よき一日

ポエトリー:

「よき一日」

 

なぜかきみの庭に羽が降りてきて
そこの一点にだけ
調和を乱す
見事に
縁側へ降りる石段の足が一歩
止まる

夕方の静かなときにだけ訪れる
博愛の自由な精神
意外なことに
きみの声は二手に分かれ
翌日の出来事を掬いはじめた

そうか、目覚めたときはなかったね
道のうねりの理由に
少しだけ気づけたような気がした

わかっていたことが存分に折れはじめた道中で
最近きみはよく笑いはじめる
背恰好がよく似た兄弟姉妹たちの影が
庭に現れては軽口をたたくようになった
きみは炭酸をぐびっと飲み干す
よい一日だったと

 

2024年5月

骨格

ポエトリー:

「骨格」

 

ゆれる骨格。
バランスを取るために片足で立つ。
傍らには工事中の立看板。

足元の水たまりはゆうべ出来た。
泥水で姿は映らないが
日差しはたっぷりで反射する。
無理すんなよ。

ゆうべの記憶。
さしあたってあなたがすることは
シチューのダマを丹念に潰しなさい、
白い方の。
仕事ができる人になりたかった。

素晴らしい背伸びをするひとの足元、
特につま先を見て学ぶ。
一学年下の後輩が元気に横を通りすぎても
よろしい、今は気にするな、
追手はそこじゃない。

日差しに匿われたわたしと
日焼けした人々が交錯する日々。
締めなおすにもたついた身体。
視線は何処にやればよいのやら。

気位ばかり高く、
骨格はゆれて足元にはたっぷりの水たまり。
泥水で姿は映らない。
でも反射する光。

 

2024年4月

ぜんぶぼくのせい

ポエトリー:

「ぜんぶぼくのせい」

 

われわれのなかにもし うそつきがいたら
 それはぜんぶぼくのせいだ
われわれのなかにもし よわむしがいたら
 それはぜんぶぼくのせいだ
われわれのなかにもし あくとうがいるなら
 それはぜんぶぼくのせいだ
われわれのなかにもし おちょうしものがいれば
 それはぜんぶぼくのせいだ
われわれのなかにもし わるものがいれば
 それはぜんぶぼくのせいだ

もし はちうえにあたらしいはながいけてあるなら
 こえにだしてよろこぶべきだ
もし はげしくないているひとがいたら
 たとえじゅっぷんでもそばにいるべきだ
もし はんでぃきゃっぷをもつひとがいるなら
 いろいろなくふうをまなぶべきだ

もしわれわれのなかに しぜんのせつりにさからうひとがいたら
もしわれわれのなかに しぜんのせつりにしたがうひとがいたら
だれかおしえてほしい
だれかこたえてほしい
つぎにぼくはどうしたらいいのか

 

2015年11月

 

片手で測ってしまえれば

ポエトリー:

「片手で測ってしまえれば」

 

長い運河の成れの果てで
片手で測れる音を聞く
その景色を十分毎に刻み
アニメーションにして語るほどの語彙はあるのかと
急に濁流になるくだり
そこはスナップショットにして
あぁ、そういうことあったよねと
肩の荷を降ろし
向かい合った片方のレンズ
そう、対角線になって
覗くとほら
騙されたような気分になって
一瞬でスカッとするのさ
いわゆるその類いのスピード
コマ送りにするまでもなく全部が全部
窓ガラスにへばり付いた結露と一緒に
サッーと落ちてゆく
それを内気と外気の温度差と言い換えていい
いい、いい、
もう焼きつけたから全部それでいい
長い運河の成れの果て
後になってからででも
片手で測ってしまえれば

 

2024年2月

こんな夜に

ポエトリー:

「こんな夜に」

 

こんな夜に
あなたにおねだりしたいことは
グミ、あるいはチョコ
それともなんのことばだろう

やわらかい海の耳鳴り
その浮き沈みに合わせるように呼吸をすると
静かにしないでもちゃんと聞き分けられる

こんな夜に

目ぼしい魚をひとつひとつ
うお座でなくても空にあて
新しいものでも見つけたように
興奮するひととき

珍しいことにあなたもぼくに合わせてくれて
あれでもない、これでもないと
短いけどそんな交信
あったような気がした

接近する光線に手をかざすあなたが
ガラス戸に映って
出たり入ったりするあいだ
ぼくはこんなにも湿っぽい面してる

でもその場からは
けっして逃げ出したりしないように
健康的な湯上がりのような
正当防衛する体がほしい

こんな夜に
あなたにおねだりしたいこと
グミ、あるいはチョコ
甘いもので心を浸すことができるなら
今はもうそれで満足です

 

2024年4月

海のしずく

ポエトリー:

「海のしずく」

 

ぼくに遺された
海のしずく
貝殻に
耳をすます

音に聞く
昔の人の生業が
長い四季を繰り返し
無理なことから流れていく

確かゆうべは砂浜で
変わり変わらぬ唄を思い浮かべ
静かな夜気を楽しんでいました
夢の中で

置いてある誘導灯が
最初からそこになかったような顔をして意地悪をする夜がある
初めからそこになかったような顔をして

あの子はいつもぼくをかき回す
遺った手ざわりがすっぽりとしまわれた貝殻に
いつまでも海の斑点が続く

 

2024年4月

あめのどようび

ポエトリー:

「あめのどようび」

 

ぼくがひとりでいたいとき
きみがあらわれてももんくはいわないよ
せっかくのどようびなのに
あめがじゃじゃぶりで
でかけるきがおきないわけさ

ずっとそのころ
きみはびょういんのまちあいしつで
そのむこうでもあめがじゃじゃぶりで
それどころじゃないじゃないか

せっかくのどようび
ぼくはひとりでいるようなきぶんで
とはいかないわけさ
そのうちとびらをのっくしないきみがあらわれて
とたんにはなしをはじめるから

ぼくがひとりでいたいとき
きみがあらわれてももんくはいわないよ
ぼくがなにかをしていても
きみはきゅうにはなしをはじめるし
そのうちそふぁーでちいさながめんをながめるし
でもかってだなんていわないよ

それでいいから
そのままでかまわないから
ぼくがひとりでいたいときなんて
じつはありはしないから

ぼくがひとりでいたいとき
きみがあらわれてももんくはいわないよ
どのみちきょうはあめがじゃじゃぶりで
なにもおきるわけないからさ

まどのそとは
きょうはあめがじゃじゃぶりで
いつもはじゃまなこだちたちもみえやしない
だったらせめてながしておくれ
いっさいがっさいながしておくれ

 

2024年3月

今朝のこと

ポエトリー:

「今朝のこと」

 

誰かからの誘いがあってないようなことで
耳が赤くなる
昔からひとがいないところで咳をするのがクセだった
風が運ぶ音階を見ず知らずのひとに紹介する
そんなひとになりたかった

まさかが狭い部屋で衝突する
今朝は6時頃にそれが起きて目を覚ました
それは思い当たるふしがあるような完成が近いプラモ
ドキドキしていた

もうじき
風と風が向き合うところでこだまする
本当のことを知りたがるわりに地面に手をつこうとしない
そのくせ
ひとからの誘いで心あたたまる

だけど今朝は呼吸が短い
とりあえず今日は
言外で凍らせる人
そんなひとになりつつあった

 

2024年4月

4月

ポエトリー:

「4月」

 

いじわるなあの人のことばがそよ風
耳の奥を通りすぎて
花粉に紛れたよ
見知らぬ人の鼻先をくすぐりかねないよ
わたしたちはいたって元気に
4月を迎えたよ

 

2024年4月

軍隊

ポエトリー:

「軍隊」

 

近日中にオレたちは加害者になる
見知らぬ人を連行し海を渡らせる
羽根は優雅な鳶色で
短い距離を一直線に
ガラス戸さえもぶち破る
身体に流れる軍隊が
否応なしに向かわせる

賑やかな階段を踏みしめる
空は穏やかだ
しかし間違いなく黒ずんでいる
背丈は伸びる一方だったのに
今や無理難題を突きつけられ
今日遂にかなしみが
色濃く残る風景を背に
目指したものの当落線を踏み外す

羽根は優雅な鳶色で
道に迷った人々をとっ捕まえては
新大陸へと向かわせる
手続きなしの新大陸へ

 

2024年3月