同級生のS君

ポエトリー:

 

『同級生のS君』

 

同級生のS君はいつもにこにこしている

遊びの誘いも断らない

昼メシもなんでもいい

テストの点数は抜群に良くないけど抜群に悪くもない

僕らが誰かの悪口を言ってもにこにこ聞いている

僕らがしくじってもにこにこしている

S君は解決してくれないけど

 

S君は野球部

特別上手くはないけど、なんとはなしにレギュラー

僕たちの草野球にも来てくれる

凄いピッチャーが来てもスコーンとショートの頭を越してしまう

僕たちは感嘆の声を上げる

 

S君は意見を言わない

その代わり文句も言わない

S君は自分から誘わない

 

S君にも悩みはあるだろうけど

今はS君が懐かしい

 

 

2017年2月

i,i / Bon Iver 感想レビュー

洋楽レビュー:

『i,i』(2019)Bon Iver
(アイ、アイ/ボン・イヴェール)

 

4枚目。なんでも、デビューアルバムが‘冬’で2枚目が‘春’。3枚目は‘夏’で今回は‘秋’をイメージしているそうだ。言われてみるとそんな気はする。

ボン・イヴェールことジャスティン・ヴァーノンは不思議な人で、自分たちのコミュニティを大事にする所謂やりたいことをする音楽家という立ち位置ではあるけど、実際はローカルな感じはしないし、メジャー・アーティストともコラボしたりする。要するにどちらがどうということではなく、自身の要求に忠実ということだろう。最初は変なところから変な音楽を発表していたボン・イヴェールも今や2010年代を代表するアーティスト。今やこういう人が主流、当たり前なのだから面白い。

肝心の音楽の方も最初は何じゃこれ感があって、これオレにも聴けるかなぁという敷居の高さがあったのだが、段々と馴染んで来て今はもうこれが普通になっているから不思議。というかむしろこれ、すご~くしっくりくる。というのは時代の為せるわざか。

相変わらず詩は分かるような分からないようなヘンテコなものだが、そのヘンテコさがもうそういうもんじゃん、って。このヘンテコなものが違和感なく溶け込む感じはウィルコと同質かもしれないが、ただウィルコと違うのはそうは言ってもそのうちまた付いていけなくなってしまうかもしれない可能性があるということで、それがいい方向ならいいけど、そうじゃない場合も含めてまだ不安定さは含まれている。それこそまさに2019年的か。

傷心のジャスティン・ヴァーノンが一人片田舎で音楽を作って、やがてそれが大きなうねりとなって一つのコミュニティを生む。そして仲間との祝祭のような音楽があって、今回は秋の収穫。それが終わればまた皆それぞれ場所に帰っていく。けどそれはまた一人になるということを意味するのではなく、ただ生活という営みに過ぎない。

このアルバムは個という視点が再び強くなっているけど、それはかつてのそれとは性質が異なるもので、言ってみれば内から外へ向けられたものではなく、外から内に向けての優しい視線。ここにあるのは孤立とはかけ離れた、開かれた孤独だ。i,i と小さく並んだ小文字が可愛らしい。

 

Tracklist:
1. Yi
2. iMi
3. We
4. Holyfields,
5. Hey, Ma
6. U (Man Like)
7. Naeem
8. Jelmore
9. Faith
10. Marion
11. Salem
12. Sh’Diah
13. RABi

大阪市立美術館 特別展「仏像 中国・日本」感想

アート・シーン:

大阪市立美術館 特別展「仏像 中国・日本」感想

天王寺にある大阪市立美術館で開催中の特別展「仏像 中国・日本」に行って参りました。サブタイトルは`中国彫刻2000年と日本・北魏仏から遣唐使そしてマリア観音へ`というもの。内容はそのサブタイトルのまんまですね。非常に統一感のある展示でした。

入ってすぐに展示されているのが、銀製の男子立像。これ、紀元前200年くらいの作なんですけど、あまりの精巧さにびっくりしました。デザインも含めまるで現代の作品のようです。紀元前200年にこれだけの技術があったというのは驚きですね。加えてデザイン。とてもチャーミングで2019年のセンスと変わらないというのがスゴイ!恐るべし、中国2000年の歴史!

展示が多かったのは石仏ですね。この石仏がですねぇ、また精巧なんですよ。また立ち姿が抜群
に素敵!特に横から見ると最高です!

仏様なので、少し前傾気味。といっても不自然な感じではなく程よく前傾なんです。でもってそこにはちゃんと軸が存在する。背骨の婉曲がはっきりと存在するんですね。このなんとも柔らかでキリッとした姿勢に私は惚れましたね。しかもほとんどの石仏がそんな感じなんで、こりゃやっぱり彫師の技術なんだなと。昔の職人、スゲー!

あと中国の仏像の特徴としてはやはりお顔立ち。実際の日本人と中国人の顔立ちはそんなに変わらないのですが、あっちの仏様はやっぱ本場インドの面影が色濃いです。鼻梁がスッと伸びて彫り深っ!鼻、とんがってます(笑)。日本にも西アジアの影響を感じさせるお顔立ちの仏様がいらっしゃいますが、ここまではっきりとインド!ってのは私あんまり知らないです。

そんな感じで仏像の方は8割方が中国仏像でしたが、あんまりあちらの仏像に触れることはないので、へぇーって感じて面白かったです。私としては見慣れているせいか日本ののっぺりとしたお顔立ちの仏様の方が落ち着きますけどね(笑)。中国仏像、なんか個性強過ぎっ。

それにしても金製や銀製の仏像や石仏、もちろん木製の仏像にしても技術の高さは目を見張るものがありました。日本の仏像はやっぱり俳句的というかシンプルイズベストが基本ですからね。中国仏像、情報量多いっす!

あと、仏像の法衣や装飾を見るのも面白いです。あんな昔にこんな格好してたんだというのが結構驚きます。じゃらじゃらいっぱいぶら下げてたり、派手な格好は新鮮でしたね。しかもバランス良くてセンスいいんですよ。意外と昔って美的感覚が今と変わらないのかもしれないですね。

映画『イエスタデイ』感想レビュー

フィルム・レビュー:

『イエスタデイ』(2019年) 感想レビュー

もし世界にビートルズが存在していなかったら。この誰もが思い付きそうで思い付かないアイデアが先ず秀逸ですね。このアイデアを思い付いた時は「よし、これだ!」と小躍りしたんじゃないでしょうか(笑)

そこでです。設定としては最高なんですが、じゃあこれをどうやってドラマに仕立てていくか。そこがこの映画の見どころです。

話の筋としては、ミュージシャン志望の冴えない青年がそろそろ夢を諦めようとした時に、あるきっかけで世界は彼以外の誰もビートルズのことを知らない世界になってしまう。そして彼はビートルズの曲を自作の曲として歌いスターダムにのし上がってゆくというものです。

この誰もビートルズを知らない世界になるっていうきっかけが何じゃそりゃ感はあるのですが、その辺は冒頭のことですから、ここは設定の面白さで押し切れちゃいます。

その青年、ジャックは一躍時の人になるのですが、やっぱりね、後ろめたさはあるわけです。そういう意味では普通の人が一気に出世をして我を失う、けれど最終的には色んな人の助けを借りて自分を取り戻す、っていうよくあるパターンとはだいぶ異なります。ジャックは基本ずっと好人物ですから。

面白いのはジャックの後ろめたさが観ているこちらにも伝わるというところ。ジャックは真面目で優しい奴なんですが、事情が事情なもんでスターダムにのし上がったとしても観ているこっちは単純に喜べない。例えば『ボヘミアン・ラプソディー』のフレディみたいによし頑張れとはならないわけです。好青年のジャックを応援する気持ちはあっても観ているこちらの気持ちとしては中々盛り上がっていかない。そういうもどかしさを共有していく映画でもあります。

で、そこをどう決着を付けていくか、ビートルズが存在しないという世界を最終的にどう回収していくのか。その解決法がこの映画を好きになるかどうかの分かれ目なんじゃないでしょうか。

その結末ですが、ここは非常に真面目に取り組んでいると思います。気をてらった、或いはどんでん返しが待っているということではなく真面目に向き合っている。納得感を持たせるべく少しずつ積み重ねている気はします。ありがちな安易なクライマックスへ持っていかないところは好感が持てますね。そこはやっぱりビートルズへのリスペクトがあるからではないでしょうか。

ジャックはクライマックス前にある人物に会いに行きます。もしかしたらここはやり過ぎという声があるかもしれませんが、この出会いが最後のジャックの決断を後押しすることになる。ちょっとしたサプライズも含めここは感動的でした。

あと最後に付け加えると登場人物が皆いい人(笑)。ジャックの友達で何かと面倒臭いキャラのロッキーも最後はいい事言います(笑)。そういう意味でもこの映画は設定上、感動ストーリーと思われがちですが、基本はコメディと捉えて観た方がよいのではないでしょうか。実際笑うとこはいっぱいありますし(笑)。

もうひとつ。主人公のジャックは白人ではなく移民系ですね。『ボヘミアン・ラプソディー』もそうでしたし、今アメリカで公開されていて話題のブルース・スプリングスティーン絡みの映画『Blinded By The Light』もそうです。この辺りも物語にリアリティーを与えているのかなという気はします。

昨日の前提

ポエトリー:

『昨日の前提』

 

世界の歴史を
手のひらに集めて
新しくしつらえた
無地のシャツ
長い袖の
早くもところどころ絶え

微かに聞こえる
行進は
新調されたブーツで
やがて微かに
耳も遠くなる

発明家はいつも
正しいとは限らず
新しいものに
手を引かれがち
いつも時間を忘れて
せっせとせがんだ
やつら前傾姿勢だから

短く刈り上げた空は
午前六時の最もよい時間帯
真っ先に扉を開けたのは
行進から今しがた帰った
真新しいブーツでした

真新しいブーツに占められた教室の汚れ
真新しいものとして処理していく
自動的な段階を踏んで
私たちは居場所をしつらえる
馴染んだ影は私たちのものではないけれど
私たちが孕んだモノとして
処理するしかない

配置、
その仕事で明日は塗り替えられる
前代未聞は毎日起きて
まるで昨日の前提だ

 

2019年8月

映画『ミルカ』感想レビュー

フィルム・レビュー:

『ミルカ』2013年 感想

『ミルカ』。2013年公開のインド映画です。2時限半と結構長いのですが(インド版のオリジナルは3時間!)、飽きることなく最後まで楽しく観ることが出来ました。

インド映画ということで登場人物や話の展開が今まで見慣れた映画とは異なりますので、そこが先ず新鮮でしたね。あら、そういう話しになるのね、という感じで全然先が読めません(笑)

あと悲惨なシーンもあったりするのですが、基本的には明るく楽しい映画ですので、重たい気分にはならない。まぁそれは主人公ミルカのキャラクターにもよるのですが、清々しい印象を与えてくれる映画でした。

『ミルカ』というのは実在する人物、ミルカ・シンのことです。かつて陸上400m競技で世界新記録を出したインドの国民的英雄とことだそうです。てことで言ってみれば、インド版『いだてん』といったところでしょうか。

導入部を簡単に説明するとこんな感じ。400mの世界記録保持者であるミルカは1960年のローマ・オリンピックで国民の期待を一身に集めますが、金メダル直前のゴール間近で大きく後ろを振り返り順位を落としてしまいます。そこにはミルカの悲しい過去があったのです。

その原因となるのがインド・パキスタン紛争。それはこの映画の重要や背景となるのですが、物語はそれだけではありません。流石インド映画と言いますか、映画は孤児となったミルカの成長譚でもありますし、コーチとの熱い友情やライバルとの戦いといったスポ根ものでもありますし、もちろんロマンスあり、しかも何度もあり(笑)、インド映画らしく唐突な歌ありダンスあり。社会派とか感動ものといった一つのジャンルにとどまらないエンターテイメント要素をこれでもかとぶち込んだ全部盛りの映画です。でも不思議なことに支離滅裂な感じは一切しないんですね。この辺の監督の手腕はお見事!

加えて最初にも言いましたが、ミルカのキャラクターが生き生きしていて明るく屈託がない。前向きでポジティブ。ミルカはあっち躓きこっち躓きするんですが、この度前を向いて歩いていく。そこに引っ張られる部分は大きいですね。

そういう意味でもこれはやはり大河ドラマ。あちこち飛ぶストーリーをバイタリティー溢れる主人公が統べていく。根底には陽気なポジティビティが流れていますから、これはやはりインド版『いだてん』という見方で間違いないんじゃないでしょうか。

あとミルカさん、若い頃の髭もじゃブルース・スプリングスティーンにそっくりです。私の中ではその時点で高ポイントでしたね(笑)

明るいところと暗いところが入り混じり

ポエトリー:

『明るいところと暗いところが入り混じり』

 

がらんとした部屋のあるところ
あなたの明るいところと暗いところが入り混じり
近くの問題がとても遠くに感じられました

明るいところと暗いところが交わる時
あなたは剥がれ落ちただの記憶になりました

もぬけの殻
調子っぱずれでこたえるから
右肩を軽くぐるんと持ち上げた
ものにした事柄が
体の奥から定刻通りに抜け出していく

産声が銀河を抜け
ワクチンがひとつ、生まれた
あらかた、
為すべきことは済んだのか

前近代の雨の中
細ばる記憶がまた新しい列車に乗って
地下の帝国へ吸い込まれようとしていました

 

2019年8月

Goldrushed/The Royal Concept 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Goldrushed』(2014)The Royal Concept
(ゴールドラッシュ/ザ・ロイヤル・コンセプト)

 

タワーレコードの試聴機で「いかにも欧州なひねくれポップ」、でもって「フェニックス+ストロークス」なんて書かれていたもんだから、早速聴いてみたらひっくり返りそうになった。これはもうフェニックスそのものじゃないかと。その物凄くキャッチーなEP盤の2年後に満を持してリリースされたのがこのデビューアルバムだ。

この初のフル・アルバムも期待に違わぬ、というかそれ以上の素晴らしい作品。無駄な説明は一切不要。これは聴いてもらうしかない。若さに任せたエネルギーに満ち溢れている。

驚くことにEP盤で見せた強烈なポップ・ナンバーがまだまだ出てくるし、スロー・ソングだって素晴らしい。演奏力も確かでアレンジもアイデアに溢れている。しかしこれは極めて特殊なデビュー・アルバムと認識すべきもの。つい次回作もと期待してしまうが、それは酷ってもんだ。このテンションは2枚、3枚と続けられるものではない。

このアルバムを一言で言うと、#9『Shut The World』での「we’re gonna live and die young 」というフレーズに尽きる。その破壊力を存分に味わえ。

落ち着いたかなと思ったら、再度スピードが上がる#7『Busy Busy』、#8『Girls Girls Girls』のメドレーがまたいい。

~I’d rather be a ticking bomb than a fading light ~by『Shut The World』

 

Tracklist:
1. World On Fire
2. On Our Way
3. D-D-Dance
4. Radio
5. Cabin Down Below
6. In The End
7. Busy Busy
8. Girls Girls Girls
9. Shut The World
10. Tonight
11. Goldrushed

国内盤ボーナス・トラック
12. Damn
13. Naked and Dumb
14. Gimme Twice
15. Knocked Up
16 Someday

#14『Gimme Twice』の入った国内盤を聴くべし!