ポエトリー:
「4月」
いじわるなあの人のことばがそよ風
耳の奥を通りすぎて
花粉に紛れたよ
見知らぬ人の鼻先をくすぐりかねないよ
わたしたちはいたって元気に
4月を迎えたよ
2024年4月
ポエトリー:
「4月」
いじわるなあの人のことばがそよ風
耳の奥を通りすぎて
花粉に紛れたよ
見知らぬ人の鼻先をくすぐりかねないよ
わたしたちはいたって元気に
4月を迎えたよ
2024年4月
ポエトリー:
「軍隊」
近日中にオレたちは加害者になる
見知らぬ人を連行し海を渡らせる
羽根は優雅な鳶色で
短い距離を一直線に
ガラス戸さえもぶち破る
身体に流れる軍隊が
否応なしに向かわせる
賑やかな階段を踏みしめる
空は穏やかだ
しかし間違いなく黒ずんでいる
背丈は伸びる一方だったのに
今や無理難題を突きつけられ
今日遂にかなしみが
色濃く残る風景を背に
目指したものの当落線を踏み外す
羽根は優雅な鳶色で
道に迷った人々をとっ捕まえては
新大陸へと向かわせる
手続きなしの新大陸へ
2024年3月
ポエトリー:
「湯呑み」
ぬくもりというものを景気づけに
一杯やろうというあなたが
冷え冷えとした心の内底に写し出しているもの
知らないことを覚えるため
知っていることを忘れるため
できるだけ工夫をこらしている私たちは
いつだって健気です
ある日
薄ぼんやりとあなたの似姿を湯呑みに浮かべ
ゆっくりと蓋をしました
だれかの酒の肴になるようなものが
かつてここにはありました
機能不全に陥る記憶
もいちど蓋をあける勇気はなくて
2023年2月
ポエトリー:
「ただ見ていただけなのです」
ぼくときみは目立つ方ではなかったけど
入学してまもなく学級委員に選ばれた
多分お互い背が高くて真面目そうだったからかもしれない
あの子とはよく目が合うんだよ
友だちにそう言ったら
おまえが見てるからじゃないかって言われた
あぁ、そういうことか
そういや一度だけ
彼女に悪態をついたことがある
周りにクラスメートがたくさんいたとき
彼女の名字をからかった
二人そろって委員会に出席することはあったけど
一度も話すことはなかったな
部活が同じだったのは
わざとじゃないよ
3年経ってもぼくは恋をした覚えはなくて
よくある話
きれいなきみをただ見ていただけなのです
2024年3月
ポエトリー:
「あっちはひらいて こっちはとじている」
あっちは翅がひらいて飛んでいる
こっちは翅がとじている
耳を傾けると
少しずつ音がして
うううん、虫の声じゃない
台所で母と子どもが話している時のやつ
あっちは虹が架かって
こっちは虹が途切れている
団地の端っこには金網がずっと続いていて
そこを乗り越えたりしなかったりして遊んだ記憶
けど誰もどこにも行かないやつ
ぼくたちが住む棟の向かい側には
そこにだけ大きな広場があって
覚えたての自転車でぐるっと一周をした
ブレーキのかけ方がよく分からなくて
煉瓦の花壇に何度もぶつかった
お母さんが三階から呼んでいる
あれ、じゃあこっちの音は?
首を傾けると
翅がひらいて飛んでいるのと
翅がとじているの
更にはもうひとつ増えて
モーターが走る音
誰かが駆け出している
2024年1月
ポエトリー:
「川べりで」
違わないことを歌にして
君は陸と戦った
川べりで
コンクリートが剥き出しになっていた
それでもかまわないよと
君はほうぼうから集めた貝殻に耳を当て
熱心に人々の声を聞いていた
観察することが一番大事さ
それが口ぐせの
荒野へ向かう旅人のような格好で
使い古しのリュックには
いつも真新しいハンカチが複数枚あって
集めた貝殻の縁を
きれいになぞるのが常だった
もう二度としくじったりしないよう
心を込めて丹念に
君は陸と戦った
言葉はリュックに入れて
心は共にあった
2023年1月
ポエトリー:
「傘」
雨傘を
忘れたのかオイラは
リュックの中に
ないじゃないか
あの人が
今夜はひどい雨だと
言っていたのに
雨傘がないじゃないか
2023年12月
ポエトリー:
「ハンカチ」
ハンカチを
忘れたのかオイラは
カバンの中に
ないじゃないか
あの人が
とても感動的な映画だと
言っていたのに
ハンカチがないじゃないか
2023年11月