美しい二人の友情

ポエトリー:

『美しい二人の友情』

 

美しい二人の友情
知っていることを思い出して
短い夏の思い出のように風は一瞬で気を紛らす
君は近くにいたからではないんだよねきっと
出会うべくして出会った
そう思っていいんだよね

折り畳み傘は頬にぶち当たるほど折れ曲がり
足元はずぶ濡れそれでも
君の声が少しでも聞こえたらいいと
見えない声を遠くに探して
新しい朝は迎えに来ないのか
水溜まりに破り捨てたため息

違うよ
物語は謝りに行く
無理な問題を持ち込む必要はない
これは世間一般に言われていること
最後は判決に持ち込むんだ
欲しかったものを
夢のような人
僕に進化論を

けれどそれが全てじゃない
目の前にあるものを信仰しよう
美しい友情よ
僕たちは共演する
僕たちはよい人ではないから
照れ隠しに小さな楽器を隠し持つ
祈ったよ
僕たちは個人であるようにと
それは何年も前から決まっていたこと

僕らは許されたことを記憶する装置
物語は近道をする
去ったものを追っていく
重力は重たい
手は重なると重たいこと
上昇する海面に
沈む僕たちの手は重たい

 

2019年10月

今年最後の手帳

ポエトリー:

『今年最後の手帳』

 

君は本気にするから
軽く手帳に納めた
問題は透き通るようにして
歯の裏側に溶けていった

正解を出して聞く
無造作な君は問題外
内側から逆に
転げ落ちる正解

順番を守らないと
いつかは怪我をする
辻辻に立つ見守り隊が
無造作なスケジュール管理を指導する

お気に入りの信念は紙切れ
薄く積み重ねられ今はピンク色

いつだったか
君の賑やかなお調子は
次第に行間を詰め
人は失敗を重ねて大きくなる

だけど
君が本気を出すといけないから
僕は朝靄で
今年最後のページの隅に×と書きました

 

2019年12月

旅する呼吸

ポエトリー:

『旅する呼吸』

 

私たちが呼吸をすると
その勢いで地球は自転をする
呼吸は西洋を旅し、
東洋へ向かい、
南方を巡り、
北極へ到達する

珍しく食卓に並んだ納豆の粘り気が
皮膚に食いつき
そのように思わせる思考の迷路を後押しする
にもかかわらず私たちはまだここにいる

私たち自身が描く環状線は瞬く間に脱線をして
夕暮れ山を背に片一方へずれている
軌道修正は自動修正
ありのままは地平線の彼方

旅をして
勢いで凌いで
精一杯戦ったんだなお前
その呼吸で分かるぞ
納豆の粘り気のある香り

 

2019年12月

金曜の夜は

ポエトリー:

『金曜の夜は』

 

夜の11時、駅のホームではみんな笑顔
今日は金曜日
懸命に働いた人も
ところどころ怠けた人も
上手くいった人も
何にも変わらない人も
今週もちゃんと生きました

満天の星空見上げ
ホーム全体にご機嫌な音楽が流れたらいい
イカしたギターリフとかさ
そしたらみんな思い思いに
千鳥足でステップ
好きなあの子と今日はあまり話せなかったけど
目を合わせて踊るんだ
手を叩いて笑うんだ

さあ、終電が来たよ
酔いが醒めてすっかり青くならないように
名残惜しく手を振って
おやすみなさい
また来週

 

2016年2月

応答してよ

ポエトリー:

『応答してよ』

 

はしからじゅんに君の声をたしかめて
(はこをあけて私の声をたしかめて)

いまだきこえず
(きこえたかなぁ)

 

むりをして
(せのびして)

せいいっぱいの仮名手本
(かたほうだけの仮名手本)

ぼくの声はとどいたのかなぁ
(ほんとのきもちいまだきこえず)

 

2019年4月

お日さん

ポエトリー:

 

『お日さん』

 

太陽をお日さんと呼ぶのは

子供っぽいからではなく

それが私たちの宗教だから

宗教って言うとちょっと重たいけど

お日さんに顔向け出来ないことはしちゃなんめぇってことで

母なる太陽とはよく言ったもの

やましい時は

夜に隠れても

心は落ち着かないものなのです

同級生のS君

ポエトリー:

 

『同級生のS君』

 

同級生のS君はいつもにこにこしている

遊びの誘いも断らない

昼メシもなんでもいい

テストの点数は抜群に良くないけど抜群に悪くもない

僕らが誰かの悪口を言ってもにこにこ聞いている

僕らがしくじってもにこにこしている

S君は解決してくれないけど

 

S君は野球部

特別上手くはないけど、なんとはなしにレギュラー

僕たちの草野球にも来てくれる

凄いピッチャーが来てもスコーンとショートの頭を越してしまう

僕たちは感嘆の声を上げる

 

S君は意見を言わない

その代わり文句も言わない

S君は自分から誘わない

 

S君にも悩みはあるだろうけど

今はS君が懐かしい

 

 

2017年2月

昨日の前提

ポエトリー:

『昨日の前提』

 

世界の歴史を
手のひらに集めて
新しくしつらえた
無地のシャツ
長い袖の
早くもところどころ絶え

微かに聞こえる
行進は
新調されたブーツで
やがて微かに
耳も遠くなる

発明家はいつも
正しいとは限らず
新しいものに
手を引かれがち
いつも時間を忘れて
せっせとせがんだ
やつら前傾姿勢だから

短く刈り上げた空は
午前六時の最もよい時間帯
真っ先に扉を開けたのは
行進から今しがた帰った
真新しいブーツでした

真新しいブーツに占められた教室の汚れ
真新しいものとして処理していく
自動的な段階を踏んで
私たちは居場所をしつらえる
馴染んだ影は私たちのものではないけれど
私たちが孕んだモノとして
処理するしかない

配置、
その仕事で明日は塗り替えられる
前代未聞は毎日起きて
まるで昨日の前提だ

 

2019年8月