- 佐野元春& THE COYOTE BAND
ロッキン・クリスマス 2024
2024年12月19日 in Zepp beyside Osaka
佐野のロッキン・クリスマスを見に行くのは初めてだ。僕は周年記念ライブとかクリスマスライブにあまり関心がない。僕が見たいのは攻めてる佐野元春で、予定調和なライブ、特に古参ファンが昔の曲で盛り上がるあの感じがどうも苦手。それはそれでいいと思うけど、そればっかりじゃあね、ということで必然的に昔の曲が多くなる記念ライブにはあまり足を運んでこなかった。
しかし夏のZeppツアー、何故か急に入手しずらくなった佐野のライブチケットを手に入れることができなかったこともあり、僕は佐野とコヨーテ・バンドはライブハウスが似合うと思っているし(にしてはZepp beyside Osaka は大きいけど)、ちょうどリリースされた「Young Bloods」再録ver.がとてもかっこよかったので、今回こそはとチケットを取り、ここ数年のこの時期の定番ライブ、ロッキン・クリスマスを見に行くことにした。
始まってすぐ、というかメンバーが登場する以前から凝ったライティングで会場が盛り上がる。佐野は「今、何処ツアー」から音楽以外の演出をするようになった。まだぎこちない感じはあるがとてもいいこと。どんどん洗練されてくるといいな。そしてメンバーと共に佐野元春が登場。スクリーンには「PEACE ON EARTH」の文字、会場は拍手に包まれた。
オープニングは「Young Bloods」だ。聴きたかった曲が一発目からでこちらの準備が、という感じであたふたと聴いてしまった(笑)。ようやく心の準備ができた頃に始まった2曲目、イントロでは何の曲かわからない。これはなんだと頭を巡らす。あ、こういう感じ、昔はよくあったなと思っていると佐野が歌いだした、「ガラスのジェネレーション」だ!
確かに昔の曲でも今のコヨーテ・バンドが鳴らせば、とりあえずは今になる。でも、、、やっぱり昔の曲は昔の曲だという感覚は何処かにある。しかしこの「ガラスのジェネレーション」はまったく違っていた。完全に今の意匠を纏っている。2024年の新曲として普通に鳴らされた「ガラスのジェネレーション」、とても素晴らしかった。40年以上前の佐野のデビュー2枚目のシングルという懐古趣味満タンのこの曲を余計な意味もなく清々しく聴けるとは思ってもみなかった。
しかしもっと大きな驚きはまだ先にあった。それはリイシューされたばかりの1994年『The Circle』アルバムの冒頭を飾る「欲望」が始まったときだった。この曲はThe Hobo King Bandをスタートしたばかりの頃にも新しいアレンジで表現されていた。僕はオリジナルも好きだし、The Hobo King Bandのアレンジも好きだ。でも人は変わるし時代も変わる。当時のベストと今のベストは違うはず。「Young Bloods」と同じく2024年のダンス・ナンバーに生まれ変わった野心的なアレンジは、情熱を湛えながらもたゆたうようなオリジナルとは異なり、より直接的に心を叩いた。曲の本質はそのままに、よりスリリングに、より今の時代への伝播力が高まった表現。僕は佐野の音楽的探求が今も変わっていないことがうれしかった。
休憩を挟んで後半のスタートは「雪―あぁ世界は美しい」。まさかの選曲にどよめきが上がる。前半とは打って変わってこの曲はオリジナルのままで演奏された。「世界は美しい」。確か長田弘の詩にも「世界は美しい」というものがあった。それを読んだのはいつだったか忘れたけど、その時も僕は思った。長田さん、世界は本当に美しいのですか?と。佐野は人々の心のうちにで行き来するそんな思いを否定も肯定もすることなく、「ごらん、世界は美しい」と歌った。
クリスマスライブということでもちろん「みんなの願い叶う日まで」と「クリスマス・タイム・イン・ブルー」も歌われた。それはそれでとてもよい空間ではあったけど、冒頭に「PEACE ON EARTH」と掲げられたようにやっぱり戦争という事実を踏まえての選曲はあったように思う。演者も観客ももう無邪気に「Tonight’s gonna be all right」と歌っている人はいないだろう。この日の夜、どうしようもなさを抱えたまま僕たちは「Tonight’s gonna be all right」と歌った。
コヨーテ・バンドと佐野は若干の違いはあるかもしれないがブラック・スーツに白いシャツというお揃いの衣装で登場した。最近はこういう機会が増えてきた印象だ。バンドは来年で20年。佐野のボーカルに少し元気がないときはギターが思いっきり会場を揺らす。佐野がノッてくるとバンドは自由な佐野についていく。とてもよいバンドになったと思う。
近年の佐野は後半になると声がハスキーになり高音も伸びてくる。若い頃から鍛えた立ち居振る舞いはすっかり自然なものになって本当に所作が素敵だ。この日、僕は改めて佐野に魅了された。
来年は45周年ライブがあるだろう。昔の曲が多くなるかもしれないが、またチケットを取ろう。この日の観客にも少しだけ若い子がいたが、野心的なアレンジには連中だって揺さぶられるだろう。僕はもう一度「欲望」を聴きたい。