見知らぬ街、ふたり連れ

ポエトリー:

『見知らぬ街、ふたり連れ』

 

連れだって自転車こいで街へ向かう

二人の上には運良く希望

誰だってすぐには叶えられそうにない

遠ざかる昨日

 

歪んだ眼    人より多く見える

繋いだ手    誰より愛して    虚しく届かないんだまだ

 

またね    夢    押しのける君の声  力づけ

たたえられ    俄かに    雲晴れ

陽が    昨日より    よく見える

 

本当のことリボンをかけて渡した

すれ違い忘れ形見

それでも君は受け取ってくれたただ

よくある泣き笑い

 

見上げたね    物陰に隠れて

繋いだ手    誰より愛して    悲しくて届かないんだまだ

 

会ったね    知らぬ間に二人    出会ったね    何が見える

夕映え    花    風に吹かれ

また    昨日のように    消え失せ

またね    夢    押しのける君の声    力づけ

たたえられ    俄かに    雲晴れ

陽が    昨日より    よく見える

 

2015年7月

お風呂フタした隊

お話:

『お風呂フタした隊』

 

「おーい、お風呂フタしたかぁ~。今日しないと三日連続だぞぉ。好きなテレビ見せないからなぁ。今から見に行くぞぉ~。」

「うわぁ、ちょっと待って。多分した。したっけ? えっと、したっけ?えーっと、えーっと。」

 

 

むむっ!『お風呂フタした隊』、集合!
せいれーつ!

 1、2、3、4、5……、7、

おいっ、6番はどうした

多分トイレです

よし、7番、お前呼んで来い!

えっ、俺がですかぁ トイレだったらもうちょっと待ってさぁ

おい、ブツクサ言ってねえで早くいって来い

しょうがねえなぁ  ちぇっ、6番の野郎

 

なんで俺が行かなきゃなんねぇんだ、ブツブツ……チクショー
大体あいつはいっつも急なんだよなあ
そりゃあトイレぐらい入るだろうさ
あぁ、ここだここだ
おーい6番、入ってんだろう
隊長がお呼びだぜ~
おーい6番、入ってんだろう

  ・・・

なんでぇあいつ、返事もしねぇ
おーい6番、いねぇのかぁ
コンコン、

  コンコン、コンコン

ん?入ってんじゃねえか
コンコン、
そろそろ出てこいよぉ

  コンコン、コンコン

おーい、まだ出てこねえのかぁ
いや、出てこねえってのは、そっちじゃなくて、トイレから出てこねえのかって話で、
ややこしいなあもう、まあいいや、とにかく返事しろい

  コンコン、コンコン

なんだよあいつ、コンコン叩くばっかりで返事もしねぇ
ちょっと待てよ
コンコン、

  コンコン、コンコン

やっぱりだ、こりゃあなんか訳でもあんじゃねぇか

 

と7番さん、えっちらおっちら扉を登って中を覗いてみると…

 

  コーン、コン
  コーン、コン
  嫁入りじゃ嫁入りじゃ~        
  キツネのお姫の嫁入りじゃ~

 

なんとそこは大平原
うららかな陽気の下、キツネの嫁入りの大行列が行われているではありませんか

 

ひゃー、おったまげた~
こかぁ、トイレじゃなかったのかぇ
いたいた、6番のやろう、あんなとこ、赤い傘持って何やってんだ
あれじゃあまるっきり行列のお供じゃねえか
なんだあれ、キラキラするもん振り撒いてるぞ
ありゃ金粒じゃねぇか!
オイッ、ちょっと待ってくれ、俺にもそいつ分けてくんろー、分けてくんろー

おっとっと、イテテ、イテテ、こりゃ金粒以外にも、なんか上から、ごつごつゲンコツみたいなのが、頭の上から、あちゃちゃ、イテテテ、

 

ゴン!

オイッ6番!お前さっきから何言ってんだ

クックックッ、6番のやろう、また寝ぼけてやんの

しょうがない、今日は6名で出動だ
『お風呂フタした隊』、出発だ!

 

よいしょ、よいしょ よいしょ、よいしょ

よし、全員登ったな、こっちもOK 誰も来る気配はないぞ
今のうちに、せーので押すぞ

  せ~のっ、ゴロゴロゴロ~

 

ふう~、やっと終わったぜ
この家、ゴロゴロタイプに変わってだいぶ楽になったな
あっ、6番、今頃になってやっと来やがった

おーい、わりいわりい、ちょっと面倒に巻き込まれちゃってさぁ
それが誰かの嫁入りがなんとかかんとかって、終わんねぇのなんのって…

すると、6番さん、肩の上にはなにやらキラキラ光るものが…

あっ、6番、そりゃおめぇ、

 

 

「おっ、フタしてんじゃん」
「あ、ホントだ」あれ、でもボク閉めたかなぁ…

 

皆さんのおうちでもこんなこと、ありませんか?
したはずなのに、していない。
していないのに、ちゃんとしてある。
これらは全て小さなボクの勘違いではないのです。
実は家には『お風呂フタした隊』なる秘密結社がいるのです。
あと、『家のカギ閉めた隊』とか、はたまた『おやつ1個食べちゃう隊』なんかも。

 

「ん?なんだこれ?こんなとこにキラキラ光るもんが…」

 

2017年5月

秋の庭

ポエトリー:

『秋の庭』

 

お手玉をして変わり果てたあの人の肢体に

虫眼鏡を当てた

晩御飯の残り物みたいに昨日の湯気がうっすらと浮かび上がり

その向かいにあるグラスの淵

唇の形が凝視する

朝晩は冷えるから上着を持って行きなさい

おせっかいだほんとにもう

蛍光灯ひとつ

白が気に入らないからオレンジ

オレンジが気に入らないからLED

何のために何を変える?

黙って従うべき言葉も無いまま代わりに

集合写真のような柔らかさで

主人の居ない一戸建ての奥の部屋

慰めてが木霊する

笑っているのは置き忘れた夏の簾で

元気よく泣く赤ちゃんのようにそこだけ立体的

冷たいご飯を温めたりしないで

鉛筆は尖らせないで

辛抱に辛抱を重ね

秋の庭

虫が泣く代わりに猫が泣く

耳障りな音、道路を横切る銅線のようにぶら下がり

それも黒い服を着た今の私なら

簡単に引き摺り下ろせる

 

2017年9月

いい加減な旅行

ポエトリー:

『いい加減な旅行』

 

君の形

嘘の形

唇の形

三分の友達

もう視界の外

逸らしてしまう

 

ルーブルへ行きたいと言う

稜線に触りたいと言う

でも君は何度も何度も

LINEを見返して

僕は何度も何度も

LINEを確かめて

何度も何度もひとりじゃやりきれない

 

鋳型に詰められた忘れ物

今月のノルマもほどほどに

はい、いい加減な性格です

はい、いい加減な生活です

 

先日行った風呂やの窓越し

太平洋や西アフリカや中央アジア

中南米などなど

いい湯加減

ジャンプ読みます

コーヒー牛乳飲みます

 

世界の果てに飛び立つ

今月末が締め切り

準備もそこそこ旅立とう

新しい場所に着いたら

またLINEして落ち合おう

イエーイなんつって

 

列車から覗く景色は夏草が揺れるそれ

トウモロコシ畑のトンガリは宇宙へ駆け出すロケット

いい加減な旅でも構わない

さらりと夏草追い抜いて

大きな顔のあの人を出し抜いてしまおう

 

2017年8月

ポエトリー:

『朝』

 

新しい朝

カカオ80%で休息を

電車に乗り遅れないようにしなくちゃ

 

壊れかけたミキサーに果物を入れ

いつもと同じ栄養源

何度洗っても落ちないコンタクトレンズの汚れ

パウダールームの憂鬱

無くしては探して

見つけてはまた見失う

 

だけど空っぽのクローゼット

今日も着ていく服が無い

 

まだ見失うまい

悲しいフリをするのはもうやめた

 

昨日デパ地下で買ったクロワッサンの匂い

国境を越える彼女の笑顔

真新しい明日

真っ暗闇の明日

それでも君はアジアのきらめき

どが付くリアリスト

澄み渡る風

言葉と言葉の間をすり抜ける君の新しい明日へ

 

ゴビ砂漠に照り続ける太陽のような君の後悔も越えて

きっと遠くイスタンブールまで見渡せる

 

2012年11月

搾取

ポエトリー:

『搾取』

 

インターネットを越えて私たちの脳髄に食い込む彼の地の 貧困 暴力 差別

私たちの栄養は彼の地の困難と地続きだ

 

ぼやけた人間の宿命を

脳髄に打ち込まれた回線で

私たちは配達する

使い古しの靴下を

私たちは搾取する

隣近所の果樹園を

私たちは強奪する

向こう岸の獲物を

 

このまま事が運ぶわけがない

私たちはきっと

一杯食わされているに違いない

 

私はもう聖者にはなれない

私たちは友だちであり

私たちは商売敵

 

私のナイキのスニーカーは

あいつの裏庭を踏み潰している

 

2017年5月

新しい世界

ポエトリー:

『新しい世界』

 

世界は今、昔より 遠くなった

数ある社会の今 一部になった

 

見知らぬ人が道の上 取り残されていたら

私はすぐに声かけて 手を差し伸ばせるだろうか

 

道が増えてきた

街が混んできた

 

友達とは今 そんなに会わなくなった

友達は今、昔より 身近になった

 

家族が見知らぬ夜の中 取り残されたとしたら

私は今すぐ駆け出して 辿りつけるだろうか

 

風が遠のいた

海は凪いでいた

 

世界は今、昔より 届かなくなった

数ある社会の組織の今 一部になった

 

2017年7月

生きながらにして

ポエトリー:

『生きながらにして』

 

全体的に君の目は途方に暮れてる

だから金輪際、僕は目を合わさない事にした

君の木立は日影が多い

あくる日のポテトサラダのようでパンに挟んで食べたくなる

嘘を凍らせた湖はスムーズには滑らない

その違和感を楽しむのはいい趣味とは言えないな

 

ガーデニングを趣味にする

添え木を何本にするかで日が暮れた

そう言えば

行儀が良い子供だったな

他の子は空を飛べるような仕草を見せたけど

子供は子供っぽい仕草を見せるものだから

僕が一番現実的だったのはその頃

校長の話があれほど馬鹿馬鹿しく聞こえたことはない

 

行くあてを自分で作る君は流石だと思う

大丈夫、君は損なんかしていない

胸を張って歩くから僕はつい見てしまう

そういう僕を

また見てるみたいな顔をする君の趣味もほんと最悪

 

2017年7月

 

おやすみ彼女

ポエトリー:

『おやすみ彼女』

 

魔法に砕かれて彼女はお休み

真夜中の散歩は月の外周

わざとらしく星の砂を落っことし

少しいい服少し正しい言葉

丁寧に頭を下げてご挨拶

 

今朝は花びらに沿って散歩した

花粉に触れて白い裾が黄ばんだ

キャンバスの星屑のようになった

純白のドレスを着たら愛の果て

誰も罰なんて与えやしない

 

何日か経って時間の淵を歩いてみた

何人かも等間隔で歩いていた

時計の針につまずきそうになって手をついたら

時間は回転し元の場所へ辿り着いた

そんな日があって今ここにいる

 

銀色の宇宙船の窓から

あゝあれはあの日落とした星の砂

少しいい服を着た女の子

拾い上げて少し正しく会釈した

彼女はあの子の景色になった

 

2017年7月

夏の余韻

ポエトリー:

『夏の余韻』

 

酷い雨が降ってきた
路地裏で雨宿りをしよう
古い家と適度な湿度に心が柔らかくうずくまる
ひと息つく 回復してゆくのがよく分かる

今思っていることを明日の朝
誰かに言おうと思ったけど
明日の朝ではなく
今すぐにあの人に言うべきだと
帰る道すがら軒先に垂れる雫が
優しく背中を伝う

雨上がりのプリズムの中
大声を上げて走り抜ける子供らを横目に
今宵は地蔵盆
それらしき準備の路地裏で
私にも降る夏の終わりの心構え
最後の余韻が始まろうとしている

それは温もりやいたわりや未来の先を
永遠に枯れることなく
日々を生きる糧として
ずっと向こうまで指し示す
くっきりとしたその生の余韻が
水たまりにのぞくこの光のように
私たちを導かんことを

翌朝早く あの人のおはようが
生暖かい電波に乗ってやってきた
考えるいとまもなく返事を返す指先は
ふんわりと温かい

 

2016年9月