Let Me Get By/Tadeschi Trucks Band 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Let Me Get By』(2016)Tadeschi Trucks Band
(レット・ミー・ゲット・バイ/テデスキ・トラックス・バンド)

 

こういうのは普段からよく聴くわけじゃないんだけど、どういう契機かたまに聴きたくなる。ホーン・セクションを含め、総勢10名からなる大所帯バンドの3rdアルバム。ブルース・ロックと言うのかサザン・ロックと言うのかよく分からないが、電子音に溢れた現在ではアナログなバンド・サウンドがかえって新鮮だ。

バンドの全面に立つのはその名のとおりデレク・トラックスとスーザン・テデスキ。デレクは名うてのギタリストでありプロデューサー、スーザンはメイン・ボーカル。この二人の存在感が突出しているのかなと思いきや、実際はあくまでもバランスを重視した音作り。皆で同じ方向を向いて練り上げるといった風情で、僕は2枚目を聴いてないけど、1枚目と比べてもいいこなれ感というか、バンドとしての一体感がより感じられる。また今回は前身のデレク・トラックス・バンドでボーカルを取っていたマイク・マティソンが2曲、メイン・ボーカルを務めていることもいいアクセントになっていて、1枚のアルバムとしても広がりが出てきたように思う。

バンドの売りはデレクのギターということになるんだろうけど、キーボード関係が充実しているのも魅力のひとつだ。ほぼ全編に渡って、グランド・ピアノを始め、クラビネットやウィリッツアーといった電子ピアノ、そしてハモンド・オルガンがクレジットされている。演奏するのはコフィ・バーブリジュ。表題曲でもいかしたオルガン・プレイを聴かせてくれる。今回のコフィはフルートでも活躍。#9『アイ・ウォント・モア』でのデレクのギターとの掛け合いは本作の見どころだ。文字通り八面六臂の活躍で、デレク、スーザンと並んでこのバンドの顔と言っていいだろう。

このバンドはデレクのワンマン・バンドではないので派手なギター・プレイは見せないが、それでも時折見せるギター・ソロがあるとやはりグッと引き締まる。この辺りのさじ加減も抜群だ。テクニカルな集団だが、冗長にならずすっきりとまとめられていて風通しがいいのも特徴だ。

例えば、久しぶりに実家に帰って近しい人や地元の友達に会ったりっていうような何かホッとする雰囲気がこのバンドにはあって、米国産のブルース・ロックなんて言うとなんか敷居が高そうだけど、日本人の我々にとってもまるで初めからそこにあったかのような安心感がある。

この手の音楽は家でじっくり耳を傾けて、というイメージだが、意外と景色を見ながら外で聴くのがはまる。要は開放的なんだろう。

バンドはこのアルバムのリリースに際して来日、東京・大阪・名古屋でホール公演をしたらしい(なんと東京は武道館!)。日本にもこの手のバンドの需要が結構あるのがびっくり。一体どういう人たちが来るのだろうか?

 

1. Anyhow
2. Laugh About It
3. Don’t Know What It Means
4. Right On Time
5. Let Me Get By
6. Just As Strange
7. Crying Over You / Swamp Raga For Hozapfel, Lefebvre, Flute And Harmonium
8. Hear Me
9. I Want More
10. In Every Heart

#7の穏やかなフルート・ソロから#8に繋がるところがよいです。

The Sea/Corinne Bailey Lae 感想レビュー

洋楽レビュー:

『The Sea』(2009)Corinne Bailey Lae
(あの日の海/コリーヌ・ベイリー・レイ)

 

2016年に出たアルバム『The Heart Speaks in Whispers』を僕はかなり気に入っていてよく聴いたものだからそのアルバムのイメージが随分強くなってしまっていたけど、あれはコリーヌさんとしてはかなり新しいサウンドに舵を切った異質なもので、久しぶりに2ndアルバムの『THE SEA(あの日の海)』(2009年)を聴いたら、あぁコリーヌさんは元々こっちだったんだなぁと改めて思った次第。

1曲目のけだるい感じに早速「そうそう、これこれ」ってなって、2曲目の『All Again』で切なく盛り上がった日にゃ僕はもうとろけそうになりました(笑)。で続けて聴いてると、やっぱ声もいいんだけど、曲の素晴らしさに目が行って、そういや彼女は生粋のソングライターなんだなと。

感情の起伏に沿うというか、彼女の体に沿っていくようなメロディが彼女自身のパーソナリティを感じさせるんだけど、同時に彼女だけじゃなくみんなのメロディに溶けていくような柔らかさを宿していて、それは要するに普遍性ということになるんだろうけど、このメロディ・センスには改めて驚かされてしまいました。

エレクトリカルもふんだんにそっち寄りのサウンドを指向した『The Heart Speaks in Whispers』を経てこのアルバムを聴いてみるとメロディがギター主体だなぁと。実際、ライブ映像を見ているとギターを抱えている姿(←これがまた華奢な体にギターがよく似合うのです!)が結構あって、割とロック寄りというか、ライブでは弾き語りもしちゃうタイプ。そうそう、このメロディの感じはギターで作った曲なんだよなぁと、ギターも弾けないくせに妙に納得してしてしまいました(笑)。てことで、やっぱりコリーヌさんにはオーガニックなサウンドがよく似合います。

それとやっぱ声。『The Heart Speaks in Whispers』では曲調の変化に伴って、割と元気よくというか前を向いた声なんだけど、このアルバムでは少し口ごもるというか、色っぽく言えば恋人に遠まわしに話すような感じで、だから時折本音が出てグイグイッとボルテージが上がる時なんかはドキッとしちゃうし、それでもスッと引く時はすぐに引いちゃうみたいな。そんなコリーヌ節が縦横無尽のやっぱこれも相当な熱量のアルバムですね。

音楽はと言うと、メロディであったり言葉であったりサウンドであったりということになるんだろうけど、彼女の場合は声に集約されていくというか、勿論言葉も含めた曲自体の魅力も大きいんだけど、全てがこの声に集約されて着地する感覚があって、それは多量な感情を込めつつも、聞き手の心の中にすっと落ちてくるような、さっきも言ったように個人の思いを普遍的なものに変えていく力、それを癒しという言葉で簡単に片づけたくは無いけど、聴く人の心を優しく慰撫する、或いは鼓舞するのは儚くも力強いこの声なのだと思います。

天才的な声で有無を言わさずっていうんじゃなくて、身近にあってスッと距離が縮まるみたいな感じで僕にはなんか友達みたいな、隣で歌ってくれているみたいな親近感を感じてしまいます。YouTubeで沢山映像を見たけど、飾り気が無くてほんとチャーミング。素敵な方です。

 

1. Are You Here
2. I’d Do It All Again
3. Feels Like the First Time
4. The Blackest Lily
5. Closer
6. Love’s on Its Way
7. I Would Like to Call It Beauty
8. Paris Nights/New York Mornings
9. Paper Dolls
10. Diving for Hearts
11. The Sea

 (日本盤ボーナス・トラック)
12. Little Wing
13. It Be’s That Way Sometime

Coloring Book/Chance The Rapper 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Coloring Book』(2016年)Chance The Rapper
(カラリング・ブック/チャンス・ザ・ラッパー)

 

普段はラップを聴かないけど結構好きです。僕はやっぱり言葉が気になるし、通常のポップ音楽よりラップとかヒップ・ホップの言葉の方がライムが転がって、気の利いたアクセントがあって、リリックが溢れて断然面白いやって思うことが時々あって、じゃあなんでラップ聴かないのっつったら、まあ単純に英語のリリックに全然ついていけないからで(笑)。なので、日本語のカッコいいラップがありゃ誰か教えてください(笑)。

それにラップって過去の楽曲とか社会とか時代背景とかいろんなことが重なり合って(←そーです、ラップは知性なのです)、そういうのにもついていけないってのもあるし、でもたまにそういう意味性とかリリックが全然分からなくても直接心に響いてくるのがあって(これはラップに限らずどんな音楽にも言えるんだけど)、言葉なんか分からなくたって直に音楽として伝わってくるものがある。まあそういう直接心に響いてくる音楽を大雑把にソウル・ミュージックって言い切ってしまえば、チャンス・ザ・ラッパーの『Coloring Book』もソウル・ミュージックのひとつなのかもしれない。ていうか僕にとってはもうまるっきりソウル・ミュージックです(笑)。

そりゃネットで歌詞を検索して和訳を見りゃ、へぇ~、そんなこと言ってんだってそれはそれで感心するし、どっかのライターが書いたレビューなんか読んでると、このアルバムにはピーターパンに出てくるウェンディが出てくるんだけど、そのウェンディはチャンス・ザ・ラッパーの故郷である全米一治安が悪いとされるシカゴ、ウィンディ・シティとかかっているとかで、そういうのが同じくシカゴ出身の先輩ラッパーであるカニエ・ウェストの昔のアルバムでも引用されてたとか、まぁ他のヒップ・ホップ音楽と同じようにそんなような背景が山ほどあるみたいだけど、そんなことは当然こっちはなんも分かんない(笑)。でも分かんなくてもそれで通用するというか、とにかく聴いてて幸せな気持ちになるっていうか、家人が寝静まった夜に聴いてたりすると、もうソファに座ってられなくて、立ちあがって踊りだしてしまうっていうか、まぁ実際恥ずかしながら踊りだしてしまうんだけど(笑)、要はそういうポジティブなエネルギーがこのアルバム(←正しくはミックス・テープって言うらしいです)には溢れるようにあるってことです。ま、そんな日は興奮してなかなか寝付けなかったりするんですが(笑)。

YOUTUBEで彼のライブ映像なんかを見ると本人も周りもみんな楽しそうで笑いながらラップしてるし、そりゃ『Same Drugs』をみんなで一緒にシンガ・ロングする映像を見てたらうらやましいし、ホント美しい光景だなって思うけど、もし僕がそこにいて英語なんか分からなくても、同じように美しい光景だなって、心が打たれて一緒に歌っている気分になるんじゃないかなぁって。あ、後から知ったけどこの歌、とってもいい歌詞です。

ラップってのは僕の解釈だとブルースというか、うまくいかない事とか、つらい事やな事をはっきりとそんなのクソ食らえだぜみたいに言ってしまったり、世の中そんなのおかしいじゃねぇかっていうようなことに反逆したりっていう怒りとか憤りっていう割とネガティブな声を力に変えていくっていうイメージがあるんだけど、このアルバムに至ってはそうしたネガティブな声を感じないというか、そりゃ歌詞をちゃんと見ていけばそういうのもあるのかもしれないけど、とにかく僕が感じるイメージとしては、祝福とか喜びとか生きていることを讃えている、ただそこにいることを讃えている、そんなポジティブな光がめいっぱい放射されていて、彼は音楽は売らない主義とかでCD化はされてないし、無料でダウンロードできて、僕ももっぱらYOUTUBEで聴いているんだけど、そういう彼の態度っていうのかな、要は子供たち、みんな聴いてくれみたいな彼の果てしない陽のパワー、ビッグ・バンみたいな陽性の力が伝わってくる、スマホで聴こうがなんだろうがちゃんと伝わってくる、それはやっぱ感動的な事なのです。

あと音楽的なところで言うと随分ラップのイメージとは異なっていて、ボン・イヴェールの『22,A Million』なみに声にエフェクト利かせまくってるし、ラッパ隊もきらびやかで、ゴスペルもふんだんに出てくる。ラップっていうと一定のリズムを延々ループさせてそこにリリックを乗せていくっていうイメージだけど、このアルバムはメロディもあるしポップ・ソングでいうサビみたいなのもある。それにトラックはメチャクチャカッコイイ!!僕がソウル・ミュージックだなんて言ったのはそんなところにも起因するのかもしれないけど、その場合、普通はラップとはみなされないらしくて、でもこのアルバムは、っていうか流石にチャンス・ザ・ラッパーっていうくらいだし、やっぱちゃんと自他ともにラップとして成立してしまっているところが実はスゴイところらしいです。らしいですってこんだけ書いておきながらなんですが、これも後から知ったことなので(笑)。

ラップらしからぬと言えばリリックも断然そんな感じで、前述のとおり僕はラップをあんまり知らないから偉そうなことは言えないけど、ラップってどっちかっつうとドギツイ言葉が出てきて攻撃的というかマッチョなイメージがあったりするんだけど(←どーも偏見でスミマセンッ)、このアルバムに出てくる情景ってのは全然そういうんじゃなくて、そりゃ『Summer Friends』みたいに友達がいなくなったりいい話じゃないことがいっぱい出てきたりするんだけど、そういうのが怒りに転化されるんじゃなく、日本にいて平和で自分も含めて身近な人が銃で撃たれてっていう世界とは無縁の僕みたいな人間にでも凄く自然に入ってくるというかスッと馴染んでいく表現になっていて。だからシカゴで生まれ育ったことは彼のアイデンティティーに大きく関与しているわけだけど、だからと言って暴力的になってかないっていうか、やっぱゴスペルであったり語弊があるかもしれないけど『Summer Friends』の美しさ、祈りに向かって行くというような美しさというようなものがあって、あんまり共感って言葉は好きじゃないから使わないけど(笑)、そういう部分も親子程年の離れた青年から僕は教えられたような気がして。そしてそれはやっぱり日本にいてもある種のリアリティが感じられる、よりよいベクトルへ向かう力になり得るものだと僕は思うのです。

ラッパーっていうととかくイメージがよろしくなくて、ドラッグとか暴力的な事とかがついて回るというか、実際チャンス・ザ・ラッパーも子どもの時にラッパーになりたいなんて言うと随分怪訝な顔をされたらしくって。でも当然ラッパーに知性は必要だし、社会的な貢献や影響も大きいし、なんだったらオバマ大統領(当時)に会ったりすることもあるんだぜっていう。そういうラッパーとしての地位向上というか意識を変えていくんだっていう意味合いもあってチャンス・ザ・ラッパーって名前にわざわざしたとかで、そこにもやっぱ彼の気概を感じられるし、音楽的にだって通常のラップではない新しいことにチャレンジしたり、音楽をフリーで提供するってやり方も、これはメジャーと契約しなくたって出来るんじゃないかと思って実際にやってしまって革命を起こしてしまっているし、そうした切り開いていくイメージが、一番最初の、何も知らないまま彼の音楽をYOUTUBEで初めて聴いた時に感じた、なんじゃこりゃ!?すげー、すげーよっ!!っていうどんどん溢れてくる陽性のパワーにも繋がってて、やっぱこの光の源はここにあんだよ、うんうん、っていう感じで。だからラップとかヒップ・ホップとかそんなカテゴリー云々じゃなくて大げさかもしれないけど『Coloring Book』は今この時代に光を差すような、人々の背中を押すような、時代とか世代とか性別とか国境とか人種とかを超えて、音楽を道具って言ったら怒られるかもしれないけど、実際に人々が前を向いて歩く力になり得るホントに素晴らしいアルバムだと僕は心から思うのです。

なんかひとりで盛り上がってますが、チャンスさんのことを知ったのは実はほん2、3週間ほど前のことでして…。なのでなんだ今頃知ったのか、っていうツッコミは自分で自分にしておきます(笑)。あとこのアルバムは色んな人が参加しているので、まだチャンスさんの声とごっちゃになってますってツッコミも一応(笑)。それとこういう音楽は子供たちや嫁さんのいる休日のリビングでかけたいなぁって思うので、僕個人としてはやっぱCD出して欲しいです…。わ、言うてもうた(笑)。

 

1. All We Got (feat. Kanye West & Chicago Children’s Choir)
2. No Problem (feat. Lil Wayne & 2 Chainz)
3. Summer Friends (feat. Jeremih & Francis & The Lights)
4. D.R.A.M. Sings Special
5. Blessings
6. Same Drugs
7. Mixtape (feat. Young Thug & Lil Yachty)
8. Angels (feat. Saba)
9. Juke Jam (feat. Justin Bieber & Towkio)
10.All Night (feat. Knox Fortune)
11.How Great (feat. Jay Electronica & My cousin Nicole)
12.Smoke Break (feat. Future)
13.Finish Line / Drown (feat. T-Pain, Kirk Franklin, Eryn Allen Kane & Noname)
14.Blessings (feat. Ty Dolla Sign, Anderson .Paak, BJ The Chicago Kid & Raury)

Heathen Chemistry/Oasis 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Heathen Chemistry』(2002年)Oasis
(ヒーザン・ケミストリー/オアシス)

 

今年のサマソニにノエルが来るってことで、最近のノエルのセット・リストを眺めてたら『Little by Little』が載っていて、なんかちょっと聴きたいなぁと思って久しぶりにアルバム『ヒーザン・ケミストリー』を聴いてみたら今さら気に入っちゃって、最近は結構な頻度で聴いている。とまあ、聴いてると色々思うところがあったので、今さらながらのレビューです(笑)。

オープニングは1stシングルにもなった『The Hindu Times』。シングルらしい明朗な曲だ。タイトルどおりノエルのインド趣味が出ています。ま、このぐらいならかわいいもの。前作の『スタンディング・オン・ザ・ショルダー・オブ・ジャイアンツ』で見せたサイケデリアも継承しています。

1曲目の流れを引き継いでたゆたうドラム・マシーンから入るは、『Force of Nature』。ノエルのボーカル曲だ。大体ノエルは一番いい歌を歌いたがるんだけど、この曲はそうでもないような…。でもこの高音はこん時のリアムにゃムリだな。続く3曲目はゲム・アーチャー作。ってことで今作はドラマーのアラン・ホワイト以外のメンバー4人が作詞曲を行っているのも特徴。で3曲目の『Hung in a Bad Place』。これがなかなかいいんです。結論から言って何ですが、このアルバム、結構いい曲があって良盤だと思うのですが、カッコイイかとなるとちょっと答えに詰まります。そんな中『Hung in a Bad Place』はいい線言ってます。アルバム中随一のカッコイイ曲がゲム作っていうのも何ですが…。

で4曲目は渾身のバラード、『Stop Crying Your Heart Out』。やっぱリアムの声はいいね。だいぶ盛り上がってますが、ストリングスなんか無くっても多分ええ曲です。続く『Song Bird』はリアム作の小品。ってかリアムはいい小品書くねぇ。昨年のソロ・アルバムを含めても、僕はこの曲がリアムのベストではないかなと。

続いては『Littele by Littele』。ノエルが血管浮き出して歌っている姿が目に浮かぶ(笑)。普通にいい曲。安定感抜群。これぞノエル。やっぱ盤石やね。

次の『A Quick Peep』はアンディ作の短いインスト。その次の『(Probably) All in the Mind』と『She Is Love』の流れが僕は結構好きです。『(Probably) All in the Mind』の方は若干のサイケデリアを絡ませつつハッピーな雰囲気でいい感じ。どっかで聴いたことのあるようなっていうノエル作にはよくパターン(笑)。『She Is Love』もいい。リアムが『Song Bird』ならノエルはこれって感じかな。曲のこなれ具合が全然違うけどどっちもいい曲だ。

10曲目の『Born on a Different Cloud』はリアムの作詞曲。こんな大曲も書けるんやね。今のリアムがこういうのに取り組んでみても面白いかも。続く『Better Man』もリアム作。まあこれはこんなもんというか、だいぶバンドに助けられてるというか(笑)。そうそうこのアルバムはサウンドがいいのです。素直にバンド感が前面に出ててそういう部分もこのアルバムの風通しを良くしている一因じゃないかな。そういや今のノエルのバンドにはゲムも参加しているみたいなので、今年のライブではゲムのギター・プレイも楽しみだ。で最後はノエルがボーカルの『You’ve Got the Heart of a Star』で締め。ゆったりとした穏やかな曲で終了です。

ガツンと来るのが『Hung in a Bad Place』だけなのがちょっと寂しいけど、ここに来てバンド感が高まってきているし、何より全体を通していい曲が揃ってる。初期のアルバムが強烈過ぎるから目立たないけど、僕は地味に穏やかでいいアルバムだと思います。ただまあ、オアシスが地味に穏やかってのがやっぱアレなんやろね(笑)。

 

1. The Hindu Times
2. Force of Nature
3. Hung in a Bad Place
4. Stop Crying Your Heart Out
5. Song Bird
6. Little by Little
7. A Quick Peep
8. (Probably) All in the Mind
9. She Is Love
10.Born on a Different Cloud
11.Better Man
12.You’ve Got the Heart of a Star

Scream Above The Sounds/Stereophonics 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Scream Above The Sounds』(2017)Stereophonics
(スクリーム・アバヴ・ザ・サウンズ/ステレオフォニックス)

 

いや~鉄板やね~。551の豚まんやね~。りくろーおじさんやね~(※1)。間違いないねぇ~。いやいやステレオフォニックスのことですよ。デビュー21年目を迎え10作目のオリジナル・アルバムという多作ぶりもさることながら、今回もいい出来。もう間違いないんすよ。御大、ボブ・ディランもフェイバリットに挙げるぐらいですし(※2)、もうイギリス土産としてヒースロー空港に置いてもいいんじゃないですか(※3)!?

てことでステレオフォニックスの10枚目、『スクリーム・アバヴ・ザ・サウンズ』のレビューです。先ずは1曲目。サビで「コート・バイ・ザ・ウィン~♪」ってそよ風吹いてます。どうです、この軽やかさ。デビュー20年を経てのこの軽やかさはちょっとやそっとで出ませんぜ。リリックにある「屋根の上で日光浴(Sunbathing on the roof)」をしているかのようなギター・リフが心地よい。ここで早くも私は思いましたね。今回も間違いない!

続く2曲目『Taken A Tumble』も軽快なロック・チューン。こりゃ懐かしのストリート・ロック、ジョン・メレンキャンプやん。軽やかに進むと思いきや、後半はリリックが膨らんでドラムもろとも畳み掛けてくる。流石フォニックス、カッコいいぜ!

3曲目『What’s All The Fuss About?』はちょっと趣が変わってフラメンコ(←あくまでもイメージです)。哀愁漂うトランペットといい、気分は『私だけの十字架(※4)』(←これも勝手なイメージです)。この曲も後半にかけて畳み掛けてきます。なんか今回のアルバムはこういうの多いな。アウトロのフラメンコ・ギターが沁みるぜ。

『Geronimo』は多分ライミングとかアクセント先行で出来た曲やね。全編韻を踏んでます。中でもサビの「~like a domino」と「~like Jeronimo」の韻がイカす。そーです。カッコよけりゃ意味なんて雰囲気でどーとでもなるのです。こういう遊びで作ったような曲がえてしてカッコイイから不思議。演ってる方も実はこういうのが一番楽しかったりするのではないでしょうか。曲の中盤では珍しくサックスだ。ちなみにジェロニモといえばつい「アパッチの雄叫び(※5)」を思い出してしまいますが、全く関係ありませんのであしからず。

フォニックスの魅力の一つはリリック、とりわけそのストーリー・テリングにある。今回で言えば5曲目の『All In One Night』だ。余計な感情は一切排し、時間軸に沿ってただ物語だけが進行していく。リリックにもサウンドにも大げさな仕掛けは一切なし。にもかかわらず、徐々に立ち上がる情感。見事である。

6曲目の『Chances Are』は同じフレーズを繰り返しながらサウンドが徐々に盛り上がっていくハード・ロック・ナンバー。最後は盛り上がっちゃってどうしようもなくなる感じがいい。7曲目は今は亡き元メンバーへ捧げる『Before Anyone Knew Our Name』。ピアノの伴奏のみで静かに歌われる。ピアノはケリー自身によるものだろうか。

8曲目は珍しくサビがファルセットの『Would You Believe?』。これもストーリー・テリング。でもこっちは主人公の独白で進行していくタイプ。ブルースやね。間奏から入ってくるギター・ソロがたまらんね。ウイスキーでもグッとあおりましょうか。そんな感じです。ま、したことないけどっ。

続く『Cryin’ In Your Beer』は古き良きロックン・ロール。ヴィンテージ・ロックだ。オルガンもグイングインしちゃってるし、ここでもサックスがブロウ・アップだ。アメリカっぽいな~。元々フォニックスは大陸的な大らかさがあるバンドだけど、今回は特にその傾向が強い。

そしてケリーの回想録のような『Boy On A Bike』をはさみ本編ラストの『Elevators』へ。これなんかもすごくアメリカっぽい。ジョン・メレンキャンプ感満載で、ピアノのフレーズなんてブルース・スプリングスティーン&ザ・ E・ストリート・バンドみたい。でもサビにかかるとやっぱ英国的な情緒があって、そういうとこがまたいいんだよな。

ってことで本編全11曲。細かくコンピューター・サウンドを取り入れてみたり、ハード・ロッキンしたり、ケリー・ジョーンズの声を満喫できる弾き語りもあったりで、バラエティ豊かな曲調。肩肘張らずに、でも攻めの姿勢は忘れない、そんなフォニックスらしいアルバムではないでしょうか。ここからまた新しい旅が始まるんだという軽やかさがいい!

確固たるスタイルがありつつも決して守りに入らない。不思議と今作る音が今の音になる現役感がフォニックスの最大の強みだ。てことで、やっぱ今回も間違いないぜ!
伝統がありつつも最前線。こりゃやっぱヒースロー空港に置くしかないね!どうです?メイ首相。

 

1. Caught By The Wind
2. Taken A Tumble
3. What’s All The Fuss About?
4. Geronimo
5. All In One Night
6. Chances Are
7. Before Anyone Knew Our Name
8. Would You Believe?
9. Cryin’ In Your Beer
10.Boy On A Bike
11.Elevators

(ボーナス・トラック)
12.Never Going Down(Live at RAK Studios)
13.Drive A Thousand Miles(Graffiti Sessions)
14.Breaking Dawn(Written for Twilight)
15.All In One Night(Unplugged)
16.Caught By The Wind(Unplugged)

 

(※1)「りくろーおじさん」とは、全国的には知られていないが、大阪人にはお馴染みのチーズケーキ店のこと。味もさることながら1ホール700円弱というコスパが嬉しい。父親が昔よく仕事帰りに買ってきたのはそういうことだったのね。今では私が買って帰ります。

(※2)2017年のインタビューで、ボブ・ディランはステレオフォニックスとエイミー・ワインハウスがお気に入りのアーティストであることを明かしている。

(※3)実際、6度の全英№1を誇る国民的バンドでございます。

(※4)テレビ朝日系列で1970年代から80年代にかけて放送された刑事ドラマ『特捜最前線』。当時人気を博した石原軍団の派手な刑事ものとは対極にあるような渋い刑事ドラマ。
当時の小学生は何故かこれを昼の再放送とかで観ていて、誰もがエンディング・テーマ、チリアーノの『私だけの十字架』を歌えた。最後のとこだけやけどね。

(※5)80年代ジャンプ世代にとってジェロニモといえば「キン肉マン」に登場する正義超人、ジェロニモが先ず思い浮かぶ。人間から超人になったレア超人だ。得意技は「ウ~ララ~」という‘アパッチの雄叫び’。地味やな~。

~TRTRに捧ぐ~

Bankrupt!/Phoenix 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Bankrupt!』(2013)Phoenix
(バンクラプト!/フェニックス)

 

フェニックスの5枚目。グラミーを受賞し世界的ブレイクを果たした『Wolfgang Amadeus Phoenix』(2010年)を受けてのアルバムだ。『Wolfgank~』ではついに鉱脈を発見したかのようなフェニックス独自のサウンドを展開。この路線でもう一発行くのかな、ていうかもう一発行って欲しいな、なんていうこちらの甘~い期待を覆すかのように全く違う角度で攻めてきました。てことでさっすがフェニックス、と思いきや、おフランスのマイペースなポップ職人が打ち出したのはなんとオリエンタル。オリエンタルといっても日本や中国ではございませんでぇ!舞台は香港HongKongだ!

オープニングを飾るのは『エンターテインメント』。春節祭でも始まったかのような派手なイントロで皆の頭の上に?が浮かんだところですかさず『Wolfgang~』的なドラムが一気になだれ込んでくるこの過剰さ。こちらの期待を見事に見透かすこのセンスは流石です。ちなみにライブでこの曲がかかる時のテンションは凄いっす。

2曲目『ザ・リアル・シング』、3曲目『S.O.S.イン・ベル・エアー』と続く辺りでこのアルバムの概要は見えてくる。ぎらぎらシンセ全開で騒がしいったらありゃしない。4曲目の『トライング・トゥ・ビー・クール』はそれに加えてオリエンタルな雰囲気満載で気分はもう80年代の香港。そやね、ジャッキー・チェンとかそーいうのではなく、ハリウッド映画の香港とでも言おうか。ほら、80年代の日本を舞台にしたハリウッド映画って唐突にニンジャが出てきたり、やたら派手なメイクのゲイシャが出てきたりってのがあるけどそういう西洋人がイメージするオリエンタルっていうのかな。香港じゃなくてHongKongってことです。

でそれをオシャレに切り取ってみせるのがフェニックスならではというか、でも普通香港はオシャレになんないでしょーよ?それがオシャレになっちゃうんだから参りました。この辺りのハンドル捌きはホントにお見事です。

世間の流行廃りに頓着なく好きな事をやって、しかもそいつがセンスいいんだから文句のつけようがない。しかしそう思えるのも元々の曲がいいから。今回も相変わらずいいメロディを書いている。きっとソングライティングがずば抜けているから何をやってもOKなんだろね。ご機嫌な曲もいいんだけど、#7『クロロフォルム』とか#9『ブルジョワ』といったスロー・ソングの組み立て方なんてホントに上手い。

でもっていつもと変わらないトーマの甘い声があるんだから、アレンジがどう変わろうと、やっぱりどこをどう切ってもフェニックスなアルバムである。

 

1. Entertainment
2. The Real Thing
3. S.O.S. in Bel Air
4. Trying to Be Cool
5. Bankrupt!
6. Drakkar Noir
7. Chloroform
8. Don’t
9. Bourgeois
10.Oblique City

フェニックス史上最も派手なアルバムだ!

『フー・ビルト・ザ・ムーン』を聴いて思った事

 

『フー・ビルト・ザ・ムーン』を聴いて思った事

 

ノエル・ギャラガーの『フー・ビルト・ザ・ムーン』の評判がすこぶる良い。僕も最近よく聴くのはもっぱらこのアルバムだ。進化したサウンドがノエルのソングライティングを一段も二段も引っ張り上げており、ただでさえ次元の違うノエルの曲が、また別のステージに向かっていることを感じさせる全く新しいアルバムだ。というわけで僕はこのアルバムを勝手に「ノエル、宇宙の旅」なんて呼んでいる。

ソロになってからのノエルは勿論曲がずば抜けているのだからいいことはいいのだけど、どうしてもあの声にやられた身としてはそこにあの声を探してしまう。けれどこのアルバムにはもうそれはほとんど感じられない。ノエルの声として成立してしまっているからだ。要するにそれだけオアシス的なものからかけ離れたサウンドになっている訳だけど、じゃあ仮に今ノエルがリアムが歌うことを前提として曲なりサウンドなりを作ったなら、ここまでの曲想の広がりは望めたかどうか。

勿論、稀有な二人がそのまま揃っていたとして、再びとんでもない化学反応が起きて今回とは全く違う角度で新たな傑作が生まれていたのかもしれないが、やっぱりそれは可能性としてはかなり低かった訳で、そうなるとやはり二人が別の道を行くというのは意味があったということなのだ。

ただここまで来るのにノエルはソロ3作を要したわけで、やっぱりそれだけの時間が必要だったのかもしれず、そう考えると昨年ようやくソロ・アルバムを出したリアムだって、確かにあれはオアシス的なものを全肯定してゆくアルバムでそれはそれで素晴らしかったんだけど、時間をかけていけば今後どうなっていくかは分からないし、リアムはリアムで別の次元の新しい扉を開けていくかもしれない。そういうわけで類まれな才能を更に解放させるためにもそれぞれがそれぞれの制約から離れるというのはとても大事な事なのかもしれない。

で結局僕らが望むのは二人が妥協して(二人に限ってそんなことはあり得ないけど)ありきたりな作品を残すってことじゃなく、どうせなら僕らファンを置き去りにするぐらいの新しい力に溢れた瑞々しい作品であって、それはもう二人が組もうが別々に進もうが変わりはないこと。だからそういう流れの中で、二人がまた同じ方向を向いて、じゃあこっち行くぜってなりゃあそれは勿論めちゃくちゃ嬉しいことだけど、それはやっぱ二次的な事なんだな。

だから僕が『フー・ビルト・ザ・ムーン』を聴いて思った事、というよりむしろノエルとリアムが新しいアルバムを出した2017年を受けて今思うことは、これがリアムの声だったらとか、これがノエルの曲だったらとかってのはまぁ飲み屋のネタぐらいにして、僕たちもそろそろノエルはノエルとして、リアムはリアムとして接していく、そういうものの見方が体に馴染んできているのかなってことです。勿論これは大いに前向きに捉えていい事ではないでしょうか。

2017年 洋楽ベスト・アルバム

洋楽レビュー:

『style of far east が選ぶ 2017年 洋楽ベスト・アルバム』

 

今年も多くのCDを購入した。と言っても新譜が月2枚程度だから趣味とすりゃかわいいもん。月2枚と言えど、買い物リストを見ると新旧の実力者がずらりと並んでいるので、我ながらかなりがっしりとした購入履歴になっていると思います。

さて毎年年末になると国内外の音楽誌でベスト・アルバムの発表があります。国内のロッキンオンとNMEジャパン、海外のローリングストーン誌にピッチフォークをさら~っと見たけど、僕の購入履歴にあったのは12枚。意外と高確率でした。ハイムがどこにも載っていなかったのは意外だったな。で軒並み高評価のロードは未購入。毎年ふ~ん、て感じで眺めているだけだけど結構楽しい。こういうの好きです。

僕にとって2017年の最大のニュースはやはりギャラガー兄弟が揃って新譜を出したこと。特にリアムがようやくソロを出し、それが僕たちの期待するリアム像そのものを体現するアルバムであるというこれ以上の無い復活の仕方で、しかもその復活したステージをサマーソニックで至近距離で見れた、そして期待に違わぬステージを見せてくれたっていうのは本当に特別な体験でした。

一方のノエルはそんなリアム騒ぎなんてどこ吹く風、オアシス時代をはるか遠くに追いやる素晴らしいアルバムを出した。これはこれで最高な出来事で、やっぱこうやって二人が二人のキャラクターに沿った新しい音楽を制約なしに思いっ切りやってくれることが僕たちにとっちゃ一番嬉しいのだ。

2017年は僕の好きなバンドが続々と新作を出してきて聴く方も大変だったんだけど、そのいずれもがホントに良く出来た作品ばかりで、かなり濃密な音楽体験となった。名前を挙げると、ケンドリック・ラマーにパラモア、フェニックス、ハイム、ファスター・ザ・ピープルなどなど。初めて聴いたThe XXやウルフ・アリス、フォクシジェン、ザ・ウォー・オン・ドラッグスも良かったし、年末にかけてのキラーズとベックも最高だったな。

そんな中、僕の個人的なベスト・アルバムは、フォスター・ザ・ピープルの『セイクレッド・ハーツ・クラブ』。ウルフ・アリスの『ヴィジョンズ・オヴ・ア・ライフ』とベックの『カラーズ』と迷ったんだけど、ウルフ・アリスはまだまだこれから先に凄いのを持ってきそうだし、ベックはもうそりゃこれぐらいやるでしょうよってことで、フォスター・ザ・ピープルに決めました。やっぱ今までのキャリアの総括というか、ここにきて一気にスパークした感じがするし、最近改めて聴いてみてもやっぱそのエネルギーの質量はハンパないなと。国内外の音楽誌のベスト・アルバム選にはあまり入っていなかったけど、僕は凄いアルバムだと思います。

あとおまけでベスト・トラックも。これはThe XXの『オン・ホールド』にします。年初に聴いたものはどうしても印象が薄れていくんだけど、今聴いてもやっぱりいい。こういう切ない感じに僕は弱いです。

ま、一応面白半分で選んでみたけど、どのアルバムもホントに素晴らしくて、この先も聞き続けていけるものばかり。最初にも言ったけど、2017年はがっしりとした重量感のあるアルバムが沢山あったなという印象を受けました。

ここ数年はあまりバタバタと買い漁ることも無くなってきたし、落ち着いた洋楽ライフになって来たと思います。この調子で2018年もいつものもの、新しいもの、平たい気持ちで素晴らしい音楽に出会いたいものです。

ということで、style of far east が選ぶ、2017年 洋楽ベスト・アルバムは、『Sacred Hearts Club』 Foster The People。2017年 洋楽ベスト・トラックは、『On Hold』 The XX に決定です!

Who Built The Moon/Noel Gallagher’s High Flying Birds 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Who Built The Moon』(2017)Noel Gallagher’s High Flying Birds
(フー・ビルト・ザ・ムーン/ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ)

 

ノエルは事前に曲を用意しサウンド・デザインもあらかた決めてからレコーディングに入る人で、その完璧主義者ぶりはオアシス・ファンの間では有名だ。そのノエルが今回は20年以上のキャリアの中で初めて曲を何ひとつ用意せずスタジオに入ったという。プロデューサーのデヴィッド・ホルムスと二人きり、あーでもないこーでもないとサウンドのアイデアを練りつつ後から曲を作るという従来とは全く逆のパターンで取り組んだそうだ。

多分ノエルなら手癖でいい曲を幾らでも書けるだろうしそれなりのアルバムを作れるだろうけど、それでノエルが満たされるかっていうとそうではないだろうし、そこに目を付けて「じゃあ、いっちょやったるか」ってノエルのモチベーションに着火させたデヴィッド・ホルムスの手腕(なんと『ザ・マン・フー・ビルト・ザ・ムーン』のサビを7回も書き直させた!)がこのアルバムの全てだろう。

てことでいつものノエル節といやぁノエル節なんだけど、その出所が違うとこうも違うかってぐらい次元が違う切れ味というか、もちろん今までのノエルの曲も最高なんだけど、ちょっとこれは別のとこへ行っちゃったなって印象で、例えて言うなら別の惑星に行って宇宙服着て帰ってきたって感じ(笑)。ということでこのアルバムを僕は心の中で「ノエル、宇宙の旅」って呼んでます。どっちにしても今までとは分けて考えた方がいいかもしれない。

ノエルより先に出たリアムのソロも相当かっこよかったんだけど、ちょっとベクトルが違い過ぎて笑ってしまう(どっちがどうという意味ではなく)しかないというか、ビッグ・セールスを上げるリアムを横目に余裕ぶっこいてたのがこのアルバムを聴けばよく分かるし、ノエル自身も「今の俺はピークにある」と言い放つくらいだから、やっぱ別の扉を開けたという確信があったのだろう。1曲目のインストからその萌芽は感じられるし、2曲目の『ホーリー・マウンテン』で軽く慣らしといて、3曲目の『キープ・オン・リーチング』から本格的に始まる新しいサウンドはこっちも聴いていて興奮してしまう。4曲目の『ビューティフル・ワールド』でフランス語の朗読が出てくるところなんか最高だ。

どっかのレビューに書いてあったとおり、これまでに近いサウンドは#7『ブラック・アンド・ホワイト・サンシャイン』ぐらいなもんで後はもうオアシス的なものを置いてけぼりにするぐらい一気に駆け抜けていってしまう。やっぱこのぐらいやってもらわないとね。ていうかスイッチが入ったノエルならこれぐらいはやるでしょう(笑)。

ところでこの素晴らしくオープンなアルバムを聴いていて思い出したのが同時期にリリースされたベックの『Colors』。あちらもベックとプロデューサーのグレッグ・カースティンによる二人三脚で作られたアルバムで、僕は以前このブログで『Colors』をベックの幸福論なんて呼んだけど、このノエルの新作も本人が「俺は喜びの曲を歌う」と断言するように同じく全ての人に開かれたノエルの幸福論と言ってもいいようなアルバムで、こうして90年代にデビューし一つの時代を築いた二人が同時期にこんなにも肯定的なダンス・アルバムを作ったというのは偶然とはいえ何やら特別の事のように思えてならない。

もう一つ付け加えておくと、初期オアシスのB面曲はなんでB面やのにこんな名曲やねん!ってぐらいやることなすこと名曲揃いだったのだが、今回のボーナス・トラックもそれに負けず劣らずの名曲。特に#12『デッド・イン・ザ・ウェザー』はかなりヤバい!ってことでやっぱノエルは絶好調のようです(笑)。

最後に余計なことを言うと、僕たちはノエルの曲についてはついついいつまでもこれがリアムの声だとどんな感じになるんだろうって考えてしまうけど、まぁこれからはそれも半ば面白半分にして、ノエルにとってオアシスはもう済んだ事だということを僕たちもそろそろ体に馴染ませないといけないのかもしれない。それにはちょうどいいアルバム。こんだけサウンドが更新されて宇宙的になってしまうともうノエルの声でも違和感ないかも。

 

1. Fort Knox
2. Holy Mountain
3. Keep On Reaching
4. It’s A Beautiful World
5. She Taught Me How To Fly
6. Be Careful What You Wish For
7. Black & White Sunshine
8. Interlude (Wednesday Part 1)
9. If Love Is The Law
10. The Man Who Built The Moon
11. End Credits (Wednesday Part 2)

(ボーナス・トラック)
12. Dead In The Water (Live at RTÉ 2FM Studios, Dublin)
13. God Help Us All

A Deeper Understanding/The War On Drugs 感想レビュー

洋楽レビュー:

『A Deeper Understanding』(2017)The War On Drugs
(ア・ディーパー・アンダスタンディング/ザ・ウォー・オン・ドラッグス)

 

ソングライターのアダム・グランデュシエル率いる米国のインディー・バンドの4作目。一応バンドってことでメンバーの写真が載っていたりしますが、こりゃ完全にアダムさんのプライベート・アルバムですな。

一人スタジオに籠って創作に励みつつ、ある程度固まってきたらバンドを呼んでセッションをするといった感じでしょうか。ということでこの人、かなりオタクです、多分。ホントに音楽が好きなんだろうなぁって印象を受けるアルバムで、少し昔であれば一人でここまで出来なかったんだろうけど、今は家でアルバム1枚作るなんてことも出来る時代だから自分の好き放題、時間をかけて朝から晩まで、細部まで凝って創作に打ち込める。なんかプラモデルを作ってる感覚に近いのかもしれないけど、そこに閉じた感じがしないのはやっぱバンドだからであって、この人自身はそんな明るい人でもないのかもしれないけど(←スミマセンッ、勝手な想像です)、みんなでせぇのーでバーンとやってしまうことの意味もちゃんと分かっている人で、結局体質的にも自分が作る曲もどうしてもそうなってしまうんだろうし、やっぱ一人ではなく仲間といることが好きな人なんだろう。この曲の強さはそういうことかもしれない。てことでそんなアダムさんに付き合っちゃうここのメンバーはきっと優しい人たちに違いないっ!

サウンド的にはもう思いっ切りブルース・スプリングスティーン。で、歌唱法はボブ・ディランかな。2010年代ということで今風なドリーム・ポップ的高揚感だったり、あとシンセも結構多用してて80年代の香りもするけど基本はスプリングスティーン。でも大向う相手に見得を切るって訳じゃなく、教室の隅っこにいる静かなスプリングスティーンって感じ(笑)。スプリングスティーン大好き感が凄く出てて微笑ましいです。

歌詞はプライベート感満載で彼女がいなくなっちゃった男の独白。だからまぁ、語るようなもんではないです(笑)。その代りにバンドが雄弁というか、アダムさん自身の演奏とか打ち込みもそうだけどホントに細かく重ねられていて、そこにギター・ソロとかシンセやウーリッツァーなんかがサーッと流れてくるのは凄く気持ちいいし、それらがまたメロディアスだから余計に行間を語る感じがしてとてもいいのです。そうやね、俳句的なところはあるかもね。

このバンドは3作目の『ロスト・イン・ザ・ドリーム』でブレイクしたわけだけど、今回のアルバムもこんな感じだし、次もこんな感じになるのだろう。どっかで今後はウィルコみたいな存在になるかもなんて書かれていたけど、このひとりぼっちな感じの独特の佇まいはちょっと違うかな。

どこがいいのって言われても返事に困るアルバムってのがあって、特に楽しいわけでもなく、かといって地味でもないし、じゃあ内省的な暗い感じかと言われれば解放感はあるし明るい感じもある。自分でもよく分からないけどまぁ聴いてて心地いいというか、通勤中に何聴こうかなんて物色しているとついついこれを選んでしまう。こりゃすげぇよって夢中になるわけじゃないんだけど実は一番聴いてんのこれじゃねぇ?っていうやつです。なんかレビューになってないな(笑)。男はこういうメランコリックなの好きだけど、女の人はどうなのかなぁ。

 

1. Up All Night
2. Pain
3. Holding On
4. Strangest Thing
5. Knocked Down
6. Nothing To Find
7. Thinking Of A Place
8. In Chains
9. Clean Living
10. You Don’t Have To Go

(日本盤ボーナス・トラック)
11. Holding On(Live)
12. Pain(Live)

ボートラが良いです。家内手工業的なオリジナルよりこっちの方がごちゃごちゃした躍動感があって好きかな。