漆黒

ポエトリー:

「漆黒」

 

もう少し簡単に言えないものか
この見慣れた景色は
本当はどこまで続いている?

丹念に記された命の乞い
漆黒なら何をしてもいいと
願いが静かに歪められる

一時間後の夜に矛先を向ける

 

2019年4月

夜が朝に切り替わる

ポエトリー:

「夜が朝に切り替わる」

 

実際、あなたの中にある
一途な声
太陽をめがけて
だらしなく弧を描き
ひどく緩慢な朝を迎えに

全体は
夜に裏打ちされし
絶望の壁
催涙ガスを吹いて
夜と通電す

夜面はおもむろに
唸り声を上げ
カスタアド色したあの人の面影
キャンパス一面に塗りたくるようにして
見知らぬ梢から梢
とばりからとばり
無責任に後を託す

夜に動きだす
動きだす列車が
そこかしこにせめぎ合い
蹂躙された新鮮な空気
物乞いをするように
お願いだから止めておくれ

スクロールしている
半永久的に
マグネット的な血の匂いが
半永久的にスクロールして
誰も気にしないまま
夜が朝に切り替わる

 

2019年5月

昨日を乾かす

ポエトリー:

「昨日を乾かす」

 

君に手紙を出した
昨日にお世辞を言う
僕は優しいから
喉が痒い

君の汗
真下に落ちてった
当てずっぽうな光を浴びて
見事に育つ針葉樹

12時台
ガラガラの電車に写る人影
着替えは持たぬ
行き先は知れず

砂粒が
眩しくなるからと
ボールペンは太陽と共に走り
よからぬことを語りだす

観音様にお辞儀をし
邪悪なものが通り過ぎていく
家に帰って米3合を
大事に洗う

神聖な行いは
夜への入口
明日が近づき
それでも昨日が追い付かない

姿形は同じでも
似ても似つかぬ声音を
甘ったるく適度に潤して
それでも今日はまだ今日になっていない

ベランダの奥で
針葉樹はすくすく伸びる
今日もまた昨日を乾かす
汚れは目立たぬようにエプロンをして
夜を明かす

 

2018年10月

ゆで卵の殻が綺麗に剥けたあかつきには

ポエトリー:

「ゆで卵の殻が綺麗に剥けたあかつきには」

 

ゆで卵の殻が綺麗に剥けたあかつきには
君の小窓にコツンと小石を当てて
きめ細かい絹のカーテン
波紋のように広がる

電熱器が暖かくするキッチンの
簡易な丸椅子横に並べて
大切な君の横顔におはようをする、ダンス
している気分で

今日も笑顔をキープして
狭い路地の向こう
仕事場へループする螺旋の
重い荷物を運ぶ舟
舳先は粗末な水飛沫浴び
柄にもなく栄養は二の次
その日の最高気温を記録する昼過ぎには
太陽の熱に柔らかくやられて
願わくば二階の小窓に写る
君の横顔を想いながら

僕の気分はより一層
一足も二足も先にハネムーンから帰った日の朝食
ゆで卵の殻を剥いても薄皮みたいにめくれない夢が頭の中の
キッチンの電熱器の上でグシャっとなる

 

2019年4月

見当違い

ポエトリー:

「見当違い」

 

お日さまの加減が今日はあやしいので
正しさの加減を微調整した
俵型の小判を二枚手に入れた気分だった

人生にはか細いものが付いていて
あの子はサイコロには七があるような気がすると言っていた
洗濯機で花粉は取れるものと思っている

点滅信号機の点滅、
に合わせて彼女が踊るのを思い出して最後まで忘れずに思い出せればと思うこと自体が忘れること
現代詩に引っ張られている気分だった

お客様のご加減が今日はあやしいので
正しさの加減を半分に
警戒する静脈
あぁ今日はもう早く上がるべきだ

僕たちは一体何を冒涜しているのだろうか
心当たりは一切ないのに
もしかしたらあれが
湯上がりに風呂水を全部抜いてしまったのがよくなかったのか

ぱたーんが幾つかの形に変更をかけていた
今ごろ
全て見当違いだった
もちろん
僕にも間違いはあった

ユーカリ

ポエトリー:

「ユーカリ」

 

もうない
というのに時間はむしろ獣
みたいにユーカリの葉
食べてそれかわいいよね、
コアラだよね

自分自身が器になって
落ちそうなものをとどめている気分
周り見渡してもほら
みんな傾いてる
冒険する勇気
それどころじゃないって

ページをパラパラめくる
あら、もうこんなにケンカしてる
目くじら立ててバランス悪いじゃん
バランス
目方の多い方へ流れる
傾く
こぼれ落ちそう

やっぱユーカリだよね
食べても栄養にならないんだよそれ
ていうかむしろ毒
ヤバいやつじゃん

うん、ヤバいやつに手を出したらよくない
のは知ってる
でも体が傾くんだよね
贅肉を削ぎ落として
無駄なものを削ぎ落として
そしたらまたパラレルなまま落ちていけるんじゃないかって
そんな真似できるんじゃないかって
あぁ、それも知ってる?

あなた、
クラスの半分が来なくなっても
席を詰めたりするようなことしないでしょ
いつでも給食当番みたいにちゃんと手渡しする
目を見て

あ、
それやっぱユーカリの葉
いや、むしろかわいいよそれ
ていうかコアラ、
獣(笑)

 

2020年3月

琥珀

ポエトリー:

「琥珀」

 

太陽の光から逃げて
月の裏側に潜む君の琥珀は
輝き出すには早く
転がり出すには脆く
上手く退路を掴めない

そんな日の言い訳を
考えあぐねる夜の景色の
順序よく縦に並んだ影の踏み絵

先頭きって走る君の横を
自動小銃よりものろい速度で共に
間を縫って歩き
時に岩礁に腰掛け
少ないながらも手に入れた
か細い命の手触りを

目一杯引き寄せて
目まぐるしく入れ替わる一瞬の
ため息に触れないまま
逃さぬままで
倦怠感の夜に突き落とす

先輩方の祈りむなしく
落ちる麒麟の声

清々しく朝に光る琥珀を手のひらに乗せ
遠くへ行けよと涙ぐむ朝日が
いつしか君の手を離れて
形あるものになった

 

2020年1月

負けるなとか勝つとかではなく

ポエトリー:

「負けるとか勝つとかではなく」

 

目に見えないものが見える
それは聖地、聖地…
おしなべて
がらくたまみれの現在、現在…
猫も杓子も
お祈りをして
裸のままの聖地

君の顔を洗う
伺う毎日
うがいをして
除菌をして
話しかけよう
あなたは女神
洗剤はミューズ
あなただけが頼りです
頼りですか?
そうです
頼りです

買い物をして
これは新しいんですと
話しかけても上の空
空はだっていつでもオープンエアーですから
思いつめる瞬間もないんです
だからよろしければそこ
もう少し間を空けてもらえませんか?
意地悪で言っているのではなく
あなたを愛しているのです

お命、頂戴つかまつる!
んなわけ
まだまだ長生きをしたいから
芝生の上に寝ころがってオープンエアー
ぐいっと伸びをして
オレは猫になって、
びぃよぉーんと背伸びして広がれよイマジネーション

だから静かにむにゃむにゃ……
よければあなたのお膝を貸してくださいな
心のなかだけですけど

そうそう、
僕のもいくらでも持ってってください心のなかを
まだ減らない想像力で現在の向こうへ

 

2020年4月

おしるこ

ポエトリー:

「おしるこ」

甘い君を見ていると
明日には溶けそうだ
長い君の話を聞いてると
悪い話も丸くなる

一息ついて良かったね
向こうから屋台がやってくる
甘いおしるこいかがです
おじさんお二つくださいな

力が抜けていく
お餅に溶けていく
世界はまるごと丸くなる
二人は赤くなる

出会えて良かったね
話せて良かったね
話した分だけ長くなる
恋は長くなる

世界は願った方には行かないけど
誓いのキッスをいつか出来たらなー

甘い君を見ていると
明日には溶けそうだ
長い君の話を聞いてると
悪い話も明日には丸くなる

一息ついて良かったね
向こうから屋台がやってくる
甘いおしるこいかがです
おじさんお二つくださいな

力が抜けていく
お餅に溶けていく
世界はまるごと丸くなる
二人は赤くなる
お餅は伸びていく

2020年1月