ライブ・レビュー:
佐野元春 & The Coyote Band 禅BEAT TOUR 2018 in ZEPPなんば 2018.10.20 感想
いや~、楽しかったッス。佐野元春 & The Coyote Band「禅ビート・ツアー 2018」。今年の春にニュー・アルバム『Maniju』をフォローするマニジュ・ツアーが行われたばっかなのに、この秋に『Maniju』アルバム中の1曲である「禅ビート」をタイトルにしたツアーを行うという。春がホール・ツアーで今回はライヴ・ハウスを巡るということで主旨が異なるものの、またなんでツアーなの?という疑問が無くもなかったのですが、行ってみてよ~く分かりました。全編、重心の低い Coyote Band ならではビートをフィーチャーした名付けて禅ビート。2007年のアルバム『Coyote』に端を発した Coyote Band 結成がここに至り獲得したひとつのスタイルをより重点的に披露しようってんですね。その意図がよ~く伝わるライヴでした。
マニジュ・ツアーは Coyote Band と制作したアルバムからの曲のみで本編が構成されるという潔いセット・リストだったけど、今回の禅ビート・ツアーも基本はそこは同じ。オープニングからほぼ全編、近年の曲で占められています。これはやっぱりいいですね。ロック音楽には同時代性が必要で佐野さんの昔の曲がそうではないという訳ではないけど、今の佐野さんには今を叩きつける今の歌が沢山あるわけだから僕はやっぱりそれを聴きたい。世の中には音楽が沢山あるけれど、残念ながら日本には時代に言及する音楽が足りない。今の佐野さんの音楽はチャートに昇るようなものではないけれど、今日この日の会場では2018年の音楽が流れている。そう強く感じさせるライブでした。
ライブ前半はマニジュ・ツアーに準ずるラインナップ。しかしやはりライブ・ハウスというのは大きい。単純に届く距離が短いということは同じ曲であっても響き方が全然違うということ。これは僕が思ってるだけかもしれないけど、やはりCoyote Band はライブ・ハウスが映える。なんかホールだとよそよそしく感じてしまうんだよなぁ。このバンドが一番自然体ていられるのはライブ・ハウスってことではないでしょうか。
てことで、ところ違えば響き方も違う。僕個人として今回一番そこを感じたのは「純恋(すみれ)」だ。この曲は『Maniju』アルバムの中でも人気が高い曲だけど、実は僕にはあまり響いて来なかった。ところが今回はイントロを聴いた瞬間に感情が大きく波打って自分でもびっくり。この曲は佐野さんのMCでもあったようにティーンエイジャーに向けられた曲で、恋に落ちた時の心模様が描かれている。なんだろ、好きになった時やそれが成就した時の天にも昇る気分、恋が終わった時ののたうち回るような苦しさ、そういった記憶がバババッと思い出されてきたんだな。なんか自分の中の思春期が急に蘇ってきた感じ(笑)。強烈なアンセムとして響きました。僕にとってはこの曲がこの日のハイライトでした。
ライブ後半はマニジュ・ツアーと違って80年代、90年代の曲が幾つか披露されました。禅ビート・ツアーって言うぐらいですから勿論、Coyote Band としての解釈でぐぐくっと重心の低いダンス・ビートとして鳴らされます。確かにこの辺の曲をやった時の方が Coyote Band としてのアイデンティティーが明確に目に見えて来ますね。なんて言うのかな、世代的にオルタナティブなロックをくぐり抜けた Coyote Band の面々ではあるけれど、かえってアーシーと言うか非常に泥臭いサウンドで直に迫る感じ、泥が跳ねて来そうな直接性を感じられました。「インディビジュアリスト」や「ヤァ!ソウルボーイ」などでそれは顕著に感じましたね。
まぁそういう意味では、古い曲をすることで Coyote Band が叩き出す`禅ビート’がよりはっきりと浮かび上がってくる訳だけど、マニジュ・ツアーに比べると幾分古い曲が多いかなと。個人的にはもうちょい『Maniju』アルバムからの曲が聴きたかったかなとは思います。ま、そうするとマニジュ・ツアーとあんま変わらないセトリになってしまいますからとマニジュ・ツアーとは別のアプローチで、というのはあったのかもしれないですね。
あとライブの中身と関係無いところで、春のツアーはフェスティバルホールだったの席番があって、ところが本編の間中ずっと誰も立たないという髄分なストレスがかかる状態となり(←主要年齢層が50代なもので)、集中することが難しかったんだけど、今回はライブ・ハウスということでスタンディングあり。それでも年齢層を考慮してほぼ9割が座席ありのチケットで、僕は勿論前みたいにずっと座ってんのヤダからスタンディングにしたんだけど、始まったら結局みんな立ち上がって、なんだそんならイス席取りゃ良かったなと(笑)。だってスタンディングは1階の最後列なんやもんなぁ。
あと途中からなんかプワ~ンと漂うものがあって、これは多分口臭ですかね(笑)。これがどうも気になっちゃって、いかんいかん、口で息をしようと思ったんだけど、オレ魚じゃねぇし無理(笑)。多分後ろの人だと思うんだけど、だんだん盛り上がって来て一緒に歌い出したんだろな、そうすっと息も前へ前へ押し出されてくる訳で、スンマセン、僕はもう我慢出来なくなりました。てことで途中で一番後ろへ移動(笑)。でもこれが不幸中の幸い。一番後ろはスペースもあって、そこからは周りを気にすることなく目一杯楽しめました。やっぱスタンディングで良かったという話です(笑)。
今回はインスト・ナンバーも披露されました。キーボードの渡辺シュンスケ率いるバンド、シュローダー・ヘッズの曲、「ライナス・アンド・ルーシー」。聞き覚えのあるスヌーピーの曲です。これが格好良かった!めちゃくちゃ楽しかった!僕は一番後ろで跳び跳ねてしまいました(笑)。佐野さんも「ここからは渡辺シュンスケ・アンド・ザ・コヨーテ・バンド!」なんて粋なこと言います。
ライブはアンコール含めての2時間弱。えっ、そんだけしか時間経ってないの?っていうぐらいあっという間の濃密なライブでした。セトリもアップ・テンポのものが多く、やはりビートに重きを置いたライブという主旨が如何なく発揮されていました。力強く深く道を抉る感じ。今の佐野元春はこれなんだよ、という宣言。Coyote Band のアイデンティティーはこれなんだよ、という宣言。どうしても年齢層は高くなるけど、これはやっぱり若い人に聴いてもらいたいな思いました。現実的に年齢層の高いお客さんのパワーも落ちてきたような気もするしね(笑)。
でも実際、もし佐野元春の曲をひとつも知らなくても十分楽しめるライブだと思います。今の若い子はフェスなんかでそういう場合の楽しみ方もよーく分かってるだろうし、なんつっても Coyote Band の作り出すサウンドは普通に格好いい!勿論、手練れのメンバーだし技量的に優れているのだけど大事なのはそういことではなく、同時代性を伴って如何にビートを鳴らせるかに掛かっている訳で、そういう意味では佐野元春 and The Coyote Band の’禅ビート’はまさしく今を強くキックするバンドだと思います。
ライブとは何なのか。こうやってひとつところに集まって直に音楽を聴く、体感することはどういう意味を持つのか。この日の佐野さんは何度も「楽しんでいこう!」、「ダンスしよう!」と言った。会場には少ないながらも10代、20代の連中がいた。佐野元春は言う。「僕たちと皆の見ている景色は違うかもしれないけれど、明るい未来は願う気持ちは一緒だ」と。ただ楽しむもよし、踊るもよし。自分の胸を打つものは何なのか?それは何故なのか?と咀嚼し考えるもよし。それぞれの人生と照らし合わせ、思い思いにライブを過ごす。そういう自由でポジティブなムードをもたらすものはやはり現代の荒地を往く Coyote Band のビートがあるからなのだと思いました。
それにしても佐野さんが一番楽しそう(笑)。ところどころで顔を出すユーモアも抜群だし、佐野さん、キャラ変わってきたな(笑)。「僕たちはこれからも前進します」と言ってたし、結成して10年以上経ちますが、佐野元春 & The Coyote Band の旅はまだまだ続きそう。皆さん、今の佐野元春は凄いですよ!
セットリスト:
1. 境界線
2. 君が気高い孤独なら
3. ポーラスタア
4. 私の太陽
5. 紅い月
6. いつかの君
7. 世界は慈悲を待っている
8. La Vita e Vella
9. 空港待合室
10. 新しい雨
11. 純恋
12. ライナス&ルーシー(インスト)
13. 禅ビート
14. 優しい闇
15. 新しい航海
16. レインガール
17. インディビジュアリスト
(アンコール)
18. ヤァ!ソウルボーイ
19. 水上バスに乗って
20. アンジェリーナ