何度でも/ドリームズ・カム・トゥルー について

邦楽レビュー:

『何度でも』 Dreams Come True について

 

このあいだテレビでドリカムの特番をしていた。家人がファンなので一緒になって観ていた。番組の中で、2011年に福島から生中継された紅白での一コマが流れた。そして生中継終了後の未公開映像が披露された。それが『何度でも』だった。

この歌はリリースされたころから好きだった。主人公は1万回挑戦して、1万回失敗する。諦めない主人公はそれでもなお1万1回目に挑戦する。だが、頑張ったからといって1万1回目はうまくいくとは限らない。確かなことはただ一つ、うまくいくかもしれないということだけだ。これほど絶望的な言葉はあるだろうか。しかしそこに言葉に丁寧に寄り添ったメロディと吉田美和の強い意志を持った声が加わるとどうだろう。希望と絶望がないまぜになって言葉に光が差し込み、希望が幾分か強く光り始める。音楽に限らず、優れたアート表現とはきちんと光と影を描いている。光を当てれば影が出来るのだから当然だ。安易に希望を歌わず、絶望を見据えたこの歌が僕は好きだった。僕はこの曲をそういうふうに捉えていた。

未公開映像の『何度でも』のラストでは、バンドの演奏が一旦静まり、吉田美和の声だけが聴衆に投げつけられる。彼女は会場にいるひとりひとりに向かって叫びだす。「あなたに!」「あなたに!」「あなたに!」と。まるで自分の命をちぎって投げつけるように。鬼のような形相でひとりひとりを確実に指さしてゆく彼女は本気だ。あなたにも、あなたにも、あなたにも、チャレンジする限り1万1回目は訪れるのだと。

この歌は間違いなく希望の歌だ。僕の見方は間違っていたかもしれない。確かにそこには絶望が横たわっている。しかし彼女の圧倒的な意志の力がそれを凌駕する。これほど圧倒的な希望の歌があるだろうか。

月と専制君主/佐野元春 感想レビュー

 

月と専制君主  (2011) 佐野元春

 

リ・クリエイト・アルバム。要するに自前のカバー曲集なんだけど、これがとてもいい。嫌な言い方をすれば、あくまでも焼き回しに過ぎないのだが、全くそうは思えない瑞々しさと、今を感じさせる時代性を備えている。

ライブにおける佐野はこれまでも、場所や時代が変われば衣替えするかのような身軽さでもってアレンジを変えて演奏してきた。僕たちファンにとってもそれは当たり前のことではあったのだが、ライブ用のそれと、こうして時間をかけて丹念に録音されたスタジオ版とでは少し趣が違うようだ。それはライブバージョンのような瞬発力はないが、砂地が水を吸い込むかのようなゆったりとした浸透力を持っている。

フリー・フォークと呼ばれる当時の海外の潮流と歩調を合わせたかのようなアコースティックなサウンドは、親密さと同時に、リアリティを醸し出し、演者と聴き手との距離をぐっと引き寄せる。目の前に広がる風景は、これまで以上にまるで自分がそこにいるかのようで、ここにはズボンの裾に土がこびり付きそうな直接性がある。そしてその喚起力は、目の前にぐっと引き付ける力強いものではなく、やんわりとした日常性を伴ったものだ。

加えて素晴らしいのは、今を感じさせるという点である。これはポップ・ソングで最も重要な要素であるが、このアルバムを聴いて何よりうれしいのは、過去の曲であろうが、アコースティックであろうが、今この時を叩きつけている点である。まさに正真正銘のリ・クリエイト・アルバムと言えよう。

新たに施されたサウンド・デザイン、それに応えるホーボー・キング・バンドの適切な演奏もさることながら、今回感じるのはやはり曲本来の力である。煮て食おうが焼いて食おうが、今と共鳴する普遍性。余計な装飾がない分改めて佐野の楽曲の確かさが浮き彫りになった気がする。

『クエスチョンズ』や『C’mon』といったチョイスも良し。振り返れば佐野のキャリアも随分と長くなってきた。あまり顧みられることのない佳曲を掘り起こすことは僕らにとっても意味のあることではないか。

ただやはりカバー・アルバムなので、佐野のいつものはみ出すような危うさが無いのは物足りないか。このようなコンセプト・アルバムに違和感なく溶け込む新曲が2、3あれば、より鮮度は高くなったと思うがどうだろうか。ていうかファンとしちゃそっちの方が嬉しい(笑)。

そう言えば、、、ハートランド解散の折り、当時のライブ・アレンジで何曲かばぁーっと録音したはずなんだけど、あれはもうリリースしないのだろうか。本当の意味でのハートランド最後の作品ってことでファンにとっちゃたまらんのですけど、、、。

 

1. ジュジュ
2. 夏草の誘い
3. ヤング・ブラッズ
4. クエスチョンズ
5. 彼女が自由に踊るとき
6. 月と専制君主
7. C’mon
8. 日曜の朝の憂鬱
9. 君がいなければ
10.レイン・ガール

透明な光

ポエトリー:

 

『透明な光』

 

心はアイ

言葉はキライ

 

目の前はヤミ

顔ではエミ

 

願いはユメ

諦めはマヨイ

 

行き交うはいといいえ

交錯するひとつ魂

 

新鮮なレタスより瑞々しい君の感性が

水滴とともに空へ吸い込まれるのを

 

その透明な光が

躊躇なく真実を写し出すのを

 

僕は決して

忘れない

 

2012年6月

感受性

ポエトリー:

 

『感受性』

 

赤くなったり、どきまぎしたり

ひとには見えないちょっとした波紋を感じている

それは特別なこと

 

「人を人とも思わなくなったとき堕落は始まるのよ」

茨木のり子さんは言っていた

 

年を取ると感性は鈍るって言うけれど

感受性は変わらずそこに

そんなこと分かってるって言わないで

僕は最近気付いたんだ

 

年なんか気にしないで

静かにそのさざ波を受けたらいい

 

そしたら僕ら

おじいさんおばあさんになっても

きっと顔を赤らめられるよ

 

2013年5月

Ropewalk/The View 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Ropewalk』(2015)The View
(ロープウォーク/ザ・ビュー)

 

3年ぶり、5枚目のオリジナル・アルバム。デビュー以来、ずっと疾走感のある溌剌としたサウンドでここまで来た彼らではあるが、クークスやアークティックがそうだったように、いつまでもデビュー当初のスタイルが続いてく訳でもなく、3年のブランクがあったということは彼らは彼らで新しい扉を開けたいという欲求があったんだと思う。所々に音楽的偏差値の高さを見せながらも、よくもまあこれだけ続くなあっていうくらい、ご機嫌なロック・チューンを奏でてきた彼らだけど、今回のプロデューサーはストロークスのギタリストにストロークスのプロデューサー。ということでこれまでの熱さから一転、ストロークスばりの低体温のサウンドになっている。

曲の方は相変わらず素晴らしい。デビューして8年経っても一向に枯れることなく、UKロック直系のメロディもあって、粗っぽかった前作よりずっといい。もう初期衝動ではないところで今だにこれだけシンプルないい曲が書けるってのは素直に凄いことだ。

ただやっぱりこのサウンドは物足りないんだよなあ。元々アコースティック・ギターも上手に使う人たちだけど、どうせならもっとドタドタ感があってもいいし、もっとこうグワッとした感じが欲しい。まあストロークスがそうだから今回はそういう狙いだったんだろうけど、それにしてもちょっと食い足りない。焦点ぼやけちゃってる感は否めない。

エレキ・ギターをかき鳴らし、アクセル一杯まで開けてシャウトするっていうのはベタかもしれないけど、一番難しかったりするわけで、それをいとも簡単にやってのけるところに彼らの魅力はある。今回も後ろの音がどうなっていようが、相変わらずカイルは派手にシャウトしているし、やっぱりこのボーカルには電気的に増幅されたギュンギュン言ってるギターを当てて欲しいというのが素直な感想。曲がいいだけに少し残念。

僕は好きだし地味にいいアルバムだけど、ファン以外への訴求力があるかといえばちょっと厳しいかも。みんなそんなじっくりと聴いてくれないぞ。あとバンドの姿勢として分からなくはないけど、ギタリストの下手なボーカル曲は正直要らない。にしても一番疾走感のある#6でそれをしなくても(笑)

 

1. Under The Rug
2. Marriage
3. Living
4. Talk About Two
5. Psychotic
6. Cracks
7. Tenement Light
8. House of Queue’s
9. Penny
10. Voodoo Doll