ポエトリー:
『夕方はまだ隣の国』
ぼんのくぼからぷよぷよと入って向こう側へ抜けていった
そのまま飛行機雲のレールに乗って何処かへ消えてしまいそうだった
その日の午後は爪がふやけたり無くなったりして大変だった
夕焼けはまだ隣の国に長居しているように思えた
ざっくりとした長さの夕方は夏に向かって拵えられていてスイカの種はまだ種のままだった
遠くで救急車の色が焼けていた
理科室の実験のように静かだった
明日の朝は爽やかなTシャツが似合うはず
けれどまだ洗濯に出しているはず
白い立方体は白い立方体のまま数字が書き込まれるのを待っている
家では夕食の支度が整えられていて
ざらざらの舌はオゾン層が合成した水溶液の透明な部分だけを吸い取り始めていた
冷たい人形が耳元で囁く
分かっているつもり
明日は来ないつもり
知ってるよ、僕がうっかりしてもまだ夕方だからね
閉じたり開いたりして理科の実験室から君が溢れてくる
僕は思わず手で押さえていた
思い出をたくさん玄関に並べてみても
夕方はまだ隣の国
人が青と言う色の青さがまだ残っていて
空は逆さまのソーダ水のまま、泡を吹いている
2018年3月