自然治癒の法則

ポエトリー:

『自然治癒の法則』

 

容赦ないあなたの目には三センチの涙

頬を伝って国境を越えます

敵と味方を繋ぐのです

つまるところそれは自然治癒の法則

困り果てた老人の物知り顔など用は無いのです

 

はにかんだ微笑みの向こうにある傾げた襟元

襟元の汚れは簡単には落ちないというけれど

簡単に落ちる時もあるのです

例えばフリーマーケットのちょうど時計台の下

インド人みたいな恰好で子供たちの着られなくなった洋服を広げているAさん

Aさんの幸せは売れた服の代金で子供たちに新しい服を与えること

例えば温泉街の三叉路にある案内所

三代続く名物案内人のGさん

言葉の通じない相手でも難なく笑顔にしてしまうその手腕

先日は二駅先まで送っていったそうです

 

風車でも特急列車の如く

胸ポケットの便箋もツイッターの如く

あなたに沿って海へ向かいます

 

海の底の奥深く

人の体と同じ成分を湛えたまま生き物に変え草花に変え空気に変え私たちの元へ還元される

見たこともない景色が見たことがあると感じられるのはそういうことなのです

 

2017年1月

ボクの○

お話:

『ボクの○』

 

算数の時間に書いた○
コンパスが壊れてて○がふくらんだ
お母さんにコンパスを買うからお金をちょうだいと言うとお母さんは

「それはいいけど、コンパスを使っても本当の○は書けないわよ」

ボクは駅前の文房具屋へ出かけた
店のおじさんにコンパスがこんなになったから
新しいのを買いに来たんですと言ったらおじさんは

「それはいいけど、新しいのでも本当の○は書けないよ」

帰り道、ボクは考えた
本当の○ってなんだろ?
マンホールは本当の○?
道路の標識は本当の○?
信号の赤とか青は本当の○?
自転車のタイヤは?
お皿は?
メダルは?

ボクは部屋に入って新しいコンパスで○を書いてみた
鉛筆の先を削って、力加減を同じにして慎重に○を書いた
出来た○をずっと眺めてみた
ボクは○の中に吸い込まれそうな気分になった
○は大きくなって○がボクを包むぐらい大きくなってもっともっと大きくなった

 

ボクは○の端を歩いていた
ボクの歩いた線は太くなっている
まだ○の端っこ、太いのはちょっとだけだ
隣にはお兄ちゃんがいた
お兄ちゃんはボクより少しだけど太いとこが長かった
あ、お母さん お父さんも
もう半分ぐらい来てるのかな ふふ、逆さまになってる

分かった これは僕たちの生きる道なんだ
よく見ると色分けされてる
多分…最初の4ぶんの1はピンクだから春
その次は青だから夏で、赤は秋、白は冬
ボクとお兄ちゃんはピンク え~、ちょっとヤダなぁ
お母さんとお父さんは青と赤の混ざったとこ 変な色…
おばあちゃんは白 あ、だから髪の毛白いんだ

見渡すと他にもたくさん
近所のおばちゃんや文房具屋さん
あ、あの人の○はちいさい あっちも
ホントだ!人によって○の大きさが違う
僕のは、、、よかった ふつうだ

うーん、でもよく見ると○は大きくなったり小さくなったり
きっとその人の歩き方によるんだ
けど○の大きさが違ってもピンクとか白とかの色分けはみんな同じなんだ
へぇ~

 

「お母さん! わかったよ わかったよ!」

「ん?なにが?」

「ほんとの○が書けないってやつ。ボクはまだちっさいから○にならないってことだよね!」

「あ、あれ。それあんた、お母さんとおんなじで ぶきっちょだからよ」

「そうじゃなくて、ボクはまだちっちゃいから○になんなくて、○は人によって大きさが違って、でもちゃんと歩いてたらいいんだよ!」

「あ?あんた何言ってんの?」

「ボク、ちゃんと歩いてるよ!」

「ぶー。靴のかかと踏んでるからダメ~」

 

極東のスタイル

ポエトリー:

『極東のスタイル – style of far east -』

 

海岸線に打ち寄せるオレはカケラ

カケラを運ぶ海洋はオレの中にある

愛する事とは此処で愛すること

愛することとは心の中で愛すること

灼熱の砂嵐はオレのカケラ

砂粒はオレの中にある

愛することとは此処で愛すること

愛することとは心の中で愛すること

風が空を跨いだ

ヒュッ

漂う綿帽子がオレのカケラ

吹き起こる風、今はオレ

退屈しのぎに一句

代わり映えしない日常にキック

オレは全ての中にあり

全てはオレの中にある

style of far east

瞑想して君

支度はすぐに済ませろ

姿を眩ませ

素早く動き回れ

内包する風

に吹き飛ばされるオレ

吹き飛ばすオレ

オレは容れ物

誇張した輪郭

故意に膨らませたままで

されるがまま

するがまま

全ては同時に進行す

速やかに進行す

誰も気にも留めない

心変わりは憂鬱

かけがえのない貴方に向かって

吠える軟骨

根源的な愛

愛することとは容れ物

拡張する輪郭

style of far east

瞑想して君

支度は早く済ませろ

警鐘をならせ

根源的に誓いを交わせ

オレは全ての中にあり

全てはオレの中にある

来年ばかりは君に

ポエトリー:

『来年ばかりは君に』

 

心があるから心が変わる
心があるから言葉が変わる

心があるから思い通りにはいかなくて
思い通りにはいかない物語が生まれる

あなたの物語も
わたしの物語も

ひとしきり嘆いた
ひとしきりはしゃいだ
ひどい霧続いた
ひとしきり続いた

心の何処かのあさはかな
はかない心の何処かから
残りわずかなわだかまり
心は重なり心はかさばる

大晦日だからって捨てることはないんだよ

心があるから心が変わる
心があるから言葉が生まれる

いつもいい物語ばかりではないけれど
来年ばかりは君に
いい物語が訪れますように

 

2017年12月

コーンスープ

ポエトリー:

『コーンスープ』

 

確かに君の瞼に

降り注ぐ雪

遠い記憶などなく

密かに耳打ち

僅か1デシリットル

先走る感じ

零れ落ちる不思議

 

君の肩に積もったそのゴミ

勢いよく掃除機で吸い込んだ

君の冷えた指先

程よく電子レンジで温めた

 

それが真実

歴史は繰り返さず

言葉はただの現実

コーンスープは泡立てず

よくかき混ぜて

新しさに身もだえる

 

間近に差し迫った

問題にしてひとつ、ふたつ、みっつ

大きな半紙に一面

墨汁にして垂らす

しかし思いのほかデジタル

確かに差し迫った問題あるとして

心当たりあるか先細る感じ

 

その襟元の汚れは

洗濯機の渦に放り込んで撹拌

その胸元のほつれは

ミシン目が二列になって行進

 

それが真実

歴史は繰り返さず

言葉はただの現実

高く積み重ねられたものを注視して

今朝もコーンスープ

幾重もかき回す

 

2017年11月

えんそく

ポエトリー:

『えんそく』

 

1.おにぎりのぐ

  好きな色

  じゅんばんに

 

  おかあさんの

  お弁当

  どんな色

 

  おしずかに

  おてんとむし

  にげちゃうよ

 

  お弁当の

  お時間が

  はじまるよ

 

2.かえり道

  おともだち

  てをつなぎ

 

  石だんの

  かいだんを

  よっこらしょ

 

  おおさわぎ

  ヒキガエル

  あらわれた

 

  帰ったら

  おかあさんに

  言わなくちゃ

 

  おかあさんに

  言わなくちゃ

 

 

2017年8月

おやつ一個食べちゃう隊

 

お話:

 

『おやつ一個食べちゃう隊』

 

ピンポーン!

「あら、となりの奥さん、どうしたの?」

「今度うちの壁塗り替えることにしちゃって。うちももう二十年でしょ。壁もボロボロだしいいかげんね。で一週間ほど迷惑かけちゃうからさ。これお菓子、うん、いいのいいの、子供たちと食べて。」

「ありがとう、みんなよろこぶわ。」

 

わぁ♪ケーキだぁ!
う~ん。でも困ったな~、五個かぁ。
お姉ちゃんとボクと私とパパでしょ。一個あまるわねぇ。
あまってもいいんだけど、子供たちうるさいのよねぇ。切ったら切ったでおっきいとかちっさいとか文句言うし。食い意地張ってんだから。
どーしよー。誰か食べてくんないかなぁ。

 

 

むむっ!ピーッ!!『団子食べる隊』、集まれいっ!

 

  へーい、へーい

  スタッ、スタッ、タッ

 

よし、点呼!

 

  壱、弐、参、、、、五

 

おいっ、四番はどうした

 

  四番は、えーと、どこだろう?

 

よし、五番、お前呼んで来い!

 

  えっ、俺がですかぁ

  しょうがねえなあ。ちぇっ、四番の野郎

 

 

おーい四番、どこだぁ?

いねえのか~

 

なあにぃ?どうしたの?

 

どうしたのって、おめえ、聞こえなかったのか

『団子食べる隊』は集まれだってよ

 

へぇー、なんだろ?

 

どーせまた冷蔵庫のチョコとか棚のグミ食ったのは誰だってやつだろ

 

あー、また勝手に食ったの?

 

ちげーよっ、ちげーよっ

あれはたまたま目に入ったからさぁ

 

でも食べたんでしょ?

それって泥棒だよ

 

う、うん、ゴメン…、もうしないよ

ま、まあ、とりあえず行こうぜ

ホントにうめぇもん出てくるかもしんないぜ

 

 

よーし、全員集合だな

今回のターゲットは洋風団子!パテシエ・タテカワの洋風団子であるっ!

 

  おーっ、すげー、すげー

  って、ケーキじゃねーか

  隊長なんでも江戸言葉にしたがるんだから

  『ケーキ一個食べちゃう隊』でいーじゃねーか

 

まあ待て

拙者が洋風団子とつい申してしまうのにはわけがあってな

あれは文久三年のこと、

 

  あー、オレあのイチゴんとこな

  じゃあオレ背中のクリームたっぷりのとこ

  わー、ずりー、そこオレも食いてー

 

おいっ、聞いてんのかっ

 

  知ってるよぉ

  あの茶団子の話でしょ

 

そうじゃ、あれは文久三年のこと、

 

  おい、中にもいちご入ってんじゃねーか

  ほんとだ、すげー

  おいこれ見ろよ、なんかで優勝したケーキらしいぞ

  おおおぉーっ

 

話を聞けぇっ!

 

 

まあよい

早く食いたいんじゃろ

ではさっそく拙者がこの刀にて成敗いたす

 

  ちょ、ちょっと、隊長、そこのイチゴは半分にしないでね

 

 

さて、どこからどう成敗するか

ん~、これは思案のしどころじゃ

 

  早くー、隊長~

  早くー、オレも腹ペコペコ

  オレもガマンできねー

 

うるさいやつらじゃ

ではさっそく

とその前に

なぜ拙者がなんでもかんでも団子と申すか、それをやはり話しておかなくては

 

  あ~あ、あれ、やっぱ話すんだ

  隊長のあれ、なげーんだよなぁ

 

 

あれは文久三年のこと…

ある日の道中、街道の茶屋で休んでおってな

 

拙者は茶団子が大好物でそれを注文して待っておったのじゃ

その時にちょっとした騒ぎがあってな

 

 

 「見つけたぞっ!父の仇!」

 

「ぬわ~にぃ~、ワシがおぬしのカタキじゃと。おぬしのような小娘に何ができる」

 

 「ぐっ、ち、ちくしょー。はっ、そこのお侍さんっ、お侍さんっ、お助け下さいましっ!」

 

とまあ拙者に加勢を頼んできたのじゃが、拙者は待っておった茶団子がやっと来たとこでのう。それで、

 

「よしっ、心得た!」と茶団子を二個、一気に口に放り込んだのだが…

ううっ、ぐえっ、ぐえっ、団子が喉に、ううっ

とまあ団子を喉に詰まらせて死んでしまったというわけじゃ

 

 

ということでケーキであろうとドーナツであろうと、そういうもんを見た時にはだな

 

  はい、はい、わかりました、わかりました

  どーぞ、たっぷり時間をかけて成敗しておくんなまし。

 

わかればよい。

ふむふむ、さてどうしてくれよう。よし、見えたぞ。

では、いざっ、成敗!

 

 

シャキーン!

 

スパッ、スパッ

スパパパッ!

 

  おー、うめーうめー、さすがタテカワのケーキだぜー

  おいっ、スポンジふわふわだぜ

  うめーっ、うめーっ!

 

 

 

「ただいまー」

「ただいまー」

 

あっ、子供たち、帰って来たわね。
どーしよー、困ったわ。
あれっ、ケーキ四個になってる。ていうか四個だったっけ?
まあいいわ。これで問題なしっ。

 

「やったー、ケーキだケーキだー!」

「やったー、やったー!」

「これどうしたの?」

 

「となりのおばちゃんがね。壁を塗り替えるからってケーキをくれたの。今度会ったら、お礼を言っておきなさいよ。」

 

「ハーイ」

「ハーイ」

 

 

皆さんのおうちでもこんなこと、ありませんか?
あるはずなのに、どこにもない。
ないはずなのに、ちゃんとある。
これらは全ておっちょこちょいママの勘違いではないのです。
実は家には『おやつ1個食べちゃう隊』なる秘密結社がいるのです。
あと、『家のカギ閉めた隊』とか、はたまた『お風呂フタした隊』なんかも。

 

「ん?何これ?こんなとこにいちごのヘタが…。」

 

 

2017年6月

 

百獣の王

ポエトリー:

『百獣の王』

 

お前の洞窟は

風邪をひいたライオン

髪の毛はクシャミをして

逆立っている

オレは今

怠惰という感情を

お前のそのなだらかな曲線に向けて

ゆっくりと

充てがう

 

百から一を取り出して

ちぎっては投げ

投げては一定の間隔で

十分に休みを取り

十二分に睡眠を摂り

暗いうちから働き出した農夫のように

麦わらを傾げながら

リンドウの実をひとちぎり

お前の白いシーツに押し付けて

満足している

 

さぁ今日もいい天気だなどと

新しい文字を見つけ

さも誇らしげに

人に話したくってしょうがない気持ちになる朝

いつだってこの感じ

やめられない

 

 

リヤカーを引いたお前の背中みたいな

ガタイのいい四角を

三角の肩でかしぐのには

無理がある

無理があるけれども

言ってみても始まらない生活の咎を

全部台無しにしてしまえるだけの

重量が何処にあるのですか?

 

土踏まずの辺りにうっすら

炙り出す塊

重くなって

ボロボロと崩れていく

 

オレが百から一を取って投げつけた怠惰の葉一枚が

日照りの隙間にハラハラと

身を落ち着かせる

慰めて雨がところどころ

心が沁み渡り

タテガミはクシャクシャでホコリにまみれたまま

王は口を開けて待っている

 

2017年10月

鳩が飛ぶ

ポエトリー:

『鳩が飛ぶ』

 

日々紡ぐ優しさは溶解し一杯のコーヒーに

夕方は後ろ手を組んで夜を逆さまにする

 

日々紡ぐ虚しさは静海し二杯目のコーヒーに

所々手に入れた網膜の欠片は一編の詩よりも長い

 

ピントをキチンと合わせても

上手くはズレない

昨日がおろそかに遠ざかる

 

愛おしい

残り湯で私を温めて欲しい

 

芳しい声  過去からの手紙

安らかに眠る  私たちの誇り

手鏡に映る  話し合いの形

うらぶれた話  焚きつけた

長く続かない  泣き虫の私

 

手はずを整えて、、、

 

     この国の夜に電波し白妙の

     あまつさえ聞く屋根に乗るらん

 

週末に鳩が飛ぶ

シルエットは白い方がいい

 

2017年10月

物事というのは

ポエトリー:

『物事というのは』

 

すぐに怒るあの人も案外優しくしてくれる

人懐っこいあの人だって誰かにイジワルすることも

 

優しいご主人ね、なんて言われる僕ですが

結構冷たいところがあるのです

 

右から照らせば左に影が

左から照らせば右に影が

 

「物事というのは、どちらか一方ってことはないんだよ」

 

ある日、ウィルコのアルバムを聴いていたら、そんな声が聞こえてきました

 

2012年3月