搾取

ポエトリー:

『搾取』

 

インターネットを越えて私たちの脳髄に食い込む彼の地の 貧困 暴力 差別

私たちの栄養は彼の地の困難と地続きだ

 

ぼやけた人間の宿命を

脳髄に打ち込まれた回線で

私たちは配達する

使い古しの靴下を

私たちは搾取する

隣近所の果樹園を

私たちは強奪する

向こう岸の獲物を

 

このまま事が運ぶわけがない

私たちはきっと

一杯食わされているに違いない

 

私はもう聖者にはなれない

私たちは友だちであり

私たちは商売敵

 

私のナイキのスニーカーは

あいつの裏庭を踏み潰している

 

2017年5月

新しい世界

ポエトリー:

『新しい世界』

 

世界は今、昔より 遠くなった

数ある社会の今 一部になった

 

見知らぬ人が道の上 取り残されていたら

私はすぐに声かけて 手を差し伸ばせるだろうか

 

道が増えてきた

街が混んできた

 

友達とは今 そんなに会わなくなった

友達は今、昔より 身近になった

 

家族が見知らぬ夜の中 取り残されたとしたら

私は今すぐ駆け出して 辿りつけるだろうか

 

風が遠のいた

海は凪いでいた

 

世界は今、昔より 届かなくなった

数ある社会の組織の今 一部になった

 

2017年7月

生きながらにして

ポエトリー:

『生きながらにして』

 

全体的に君の目は途方に暮れてる

だから金輪際、僕は目を合わさない事にした

君の木立は日影が多い

あくる日のポテトサラダのようでパンに挟んで食べたくなる

嘘を凍らせた湖はスムーズには滑らない

その違和感を楽しむのはいい趣味とは言えないな

 

ガーデニングを趣味にする

添え木を何本にするかで日が暮れた

そう言えば

行儀が良い子供だったな

他の子は空を飛べるような仕草を見せたけど

子供は子供っぽい仕草を見せるものだから

僕が一番現実的だったのはその頃

校長の話があれほど馬鹿馬鹿しく聞こえたことはない

 

行くあてを自分で作る君は流石だと思う

大丈夫、君は損なんかしていない

胸を張って歩くから僕はつい見てしまう

そういう僕を

また見てるみたいな顔をする君の趣味もほんと最悪

 

2017年7月

 

おやすみ彼女

ポエトリー:

『おやすみ彼女』

 

魔法に砕かれて彼女はお休み

真夜中の散歩は月の外周

わざとらしく星の砂を落っことし

少しいい服少し正しい言葉

丁寧に頭を下げてご挨拶

 

今朝は花びらに沿って散歩した

花粉に触れて白い裾が黄ばんだ

キャンバスの星屑のようになった

純白のドレスを着たら愛の果て

誰も罰なんて与えやしない

 

何日か経って時間の淵を歩いてみた

何人かも等間隔で歩いていた

時計の針につまずきそうになって手をついたら

時間は回転し元の場所へ辿り着いた

そんな日があって今ここにいる

 

銀色の宇宙船の窓から

あゝあれはあの日落とした星の砂

少しいい服を着た女の子

拾い上げて少し正しく会釈した

彼女はあの子の景色になった

 

2017年7月

夏の余韻

ポエトリー:

『夏の余韻』

 

酷い雨が降ってきた
路地裏で雨宿りをしよう
古い家と適度な湿度に心が柔らかくうずくまる
ひと息つく 回復してゆくのがよく分かる

今思っていることを明日の朝
誰かに言おうと思ったけど
明日の朝ではなく
今すぐにあの人に言うべきだと
帰る道すがら軒先に垂れる雫が
優しく背中を伝う

雨上がりのプリズムの中
大声を上げて走り抜ける子供らを横目に
今宵は地蔵盆
それらしき準備の路地裏で
私にも降る夏の終わりの心構え
最後の余韻が始まろうとしている

それは温もりやいたわりや未来の先を
永遠に枯れることなく
日々を生きる糧として
ずっと向こうまで指し示す
くっきりとしたその生の余韻が
水たまりにのぞくこの光のように
私たちを導かんことを

翌朝早く あの人のおはようが
生暖かい電波に乗ってやってきた
考えるいとまもなく返事を返す指先は
ふんわりと温かい

 

2016年9月

バルにて

ポエトリー:

『バルにて』

 

バルの奥から見える赤いドア枠の扉の隙間をグレーがかった猫が少し頭をもたげた格好で歩いている。揺れる扉のガラスに写り込んだ猫の姿は乱反射し、一匹が二匹にも三匹にも見えた。僕は心の中で言う。おい、お前、名前はなんて言うんだ?他の誰かも心の中で言う。おばさん、あの猫を捕まえてきて。猫は斜めになったドアガラスに写り込んだまま、石畳みを西の方角へ移動する。僕は跡をつける。

中東の入り組んだ住宅街。ここは一転砂の色。酔っ払いか、或いは普段から酔っ払ったようなオヤジが悪態を突く。オメェはどこの国のもんだ?どうやらどの家にも朝から洗濯物がなびいているのが気に入らないようだ。

自転車に轢かれそうになる。と思ったのはこちら側で、グレーがかった猫は見えているのか見えていないのか分からないような格好で、物売りか若しくはくたびれたビジネスマンのようにとりあえず前に進む。うねりながら若干登り坂になった通りの先にようやく市場が見えてきた。温かいスープにこんがり焼けたポテトの山。そんなような事を頭に浮かべながらバルのおばさんは買い物をする。あぁそうだ。僕は今、バルの奥で栄養価の高いワインを食しているところだった。

今夜もまた真っ直ぐ家には帰らないだろう。でもそこが中東の土で出来た幾つかの四角い窓のあるアパートならこのまま帰ってもいい。

 

2014年11月

夏から秋にかけては

ポエトリー:

『夏から秋にかけては』

 

夏から秋にかけては

体調を崩すから嫌だ

夏から秋にかけては

体調を崩すから嫌だ

 

秋から冬にかけては

Virusが舞うから嫌だ

秋から冬にかけては

Virusが舞うから嫌だ

 

冬から春にかけては

離れ離れになるから嫌だ

冬から春にかけては

離れ離れになるから嫌だ

 

夏は命の源

夏は命の源

大切な人もきっと良くなる

 

2016年6月

夕方五時、過去から

ポエトリー:

『夕方五時、過去から』

 

風邪をこじらせた

みたいに咳き込んで

遮断機の音

微かに届く

耳障りな手紙

虚空を流れ

夕飯の流れ

五時の知らせ

持ち運びが未だ

ままならないクラリネット

 

あいにく今はまだ

向かってはいない

何がこの世で

大切なのかさえ

歯ぎしりする痛み

走り出す陽射し

君なしでまだ

やっていける

 

地響きみたいな声

この時期だけの蝉の声

非常ベル気取りで

今年の背中蹴り立てる

駅まで伸びていく道

本屋の前で泣いた記憶

今度ばかりは

見知らぬ記憶

 

真っ暗闇の中

陽射しが高く傾いた

頬杖ついた逆からの光

君はまるで丘の上

輝くヒマワリ

解けた糸がまた絡まるように

途切れた時がまた動き出す

 

今新たな動き

過去からの働き

低く伸びた影を踏んで

あと一歩

形振りほどく背格好まで

あと一歩足りない

 

2017年7月

君は心の声に優しく寄り添う

ポエトリー:

『君は心の声に優しく寄り添う』

 

軽い噂話が君の心を重くさせるだろう

短いすれ違いが君に長い夜をもたらすだろう

心がそばにいて欲しいと君にそっと囁くだろう

八月の雨はもうしばらくアスファルトを叩くだろう

 

君は長雨を理由に友達の誘いを断るだろう

時間が重たい石となって君の上にのしかかるだろう

悲しみは溢れて二階の窓を開け放つだろう

君の涙は誰もいない道端へこぼれ落ちるだろう

 

曖昧なままでいいんだよ

誰だってすべてを乗り越えてきたわけじゃないんだよ

そうやって僕たちは少しづつ生きてきたんだよ

 

時のシーツにくるまって

時間はいつしかおぼろげな過去になる

全ては混ぜ合わさってほどけてゆくだろう

 

2017年8月