アークティック・モンキーズの『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』が素晴らしい

その他雑感:

アークティック・モンキーズの新作、『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』が素晴らしい。最初聴いた時はこりゃまた厄介なのが来たぞ、しょーがねぇなという感じだったんだけど、何回か聴いてるとこれは凄い作品だなと。もうしばらく聴いてからちゃんとレビューを書くつもりですが、とりあえず今の感想を。

この作品、あまりにも一般的なロックンロールのフォーマットから離れているから賛否両論のようだけど、理屈は抜きにしてカッコいいんだからそれで済ませてしまえばいいんじゃないだろうか。

ヴィンテージSFというか古いんだか新しいんだか分からないサウンドと、これまた近未来小説か歴史小説かとでも言うような相反する要素を詰め込んだブッ飛んだ歌詞。これがとんでもなく素晴らしい。

この訳の分からなさを正しいと思わせる説得力はどこから来ているのか。こういう訳の分からないラジカルな音楽が王道を行くロック・バンドから出て来たのが嬉しい。

Bread And Circuses/The View 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Bread And Circuses』2011)The View
(ブレッド・アンド・サーカシズ/ザ・ビュー)

 

UKギター・ロックの雄、ザ・ビューのサード・アルバム。これだけ何の但し書きも必要のないロック・バンドも珍しいんじゃないだろうか。同世代のアークティック・モンキーズのような派手なインパクトはないかもしれないが、逆に言うと今の時代、オーソドックスなロックでありながらキチンと聴き手にまで届く力を有するということ事態が驚くべきことなのかもしれない。中でもこのアルバムの飛距離は半端ない。

言ってみれば、それは初期衝動のなせる業かもしれないが、彼らの場合それだけではすまされない音楽的基礎体力が背景にあるように思う。しかもそれは気をてらったものではなく、ポップ・ソングの王道を行くものであり、同時に僕たち自身に「あぁ、なにも突飛なことをしなくても、格好いいんだ」ということを改めて気付かせてくれる。結局それが一番難しいんだけどね。

とにかくもう、屈託なく鳴らされるひとつひとつの楽曲が素晴らしく、メロディが頭にこびりついて離れない。正面から取り組まれているアレンジも楽曲の良さがあってこそなのだろう。キーボードにしてもストリングスにしても特に際立ったアレンジでもないのだが、こうも効果的なのは何故なのだろう。恐らくそれは、彼らのボーカルを含めた演奏力の確かさと、加えて音楽を良く知っているということに尽きるのではないだろうか。今どきこれだけシンプルにカッコイイ音を出せるロック・バンドはそうはいない。

しかし彼らにしてみれば、本作は少しウェル・プロデュースが過ぎた模様。確かに1作目2作目と比べればやんちゃくれ感は乏しいが、このまとまりの良さはそれを補って余りある。カイル・ファルコナーの愛嬌のあるメロディが前面に出てとてもいい感じだ。うん、やっぱ飛距離が半端ない。

次のアルバムではウェル・プロデュースを嫌って原点回帰を目論むのだが、結果が付いてくるのはむしろこっちか。何気にすごい作品だけど、彼らなら普通にやれゃこれぐらいはやる。

 

1. Grace
2. Underneath the Lights
3. Tragic Magic
4. Girl
5. Life
6. Friend
7. Beautiful
8. Blondie
9. Sunday
10. Walls
11. Happy
12. Best Lasts Forever

Ropewalk/The View 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Ropewalk』(2015)The View
(ロープウォーク/ザ・ビュー)

 

3年ぶり、5枚目のオリジナル・アルバム。デビュー以来、ずっと疾走感のある溌剌としたサウンドでここまで来た彼らではあるが、クークスやアークティックがそうだったように、いつまでもデビュー当初のスタイルが続いてく訳でもなく、3年のブランクがあったということは彼らは彼らで新しい扉を開けたいという欲求があったんだと思う。所々に音楽的偏差値の高さを見せながらも、よくもまあこれだけ続くなあっていうくらい、ご機嫌なロック・チューンを奏でてきた彼らだけど、今回のプロデューサーはストロークスのギタリストにストロークスのプロデューサー。ということでこれまでの熱さから一転、ストロークスばりの低体温のサウンドになっている。

曲の方は相変わらず素晴らしい。デビューして8年経っても一向に枯れることなく、UKロック直系のメロディもあって、粗っぽかった前作よりずっといい。もう初期衝動ではないところで今だにこれだけシンプルないい曲が書けるってのは素直に凄いことだ。

ただやっぱりこのサウンドは物足りないんだよなあ。元々アコースティック・ギターも上手に使う人たちだけど、どうせならもっとドタドタ感があってもいいし、もっとこうグワッとした感じが欲しい。まあストロークスがそうだから今回はそういう狙いだったんだろうけど、それにしてもちょっと食い足りない。焦点ぼやけちゃってる感は否めない。

エレキ・ギターをかき鳴らし、アクセル一杯まで開けてシャウトするっていうのはベタかもしれないけど、一番難しかったりするわけで、それをいとも簡単にやってのけるところに彼らの魅力はある。今回も後ろの音がどうなっていようが、相変わらずカイルは派手にシャウトしているし、やっぱりこのボーカルには電気的に増幅されたギュンギュン言ってるギターを当てて欲しいというのが素直な感想。曲がいいだけに少し残念。

僕は好きだし地味にいいアルバムだけど、ファン以外への訴求力があるかといえばちょっと厳しいかも。みんなそんなじっくりと聴いてくれないぞ。あとバンドの姿勢として分からなくはないけど、ギタリストの下手なボーカル曲は正直要らない。にしても一番疾走感のある#6でそれをしなくても(笑)

 

1. Under The Rug
2. Marriage
3. Living
4. Talk About Two
5. Psychotic
6. Cracks
7. Tenement Light
8. House of Queue’s
9. Penny
10. Voodoo Doll

フェニックス ジャパン・ツアー2018 Zepp 大阪ベイサイド 感想

ライブ・レポート:

Phoenix  Japn  tour  2018 in Zepp Osaka Bayside

 

4月27日(木)にZepp大阪ベイサイドで行われたフェニックスのライブに行って参りました。もう素晴らしいの一言。いつものことながら最初から最後までテンション上がりっぱなし。圧巻のパフォーマンスでした。

19時開演、サポートアクトの「ねごと」のライブでスタート。女の子4人組のエレクトロ・ポップ・バンドというのかな。4つ打ちが多くていかにもな感じでしたが、ラス前の曲は良かったです。最前列のおっかけとおぼしきファン数名のテンションが凄かった(笑)。彼らは最後までいたのかな?ねごとのライブはちょうど30分きっかりで終了。真面目な方たちです。頑張ってほしいですね。お客さんのマナーもよくて、ねごとのことはよく知らないだろうに(私もですが…)、それでもスマホをいじることなく体を揺らしながらちゃんと聴いていました(笑)。やっぱこういうのがいいですね。

そこから約30分後、ステージの準備も整い暗転し、遂にフェニックスのメンバーが登場!すかさず始まりました!最新アルバム『Ti Amo』のオープニングを飾る『J-Boy』だ!

『J-Boy』もオシャレで素敵過ぎるんですが、こっからが凄かった。これもうアンコール!?っていうぐらいのテンションでひっくり返りそうになりました(笑)。『Lasso』に『Entertainment』と来て『Lisztomania』。この流れはもう笑うしかないでしょう。『Lasso』のサビも、チャイナな出だしで始まる『Entertainment』のイントロも凄いのなんのって。この曲の盛り上がり方はハンパなかったッス。更に盛り上がったのが『Lisztomania』。イントロが始まった時の大歓声と言ったらもう。勿論、サビは大合唱しましたよ。ちゃんと予習してったもんね。

しかしまあドラムのマッチョな人(スミマセンッ、名前知らなくて)の叩きっぷりは凄いね!もうドラムセット壊れるんじゃないかっていうぐらいで、飛び跳ねながらぶっとい腕で叩いてました(笑)。その横で太鼓やその他の楽器を静かに演奏してる神父さんみたいな髭モジャのおじさんとの対比がなかなかのツボでした(笑)。

『Everything Is Everything』があったり、『Consolation Prizes』あったりでまさにオール・タイム・ベストなセトリ。盛り上がってばっかで忙しかった中にインスト曲の『Sunskrupt!』が挟まる展開も良かったです。と言ってもこの曲はエレクトロ組曲てな仕上がりでまた別の高揚感。これはこれで存分に聴かせてくれました。そして本編最後は『If I Ever Feel Better』で締め。しまった、この曲を予習すんの忘れてた。サビは客に歌わすってやつね。代表曲なのにすっかり抜けてしまいました(笑)。

ここで一旦終了。5分ぐらい挟んでアンコールです。まず出てきたのはボーカルのトーマとギタリストのローラン。そういえばローランさん、いつもギターの位置がスゴイ上なのが気になっていましたが、この日ももちろん窮屈そうなお馴染みのスタイル。ついでに言うとこの方、チャーミングな方でちょいちょいおふざけを放り込んできます(笑)。

で二人で静かに歌うは『Goodbye Soleil』。オリジナルもいいけど、この曲はこういうパターンもはまりますね。手前味噌でアレですが、この曲に触発されて私、当ブログでちょっとしたお話、「さよならソレイユ」ってのを書いていますので、どうぞそちらもよしなに…。

『Telefono』ではラブ・ラブ・トークの部分を黒電話でリーディングする演出も。CDではイタリア語で「Pronto」って言うところを「もしもし」って言ってくれました!続いて『Consolation Prizes』でまたテンション上がって、必殺の『Fior di latte』。タイトルどうりのあま~いラブ・ソングがたまりません。物凄い多幸感ですな。続いてこれもとっておきの『1901』。もうそろそろ最後だってのはみんな分かってるし、更に輪をかけての物凄い爆発力でした。

で最後の最後は『Ti amo di più』。要するにトーマがフロアに下りてくるための曲です(笑)。揉みくちゃにされながらも嬉しそう。割と近くだったので僕も急いでそっちへ向かい、体触ったり、サラサラヘアをぐしゃぐしゃっとしちゃいました(笑)。手すりの上を歩いて最後はお神輿状態。ステージに戻る時には足が上になってました(笑)。とまあ、こんだけやりゃあいいでしょうという感じで正に大円団。お腹一杯、お客様満足度100%の素晴らしいライブでした。

しかしまあお客さんのスパークもハンパなかった(笑)。1曲1曲が嬉しくてしょうがないっていうか、この日を待ちに待ったというか、それでいて濃ゆーい感じは一切なくて、自由でオープンな雰囲気。例えばビール片手に気だるく踊る人がいたり、ずっと手を挙げて気持ちよく踊ってる人がいたり、ジャンプしてる人がいたりと皆が思い思いに好きなように楽しんでいる様子がとてもいいのです。で終始みんな笑顔。そんなライブ滅多にないかも。

ただそれもフェニックスの面々が楽しそうだからで、仕事で来ましたじゃなくて、ステージ上の彼らも笑顔だし、そりゃこっちも笑顔になるし、彼らが自由でオープンだからこっちもそうなるし、でそれが彼らにも伝わるからもう多幸感スパイラルがハンパないのです!僕は過去にサマソニで2回、彼らのステージを観てその度にこんな多幸感を感じるライブはもうないだろうなぁと思っていましたが、今回のフルセットのライブは更にそれを上回りました!かっこいいライブ。感動的なライブ。色々あると思いますが、楽しいライブと言えばフェニックスに勝るものはございませんっ!!

ちなみに客層を見渡すと女子の方が多かったかな。しかも若い子が多い!2000年デビューの中堅バンドにこれだけ若い女子が集まるなんて!いや~、凄いっす。恐るべし、フェニックス!

それにしてもあのフェニックスが1000人程度のライブハウスで観れるなんて。いやー、こりゃ日本ならではというか、ここは素直にお得感満載ということで喜びましょう。

そーいやトーマさん、「おーきに」って言うてはりましたで!

 

セット・リスト:
1. J-Boy
2. Lasso
3. Entertainment
4. Lisztomania
5. Everything Is Everything
6. Trying to Be Cool
7. Tuttifrutti
8. Rally
9. Too Young
10. Girlfriend
11. Sunskrupt!
12. Ti amo
13. Armistice
14. Rome
15. If I Ever Feel Better

(アンコール)
17. Goodbye Soleil
18. Telefono
19. Consolation Prizes
20. Fior di latte
21. 1901
22. Ti amo di più

Superorganism/Superorganism 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Superorganism』(2018) Superorganism
(スーパーオーガニズム/スーパーオーガニズム)

 

少し前から話題のバンドがある。名前はスーパーオーガニズム。メンバーは8人で今はロンドンで同じ屋根の下、共同生活をしているそうだ。国籍もまばらで英国、ニュージーランド、オーストラリア、韓国、そしてボーカリストでリリックを書いているのは17歳の日本の女の子、オロノだ。

年齢も国籍も異なる若者がインターネットを介して知り合い、実際に会うことなく曲を作り上げ、それをネットに上げたところ、フランク・オーシャンやヴァンパイア・ウィークエンドのエズラの目に留まり一躍脚光を浴びて今に至るという。この辺になるともう想像がつかない(笑)。

ただ共同生活をしているといえども、分かりあえないことが大前提というか、そんなことは当たり前でデフォルトとしてそこにある、そりゃそうですよ、っていう感じ。つまり色んなアイデンティティーを持った人たちが寄り集まって一人では出し得ないようなアイデアを皆で出しあって創作していくことを全面的に信頼はしているけど、そこに固執していないというか、何より創作の自由さを重んじるフラットさというか風通しの良さが、その若さでもうそんな感じなのって。普通はそういうことを経験を通して知っていくんだろうけど、それをもう達観してしまっているというか、大げさに言えば我々人類の集合知が一足跳びに始めから彼らには備わっているような、大げさに言えばこれはもう新しい人類だなと感じざるを得ない。

つまり資本主義とか個人主義っていいことだって教わってきたけど、それってホントかなっていうこれまでの常識が疑われつつある世界で、或いはインターネットが生まれてあらゆるものの境界線や速度が格段に早くなった世界で、仮に人類が新たな段階へ変容しつつあるとすれば、彼らはその第一世代ということなのかもしれない。

口に出すことを憚れるような震災のことをリリックにしたり、或いは日本の緊急速報アラームをサンプリングしたりということを自然にやってしまえる胆力と無垢さを併せ持った強さは若さ故か。これが若者の単なる無邪気さに過ぎないのか、そこになにがしかの人々が拠って立つ新しい世界の前触れがあるのかは誰にも分からない。しかし彼らは若さゆえの圧倒的な正しさに自覚的だ。

プロデューサーも立てずに好き放題鳴らしているサウンドに目を奪われがちだが、そうした意匠もただの借り物。出入り自由でどう変容していくかもわからないバンドの行く先は当人たちも分からないだろう。しかしガチャガチャとしたサンプリングの向こうにあるのはポップ・ソングという強固なメロディだ。

そんな自分たちのことをアンディ・ウォーホールの芸術工房、「The Factry」になぞらえたり、スーパーオーガニズム(超有機体)と名付けてしまうセンスにはもう脱帽するしかない。リリックの中にはデイドリームという言葉があちこちに見受けられて、これも彼らキーワードなのかもしれないが、アルバムの最後に一番にポップな曲を持ってきて、その最後の最後で目覚ましのピピピピッて音が入って、オロノの欠伸があって、小鳥のさえずりで終わるっていうセンスといいもう完璧過ぎる。

 

1. It’s All Good
2. Everybody Wants To Be Famous
3. Nobody Cares
4. Reflections On The Screen
5. SPRORGNSM
6. Something For Your M.I.N.D. 
7. Nai’s March
8. The Prawn Song
9. Relax
10. Night Time

 

Telefono/Noname 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Telefono』(2016)Noname
(テレフォーノ/ノーネーム)

近頃はもっぱらスマホで音楽を聴く機会が増えてきた。家はWiFiだし、電車の中もWiFiフリーだしつい気軽にスマホで聴いてしまうというのは自然な流れなのかもしれない。ということでCDを買う行為が随分と減ってきたわけだけど、中にはCD自体を出していないアーティストもいるわけでこのノーネームもそのうちの1人だ。

近頃僕はチャンス・ザ・ラッパーにはまっていて、Youtubeで聴いていると彼に関連する音楽がわんさか紹介されてくる。その流れでノーネームを知ったんだけど、先ず目に留まったのがカワイイ絵のアルバム・ジャケット。CDでの販売はないので、ジャケットと言っていいのかよく分からないけど、このジャケットが可愛いくて、けれど女の子の頭の上にドクロの絵があったりして、しかも名前が‘Noname’っていうもんだから、そりゃ気になるでしょって感じ。で聴いてみたらとってもいい音楽で、調べてみるとどうやらチャンスさんと同じシカゴ出身で、二人は高校生の時から知り合いのようでした。

でチャンスさんはラップなんだけど、ノーネームの方は高校時代からポエトリー・リーディングを色んなところで披露していたとかで(←米国にはポエトリー・カフェとか気軽に参加できる詩の朗読の場がたくさんあるようで、うらやましい限りです)、それが回り回ってチャンスさん繋がりでラップをすることになったっていう。チャンスさんのアルバムにも参加しているし、なんかそういうのっていいエピソードですな。ちなみに当初は‘Noname Gipsy(ノーネーム・ジプシー)って名乗ってたそうで、これはこれで素敵な名前です。

で名前がノーネームだからって訳じゃないでしょうが、この人もやっぱ自分自身の個人的な心情をラップするっていうんじゃなくて基本はストーリー・テリング。僕は英語をちゃんと訳せないからそれがどこまで正しいかは分からないけど、みんなの歌を歌いたいというか、こういう人たちがいてこういう景色があってっていうことを切り取っていく、歌にしていく、そういうような立ち位置の人のような気がします。

そこのところの優しい眼差しっていうのがやっぱチャンスさんと共通していて僕なんかは聴いていていいなぁと思ったりするんだけど、それでも穏やかなサウンドで優しくラップしていくといえども現実はかなり困難で、例えば#7『Casket Pretty』なんて「All of my niggas is casket pretty(友達はみんな棺桶の中)」で始まって、‘casket’ってのは棺桶、そこに‘pretty’が付いてるからこれは子供だろうと。曲の中盤では「Roses in the road, teddy bear outside(バラの花が道端に、そしてテディベアのぬいぐるみ)」っていう事だからやっぱ子供なんだなと。僕が可愛い絵だなって思ったジャケットの絵はそういうところにも繋がっていて、シカゴで生まれ育って今もそこにいる彼女はそういう世界にいるんだということがここで突き付けられてくるわけです。

9曲目の『Bye Bye Baby』は堕胎についての歌で、最初のヴァースは堕胎する母親の視点、2つめのヴァースは堕胎される赤ちゃんの視点。それを暗く悲しく歌うのではなく、優しく愛おしく歌う彼女のラップは月並みだけど愛を感じるというかポジティヴな温かみを感じるというか、だからこそグッと来るのです。

てことで詩をどんどん知りたくなってくる訳だけど、ここがCD販売されていないつらいところ。ネットにリリックはアップされてるんだけどいかんせん英語…。英語がもっとできたらなぁと思う今日この頃でございます(笑)。

あと、トラックもチャンスさん一派ということでオシャレでセンス抜群です。#1『Yesterday』のコーラスなんて最高に気持ちいい。意外と早口でまくしたてるところもあったりで彼女のフロウもスムーズでなかなかのもの。ライムも心地よくて楽しいし、総じて彼女の人柄が出ているような素晴らしいアルバムです。

 

1. Yesterday
2. Sunny Duet
3. Diddy Bop
4. All I Need
5. Reality Check
6. Freedom (Interlude)
7. Casket Pretty
8 .Forever
9. Bye Bye Baby
10. Shadow Man

Let Me Get By/Tadeschi Trucks Band 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Let Me Get By』(2016)Tadeschi Trucks Band
(レット・ミー・ゲット・バイ/テデスキ・トラックス・バンド)

 

こういうのは普段からよく聴くわけじゃないんだけど、どういう契機かたまに聴きたくなる。ホーン・セクションを含め、総勢10名からなる大所帯バンドの3rdアルバム。ブルース・ロックと言うのかサザン・ロックと言うのかよく分からないが、電子音に溢れた現在ではアナログなバンド・サウンドがかえって新鮮だ。

バンドの全面に立つのはその名のとおりデレク・トラックスとスーザン・テデスキ。デレクは名うてのギタリストでありプロデューサー、スーザンはメイン・ボーカル。この二人の存在感が突出しているのかなと思いきや、実際はあくまでもバランスを重視した音作り。皆で同じ方向を向いて練り上げるといった風情で、僕は2枚目を聴いてないけど、1枚目と比べてもいいこなれ感というか、バンドとしての一体感がより感じられる。また今回は前身のデレク・トラックス・バンドでボーカルを取っていたマイク・マティソンが2曲、メイン・ボーカルを務めていることもいいアクセントになっていて、1枚のアルバムとしても広がりが出てきたように思う。

バンドの売りはデレクのギターということになるんだろうけど、キーボード関係が充実しているのも魅力のひとつだ。ほぼ全編に渡って、グランド・ピアノを始め、クラビネットやウィリッツアーといった電子ピアノ、そしてハモンド・オルガンがクレジットされている。演奏するのはコフィ・バーブリジュ。表題曲でもいかしたオルガン・プレイを聴かせてくれる。今回のコフィはフルートでも活躍。#9『アイ・ウォント・モア』でのデレクのギターとの掛け合いは本作の見どころだ。文字通り八面六臂の活躍で、デレク、スーザンと並んでこのバンドの顔と言っていいだろう。

このバンドはデレクのワンマン・バンドではないので派手なギター・プレイは見せないが、それでも時折見せるギター・ソロがあるとやはりグッと引き締まる。この辺りのさじ加減も抜群だ。テクニカルな集団だが、冗長にならずすっきりとまとめられていて風通しがいいのも特徴だ。

例えば、久しぶりに実家に帰って近しい人や地元の友達に会ったりっていうような何かホッとする雰囲気がこのバンドにはあって、米国産のブルース・ロックなんて言うとなんか敷居が高そうだけど、日本人の我々にとってもまるで初めからそこにあったかのような安心感がある。

この手の音楽は家でじっくり耳を傾けて、というイメージだが、意外と景色を見ながら外で聴くのがはまる。要は開放的なんだろう。

バンドはこのアルバムのリリースに際して来日、東京・大阪・名古屋でホール公演をしたらしい(なんと東京は武道館!)。日本にもこの手のバンドの需要が結構あるのがびっくり。一体どういう人たちが来るのだろうか?

 

1. Anyhow
2. Laugh About It
3. Don’t Know What It Means
4. Right On Time
5. Let Me Get By
6. Just As Strange
7. Crying Over You / Swamp Raga For Hozapfel, Lefebvre, Flute And Harmonium
8. Hear Me
9. I Want More
10. In Every Heart

#7の穏やかなフルート・ソロから#8に繋がるところがよいです。

The Sea/Corinne Bailey Lae 感想レビュー

洋楽レビュー:

『The Sea』(2009)Corinne Bailey Lae
(あの日の海/コリーヌ・ベイリー・レイ)

 

2016年に出たアルバム『The Heart Speaks in Whispers』を僕はかなり気に入っていてよく聴いたものだからそのアルバムのイメージが随分強くなってしまっていたけど、あれはコリーヌさんとしてはかなり新しいサウンドに舵を切った異質なもので、久しぶりに2ndアルバムの『THE SEA(あの日の海)』(2009年)を聴いたら、あぁコリーヌさんは元々こっちだったんだなぁと改めて思った次第。

1曲目のけだるい感じに早速「そうそう、これこれ」ってなって、2曲目の『All Again』で切なく盛り上がった日にゃ僕はもうとろけそうになりました(笑)。で続けて聴いてると、やっぱ声もいいんだけど、曲の素晴らしさに目が行って、そういや彼女は生粋のソングライターなんだなと。

感情の起伏に沿うというか、彼女の体に沿っていくようなメロディが彼女自身のパーソナリティを感じさせるんだけど、同時に彼女だけじゃなくみんなのメロディに溶けていくような柔らかさを宿していて、それは要するに普遍性ということになるんだろうけど、このメロディ・センスには改めて驚かされてしまいました。

エレクトリカルもふんだんにそっち寄りのサウンドを指向した『The Heart Speaks in Whispers』を経てこのアルバムを聴いてみるとメロディがギター主体だなぁと。実際、ライブ映像を見ているとギターを抱えている姿(←これがまた華奢な体にギターがよく似合うのです!)が結構あって、割とロック寄りというか、ライブでは弾き語りもしちゃうタイプ。そうそう、このメロディの感じはギターで作った曲なんだよなぁと、ギターも弾けないくせに妙に納得してしてしまいました(笑)。てことで、やっぱりコリーヌさんにはオーガニックなサウンドがよく似合います。

それとやっぱ声。『The Heart Speaks in Whispers』では曲調の変化に伴って、割と元気よくというか前を向いた声なんだけど、このアルバムでは少し口ごもるというか、色っぽく言えば恋人に遠まわしに話すような感じで、だから時折本音が出てグイグイッとボルテージが上がる時なんかはドキッとしちゃうし、それでもスッと引く時はすぐに引いちゃうみたいな。そんなコリーヌ節が縦横無尽のやっぱこれも相当な熱量のアルバムですね。

音楽はと言うと、メロディであったり言葉であったりサウンドであったりということになるんだろうけど、彼女の場合は声に集約されていくというか、勿論言葉も含めた曲自体の魅力も大きいんだけど、全てがこの声に集約されて着地する感覚があって、それは多量な感情を込めつつも、聞き手の心の中にすっと落ちてくるような、さっきも言ったように個人の思いを普遍的なものに変えていく力、それを癒しという言葉で簡単に片づけたくは無いけど、聴く人の心を優しく慰撫する、或いは鼓舞するのは儚くも力強いこの声なのだと思います。

天才的な声で有無を言わさずっていうんじゃなくて、身近にあってスッと距離が縮まるみたいな感じで僕にはなんか友達みたいな、隣で歌ってくれているみたいな親近感を感じてしまいます。YouTubeで沢山映像を見たけど、飾り気が無くてほんとチャーミング。素敵な方です。

 

1. Are You Here
2. I’d Do It All Again
3. Feels Like the First Time
4. The Blackest Lily
5. Closer
6. Love’s on Its Way
7. I Would Like to Call It Beauty
8. Paris Nights/New York Mornings
9. Paper Dolls
10. Diving for Hearts
11. The Sea

 (日本盤ボーナス・トラック)
12. Little Wing
13. It Be’s That Way Sometime

Coloring Book/Chance The Rapper 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Coloring Book』(2016年)Chance The Rapper
(カラリング・ブック/チャンス・ザ・ラッパー)

 

普段はラップを聴かないけど結構好きです。僕はやっぱり言葉が気になるし、通常のポップ音楽よりラップとかヒップ・ホップの言葉の方がライムが転がって、気の利いたアクセントがあって、リリックが溢れて断然面白いやって思うことが時々あって、じゃあなんでラップ聴かないのっつったら、まあ単純に英語のリリックに全然ついていけないからで(笑)。なので、日本語のカッコいいラップがありゃ誰か教えてください(笑)。

それにラップって過去の楽曲とか社会とか時代背景とかいろんなことが重なり合って(←そーです、ラップは知性なのです)、そういうのにもついていけないってのもあるし、でもたまにそういう意味性とかリリックが全然分からなくても直接心に響いてくるのがあって(これはラップに限らずどんな音楽にも言えるんだけど)、言葉なんか分からなくたって直に音楽として伝わってくるものがある。まあそういう直接心に響いてくる音楽を大雑把にソウル・ミュージックって言い切ってしまえば、チャンス・ザ・ラッパーの『Coloring Book』もソウル・ミュージックのひとつなのかもしれない。ていうか僕にとってはもうまるっきりソウル・ミュージックです(笑)。

そりゃネットで歌詞を検索して和訳を見りゃ、へぇ~、そんなこと言ってんだってそれはそれで感心するし、どっかのライターが書いたレビューなんか読んでると、このアルバムにはピーターパンに出てくるウェンディが出てくるんだけど、そのウェンディはチャンス・ザ・ラッパーの故郷である全米一治安が悪いとされるシカゴ、ウィンディ・シティとかかっているとかで、そういうのが同じくシカゴ出身の先輩ラッパーであるカニエ・ウェストの昔のアルバムでも引用されてたとか、まぁ他のヒップ・ホップ音楽と同じようにそんなような背景が山ほどあるみたいだけど、そんなことは当然こっちはなんも分かんない(笑)。でも分かんなくてもそれで通用するというか、とにかく聴いてて幸せな気持ちになるっていうか、家人が寝静まった夜に聴いてたりすると、もうソファに座ってられなくて、立ちあがって踊りだしてしまうっていうか、まぁ実際恥ずかしながら踊りだしてしまうんだけど(笑)、要はそういうポジティブなエネルギーがこのアルバム(←正しくはミックス・テープって言うらしいです)には溢れるようにあるってことです。ま、そんな日は興奮してなかなか寝付けなかったりするんですが(笑)。

YOUTUBEで彼のライブ映像なんかを見ると本人も周りもみんな楽しそうで笑いながらラップしてるし、そりゃ『Same Drugs』をみんなで一緒にシンガ・ロングする映像を見てたらうらやましいし、ホント美しい光景だなって思うけど、もし僕がそこにいて英語なんか分からなくても、同じように美しい光景だなって、心が打たれて一緒に歌っている気分になるんじゃないかなぁって。あ、後から知ったけどこの歌、とってもいい歌詞です。

ラップってのは僕の解釈だとブルースというか、うまくいかない事とか、つらい事やな事をはっきりとそんなのクソ食らえだぜみたいに言ってしまったり、世の中そんなのおかしいじゃねぇかっていうようなことに反逆したりっていう怒りとか憤りっていう割とネガティブな声を力に変えていくっていうイメージがあるんだけど、このアルバムに至ってはそうしたネガティブな声を感じないというか、そりゃ歌詞をちゃんと見ていけばそういうのもあるのかもしれないけど、とにかく僕が感じるイメージとしては、祝福とか喜びとか生きていることを讃えている、ただそこにいることを讃えている、そんなポジティブな光がめいっぱい放射されていて、彼は音楽は売らない主義とかでCD化はされてないし、無料でダウンロードできて、僕ももっぱらYOUTUBEで聴いているんだけど、そういう彼の態度っていうのかな、要は子供たち、みんな聴いてくれみたいな彼の果てしない陽のパワー、ビッグ・バンみたいな陽性の力が伝わってくる、スマホで聴こうがなんだろうがちゃんと伝わってくる、それはやっぱ感動的な事なのです。

あと音楽的なところで言うと随分ラップのイメージとは異なっていて、ボン・イヴェールの『22,A Million』なみに声にエフェクト利かせまくってるし、ラッパ隊もきらびやかで、ゴスペルもふんだんに出てくる。ラップっていうと一定のリズムを延々ループさせてそこにリリックを乗せていくっていうイメージだけど、このアルバムはメロディもあるしポップ・ソングでいうサビみたいなのもある。それにトラックはメチャクチャカッコイイ!!僕がソウル・ミュージックだなんて言ったのはそんなところにも起因するのかもしれないけど、その場合、普通はラップとはみなされないらしくて、でもこのアルバムは、っていうか流石にチャンス・ザ・ラッパーっていうくらいだし、やっぱちゃんと自他ともにラップとして成立してしまっているところが実はスゴイところらしいです。らしいですってこんだけ書いておきながらなんですが、これも後から知ったことなので(笑)。

ラップらしからぬと言えばリリックも断然そんな感じで、前述のとおり僕はラップをあんまり知らないから偉そうなことは言えないけど、ラップってどっちかっつうとドギツイ言葉が出てきて攻撃的というかマッチョなイメージがあったりするんだけど(←どーも偏見でスミマセンッ)、このアルバムに出てくる情景ってのは全然そういうんじゃなくて、そりゃ『Summer Friends』みたいに友達がいなくなったりいい話じゃないことがいっぱい出てきたりするんだけど、そういうのが怒りに転化されるんじゃなく、日本にいて平和で自分も含めて身近な人が銃で撃たれてっていう世界とは無縁の僕みたいな人間にでも凄く自然に入ってくるというかスッと馴染んでいく表現になっていて。だからシカゴで生まれ育ったことは彼のアイデンティティーに大きく関与しているわけだけど、だからと言って暴力的になってかないっていうか、やっぱゴスペルであったり語弊があるかもしれないけど『Summer Friends』の美しさ、祈りに向かって行くというような美しさというようなものがあって、あんまり共感って言葉は好きじゃないから使わないけど(笑)、そういう部分も親子程年の離れた青年から僕は教えられたような気がして。そしてそれはやっぱり日本にいてもある種のリアリティが感じられる、よりよいベクトルへ向かう力になり得るものだと僕は思うのです。

ラッパーっていうととかくイメージがよろしくなくて、ドラッグとか暴力的な事とかがついて回るというか、実際チャンス・ザ・ラッパーも子どもの時にラッパーになりたいなんて言うと随分怪訝な顔をされたらしくって。でも当然ラッパーに知性は必要だし、社会的な貢献や影響も大きいし、なんだったらオバマ大統領(当時)に会ったりすることもあるんだぜっていう。そういうラッパーとしての地位向上というか意識を変えていくんだっていう意味合いもあってチャンス・ザ・ラッパーって名前にわざわざしたとかで、そこにもやっぱ彼の気概を感じられるし、音楽的にだって通常のラップではない新しいことにチャレンジしたり、音楽をフリーで提供するってやり方も、これはメジャーと契約しなくたって出来るんじゃないかと思って実際にやってしまって革命を起こしてしまっているし、そうした切り開いていくイメージが、一番最初の、何も知らないまま彼の音楽をYOUTUBEで初めて聴いた時に感じた、なんじゃこりゃ!?すげー、すげーよっ!!っていうどんどん溢れてくる陽性のパワーにも繋がってて、やっぱこの光の源はここにあんだよ、うんうん、っていう感じで。だからラップとかヒップ・ホップとかそんなカテゴリー云々じゃなくて大げさかもしれないけど『Coloring Book』は今この時代に光を差すような、人々の背中を押すような、時代とか世代とか性別とか国境とか人種とかを超えて、音楽を道具って言ったら怒られるかもしれないけど、実際に人々が前を向いて歩く力になり得るホントに素晴らしいアルバムだと僕は心から思うのです。

なんかひとりで盛り上がってますが、チャンスさんのことを知ったのは実はほん2、3週間ほど前のことでして…。なのでなんだ今頃知ったのか、っていうツッコミは自分で自分にしておきます(笑)。あとこのアルバムは色んな人が参加しているので、まだチャンスさんの声とごっちゃになってますってツッコミも一応(笑)。それとこういう音楽は子供たちや嫁さんのいる休日のリビングでかけたいなぁって思うので、僕個人としてはやっぱCD出して欲しいです…。わ、言うてもうた(笑)。

 

1. All We Got (feat. Kanye West & Chicago Children’s Choir)
2. No Problem (feat. Lil Wayne & 2 Chainz)
3. Summer Friends (feat. Jeremih & Francis & The Lights)
4. D.R.A.M. Sings Special
5. Blessings
6. Same Drugs
7. Mixtape (feat. Young Thug & Lil Yachty)
8. Angels (feat. Saba)
9. Juke Jam (feat. Justin Bieber & Towkio)
10.All Night (feat. Knox Fortune)
11.How Great (feat. Jay Electronica & My cousin Nicole)
12.Smoke Break (feat. Future)
13.Finish Line / Drown (feat. T-Pain, Kirk Franklin, Eryn Allen Kane & Noname)
14.Blessings (feat. Ty Dolla Sign, Anderson .Paak, BJ The Chicago Kid & Raury)

Heathen Chemistry/Oasis 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Heathen Chemistry』(2002年)Oasis
(ヒーザン・ケミストリー/オアシス)

 

今年のサマソニにノエルが来るってことで、最近のノエルのセット・リストを眺めてたら『Little by Little』が載っていて、なんかちょっと聴きたいなぁと思って久しぶりにアルバム『ヒーザン・ケミストリー』を聴いてみたら今さら気に入っちゃって、最近は結構な頻度で聴いている。とまあ、聴いてると色々思うところがあったので、今さらながらのレビューです(笑)。

オープニングは1stシングルにもなった『The Hindu Times』。シングルらしい明朗な曲だ。タイトルどおりノエルのインド趣味が出ています。ま、このぐらいならかわいいもの。前作の『スタンディング・オン・ザ・ショルダー・オブ・ジャイアンツ』で見せたサイケデリアも継承しています。

1曲目の流れを引き継いでたゆたうドラム・マシーンから入るは、『Force of Nature』。ノエルのボーカル曲だ。大体ノエルは一番いい歌を歌いたがるんだけど、この曲はそうでもないような…。でもこの高音はこん時のリアムにゃムリだな。続く3曲目はゲム・アーチャー作。ってことで今作はドラマーのアラン・ホワイト以外のメンバー4人が作詞曲を行っているのも特徴。で3曲目の『Hung in a Bad Place』。これがなかなかいいんです。結論から言って何ですが、このアルバム、結構いい曲があって良盤だと思うのですが、カッコイイかとなるとちょっと答えに詰まります。そんな中『Hung in a Bad Place』はいい線言ってます。アルバム中随一のカッコイイ曲がゲム作っていうのも何ですが…。

で4曲目は渾身のバラード、『Stop Crying Your Heart Out』。やっぱリアムの声はいいね。だいぶ盛り上がってますが、ストリングスなんか無くっても多分ええ曲です。続く『Song Bird』はリアム作の小品。ってかリアムはいい小品書くねぇ。昨年のソロ・アルバムを含めても、僕はこの曲がリアムのベストではないかなと。

続いては『Littele by Littele』。ノエルが血管浮き出して歌っている姿が目に浮かぶ(笑)。普通にいい曲。安定感抜群。これぞノエル。やっぱ盤石やね。

次の『A Quick Peep』はアンディ作の短いインスト。その次の『(Probably) All in the Mind』と『She Is Love』の流れが僕は結構好きです。『(Probably) All in the Mind』の方は若干のサイケデリアを絡ませつつハッピーな雰囲気でいい感じ。どっかで聴いたことのあるようなっていうノエル作にはよくパターン(笑)。『She Is Love』もいい。リアムが『Song Bird』ならノエルはこれって感じかな。曲のこなれ具合が全然違うけどどっちもいい曲だ。

10曲目の『Born on a Different Cloud』はリアムの作詞曲。こんな大曲も書けるんやね。今のリアムがこういうのに取り組んでみても面白いかも。続く『Better Man』もリアム作。まあこれはこんなもんというか、だいぶバンドに助けられてるというか(笑)。そうそうこのアルバムはサウンドがいいのです。素直にバンド感が前面に出ててそういう部分もこのアルバムの風通しを良くしている一因じゃないかな。そういや今のノエルのバンドにはゲムも参加しているみたいなので、今年のライブではゲムのギター・プレイも楽しみだ。で最後はノエルがボーカルの『You’ve Got the Heart of a Star』で締め。ゆったりとした穏やかな曲で終了です。

ガツンと来るのが『Hung in a Bad Place』だけなのがちょっと寂しいけど、ここに来てバンド感が高まってきているし、何より全体を通していい曲が揃ってる。初期のアルバムが強烈過ぎるから目立たないけど、僕は地味に穏やかでいいアルバムだと思います。ただまあ、オアシスが地味に穏やかってのがやっぱアレなんやろね(笑)。

 

1. The Hindu Times
2. Force of Nature
3. Hung in a Bad Place
4. Stop Crying Your Heart Out
5. Song Bird
6. Little by Little
7. A Quick Peep
8. (Probably) All in the Mind
9. She Is Love
10.Born on a Different Cloud
11.Better Man
12.You’ve Got the Heart of a Star