今回のアルバムなんだなという感じはする。それは「Don’t be afraid」であったり、「See the light」といった表現が何度も出てくるところもそうだし、全体として不穏な世界へのレジスタンスという意味が込められているんじゃないかと。「心の中のオオカミは死んじゃいない」と歌われる『Pay the Man』が1曲目に来るのもその意志の表れなんじゃないだろうか。

でそのレジスタンスは最終曲の『Ⅲ』でイノセンスに着地して、それは#4『SHC』で「Do you want to live forever?」と歌っていた迷いが、『Ⅲ』で「I want to live in your love forever」に変換されるっていうところとも繋がるんだけど、ひとしきり踊った後に訪れるこの物語性というのはやっぱ感動的だ。このアルバムには明確なストーリーは無いけど、聴き終わった後に感じる余韻が良質の映画を見た後のようにぼんやりとしてしまうのはきっとそういう物語性に起因するのかもしれない。

 

1. Pay the Man
2. Doing It for the Money
3. Sit Next to Me
4. SHC
5. I Love My Friends
6. Orange Dream
7. Static Space Lover
8. Lotus Eater
9. Time to Get Closer
10. Loyal Like Sid & Nancy
11. Harden the Paint
12. III

Listen/The Kooks 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Listen』(2014) The Kooks
(リッスン/ザ・クークス)

クークス、3年ぶりの4thアルバム。アルバム毎に違った側面を見せる彼ら。今回は主にヒップ・ホップを手掛けるinfloをプロデューサーに迎え、そっち寄りのサウンドを指向している。一部中途半端な曲もあったりするが、元々ファンキーなルーク・プリチャードのボーカルが全面に出た、活きのいい作品だ。以下、順を追って見ていきたい。

1. Around Town/アラウンド・タウン
出だしの「コネクティーーイッ!」が最高。本作を特徴付けるドタドタドラムと手拍子のコンビネーション。これを見つけたことで本作は決まったのではないか。

2. Forgive And Forget/フォーギヴ・アンド・フォーゲット
アルバム中、最もファンキーな曲。彼らの持ち味であるギター・サウンドと本作の方向性が見事にマッチング。躍動感溢れるリズムが最高で、本アルバムのベスト・ソング。

3. Westside/ウエストサイド
前作『ジャンク・オブ・ハート』に通じるメロウなナンバー。派手な1曲目、2曲目ときて、ここでひとまずクールダウン。

4. See Me Now/シー・ミー・ナウ
本作のハイライトの一つ。ストリングスを配したスロー・ソングは初めてじゃないかな。冗長にならず、シンプルにまとめ上げられているのがいい。

5. It Was London/イット・ワズ・ロンドン
パンク調のナンバー。「ロンドン」というのはそういうことか。合間に鳴らされるギター・フレーズにはしびれる。この辺りは流石にカッコイイ。

6. Bad Habit/バッド・ハビット
ここからは再びファンク・ナンバーが2曲続く。この曲はまだ振り切っておらず、逆に言うと一番馴染みやすいかも。

7. Down/ダウン
リード・シングル。明らかにこれまでとソングライティングの手法が変わったことを確信させる曲。昨今珍しいこういうシャウトが聴けるのもルークならでは。

8. Dreems/ドリームス
基本、ルークの弾き語り。アンビエントなナンバー。時折、こういうのも入れたくなるのだろうけど、ちょっと退屈。

9. We Are Electric/ウィ・アー・エレクトリック
近頃流行のシンセ・ポップ。ただいかにも付け焼刃的な感じで中途半端。前作の後半に置かれた『Is it me』のような役割を果たせればよかったんだけど。ちょっと残念な曲。

10. Sunrise/サンライズ
細かいカッティングの小気味よいファンク・ナンバー。ルークの鼻歌で出来たような小品。アレンジも敢えてシンプルにしているのかな。

11. Sweet Emotion/スウィート・エモーション
これも本作での志向が反映された曲。ただこの曲はリズム主体ではなく、メロディ重視。アウトロのピアノ・ソロがとてもいい。

ここにきてこの方向性は、よくぞ、といった感じ。ボーカルの歌い方にとても合ってるし、遂にクークスのオリジナルが開花かとも思わせる。でも僕はまだまだ物足りない。エレクトリカルも中途半端だし、ゴスペル風コーラスを多用しているがこれもまだ掴みきれていない感じは否めない。#2『フォーギヴ・アンド・フォーゲット』のように彼ら本来の魅力である滑らかなメロディ・ラインとギター・サウンドが、今回取り入れられたブラック・ミュージックの要素とスパークした時は躍動感があってホントに素晴らしいグルーヴを出している。これはこれでいいアルバムだし僕は大好きだけど、クークスはもっともっと凄い領域にまでいけるんじゃないかと僕は思っている。彼らの持ち味と新しいサウンドの融合。素晴らしいアルバムだけど、もっと誰も手が届かない領域まで突き抜けてほしい。彼らならそれが出来ると思う。

Suck It And See/Arctic Monkeys 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Suck It And See』(2011) Arctic Monkeys
(サック・イット・アンド・シー/アークティック・モンキーズ)

クークス、ザ・ビュー、アークティック・モンキーズを僕は勝手にUKギターロック御三家などと呼んでいるのだが、その筆頭各にあたるのがアークティック・モンキーズ。アークティックはクークスやザ・ビューよりも一般的な評価も高く、その雰囲気も王道というか王者の風格があり、個人的な好みはさておき、一歩抜きん出ている感がある。そのアークティックの4thアルバム。重たい印象のあった前作とは一転、全体的に肯定感あふれる作品だ。曲そのものの精度がこれだけある以上、もはやデビュー当初のスピード感は必要ないのだろう。本作を聴いて僕の中でのアークティック好き度ランキングはかなり上がった。

初期の猛烈なスピートや、彼らを世に知らしめた独自のビート感はかなり後退し、むしろゆったりとしたリズムに覆われている。これまでになく爽やかな印象も相まって、聴いた当初は面食らうところがあるかもしれないが、聴き込むほどに味わい深く、ついに彼らがここまで来たかという印象。今思えば、デビュー当初のあの勢いもこの基礎体力故だったのかもしれない。

前作から向かいつつある普遍的なメロディへのアプローチも、堅苦しさが消え随分と身軽に。前作とは対照的に明るく開放的なのはアルバム・ジャケットのせいだけではあるまい。ドラム、ベース、ギターの音が明確で、立体的なサウンド。一曲一曲の輪郭がしっかりと色づけされているのはここに迷いはないということ。これはもうアレックス・ターナーの作曲能力もさることながら、バンドとしてのムードが良い方向に振れている証しであり、派手なインパクトはないものの、今や彼らはそんじょそこらのギターバンドには真似できない領域にあるということを示している。

4作目ともなると、ストリングスやエレクトリカルなど新しい表現方法を取り入れたりもするのだが、彼らはデビュー時以来のシンプルな編成のまま。それでいてこうも印象を変えてしまうのだから恐れ入る。にもかかわらず、初期も今もロックンロールとしか言いようのないサウンド。正々堂々、ストロング・スタイルの傑作である。

 

1. She’s Thunderstorms
2. Black Treacle
3. Brick by Brick
4. The Hellcat Spangled Shalalala
5. Don’t Sit Down `Cause I’ve Moved Your Chair
6. Library Pictures
7. All My Own Stunts
8. Reckless Serenade
9. Piledriver Waltz
10. Love is a Laserquest
11. Suck It and See
12. That’s Where You’re Wrong

 

3作目と同じアプローチでありながら僅か1作でこれだけ印象を変えてしまえるのは流石と言うしかない。アークティックのキャリアからすれば、まるで何かのスポットに落ちたかのようなメロウで爽やかな作品だ。

Supermodel/Foster The People 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Supermodel』(2014) Foster The People
(スーパーモデル/フォスター・ザ・ピープル)

 

新しいアルバムが出たら、自動的に買ってしまうバンドがあるけど、フォスター・ザ・ピープルもそのうちのひとつ。この人達はまず間違いないだろうという感じ。難しく言うと、表面的なキャッチーさだけではなく、何かしらの奥行を感じさせるということかな。といっても今回で2作目なんだけどね。

1stがマーク・フォスターの才覚のみで作られた作品だとしたら今回はバンドが前面に出ている。1st後に多くのライブをこなし、バンドとしての練度を固めていったのには勿論理由があっての事で、それはもうこのバンドでやってくんだという意思表示に他ならない。彼らは1stの取っつきやすいエレクトロ・ポップでブレイクした訳だけどマーク・フォスターの野望はもっと遠いところにあるのだ。

アフロ・ビートやサイケデリア、フォークといったスタイルを縦横無尽に採用し、更にその向こうへ突き抜けようとする態度がここにある。ようやく手に入れたバンドのダイナミズムが向かう先はどこ?それは遠くにかすかに見える光に向かって何とか前へ進もうとする意志。ここには混沌と言う言葉だけでは片付けられない切迫感がある。彼らは世界はこのままでもいいとは思っていないのだ。その分厚い壁をなんとかしてぶち破るべく選んだのは紛れもないロックンロール。

サウンドはより緻密によりダイナミックに。バンド・サウンドが前面に出ているとはいえ、全体を通してせわしなく繰り出されるエレクトリカルや細かなフレーズは流石。マーク・フォスターはブレイクするまでに紆余曲折を経たキャリアの持ち主。その細かなプロデュース力は裏方に回っても相当な力を発揮しそうだが、彼が選んだのは自分たちの言葉で、自分たちの声で、自分たちのサウンドで道を切り開いていくこと。そのサウンド・デザインには凄みさえ感じる。

1stの時からそうだが、彼らは自分たちの音楽的バックボーンをしっかりと持っている。最新のスタイルを纏ってはいても、綿々と続くロックやポップ音楽の伝統を意識している、というかどうあっても意識してしまうようにも思える。僕がこの人達は間違いないと感じるのは、もしかしたらそういうところから来てるのかもしれないし、変則的でありながらもこのアルバムから感じる王道感はそんなところにもあるのかもしれない。いつか他愛のないポップ・アルバムを作るんじゃないか。ただ王道と呼ぶには最後にバシッと決めてほしいところ。冒頭3曲の勢いと、その流れで突き進む#8『ビギナーズ・ガイド・トゥ・デストロイング・ザ・ムーン』に至るサイケデリックな熱量に比べ、最後の3曲はもう一押し足りないかなという気もする。

彼らは音楽の、バンドのマジックを信じて疑わない。僕は少なくとも#3『アスク・ユアセルフ』冒頭のギターリフにはそのマジックがあると思う。

 

1. アー・ユー・ホワット・ユー・ウォント・トゥ・ビー?
2. アスク・ユアセルフ
3. カミング・オブ・エイジ
4. ネヴァーマインド
5. シュードロジア・ファンタスティカ
6. エンジェリック・ウェルカム・オブ・ミスター・ジョーンズ
7. ベスト・フレンド
8. ビギナーズ・ガイド・トゥ・デストロイング・ザ・ムーン
9. ゴーツ・イン・ツリーズ
10. トゥルース
11. ファイア・エスケイプ

12. カシアス・クレイズ・パーリー・ホワイツ [ボーナス・トラック]

The Ride/Catfish and the Bottlemen 感想レビュー

洋楽レビュー:

『The Ride』(2016) Catfish and the Bottlemen
(ザ・ライド/キャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメン)

英国では初登場で1位を獲得したそうだ。YouTubeで今年のフェスの彼らの模様を観たら、多くの人がが集まっていて、日本にいると分からないが結構な人気なんだということがよく分かる。ボーカルもバンドも飛び抜けた個性があるとは思えないこのど真ん中直球のロックンロールがこれだけウケるというのは、メロディが抜群にいいからだろう。

2ndともなるとメロディに陰りが出て、いささかトーンダウンしてしまうものだが、更に磨きがかかっていい感じだ。フックの効いたサビに強弱を意識したアレンジ、随分と工夫がなされていて好感のもてるサウンドだ。ただ多少一本調子というか、あの曲とこの曲のサビを入れ替えても違和感ないんじゃないというようなスタイルの固定が目に付いてしまうのも確か。それとサウンドもソングライティングも1stから着実に良くなったけど、聴き手を興奮させるような記名性に欠けるような気がしないでもない。オアシスばりに大げさなストリングスを利かせたっていいし、声が似てるって言われるクークスのルークみたいにシャウトしまくってもいい。この手堅さがあればしばらくはイケるだろうけど、もっと突き抜けた何かが欲しいと思うのは僕だけだろうか。

メロディがいいから『グラスゴー』みたいな弾き語りも全然イケてる。優れたメロディメイカーだ。気は早いが次は強烈な個性の発露を期待したい。フェスのヘッドライナーに登り詰めるには特別な何かが必要なのだ。彼らにしてもこのまま普通にいいバンドで終わるつもりはないだろう。

 

1. 7
2. トゥワイス
3. サウンドチェック
4. ポストポーン
5. エニシング
6. グラスゴー
7. オキシジェン
8. エミリー
9. レッド
10. ヒースロー
11. アウトサイド

Schmilco/Wilco 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Schmilco』(2016) Wilco
~『シュミルコ』、ウィルコのいいとこ~

サリンジャーとかカポーティーといった海外文学が割と好きで、思い出しては時折読んでいる。勿論全てを理解している訳ではないが、この辺りの作家の言い回し、特に比喩表現が大好きで、その世界観や言わんとしていることも僕にはとてもしっくりくる。日本人だから日本の作家の方がしっくりくる思いきや、そうとはならないところがなかなか面白い。音楽で言えば、このウィルコなんかはその最たるもの。お世辞にもキャッチーとは言えない彼らの音楽が何故か僕にはしっくりくるのだ。

前作から僅か1年でリリースされたこの新作はいつもどおり、いやいつも以上に派手さはなく、ちょっとすりゃあ盛り上がりそうな原曲なんだけど、そういう風には一切ならず、クセのあるメロディが淡々と(淡々と呼ぶにはヘンテコ過ぎるけど)奏でられ、歌われている。このバンドのどこがいいって人に分かってもらうのはとても難しくて、音楽なんて一期一会。人に薦めてもらったからどうこうなるというものでもなく、ふだん着ている洋服の様に自分にそぐうかどうかは本人にしか分からないのだ。

例えば、『Normal American Kids』なんて1曲目からなんでこんな朴訥としてるのって歌だけど、「僕は普通のアメリカの子供がいつも嫌だった」って歌ってる。僕は日本人だけど、そう言われても不思議と違和感がない。逆にそうだよ、そうだよなあ、ってなる。別にアメリカの子供そのものってことじゃなく、何かのメタファーみたいなもんで、それが何かって言われても困るけど、まあなんだっていい。とにかく微妙にヘンテコなサウンドでぼそぼそっとジェフ・トゥイーディーが歌うと、それでしっくりきちゃうんだからしょうがない。

2曲目の『If I Ever Was A Child』だってそう。「ひとりぼっちの時間があまりなかったから分からない/僕に子供時代があったのか」って歌ってて、ウィルコはありがちに「僕は孤独だった」なんて言い方はしない。そりゃそうさ。そういう子もいるかもしれないけど、そんな映画みたいなキャラの子って滅多に居るもんじゃない。でもふとした時にひとりを感じることは誰しもあって、それは何も特別な事じゃない。普通に生活しててもそういう事は感じるし、それは大人だって子供だってそう。別に現代病なんて大層なもんでもなく、もしかしたら電気の無い時代、もっと古い時代だってそうだったかもしれない。こういう感覚をそのまま言葉に変換したら、「ひとりぼっちの時間があまりなかったから・・・」みたいな言い回しになっただけで、でその言い回しがそれ以上でもそれ以下でもなくそうとしか言えないってのが僕にはちゃんと合点がいくからそれでいいのだ。それに3曲目の「cry all day」とか最後の「Just say goodbye」みたいな常套句だってウィルコが歌えば、違った響きを帯びてきて、どこか通り一遍の言葉ではなくちゃんと僕の傍に寄ってきてくれる。多分それはジェフにしてもジョンにしてもネルスにしてもグレンにしてもパットにしてもマイケルにしてもホントのことを言っているからなんだろう。

今、歌詞について言及しているからついでに言うと、ウィルコの歌詞って使っている言葉は平易なんだけど、分かるんだか分からないんだかよく分からないところが何故か心地よい。ライナーノーツによるとジェフは、僕は長い詩が書けない、なんてこぼしたらしいけど、この短さもまた丁度よくて、僕は1ページか2ページぐらいの現代詩が好きで、なんでかって言うと集中力が途切れることなく全体としてと捉えることが出来るからで(それ以上になると僕の脳みそがパンクしてしまう)、要するに身の丈にぴったり収まる長さということだ。

話は変わるけど、先頃ノーベル賞を獲ったボブ・ディラン。あの声と風貌がたまらなくかっこいいから、時折アルバムを買ってチャレンジしてみるんだけど、手を出すと途端に跳ね返されてしまう。好きになりたいんだけどなかなか気に入らせてもらえない。まあそういうジレンマが心地よかったりもするんだけど、ウィルコってディランぽいところもあって、ジェフも時々放り投げるような歌い方をするし、歌詞だってディランばりに訳の分からないことがあったりする。サウンドだって好き勝手やってそうだし、何かどっかで繋がっているような気がしないでもない。僕はこれからも思い出したようにディランを聴いては跳ね返されたり、分かったような気になったりするんだろうけど、そういう意味ではウィルコの場合は手に負えるというか、手に負えるって言うと変な言い方だけど、なんだか分からないにしてもやっぱり自分の肩幅にすっぽり収まるんだな。

話が逸れちゃったけど、ウィルコは音にせよ言葉にせよちょっとしたズレとか、矛盾するけど「当たり前のこと」に注目してるのかもしれなくて、でもこういう感覚って言葉では説明しずらいもの。でも実は世の多くの人たちが違和感というと大げさだけどそういう感覚を持っていて、ただそれもレディオヘッドやオアシスみたいだと割と分かり易く共感を得られるんだけど、こういうウィルコの感覚というのは明確にコブシを挙げてオレもそうだよ、ってなる類のものではない。勿論僕もレディオヘッドやオアシスは大好きだけど、僕みたいなセンシティブでもなく、心ん中に熱いもの持ってるって訳でもなく、宙ぶらりんな奴、でも少しだけ居心地の悪さを感じている奴って(要するに「当たり前のこと」でいたい)のは世界中にたくさんいる訳で。でももしかしたらそっちの方が多数派なのかもしれないななんて思うのは、明確なつかみが無いくせに、ウィルコの音楽がこれだけ支持されているという事実があるからだろう。

ただ考えてみればオアシスだってレディオヘッドだって「当たり前のこと」を歌ってきたわけで、僕たちは度々そのことに気付かされてきたんだけど、ウィルコの場合はオアシスみたいにやたらテンション上がっちゃってイェエーイってことではなく、うん、いいなあ、ってなるぐらい。要するになんか体温に近い、そんな感じかな。

今回の『シュミルコ』アルバムは先に述べたように地味に淡々と進んでいくアルバムだ。前作の『スター・ウォーズ』は2002年の『ヤンキ-・ホテル・フォックストロット』に割と近い感じで、歪んだギターやサイケデリアといったトリッキーなサウンドで、当時からのファンはニヤリとするようなアルバム。その前の『ホール・ラブ』(2011年)は色んな種類の曲が入った幕の内弁当みたいだったし、更にその前『ウィルコ(ジ・アルバム)』(2009年)は歌ものだったかな。でもどの作品も聴いた後には、ああウィルコらしいなあ、と妙に納得してしまっているから不思議だ。ということで何をやっても結局は、ああウィルコだなあ、といい気分になってしまうんだけど、この変わったことをやっても似たようなことをやってもやっぱりウィルコはウィルコだなあと思わせてしまうところも彼らの魅力のひとつ。『シュミルコ』にしても最初は地味だなあと思いつつもいつの間にやら馴染んじゃって、今ではやっぱウィルコらしいいいアルバムだなあなんて結局いい気分になっている。

今回のアルバムはどの曲もほぼ3、4分で終わるものばかり。全体としてサッと始まりサッと終わる印象だ。それでも色んな種類の曲があって、派手さはないけど意外とバラエティ豊か。#3『Cry All Day』のような疾走感があるのもあるし、#4『Common Sense』のようなヘンテコなのもある。うんうんと頷いてしまう#7『Happiness』もあるし、地べたを這うような#9『Locator』もある。#6『Someone To Lose』なんて結構キャッチーだ。そんな中、僕が今一番気に入っているのは最後の『Just Say Goodbye』。ジェフのぼそっとした声が穏やかなメロディと上手く溶け合ってて、サヨナラって歌なのにとても綺麗だ。そうそう、サヨナラって歌なのにサヨナラっていう感じがしなくて、でもサヨナラとしか言えない気もする。ウィルコにはいつもそういう反語的な響きがあって、でもシニカルな感じはしないし、受ける印象は親密さとかユーモアの感覚。やっぱり不思議なバンドだ。バンドの演奏が必要以上に言葉やメロディに寄せてこないところもまたよくて、こっちが情緒に依りかかりそうなところをひっぺがえしてくれるのもいい。

バンドの演奏とジェフの声がすっと体のそこかしこにある、でも自分では分からない隙間にスッと入り込んできて、それがかつて失くしたピースのように居心地良く馴染んでいく。でまたこれがクセになる。会ったこともないアメリカ人の歌がそう思えてしまうから不思議だけど、きっと世界中にそんな人、たくさんいるんだな。

 

1. Normal American Kids
2. If I Ever Was A Child
3. Cry All Day
4. Common Sense
5. Nope
6. Someone To Lose
7. Happiness
8. Quarters
9. Locator
10. Shrug And Destroy
11. We Aren’t The World (Safety Girl)
12. Just Say Goodbye

※上記の文章は、rockin’on presents 第3回 音楽文 ONGAKU-BUN大賞 にて入賞作に選ばれました。

A Moon Shaped Pool/Radiohead 感想レビュー

洋楽レビュー:

『A Moon Shaped Pool』 (2016) Radiohead
(ア・ムーン・シェイプド・プール/レディオヘッド)

ここで歌われるのは祈りだ。ところどころ感じさせる宗教的なサウンドが落ち着きを与える一方、不穏さを与えている。緊迫感と平穏さの同時進行もまた聴き手の感情を不安にさせ、安心させる。相反する動きがそれが自然な形だと言わんばかりに同居している。当然それらを許容する器が必要だ。

言葉やメロディ、そしてそれらを運ぶサウンドがぎこちないままだと聴き手への伝播力は半減される。ここでの言葉とメロディやエレクトロニカ、オーケストレーションの緩やかな結合は人の手が加わったことも忘れてしまうほどにあまりにも自然だ。そこに外界のどんなウィルスも受け付けない声が降り注ぎゆっくりと同化してゆく。このアルバムでは声であるとかベースであるとかギターであるとかストリングスであるとかという区分は意味を持たない。全てがひとつの音という意識として人々の耳へ飛び込んでくる。耳から入った音もまた、耳とか脳とか心とかの分別なく、体の四隅へゆっくりと溶けてゆく。或いは衰弱し、或いは回復してゆく。それはまるでサイケデリア。現実のようで夢のようで、意識は明瞭のようで幻覚のようで。境界線も曖昧なまま、美しく、ざわめきは抑えようもない。

1. Burn The Witch(魔女を燃やせ)
落ち着きのないサウンド。最後の止まれなくて微かに残る余韻が不穏さを醸し出している。

2. Daydreaming(白日夢)
チベットか何処かを想起させる宗教的な音階。最後のコントラバスが不安をかき立てる。

3. Decks Dark(甲板の闇)
幻覚ではない。意識は明瞭だ。しかし女性コーラスが入ることで幻想的になってゆく。

4. Desert Island Disk
主人公は移動をしている。しかしそれは白昼夢。目覚め、更新される。

5. Ful Stop
ちょっと待って。一旦止めてくれ。元に戻してくれ。

6. Glass Eyes(義眼)
リアルにやばい曲。最後にフッと浮き上がるのは良い兆候かそれとも、、、。

7. Identikit(モンタージュ作成装置)
肉体的なビートが「broken hearts make it rain」という言葉を補完する。

8. The Numbers
ラストのダムが決壊したかのようなオーケストラに押し流されてしまいそう。

9. Present Tense(現在形)
フラメンコ。踊るのには理由がある。

10. Tinker Tailor Soldier Sailor Rich Man Poor Man Beggar Man Thief
(いかけや したてや へいたいさん ふなのり おかねもち びんぼう こじき どろぼう)
エレクトロニカからバンドを経由しオーケストラへ。意識の境もなくなってゆく。

11. True Love Waits
背後に軋む音が残された意味とは。成熟とはより純化されるということ。

一見感情的なように見えて実はそうではない。仮に実体験が下地にあったとしても作者と言葉は一定の距離を保っている。そこのところの冷静さや知性が彼らの魅力だと言えるし、もしかしたらトム・ヨークから出てくる言葉はどうあってもそうなってゆかざるを得ない性質のものなのかもしれない。人の心を揺さぶる声を持っていながらも基礎体温の低さはぬぐい切れない。その奇妙なバランスが美しい。