Free All Angels/Ash 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Free All Angels』(2001)Ash
(フリー・オール・エンジェルズ/アッシュ)

 

今年出たアルバム『Islands』(2018年)が凄く良かったのだが、実はアッシュを長い間聴いていなかった。と言ってもその前のアルバム自体が久しぶりの作品だったようで、なんだ僕のせいでも何でもないやと開き直っているところでございます。ところでアッシュといやぁこの『Free All Angels』(2001年)。せっかくなんで久しぶりに棚から出して聴いてみました。

こりゃもうベスト・オブ・アッシュやね。ヘビーなロックチューンにスローソング。これでもかと言うぐらいいい曲が沢山詰まってます。でまた改めて聴くと構成が素晴らしい。スローソングの後には間髪入れずスピードナンバーを入れてきたり(#10『Sometimes』の後の#11『Nicole』)、シンセや打ち込みを挟んでみたり(#4『Candy』)、ストリングスなんてのもあるわで(#7『Someday』や#12『There’s a Star』)ホントに飽きさせない展開。曲間がほとんど無く、すぐ次の曲に移るとこなんかも正にベスト盤の様相だ。

1曲目の『Walking Barefoot』からして最高やね。夏の終わりの切ない感じが凄く出てて、初っ端にこれ聴いて何とも思わない人はもうロックなんて聴くんじゃねぇって感じ(笑)。そうそう、このアルバムのイメージはやっぱ夏なんだけど、特にちょうど今の季節、夏の終わりがぴったりはまるアルバムです。ちょっぴり寂しい感じがよく出てる。この曲なんて「we’ve been walking barefoot all summer」っていう歌詞ですからもうそのまんまですね。

その後#2『Shining Light』、『Burn Baby Burn』とヒット曲が続くあたりもう完全にベスト・アルバム扱い。ていうか曲良すぎ(笑)。今年の『Islands』もホントにフレッシュなソングライティングで、ティム・ウィーラー、アラフォーのクセにスゲェなと思ったが、この時20才そこそこのティムは当然ながら勢いがあってキレキレでございます。そう言えばこのアルバムはティムさん以外のメンバーが作った曲も入っていて(#6『Submission』、#9『Shark』)、それもいいアクセントになっている。ていうかアクセントどころかすげぇカッコイイ!この頃のアッシュはホント無敵だ。

このアルバムはさっきも言ったとおり夏、というか夏の終わりを感じさせるアルバムでそれがギターロックに良く合っているのだけど(ギターロックとは真夏のイケイケではなく、ちょっぴり切ない夏の終わりのことなのだ)、それに拍車をかけるのがスローソング。#7『Someday』もいいけど、ここはやっぱり#10『Sometimes』。「さ~むたいむ、さぁぁぁ~たいむ」って繰り返しているだけやのにこの切なさはなんなんでしょうか。アルバムを締める最後の#13『World Domination』も完全に夏の終わり。誰もいない海岸を一人で歩きたくなります。

日本盤にはこの後ボーナストラックとして#14『Gabriel』が。長尺のヘビーなナンバーで、次作の『Meltdown』(2004年)へ繋がるような曲。この時点で次作は意識していなかったろうけど、この辺のナチュラルさ加減も当時のアッシュのマジックを感じます。そういやゆったりした#7『Someday』の後に来る#8『Pacific Palisades』も見事やね。全編サビのCMソングのような曲で、サッと始まりサッと終わる。俄然キャッチーなこんな曲をアルバムの中盤にサラッと持ってくるところも神がかってますな。

 

Track List:
1. Walking Barefoot
2. Shining Light
3. Burn Baby Burn
4. Candy
5. Cherry Bomb
6. Submission
7. Someday
8. Pacific Palisades
9. Shark
10. Sometimes
11. Nicole
12. There’s a Star
13. World Domination

日本盤ボーナストラック
14. Gabriel

ミツキとペール・ウェーヴス

洋楽レビュー:

ミツキとペール・ウェーヴス

 

タワレコ・オンラインで注文していたミツキとペール・ウェーヴスの新譜が同じ日に届いた。ペール・ウェーヴスはキャッチーなシングルを昨年から立て続けにリリース。今年のサマソニにも出演し、新人にも関わらず幕張のマウンテン・ステージをほぼ満員にしたという期待のバンドである。ゴスメイクで一見キワモノ的なイメージだが、ボーカルのヘザーはよく見ると整った顔立ちでその点も人気に拍車をかけている模様。僕もYouTubeで彼女達の曲を何度も聴いて、デビュー・アルバムを心待ちにしていた一人だ。

一方のミツキは名前から察せられるように日系の米国人で、大学在学中にファースト・アルバムを自主制作でリリース。その後もコンスタントに新作を発表し、4枚目のアルバム『Puberty 2』では数々の主要メディアの年間ベスト・アルバムに選出されるなど、所謂ミュージシャンズミュージシャンと言われるような、同業者からも非常に高い評価を得ているアーティストだ。ちなみに大学時代に知り合ったパトリック・ハイランドとすべての楽器を2人で演奏し、ミキシングやマスタリング、ジャケットまでを2人だけで行っているという。

アルバムが届いたその日、先ずはテンションがグッと上がるポップ・ソングだろうということでペール・ウェーヴスから聴いた。歌詞カードを開きながら聴き始めたのだが、どうも勝手が違う。どうやらこの歌詞が曲者のようだ。簡単に言うと歌詞がキツイ。全てヘザーの恋愛体験に基づく歌詞なのだそうだが、思春期特有の生々しさがあってその鋭利さがとっても痛々しいのだ。声の感じとか曲の親しみやすさは初期のテイラー・スウィフトっぽくて、実体験を基にした歌詞なんてのもテイラーと同じなのだが、テイラーが外に向かって開放していくのに対し、ヘザーは内気で繊細な感じがモロに出ていて、それが聴いてるこっちにまでリアルに響いてきてしまうのだ。

その日は夜遅かったのでペール・ウェーヴスは前半までにして、今度はミツキの新譜を聴いた。ミツキのアルバムも上手くいかなかった恋愛に関するアルバムだ。けれどこっちは何故か聴いているこちらに落ち着きをもたらしてくれる。僕は彼女のアルバムを聴くのが今回が初めてなので、いつもそうなのかはよく分からないが、彼女は曲とは一定の距離を保っているようだ。まるで演劇とか映画を観ているような気分。恐らくは繰り返し聴くことでその物語はまた違った印象を投げかけてくるのだろう。

当初の印象ではキャッチーなペール・ウェーヴス、情念のミツキ、というイメージだったが、歌詞を見ながら聴いてみるとこちらから距離を詰められるのは以外にもミツキの方で、ペール・ウェーヴスは生傷を見せられるような痛々しさがありました。どっこい、ミツキにしてもある程度まで近づくとそれ以上は近寄らせてもらえないのだろうけど、この試聴レベルで聴いていた時の印象と歌詞カードを手にちゃんと聴いてみた時の印象がそれぞれ全く逆になってしまうというのはなかなか面白い。

といってもこれは初見の印象。共に別れをテーマにしたアルバムがこれから聴き込むつれてどう印象を変えていくのか。それも楽しみな対照的な2枚のアルバムでした。

落語番組の決定版!Eテレ「落語ディーパー」が面白い

TV Program:

落語番組の決定版!Eテレ「落語ディーパー」が面白い

 

月曜の23時からEテレで放送されている「落語ディーパー~東出・一之輔の噺(はなし)のはなし~」がすごく面白い。近年落語ブームということで「落語ザ・ムービー」のような落語に関する番組があったけど、これはその決定版という感じ。落語に興味はあるけど余り馴染みがない人にとっては持って来いの番組だ。

まずその日の放送回でフィーチャーされる噺があって、あらすじが紹介されます。そしてその噺にまつわる背景なんかが語られて、この語られてっていうのが堅苦しくなく、出ている出演者が若い落語家ばかりで我々と同じ目線で語ってくれる。ていうか若いから当たり前のように同じ目線になってしまう。例えばあんな噺は堅苦しくて嫌だとかそういう類の話がポンポン出てくる。落語といやぁお年寄りというイメージで、僕が密かに毎週録画している「日本の話芸」(同じくEテレ、土曜の午後にやってます)だって、出てくる演者は超ベテランばかりだし、やっぱ若い演者が今の感覚で喋るってのは大きいと思います。

この番組のいいところがもう一つあって、それはその回の噺を過去の名人が演じているVTRが流れるところ。しかも一人だけじゃなく対照的な二人の名人の映像を流してくれたりする。例えば9/10放送回だとテーマは「鼠穴」。昭和の大名人三遊亭圓生と僕らでも知ってるあの立川談志の映像が流れる。圓生の方は江戸ッ子のパリッとした語り口で談志はご存じのとおり破天荒な濃ゆ~い語り口。「鼠穴」は困窮した弟に3文しか貸さない吝嗇な兄が出てくるんだけど、圓生だと江戸っ子だからキャラとしては50両でも100両でも貸しそうだと。一方の談志は本当に貸しなさそう(笑)。で貸さないのには理由があるんだけど、談志だとその理由も敢えて言わずに憎んでくれて結構っていう背景が普通に成立してしまう(笑)。だからどっちがいいとかではなく、私はこっちが好みですみたいなトークがあって、この辺は観ていてとても面白かったですね。あと余談ですが、前述の「日本の話芸」で以前桂福團治による「鼠穴」があって、なんでも上方落語の「鼠穴」は珍しいそうですが、凄く生活感があって、妙なリアリティーというか迫力がありました。

あともう一ついいところ。番組にはホームページがあってそこで落語の動画が公開されている。第1回(8/30放送)は桂米團治の「地獄八景亡者戯」(この回の上方落語と江戸落語の違いのトークも面白かったです)。第2回(9/3放送)は番組出演者でもある柳亭小痴楽の「明烏」。第3回(9/10放送)は先ほど話した「鼠穴」でこちらも出演者である春風亭一之輔。いつでもどこでも気軽に観れるのでホントお勧めです(※但し、公開期間があるので注意)。

出演者は春風亭一之輔、柳家わさび、柳亭小痴楽、立川吉笑、俳優の東出昌大、雨宮萌果アナウンサー。一之輔を筆頭に皆さんキャラが立ってます。あと俳優の東出さんの知識とか落語愛がすんごくてびっくりします。番組H.Pによるとこのあと、「粗忽長屋」 9/17(月)、「居残り佐平次」 9/24(月)と続くようなので、今からとても楽しみです。

天声ジングル/相対性理論 感想レビュー

邦楽レビュー:

『天声ジングル』(2016)相対性理論

 

1曲目、やくしまるのアカペラから入って一気にバンドがなだれ込む感じがいい。余計なギミックは必要ない。これはもうただのバンド。そこにやくしまるの声と絡みつく永井のギターがあれば僕なんかはそれだけでほころんでしまう。

新体制になって2作目。彼らの個性が明確になってきた。やっぱ前作はかつての残り香がそこかしこに漂ってたし、まだまだ手探り状態だったのかも。新しいリズム隊。ガンガン行ってる。これこれ、これくらい思い切りやってくれなきゃ。

ソングライティングはすべてやくしまる。今までは他のメンバーだって曲を書いてたはずなのに、これでいくということはもうそういうこと。明確に方向性がバッチリ出ててスゴクいいんじゃないか。ただまぁやくしまるのソングライティングの不安定なこと。素人みたいなライミングや安易な横文字になんじゃこりゃと思いつつも、時折ソロ・ワークで見せたようなキレキレのソングライティングを見せたりもするもんだから、ワザとなんだかもうなんのこっちゃよく分からないんだけど、ただ今回はこの隙だらけな感じに好感を持ってしまえる妙な説得力があって、なんでそう思えるかっていうとそこはやっぱりバンドとしての音像がくっきり形作られたからだろう。いわゆるロック・バンドにはせーのでドッと出てくる勢いというかゴチャゴチャした感じがあって、細かいことは横に置いとける潔さがある。いつも以上に矢面に立ったギターにドンドカ派手なドラムがあって踊りだすベース・ラインがあって裏方に徹するキーボードがあってっていうはっきりしたバンド・サウンドが未完成なソングライティングだってお構いなしに凌駕してゆける。いや隙だらけだからこそ力を持ちえるのだ。ということでやくしまるさん、やっぱりワザとなんだろか?

ただ新体制云々は別にして、5枚目というそこそこキャリアを積んだ中でこういうしっかりした力強いアルバムを出せたということはとても意味があったんではないかなと。バンドとしての体制がここでもう一回がっちり積み上がって、それはつまりこのバンドとは何かということなんだろうけど、ただ単純にバンドとしてステージに立った様がちゃんと目に浮かぶようになったというのは、やはりここでまた一つ階段を上がったという認識でいいのだと思う。実はもっと過大評価していいのかもしれない。

 

Track List:
1. 天地創造SOS
2. ケルベロス
3. ウルトラソーダ
4. わたしがわたし
5. 13番目の彼女
6. 弁天様はスピリチュア
7. 夏至
8. ベルリン天使
9. とあるAround
10. おやすみ地球
11. FLASHBACK

雨はまだ降り止まず

ポエトリー:

『雨はまだ降り止まず』

 

雨はまだ降り止まず
天気予報は嘘つき
てんでばらばらの太陽
お使いから帰らず

愛しい人は今日もお休み
愛用の枕はへこみっぱなし
正しい事を言うくせに
嘘ばっかし
お酒の力も借りて
今日もお休み

エコーは響かない
思えば若葉の頃
巡り合わせの糸を断ち切る事に精一杯の
欠片拾い集める術はなく
眠たげな眼差しは回り続け
光を求めて立ち尽くす雨

思い出の貝殻を拾い集め
海へ漕ぎ出す夢
見たっけ
目を閉じて
大海原に乗り出した私たちは
風の赴くまま
頼りない帆を上げ
白い波を越えていった

今新しく夜明け
いつまでも変わらない二人は
愛用の枕をへこませたまま
今日も新しい一日を
精一杯ループした

 

2018年6月

Junk of The Heart/The Kooks 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Junk of The Heart』(2011)The Kooks
(ジャンク・オブ・ザ・ハート/ザ・クークス)

 

同年デビューのアークティック・モンキーズよりも売れた1st。全英№1となった2nd。ということで、いやがおうにもハードルが高くなるクークスの3rdアルバム。ところがどっこい、期待をよい意味で裏切る素晴らしい作品となった。何がいいって、気負いことなく自然体の中から生まれてきたかのような落ち着いたポップ感が素晴らしい。シングル向けの派手な曲もなければ、過度な演出もないのだけど、その分楽曲のよさが際立っており、掛け値なしのクークスの底力が見事に発揮されている。

‘I wanna make you happy’と歌う表題曲からM3まで続く良質のポップ・メドレーの軽やかさ。そして本作で唯一アッパーな「Is it me」の後半におけるヒロイックな畳み掛け具合は流石である。

これまでのような若さに任せたスピード感がなくとも、曲の力だけで聞かせてしまう圧倒的な楽曲の良さ。すなわちそれは当たり前のことではあるが、ロック音楽といえども結局はソングライティングと的を得たサウンド・デザインにかかっているということだ。とくにどうということのない他愛のないポップ・ソング。しかしその錬度は恐ろしく高く、時の経過にも十分耐えうる作品である。これまでのイメージをするりと脱却した彼ら。もうどこへでも行けそうである。

 

Track List:
1. Junk Of The Heart (Happy)
2. How’d You Like That
4. Taking Pictures Of You
5. F**k The World Off
6. Time Above The Earth
7. Runaway
8. Is It Me
9. Killing Me
10. Petulia
11. Eskimo Kiss
12. Mr. Nice Guy

なんと言っても#8。間奏のギターソロがメチャクチャかっこいい。そこから、ラスサビではなく最初のヴァースに戻って盛り上げるところがニクイぜ。このスピード感こそがクークス!!

THE SUN/佐野元春 感想レビュー

THE SUN(2003年)/佐野元春

 

佐野元春は孤高の存在だった。時に抽象的に、時にコラージュのように言葉を並べ、場合によってはスポークン・ワーズ形式で理知的に語るときもあるし、ラップのように語感を強く響かせたりもした。比喩表現をふんだんに散りばめ、押韻を踏み、また聞いたこともないような人名や語彙を盛り込ませながら、聴き手の想像力にさざ波を立てた。ややもすれば聴き手を置いてけぼりにするその態度はアーティストそのものだった。その如何にも意味ありげな言葉や未知の表現に、意味がよく分からないながらも僕はなんとか食らいつこうとした。そしてそこに抗いがたい魅力を感じた。だからライブに行ってたとえそこに佐野がいたとしても、佐野は僕にとってはるか遠い存在だった。

このアルバムが出た2003年、僕は結婚をした。仕事から帰っては時間を見つけて、日に2~3曲づつこのアルバムを聴いていた。当時の僕は仕事から精神的にダメージを受けていた。でも彼女との新しい暮らしに喜びを感じていたし、やがて子供を宿したと聞いてかつてない幸福感を感じていた。そんな色んな日常の感情が激しく揺れ動くなかにこのアルバムはあった。

このアルバムで佐野はいつになく身近な言葉を用いている。時に巧みな比喩表現を用いて心象風景を描いてきたこれまでとは出発点から異なっていた。簡単な、平易なという意味ではなく、生活に根差した身近な言葉。かつての少年少女は大人になった。30年前、街のファンタジーを切り取ったように、今度は地に足の着いた人生を切り取る。アーティストが我々の側に降りてきたとまでは言わないが、佐野のスタンス、視点が大きく変わり始めたアルバムではないだろうか。

佐野はこのアルバムを自身のキャリアと共に成長してきたファンに向けて書いたと言っていた。この時(2003年当時)、30代から40代といった彼、彼女たちは不況の中、上からや下からのプレッシャーの中でしんどい時期を迎えている。そんな彼、彼女たちの物語を書きたいと話していた。その言葉通り、ここには14編の小さな物語がある。どれも生活といううすのろと悪戦苦闘するそう若くない男女の物語。そこには確実に絶望が横たわっている。しかしそれだけではない。見えない何か、それは希望と言ってもいい。明々と照らしているわけではないが、その分確実に存在する光。木漏れ日のような光が差し込んでいる。数十年前に佐野はこう歌った。~いつの日も誰かがきっと遠くから見ていてくれる~(1989年『ジュジュ』)。佐野はここでそれをもう一度高らかに歌っているようだ。何処かで見ていてくれる存在。そして小さくとも確かにそこにある希望。そして僕にとってもこのアルバムは、2003年の景色として冬の日の太陽のように温かく傍にいてくれた。

僕はこのところ、ライブに行くと目の前に佐野がいるという事実にどうしようもなく胸が熱くなる。そりゃ当然今だって遠い存在であることに変わりはない。でも以前のような全く別の世界にいる人、実際に存在しているのかどうかも分からないぐらい遠い存在ということではなくなってきた。確かにそこに佐野元春がいる。そんな風に感じるようになってきたのは、もしかしたらこのアルバムがきっかけだったのかもしれない。

もう一つこのアルバムについて述べておかないといけないことがある。ホーボー・キング・バンド(HKB)について。消化不良にも思えた前作、『Stones & Eggs』の反省もあったのかもしれないが、たっぷりと時間をかけて8年間を共にしたHKBの集大成とも言えるのサウンドを作り上げている。これが本当に素晴らしく、発酵して熟成された蒸留酒のような表情豊かな演奏。もうこれ以上望むべくもないと言ってしまえるほどの素晴らしいサウンドだ。現にHKBとしてはこれ以降オリジナル・アルバムを発表していない。僕は今のアグレッシブなコヨーテ・バンドも大好きだけど、HKBも同じくらい好きだ。最近のビルボード・ライブやセルフ・カバー・アルバム(2011年『月と専制君主』、2018年『自由の岸辺』)では若干のメンバー・チェンジをしたHKBとなっているけど、僕はやはりこの時期まで(1996年『Fruits』~2003年『The Sun』)のHKBが好き。またいつかこの時のメンバーでガッツリとロックンロール・アルバムを作ってくれたら嬉しい。

自身のレーベル、デイジー・ミュージックからの最初のアルバムであり、HKBとの蜜月が生んだ最良の作品。今思えば、終わりの始まりのようなアルバムだ。佐野にとって特別なアルバムであるように、僕にとっても思い出深いとても大切なアルバム。

 

Track List:
1. 月夜を往け
2. 最後の1ピース
3. 恵みの雨
4. 希望
5. 地図のない旅
6. 観覧車の夜
7. 愛しい我が家
8. 君の魂 大事な魂
9. 遠い声
10. Leyna
11. 明日を生きよう
12. DIG
13. 国のための準備
14. 太陽

Where’d Your Weekend Go/The Mowgli’s 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Where’d Your Weekend Go』(2016)The Mowgli’s
(ウェアード・ユア・ウィークエンド・ゴー/ザ・モーグリス)

 

2ndがピンと来なかったからスルーしたので、今回もあまり期待はしていなかったんだけど、聴いてびっくり、スゴクいい感じになっていた。流石に1stのあの感じは1stならではというか、あまり深く考え無さそうなこのバンドでさえやっぱ2枚目ともなるとトーン・ダウンしてしまうのね、なんて思っていたのだが、今回は迷いが無いというか、彼らの持つ陽性が素直に表れていてとても気持ちのいい作品だ。やっぱり身も蓋もなく明るいのがよい。

嬉しいのは同じ陽性のポップネスといえど、今回は1stの時の凸凹した勢いというものではなく、より音楽としてしっかりしてきたというか、ちゃんと成長の跡が窺えるという点だ。それも単に落ち着いてしまったというのではなくて、鮮度が失われずにシェイプ・アップされているという印象。インナー・スリーブを見ると人数も減っているようだけど、それがいい方向に出ていたのか、相変わらず大らかにユニゾンで突っ走るところもあるけれど、適材適所というか、それぞれに明確な理由があるというのが今回受けるまとまりの良さに繋がっているのではないか。1stのインディーズっぽいとっ散らかった感もそれはそれで楽しくて好きなんだけど、これはこれで進化と言っていい。僕はこっちの方が好きかも。

そういう意味じゃ音楽的にも豊かになって表現に幅が出てきたし、例えばキーボードの扱いなんかも今までになかった類のもので、ともすれば明るいだけのポップ・ソングになりがちなところに程よい陰影を与えている。地に足の着いた本当の意味でのポップ・ソングになっているのではないだろうか。アルバム1枚30分と少しという潔さもいいし、現時点での彼らのベストと言っていいだろう。こういうのを作っちゃうと次は何でも出来る。

 

1. So what
2. Spacin Out
3. Bad Thing
4. Spiderweb
5. Automatic
6. Alone Sometimes
7. Arms & Legs
8. Freakin’ Me Out
9. Monster
10. Last Forever
11. Open Energy

#9が耳に付いちゃって離れない(笑)。

「ちびまる子ちゃん」の思い出

その他雑感:

「ちびまる子ちゃん」の思い出

 

高1のある日、友達が学校に「ちびまる子ちゃん」の単行本を持ってきて熱心に薦めてくれた。最初はなんだそれ、小女マンガじゃねぇかってことで無下に断っていたんだけど、パラパラと読んでるとハマってしまって、そのうち皆で回し読みするようになって、気が付けば僕たちの周りではちょっとした「ちびまる子ちゃん」ブームが起きていた。程なくテレビアニメも始まって日本中が「ちびまる子ちゃん」ブームになるんだけど、その数か月前から実は僕たちはちゃんと読んでいたのです(笑)。

僕は絵を描くのが好きだったから、教室の後ろの黒板に、漫画のキャラを描いたり、先生の似顔絵を描いたりして遊んでいたんだけど、そのうちまるちゃんとか丸尾君とか花輪君とかもしょっちゅう黒板に描くようになっていた。また、母がサティでパートをしていたのでPOPを頼まれてアンパンマンとかそんな絵を何度か描いたことがあったけど、まるちゃんの絵を描いたこともあった。まるちゃんを描くのにはちょっとしたコツがあって、輪郭の延長線とか考えず意外と髪の毛ぺっちゃんこにして描いた方が上手く描けた気がするけど、でもやっぱりそれはそれっぽいニセモノでさくらももこさんの描いたまるちゃんほどかわいくはならなかった(笑)。

最近つい考えてしまうことがあって、絵描きはなんで絵を描くんだろうとか、作家はなんで文章を書くんだろうとか、音楽家はなんで音楽を作るんだろうとかまぁそんなようなこと。ただ生活のために描いてる訳じゃなさそうだし。吉増剛造さんはなんで詩を書いてるんだろう?

僕は時折美術館に足を運ぶんだけど、美術館に行くといいことがあって、それはそうした疑問が少し晴れたような気がすること。何か少しだけ分かりあえたような気になれる。まぁそんなことはまず無いんだけど、勘違いでもそんな気分になれるから今のところ僕はそれはそれでよしとしています(笑)。

さくらさん、まるちゃんってさくらさんのことですよね。だから多分、皆もさくらさんのこと友達のように身近に感じていると思います。僕も自慢じゃないですが、なんせ高1の時から知ってますから(笑)、さくらさんには何年にかに1度会う親戚の人ぐらいの親近感を持ってます。さくらさんはなんで描いてたんですか?さくらさんはまるちゃんだから、どーせ「メンドクサイな~も~」とか言いながら、「あっ、そうだ」とか言ってくだらないこと思い付いてニヤニヤしながら、周りの人に「あんた、何ニヤニヤしてんの」とか言われながら描いてたんでしょ。

サマーソニック2018 大阪 2018年8月18日 感想 ~ベック編~

サマーソニック:

サマーソニック2018 大阪 2018年8月18日 感想 ~ベック編~

 

チャンスさんの後は同じオーシャン・ステージで行われるこの日のヘッドライナー、ベックさん待ち。ということでそのまま待機です。人がチラホラはけて更に前方へ行けました。こんな間近でベックさんを観れるなんてサマソニならではやね。ステージ上ではシンプルなチャンスさんとは打って変わって色々運び込まれとります。ほぼ定刻通りにベックさん始めバンド・メンバーが登場!さっすが~、大声援ッス!

うわ~、ベックさんや~、ほっそ~、顔ちっちゃ~、オッシャレ~、貴族みたい~、てことで気品に溢れております。もうベック王子やね。始まりは『デビルズ・ヘアカット』。イントロからしてカッコよすぎるぞ!ていうかサウンドがいい!メチャクチャいい!カラーズ・ツアーのベック・バンドがいいってのは何となく聞いていたけど、塊としてガッと来る感じといい、それでいてちゃんとそれぞれの楽器が聴こえてくるところといい、生で聴くとホントびっくり。メチャクチャカッコイイじゃないですか!CDで聴くのとは全然違う重厚な『デビルズ・ヘアカット』。痺れましたね。

続いて印象的なイントロが。ギャ~、2曲目で『ルーザー』や~。さっき観たチャンスさんのフローもカッコよかったけど、ベックさんのラップもすげーカッコいい。チャンスさんとはまた違うクールさで優雅っす。こりゃもうベック・ザ・ラッパーやね。うわ、言うてもうた…。そうそうっ、勿論サビの「アイムルザーベイビ~、ソ、ホワイドンチュキルミ~」は皆で合唱しましたで!

『ミックスド・ビジネス』もよかったな~。「take a little bit higher」って煽りがまた最高!この曲もコーラスの「All right / Turn it up now」で皆合唱。しかしまあ皆よく覚えてるよな~。みんなのベックさんが好きなんやね。周りを見渡すと流石に年齢層は高め。それに女子率高っ!僕の周りを見た限りでは女子の方がかなり多かった。流石ベック王子!

それにしてもベックさんの曲って皆で歌えるコーラスがいっぱい。オープニングのサビだってそうだし、この次の『ワゥ』だってズバリそのまま「わ~」って言うし、「ナーナー、ナナナナナー」とか「ホェアイッツアッ!」とか。なんかそういうのも楽しい要因なんやろね。ちゅうかベックさんそういう曲揃えたん?

ステージ上にはひな壇が二つあって、その真ん中が通路みたいになっている。ギター持ちかえたり、ジャケット着替えたりする時はそこにスッて入ってまた出てくるみたいな感じでそれがまた優雅なベックさんらしくて良かったな。そういや途中でジャケット脱いで、暑いからもう着ないのかなと思ったら、また着るみたいな場面がありましたけど、あれは地元関西人なら「ジャケットまた着るんかい!」って心の中で突っ込んでいたはず(笑)。

ちなみにこの日はジャケットネタ満載で、今度こそジャケット脱いで真ん中の通路の奥に入って行ったかと思うと、今度は白のジャケットに着替えて登場!とか、ジャケットも途中で着たり脱いだりするんだけど、脱ぐ時に袖が引っかかって脱げなくなって、そこもブンブン振り回して笑いに変えるっていうのがあったり。そういう立ち居振舞いも、あ~ベックさんやねぇって。気が付けば何につけ、あ~ベックさんやねぇみたいになってました(笑)。

しかしまあこのバンドは凄いね。最後の『ホェアー・イッツ・アット』では間にメンバー紹介を挟むんだけど、これがまたすんごくてここだけでも一大エンターテイメント!往年の名曲をそれぞれがリードしていくのがメチャクチャカッコいいのだ。ひとりひとり挙げていきゃキリないけど、ほんと凄かった!でまた演奏も凄いんだけど、ここのメンバーはパフォーマンスにも秀でていて、それぞれがエンターテイナー。それに何より楽しそう!しょっちゅう笑ってるし、逆に笑ってないのはベックさんぐらいで(笑)、観客の僕らよりも思いっきり楽しんでる。そんなの見せられたら、そりゃこっちも俄然盛り上がるでしょう。

とにかく大変な事とかしんどい事はとりあえず横に置いといて、今日は皆で楽しもうよっていう巨大なパワーに満ち溢れてました。世相がこんなだからかどうかは分からないけど、今年のサマソニはずっとポジティブな空気というか、おおらかな雰囲気で進んでいったような気がして、そしてベックさんがその集大成で、舞洲会場に花火はないけど、最後にバーッ!てデカイ打ち上げ花火が上がったような最高に楽しい夜でした。

カラーズ・ツアーが終わった後、ベックさんはどんな事を歌っていくのか分からないけど、今のベックさんのメッセージは十分に受け取れたような気がします。あー、ベックさん最高!ていうか、チャンスさん、ベックさんを立て続けに観れるなんてホント夢のよう。Such a beautiful day!

 

Beck Setlist:
1. Devils Haircut
2. Loser
3. The New Pollution
4. Mixed Bizness
5. Wow
6. Colors
7. Think I’m in Love
8. Sexx Laws
9. Qué Onda Güero
10. l’m So Free
11. Dreams
12. Girl
13. Up All Night
14. E-Pro
15. Where It’s At