Ode to Joy/Wilco 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Ode to Joy』(2019)Wilco
(オード・トゥ・ジョイ/ウィルコ)

 

ジェフの声に元気がない。元々声を張り上げるタイプではないけど心なしか元気がない。#10『Hold Me Anyway』では何度も「オーケィ」と歌っているけど、それほどオーケィ感がないのは何故なんだ。

全体に漂う倦怠感。諦念感と言ってもいい。ウィルコはもう諦めたのか。人々が分かり合うことや人々が喜び合うことを。では何故タイトルに『Ode To Joy』と付けたのだろう。

分かり合えなさ。このアルバムを貫いているものを一言で言えばそんなところか。#1『Bright Leafs』では何度も「僕は決して変わらない / 君は決して変わらない」と歌われる。オープニングを飾る1曲目から「変わらない」なんて。ジェフさん、せつないよ。

例えば長く一緒に暮らした人がいたとする。この人だって決めた人。けれど暮らしているとやっぱり他人だから重ならないところはボチボチ出てきて、それが少しずつ積み重なっていく。でもこのアルバムの主人公はきっと努力したんだな。二人が上手くいくように寄り添ったり話し合ったり。

けどもう分かり合えないかもしれない。主人公はすっかり参ってしまっている。2曲目の『Before Us』での虚無感なんてどうだ。「玄関のベルがギターに響く / 空っぽで壁に突き当たって」だって。あげく分かり合えないから、ありもしない古き佳き人(Before Us:先人)、見ず知らずの先人、何も言わない先人に想いを馳せたりなんかして。しかも自分ひとりハイになって。でもなんかこの感じ、分かるなぁ。

#8『We Were Lucky』辺りではどん底かもしれない。今までの僕はラッキーに過ぎなかったって。これは相当参ってる。#9『Love is Everywhere(Beware)』なんてラブリーなリフに乗って「今、この瞬間、愛はどこにでもある」って繰り返すんだけど、その割になんか全面的にそうは思えないというか、ホントに愛はどこにでもあるのだろうかって。

で冒頭で触れた#10『Hold Me Anyway』。軽快な歌なんだけどこれもやっぱり「うまくいく」感を感じられない。くぐもった感じ。最後の#11『An Empty Corner』なんて「無用になった僕」だの「君が無関心だと信じられなくて」だの。結局君は僕とは別に「家族を持った」ってことなる。あーあ。

でもねぇ、だからと言って辛いアルバムじゃないんですよ。分かり合えないのは悲しい。けど、そこできっと大丈夫とかいずれなんとかっていうのではなくて。ここには悲しいのはやっぱり悲しくて、無理にベクトルを上に上げようなんてのはなく、あーあ悲しいなぁって。切ない感じでそのまんま。でもそこに彼らは『Ode To Joy』、喜びの歌と名付けた。チャーミングなメロディを付けて。

分かり合えないことをいつか分かり合える日が来るとは言わない。あぁ分かり合えないって終わる。切ないことをいつかうまくいくとは言わない。あぁ切ないって終わる。それを諦めと言ってしまえばそれまでだけど、彼らはそこを喜びの歌とする。僕はそんなウィルコのセンスが好きだ。

バントの演奏がとても優しい。励ますとか、肩を叩くとかそういうことではないけれど、平熱のまますっと進んでそれが僕の体の中にある何処かに優しく触れる。そういうとっても優しいアルバムなんだと思う。

 

Tracklist:
1. Bright Leaves
2. Before Us
3. One and a Half Stars
4. Quiet Amplifier
5. Everyone Hides
6. White Wooden Cross
7. Citizens
8. We Were Lucky
9. Love Is Everywhere (Beware)
10. Hold Me Anyway
11. An Empty Corner

(Bonus track)
12.All Lives,You Say?

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