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Father of the Bride/Vampire Weekend 感想レビュー
洋楽レビュー:
『Father of the Bride』(2019)Vampire Weekend
オーウェルやディックが描いたディストピアとは車が空を飛ぶようになったり、アンドロイドが街を闊歩するようになってからだと思っていたが、実はそうではないらしい。17歳のビリー・アイリッシュが「When We All Fall Asleep, Where Do We Go?」と歌うように、僕たちはもうその世界へ片足を突っ込んでいるのかもしれない。
6年ぶりに出たヴァンパイア・ウィークエンドの『Father of the Bride』はエズラ・クーニグと並ぶ主要ソングライターの一人であるロスタム・バトマングリが脱退してから初めてのアルバム。彼らのメロディの多くがロスタムの手によるものと聞いて、彼らの新しいアルバムはどういう風になるのか少し心配していたが、当のエズラは大した悲壮感も無く相変わらず活動は続けていたし、確かにバンドのスクラッチ・アンド・ビルドというか、立て直しの時期はあったにせよ、バンドとしてのモチベーションはそのままに、きっと沢山曲を書いていたんだろうなというのがこのアルバムを聴くとよく分かる。
こっちが勝手に心配していた曲の方も、今までもエズラが全部書いてたんじゃないのっていうぐらいヴァンパイア・ウィークエンドしているし、ていうか今まで以上にチャーミングなメロディが溢れている。と思うのは僕だけだろうか。このバラエティ溢れるチャーミングなメロディの源泉は何なんだろう?
とりわけその明るさ、全体を通しての風通しの良さはこれまでと比べても相当上がっているようで(今までも風通しは良かったが)、それは恐らく、リズムを刻む細かなギターの音からベースからシンセから何から何まで、楽器のひとつひとつがちゃんとセパレートされていて、それでいていっせーのーでっドンッで録ったかのような爽やかさでこちらに届いてくるからだとも思うが、それも当然エズラの意識したものなんだろう。
打って変わって歌詞の方は相当ヘビーだ。アルバムからの先行シングルとなった清々しい朝のような#2『Harmony Hall』でさえ「I don’t wanna live like this, but I wanna die / こんな風に生きたくないけど、死にたくない」と歌われるし、アルバム屈指のポップ・チューン#3『This Life』でも「Am I good for nothing? / 僕は何の役にも立たないのか?」と歌われる。それはもう、最初から最後までそんな調子だ。
どう見ても頭の良さそうなエズラ・クーニグは今の世界のありようを素晴らしいものだとは捉えていないはずだ。にもかかわらず、相変わらずエズラは深刻な顔をしちゃいない。恐らくそれはここ2,3年になってようやく騒ぎ始めた僕たちよりもずっと前から、エズラは世界のありようを認識していたから。だから「I can’t carry you forever,but I can hold you now / 君をこの先ずっと支えることは出来ないけど、今は抱きしめることはできるよ」(by #1『Hold You Now』)としか言えないし、「There’s no use in being clever,it don’t mean we’ll stay together / 賢明でいようとすることが、僕らがずっと一緒にいることを意味しない」(by #15『We Belong Together』)としか言えないのだ。しかしそれは悲観することでも何でもない。裏を返せば、今この時には真実があるということだから。
裏切るとか、分かり合えないとか、嘘をつくとかそんなことはもうデフォルトとして横たわっていて、それでもシニカルに皮肉めいた物言いではなく、このアルバム全体が陽気なトーンで貫かれているのは、いくら賢明でいようがそれがこれから先もずっと一緒なんだということを意味しないにせよ、この瞬間には真実は山ほどあるという一点が揺るぎないものとして存在しているからではないか。
高慢チキでやるせない世の中であっても、エズラ・クーニグは深刻な顔はしない。それはディストピアに片足を突っ込んだ世界であろうが、「今は抱きしめることはできる」と言った今この瞬間には間違いなく真実があるということを、エズラはずっと前から知っているからだ。
Tracklist:
1. Hold You Now (feat. Danielle Haim)
2. Harmony Hall
3. Bambina
4. This Life
5. Big Blue
6. How Long?
7. Unbearably White
8. Rich Man
9. Married in a Gold Rush (feat. Danielle Haim)
10. My Mistake
11. Sympathy
12. Sunflower (feat. Steve Lacy)
13. Flower Moon (feat. Steve Lacy)
14. 2021
15. We Belong Together (feat. Danielle Haim)
16. Stranger
17. Spring Snow
18. Jerusalem, New York, Berlin
(日本盤ボーナス・トラック)
19. ヒューストン・ドバイ
20. アイ・ドント・シンク・マッチ・アバウト・ハー・ノー・モア
21. ロード・ウルリンズ・ドーター (feat.ジュード・ロウ)
Modern Vampires of the City/Vampire Weekend 感想レビュー
洋楽レビュー:
『Modern Vampires of the City』(2013)Vampire Weekend
(モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ/ヴァンパイア・ウィークエンド)
エズラによるとこのアルバムはアメリカについてのアルバムだそうで、アルバムジャケットもマンハッタン。けれどそのマンハッタンは数十年前のマンハッタンのようで、色もモノクロで雲がちょうどよい具合にかかっているから、それこそ中世のヴァンパイア城のようだ。ヴァンパイア・ウィークエンドの新作がようやく出るってんで久しぶりにこのアルバムを聴き直してみたら、古いアメリカというより古いヨーロッパに近い印象を受けた。
そもそもアメリカはヨーロッパからの移民が多くを占めている訳だから、古いアメリカを描こうとすると古いヨーロッパ的なるというのは当然かもしれないが、つまりそういうところまで意識してヴァンパイア・ウィークエンドはこのアルバムを作ったということだろうか。にしても2019年になってその意味が響いてくるとは。恐るべし、ヴァンパイア・ウィークエンド。
このアルバムはエズラの声から始まるように、彼の声を大々的にフィーチャーしている。実際しているかどうかは分からないが、決して軽くない歌詞が彼の声があることにより、全体としての明るいトーンに繋がっている。やはりエズラの声のアルバムと言っていいだろう。
歌詞は至る所に皮肉っぽいところがあってサリンジャーみたいで僕は好きだけど、多分エズラはインテリだからサリンジャーのようにへこたれない。いや実際には大変な事とか嫌な事ばかりなんだと思うけど、そういうのにマトモにぶつかっていかないというか、インテリだからちょっと経路が普通とは違うんだろう。
やたらインテリって言葉で片付けてしまって申し訳ないけど、ただ不思議とそのインテリが作った音楽が何故か凄く風通しがよくって、それは今回は彼ら流のアメリカのロックということらしいが、多分今までがアフロビートだったり欧米主体の音楽じゃないところを経由してきたからかもしれないし、そういう部分も含め改めてインテリだなって思わざるを得ないけど、やっぱり軽やかなのは面白い。
それに彼の声はやたらめったらよく通るから、ジャケットがモノクロだろうが、歌詞が皮肉めいていようがお構いなしに突き抜けてしまう。陽性だから「Diane Young」(=Dying Youngという意味か?)なんて歌っても全然平気なのだ。実験的で批評的(芸術というものは全てそうかもしれないが)であってもその陽性さは崩さない。要するに、難しい顔をしても何も解決しないということか。
Track List:
1. Obvious Bicycle
2. Unbelievers
3. Step
4. Diane Young
5. Don’t Lie
6. Hannah Hunt
7. Everlasting Arms
8. Finger Back
9. Worship You
10. Ya Hey
11. Hudson
12. Young Lion
国内盤ボーナストラック:
13. YA HEY (‘PARANOID STYLES’ MIX)
14. UNBELIEVERS (‘SEEBURG DRUM MACHINE’ MIX)