おやつ一個食べちゃう隊

 

お話:

 

『おやつ一個食べちゃう隊』

 

ピンポーン!

「あら、となりの奥さん、どうしたの?」

「今度うちの壁塗り替えることにしちゃって。うちももう二十年でしょ。壁もボロボロだしいいかげんね。で一週間ほど迷惑かけちゃうからさ。これお菓子、うん、いいのいいの、子供たちと食べて。」

「ありがとう、みんなよろこぶわ。」

 

わぁ♪ケーキだぁ!
う~ん。でも困ったな~、五個かぁ。
お姉ちゃんとボクと私とパパでしょ。一個あまるわねぇ。
あまってもいいんだけど、子供たちうるさいのよねぇ。切ったら切ったでおっきいとかちっさいとか文句言うし。食い意地張ってんだから。
どーしよー。誰か食べてくんないかなぁ。

 

 

むむっ!ピーッ!!『団子食べる隊』、集まれいっ!

 

  へーい、へーい

  スタッ、スタッ、タッ

 

よし、点呼!

 

  壱、弐、参、、、、五

 

おいっ、四番はどうした

 

  四番は、えーと、どこだろう?

 

よし、五番、お前呼んで来い!

 

  えっ、俺がですかぁ

  しょうがねえなあ。ちぇっ、四番の野郎

 

 

おーい四番、どこだぁ?

いねえのか~

 

なあにぃ?どうしたの?

 

どうしたのって、おめえ、聞こえなかったのか

『団子食べる隊』は集まれだってよ

 

へぇー、なんだろ?

 

どーせまた冷蔵庫のチョコとか棚のグミ食ったのは誰だってやつだろ

 

あー、また勝手に食ったの?

 

ちげーよっ、ちげーよっ

あれはたまたま目に入ったからさぁ

 

でも食べたんでしょ?

それって泥棒だよ

 

う、うん、ゴメン…、もうしないよ

ま、まあ、とりあえず行こうぜ

ホントにうめぇもん出てくるかもしんないぜ

 

 

よーし、全員集合だな

今回のターゲットは洋風団子!パテシエ・タテカワの洋風団子であるっ!

 

  おーっ、すげー、すげー

  って、ケーキじゃねーか

  隊長なんでも江戸言葉にしたがるんだから

  『ケーキ一個食べちゃう隊』でいーじゃねーか

 

まあ待て

拙者が洋風団子とつい申してしまうのにはわけがあってな

あれは文久三年のこと、

 

  あー、オレあのイチゴんとこな

  じゃあオレ背中のクリームたっぷりのとこ

  わー、ずりー、そこオレも食いてー

 

おいっ、聞いてんのかっ

 

  知ってるよぉ

  あの茶団子の話でしょ

 

そうじゃ、あれは文久三年のこと、

 

  おい、中にもいちご入ってんじゃねーか

  ほんとだ、すげー

  おいこれ見ろよ、なんかで優勝したケーキらしいぞ

  おおおぉーっ

 

話を聞けぇっ!

 

 

まあよい

早く食いたいんじゃろ

ではさっそく拙者がこの刀にて成敗いたす

 

  ちょ、ちょっと、隊長、そこのイチゴは半分にしないでね

 

 

さて、どこからどう成敗するか

ん~、これは思案のしどころじゃ

 

  早くー、隊長~

  早くー、オレも腹ペコペコ

  オレもガマンできねー

 

うるさいやつらじゃ

ではさっそく

とその前に

なぜ拙者がなんでもかんでも団子と申すか、それをやはり話しておかなくては

 

  あ~あ、あれ、やっぱ話すんだ

  隊長のあれ、なげーんだよなぁ

 

 

あれは文久三年のこと…

ある日の道中、街道の茶屋で休んでおってな

 

拙者は茶団子が大好物でそれを注文して待っておったのじゃ

その時にちょっとした騒ぎがあってな

 

 

 「見つけたぞっ!父の仇!」

 

「ぬわ~にぃ~、ワシがおぬしのカタキじゃと。おぬしのような小娘に何ができる」

 

 「ぐっ、ち、ちくしょー。はっ、そこのお侍さんっ、お侍さんっ、お助け下さいましっ!」

 

とまあ拙者に加勢を頼んできたのじゃが、拙者は待っておった茶団子がやっと来たとこでのう。それで、

 

「よしっ、心得た!」と茶団子を二個、一気に口に放り込んだのだが…

ううっ、ぐえっ、ぐえっ、団子が喉に、ううっ

とまあ団子を喉に詰まらせて死んでしまったというわけじゃ

 

 

ということでケーキであろうとドーナツであろうと、そういうもんを見た時にはだな

 

  はい、はい、わかりました、わかりました

  どーぞ、たっぷり時間をかけて成敗しておくんなまし。

 

わかればよい。

ふむふむ、さてどうしてくれよう。よし、見えたぞ。

では、いざっ、成敗!

 

 

シャキーン!

 

スパッ、スパッ

スパパパッ!

 

  おー、うめーうめー、さすがタテカワのケーキだぜー

  おいっ、スポンジふわふわだぜ

  うめーっ、うめーっ!

 

 

 

「ただいまー」

「ただいまー」

 

あっ、子供たち、帰って来たわね。
どーしよー、困ったわ。
あれっ、ケーキ四個になってる。ていうか四個だったっけ?
まあいいわ。これで問題なしっ。

 

「やったー、ケーキだケーキだー!」

「やったー、やったー!」

「これどうしたの?」

 

「となりのおばちゃんがね。壁を塗り替えるからってケーキをくれたの。今度会ったら、お礼を言っておきなさいよ。」

 

「ハーイ」

「ハーイ」

 

 

皆さんのおうちでもこんなこと、ありませんか?
あるはずなのに、どこにもない。
ないはずなのに、ちゃんとある。
これらは全ておっちょこちょいママの勘違いではないのです。
実は家には『おやつ1個食べちゃう隊』なる秘密結社がいるのです。
あと、『家のカギ閉めた隊』とか、はたまた『お風呂フタした隊』なんかも。

 

「ん?何これ?こんなとこにいちごのヘタが…。」

 

 

2017年6月

 

百獣の王

ポエトリー:

『百獣の王』

 

お前の洞窟は

風邪をひいたライオン

髪の毛はクシャミをして

逆立っている

オレは今

怠惰という感情を

お前のそのなだらかな曲線に向けて

ゆっくりと

充てがう

 

百から一を取り出して

ちぎっては投げ

投げては一定の間隔で

十分に休みを取り

十二分に睡眠を摂り

暗いうちから働き出した農夫のように

麦わらを傾げながら

リンドウの実をひとちぎり

お前の白いシーツに押し付けて

満足している

 

さぁ今日もいい天気だなどと

新しい文字を見つけ

さも誇らしげに

人に話したくってしょうがない気持ちになる朝

いつだってこの感じ

やめられない

 

 

リヤカーを引いたお前の背中みたいな

ガタイのいい四角を

三角の肩でかしぐのには

無理がある

無理があるけれども

言ってみても始まらない生活の咎を

全部台無しにしてしまえるだけの

重量が何処にあるのですか?

 

土踏まずの辺りにうっすら

炙り出す塊

重くなって

ボロボロと崩れていく

 

オレが百から一を取って投げつけた怠惰の葉一枚が

日照りの隙間にハラハラと

身を落ち着かせる

慰めて雨がところどころ

心が沁み渡り

タテガミはクシャクシャでホコリにまみれたまま

王は口を開けて待っている

 

2017年10月

鳩が飛ぶ

ポエトリー:

『鳩が飛ぶ』

 

日々紡ぐ優しさは溶解し一杯のコーヒーに

夕方は後ろ手を組んで夜を逆さまにする

 

日々紡ぐ虚しさは静海し二杯目のコーヒーに

所々手に入れた網膜の欠片は一編の詩よりも長い

 

ピントをキチンと合わせても

上手くはズレない

昨日がおろそかに遠ざかる

 

愛おしい

残り湯で私を温めて欲しい

 

芳しい声  過去からの手紙

安らかに眠る  私たちの誇り

手鏡に映る  話し合いの形

うらぶれた話  焚きつけた

長く続かない  泣き虫の私

 

手はずを整えて、、、

 

     この国の夜に電波し白妙の

     あまつさえ聞く屋根に乗るらん

 

週末に鳩が飛ぶ

シルエットは白い方がいい

 

2017年10月

物事というのは

ポエトリー:

『物事というのは』

 

すぐに怒るあの人も案外優しくしてくれる

人懐っこいあの人だって誰かにイジワルすることも

 

優しいご主人ね、なんて言われる僕ですが

結構冷たいところがあるのです

 

右から照らせば左に影が

左から照らせば右に影が

 

「物事というのは、どちらか一方ってことはないんだよ」

 

ある日、ウィルコのアルバムを聴いていたら、そんな声が聞こえてきました

 

2012年3月

見知らぬ街、ふたり連れ

ポエトリー:

『見知らぬ街、ふたり連れ』

 

連れだって自転車こいで街へ向かう

二人の上には運良く希望

誰だってすぐには叶えられそうにない

遠ざかる昨日

 

歪んだ眼    人より多く見える

繋いだ手    誰より愛して    虚しく届かないんだまだ

 

またね    夢    押しのける君の声  力づけ

たたえられ    俄かに    雲晴れ

陽が    昨日より    よく見える

 

本当のことリボンをかけて渡した

すれ違い忘れ形見

それでも君は受け取ってくれたただ

よくある泣き笑い

 

見上げたね    物陰に隠れて

繋いだ手    誰より愛して    悲しくて届かないんだまだ

 

会ったね    知らぬ間に二人    出会ったね    何が見える

夕映え    花    風に吹かれ

また    昨日のように    消え失せ

またね    夢    押しのける君の声    力づけ

たたえられ    俄かに    雲晴れ

陽が    昨日より    よく見える

 

2015年7月

お風呂フタした隊

お話:

『お風呂フタした隊』

 

「おーい、お風呂フタしたかぁ~。今日しないと三日連続だぞぉ。好きなテレビ見せないからなぁ。今から見に行くぞぉ~。」

「うわぁ、ちょっと待って。多分した。したっけ? えっと、したっけ?えーっと、えーっと。」

 

 

むむっ!『お風呂フタした隊』、集合!
せいれーつ!

 1、2、3、4、5……、7、

おいっ、6番はどうした

多分トイレです

よし、7番、お前呼んで来い!

えっ、俺がですかぁ トイレだったらもうちょっと待ってさぁ

おい、ブツクサ言ってねえで早くいって来い

しょうがねえなぁ  ちぇっ、6番の野郎

 

なんで俺が行かなきゃなんねぇんだ、ブツブツ……チクショー
大体あいつはいっつも急なんだよなあ
そりゃあトイレぐらい入るだろうさ
あぁ、ここだここだ
おーい6番、入ってんだろう
隊長がお呼びだぜ~
おーい6番、入ってんだろう

  ・・・

なんでぇあいつ、返事もしねぇ
おーい6番、いねぇのかぁ
コンコン、

  コンコン、コンコン

ん?入ってんじゃねえか
コンコン、
そろそろ出てこいよぉ

  コンコン、コンコン

おーい、まだ出てこねえのかぁ
いや、出てこねえってのは、そっちじゃなくて、トイレから出てこねえのかって話で、
ややこしいなあもう、まあいいや、とにかく返事しろい

  コンコン、コンコン

なんだよあいつ、コンコン叩くばっかりで返事もしねぇ
ちょっと待てよ
コンコン、

  コンコン、コンコン

やっぱりだ、こりゃあなんか訳でもあんじゃねぇか

 

と7番さん、えっちらおっちら扉を登って中を覗いてみると…

 

  コーン、コン
  コーン、コン
  嫁入りじゃ嫁入りじゃ~        
  キツネのお姫の嫁入りじゃ~

 

なんとそこは大平原
うららかな陽気の下、キツネの嫁入りの大行列が行われているではありませんか

 

ひゃー、おったまげた~
こかぁ、トイレじゃなかったのかぇ
いたいた、6番のやろう、あんなとこ、赤い傘持って何やってんだ
あれじゃあまるっきり行列のお供じゃねえか
なんだあれ、キラキラするもん振り撒いてるぞ
ありゃ金粒じゃねぇか!
オイッ、ちょっと待ってくれ、俺にもそいつ分けてくんろー、分けてくんろー

おっとっと、イテテ、イテテ、こりゃ金粒以外にも、なんか上から、ごつごつゲンコツみたいなのが、頭の上から、あちゃちゃ、イテテテ、

 

ゴン!

オイッ6番!お前さっきから何言ってんだ

クックックッ、6番のやろう、また寝ぼけてやんの

しょうがない、今日は6名で出動だ
『お風呂フタした隊』、出発だ!

 

よいしょ、よいしょ よいしょ、よいしょ

よし、全員登ったな、こっちもOK 誰も来る気配はないぞ
今のうちに、せーので押すぞ

  せ~のっ、ゴロゴロゴロ~

 

ふう~、やっと終わったぜ
この家、ゴロゴロタイプに変わってだいぶ楽になったな
あっ、6番、今頃になってやっと来やがった

おーい、わりいわりい、ちょっと面倒に巻き込まれちゃってさぁ
それが誰かの嫁入りがなんとかかんとかって、終わんねぇのなんのって…

すると、6番さん、肩の上にはなにやらキラキラ光るものが…

あっ、6番、そりゃおめぇ、

 

 

「おっ、フタしてんじゃん」
「あ、ホントだ」あれ、でもボク閉めたかなぁ…

 

皆さんのおうちでもこんなこと、ありませんか?
したはずなのに、していない。
していないのに、ちゃんとしてある。
これらは全て小さなボクの勘違いではないのです。
実は家には『お風呂フタした隊』なる秘密結社がいるのです。
あと、『家のカギ閉めた隊』とか、はたまた『おやつ1個食べちゃう隊』なんかも。

 

「ん?なんだこれ?こんなとこにキラキラ光るもんが…」

 

2017年5月

秋の庭

ポエトリー:

『秋の庭』

 

お手玉をして変わり果てたあの人の肢体に

虫眼鏡を当てた

晩御飯の残り物みたいに昨日の湯気がうっすらと浮かび上がり

その向かいにあるグラスの淵

唇の形が凝視する

朝晩は冷えるから上着を持って行きなさい

おせっかいだほんとにもう

蛍光灯ひとつ

白が気に入らないからオレンジ

オレンジが気に入らないからLED

何のために何を変える?

黙って従うべき言葉も無いまま代わりに

集合写真のような柔らかさで

主人の居ない一戸建ての奥の部屋

慰めてが木霊する

笑っているのは置き忘れた夏の簾で

元気よく泣く赤ちゃんのようにそこだけ立体的

冷たいご飯を温めたりしないで

鉛筆は尖らせないで

辛抱に辛抱を重ね

秋の庭

虫が泣く代わりに猫が泣く

耳障りな音、道路を横切る銅線のようにぶら下がり

それも黒い服を着た今の私なら

簡単に引き摺り下ろせる

 

2017年9月

いい加減な旅行

ポエトリー:

『いい加減な旅行』

 

君の形

嘘の形

唇の形

三分の友達

もう視界の外

逸らしてしまう

 

ルーブルへ行きたいと言う

稜線に触りたいと言う

でも君は何度も何度も

LINEを見返して

僕は何度も何度も

LINEを確かめて

何度も何度もひとりじゃやりきれない

 

鋳型に詰められた忘れ物

今月のノルマもほどほどに

はい、いい加減な性格です

はい、いい加減な生活です

 

先日行った風呂やの窓越し

太平洋や西アフリカや中央アジア

中南米などなど

いい湯加減

ジャンプ読みます

コーヒー牛乳飲みます

 

世界の果てに飛び立つ

今月末が締め切り

準備もそこそこ旅立とう

新しい場所に着いたら

またLINEして落ち合おう

イエーイなんつって

 

列車から覗く景色は夏草が揺れるそれ

トウモロコシ畑のトンガリは宇宙へ駆け出すロケット

いい加減な旅でも構わない

さらりと夏草追い抜いて

大きな顔のあの人を出し抜いてしまおう

 

2017年8月

ポエトリー:

『朝』

 

新しい朝

カカオ80%で休息を

電車に乗り遅れないようにしなくちゃ

 

壊れかけたミキサーに果物を入れ

いつもと同じ栄養源

何度洗っても落ちないコンタクトレンズの汚れ

パウダールームの憂鬱

無くしては探して

見つけてはまた見失う

 

だけど空っぽのクローゼット

今日も着ていく服が無い

 

まだ見失うまい

悲しいフリをするのはもうやめた

 

昨日デパ地下で買ったクロワッサンの匂い

国境を越える彼女の笑顔

真新しい明日

真っ暗闇の明日

それでも君はアジアのきらめき

どが付くリアリスト

澄み渡る風

言葉と言葉の間をすり抜ける君の新しい明日へ

 

ゴビ砂漠に照り続ける太陽のような君の後悔も越えて

きっと遠くイスタンブールまで見渡せる

 

2012年11月

搾取

ポエトリー:

『搾取』

 

インターネットを越えて私たちの脳髄に食い込む彼の地の 貧困 暴力 差別

私たちの栄養は彼の地の困難と地続きだ

 

ぼやけた人間の宿命を

脳髄に打ち込まれた回線で

私たちは配達する

使い古しの靴下を

私たちは搾取する

隣近所の果樹園を

私たちは強奪する

向こう岸の獲物を

 

このまま事が運ぶわけがない

私たちはきっと

一杯食わされているに違いない

 

私はもう聖者にはなれない

私たちは友だちであり

私たちは商売敵

 

私のナイキのスニーカーは

あいつの裏庭を踏み潰している

 

2017年5月