Month: 4月 2023
暦
ポエトリー:
「暦」
期待させて悪かったね
僕は暦へあと一歩届かないんだ
うまく言えないけど
一年、また一年とこういうものはいつも
減っていくよりむしろ増えていくんだね
日頃、できるだけ多くの扉を開けようとするけれど
手にするものはほんの少し
むしろ出来なかったことが増えていくんだね
君だって大事なこと、
失ったような顔してるけど
失っちゃいない
増えているんだ
証拠にほら
少しずつ影の色が濃くなって
溶け合う隙間もなくなって
仰ぎ見ることすら忘れてしまった
もし君が
手にしたものをすぐに手放すような人だったらこんな苦労はなかったろうにと
もちろん僕にそんなこと言う勇気はなくて
僕だってほら
大事なこと、知ったような顔してるけど
一年、また一年と
増えていくことに抗いもせず
暦へまだ
あと一歩届かないんだ
2023年2月
Food for Worms / Shame 感想レビュー
優しくない人の言葉
ポエトリー:
「優しくない人の言葉」
優しくない人の言葉小脇に抱え
冷たい雨
そんなの駅のベンチに捨て置き
早く次の電車に乗りなよ
君の両腕はもっと大事な事
抱えるべきだよ
2022年10月
大いなる一本道
ポエトリー:
「大いなる一本道」
月が声に出している大いなる一本道は
人々の罪を暴いたりはしないし
見ず知らずの人を小突いたりもしない
だからこそ今日も私たちの胸は濡れているし
健康的に今朝も寝坊をしたりする
昨日にしても今日にしても
私たちに場違いなことはなく
問題を先伸ばしにしたって傘は
雨が降れば必要になるし傘は
人が思うほど色ちがいではないってこと
隠し立てをしたって糸のほつれからは
何をしたかったかや何ができなかったかが
ありとあらゆる角度から想像できるし
それでも上下左右に連動する体の動きは
以前よりにも増して糸を吐き続けるだろうし
何がしたかったかや何ができなかったということよりも
些細な毎日の流れの細やかなことであったり
そうやって生き抜くこと自体を体全体で表明しようとする私たちの手足は健康的で
だからこそ太陽や月の光は毎日新しい角度で人々の体に射し込むのだろう
今に至っては
正面に回って受け止めることだけが正しいとは限らないし
むしろ太陽や月の光が斜めに走る瞬間こそ大切に
そのことをよくよく心に留め置き
なまじよく動く体を持っていようとも
端から端まで歩みを進める必要はないし
半身に構えようが何しようが
昔馴染みの人に会った時のような柔らかな面持ちで
少しでも多くの時間がほどける時を待ち
昨日あったことや今日あったことを
半年先にはよい意味で忘れるような
それでいて嘘はつかない体
健康的な体であることを願いつつ
今や外は雨あがり
太陽や月の光は熱を帯び
傘立てからは雨がしたたっている
【概要】
月は血を流している
君は罪を犯している
大いなる道は一本の道
私たちの胸は濡れている
特別大きな知らせはなくても
それでも枕元に忍び寄る
そういう噂を耳にして
友達はジャムの蓋をきつく締めた
様々なコンテンツから取り出す
簡易的な欠片は
いかようにも形を変えて
胸に留まり山となる
近代の桃源郷をそれと知るなら
面倒臭いなどと言わず
湿った手を拭うのがよい
その方がよほど健康的だ
そこに点はなく線がある
私たちの心はいつもある程度
湿り気を帯びている
それはとても健康的だ
2023年1月
『SWEET16 30th Anniversary Edition』のリリースに寄せて
『SWEET16 30th Anniversary Edition』のリリースに寄せて
1992年に発表された『SWEET16』アルバムの30周年記念盤がリリースされた。『SWEET16』は第2期のピークを迎える佐野元春の復活作として記述されることが多い。実際は前作アルバム『TIME OUT!』(1990年)から2年しか経っていないのだが、『TIME OUT!』が80年代のラジカルな佐野元春像からは少しばかり距離のある控えめで地味な作品であり、また、実際に『TIME OUT!』以降は家族のことで1年間ほど音楽活動自体を休んでいたというのもあって、キャリア的には初の空白期間としてあげられている。僕はその頃、まだ佐野の音楽に触れていなかったので、実際の印象は分からない。
そして僕が佐野の音楽にのめり込むきっかけとなったのが正にこの1992年。ドラマ主題歌となった『約束の橋』のヒット、快活なアルバム『SWEET16』のリリース、ベスト・アルバム『NO DAMEGE Ⅱ』のリリース。これらに伴う積極的なメディアへの露出によって、十代最後の年に僕は佐野元春を知るようになった。
30周年記念盤の価格は22,000円。もう少しなんとかならなかったのかとは思うが、勿論それに見合うだけのボリュームはあって、オリジナルのリマスターCDが1枚。アウトテイク集がCD1枚。当時のライブの完全収録を2公演分CD4枚。映像としてBlu-rayが1枚。計7枚プラスずっしり140ページのブックレットに当時の広告用ポスター付きという豪華さ。
オリジナルのリマスター盤と既発がほとんどであまりレア感はないアウトテイク集はまあよいとして、今回の目玉はなんと言っても再始動の端緒となったツアー『See Far Miles Tour Part Ⅰ』(神奈川県民ホール)と、続くアルバム『SWEET16』をフォローするツアー『See Far Miles Tour Part Ⅱ』(横浜アリーナ)の2公演完全収録。とりわけ目を引くのは、ステージアクションを含めた当時36才のキレキレの佐野元春を映像で見れるBlu-rayだろう。佐野のデビュー以来のバック・バンドであるザ・ハートランドはこの後のアルバム『THE CIRCLE』(1994年)で解散をするが、その前の佐野元春 with ザ・ハートランドの最も脂の乗り切った時期がこの『See Far Miles Tour Part Ⅱ』。ていうか佐野の全キャリアのライブ活動においての最大のピークはここなんじゃないかと個人的には思っている。
この時の模様は当時、映像作品として『PartⅠ』が30分ほど、『PartⅡ』が60分ほどのビデオソフトになっていて、佐野の音楽のファンになったばかりの僕はそれこそ擦り切れる程何十回と見た。それが未発表の映像が10曲も追加されて映像化されるなんてあの頃の僕に教えてやりたい。
当時、僕はこの時に佐野が着ていたのと同じような薄いブルーのシャツをミナミのアメ村で探し回った。僕にとって1992年の佐野の活動がこうしてまとまった形でパッケージ化されることの意味は大きい。なにしろ僕の佐野元春はこの時に始まったのだから。
つまみ食い
ポエトリー:
「つまみ食い」
つまみ食いをして
あなたの詩をのぞきこむのが
野暮なわたしのすることです
そうやってできた
いささか単調なわたしの詩を
(と呼べるかどうかは別にして)
この際あなたにご覧せしむる
なんて大層なことはどこにもなく
軽はずみな言の葉
夏休みの子供のお手伝いのように
落ち葉もろともそそそと掃いてください
そしたらわたしは音もなく
さささと退散するでしょう
2023年2月
芸術と生活
冬瓜
ポエトリー:
「冬瓜」
冷たい雨
降るねこの先
なのにじっとしているだけで
汗かくね
こんな日はゆっくり冬瓜
冬なのに秋の季語っていいよね
うっかりしてわたしたちまで
冬まで持つ瓜になればいいね
冬は冬瓜
無慈悲な言葉にも
水分を奪われることなく
簡単に心盗まれることなく
ひと冬ぐらいどうってことなく
冬は冬瓜
待つのが仕事
冷たい雨はもうしばらく続きますが
今はただ身を固くして
佳き日を待つのみです
2023年1月