肌色からベージュへ

ポエトリー:

「肌色からベージュへ」

肌色からベージュへ
わたしたちはひとつの物語に仕舞われることを拒否した

 炎は木からしか生まれない
 その喋り方だと絶えず歯形が付くよ

いつかは思い浮かべる
まぶたの上

わたしたちは選択した
そして時折互いの名前を呼んだ
思い巡らせた後の幾つかで
わたしたちは合致した

人は死んだあと
どれだけそこにいるのか
今はもういないのか
夜明けまでにもいないのか

肌色からベージュへ
まだ誰も起きていない朝の
一番鳥は泣く

 

2022年4月

待つのです

ポエトリー:

「待つのです」

苦しみが
どこにも寄りかかれず足元おぼろ
暗闇の中
あちらこちらへふらついています

今夜ばかりは
春夏物が溢れかえ
しばし心は行方知れず
早くも気持ちが萎えそうです

それでは季節は跨げぬと
こんな夜中に表に出ては
心と体を夜風にさらし
僅かばかりの頭の整理

僕らの知ってる心の声は
もう少し力があればと願うから
つとめて明るい風をよそおいながら
明日の日の出を待つのです

 

2022年6月

運がよければ

ポエトリー:

「運がよければ」

あれだけ辛い思いをしたのだから
時々ドキドキするかもしれないけれど
長い目でみれば
いつかきっと忘れるだろうよ
コップの底が見えるだろうよ

明日になって
新しいことを始めれば
やさしいひとにも出会えるだろうよ
明日になって
天気がよければ
芝生の犬も駆け出すだろうよ

ドキュメンタリー
あとは道なり
前に進む物語
時々ドキドキするかもしれないけれど
運がよければ
大事なひとにも出会えるだろうよ

 

2022年7月

価値ある命

ポエトリー:

「価値ある命」

つまらない事でがんばって
わたしたちの命消費することはない
あなた方がくれたわたしたちの命
今どこら辺り

下らない事で胸張って
わたしたちの命さらすことはない
あなた方がくれたわたしたちの命
涙ぐむ胸の辺り

時々失敗したりするけれど
あなたがいたからここまで来れた
晴れた日の夕立
行き交う数ある形
価値ある命

 

2022年7月

とてもスウィートだ

ポエトリー:

「とてもスウィートだ」

とてもスウィートだ
喉の奥から
赤子のようだ
今はまだ
形は見えない

ある日の晩、
星屑はお庭に落ちて花となり
短い命を終えるんだ

上滑りしていくレコード針が
それでも時を刻み続け
今もあなたを読んでいる

新しく
生まれ落ちるエレジーが
赤子のように産声をあげ
とてもスウィートに
短い夏を終えるんだ

 

2022年6月

戯れ

ポエトリー:

「戯れ」

わたしたちは一歩
足音を早めてる
束の間届いた
夜の戯れ

今夜もあっけなく時は過ぎてゆき
確かに掴み得た想いは
淡い企み
それすら砂

振り向けば
振り出しに
その速度も
足早に

 

2022年7月

助けにいかなくちゃ

ポエトリー:

「助けにいかなくちゃ」

あの子がケガをしている
今すぐ、
助けにいかなくちゃ

わたしたちが目指すのは惑星、太陽、それとも月
いずれにしても
あの子が泣いてちゃ始まらない

人々は雨のち晴れと言うけれど
立ちこめる雲を追い払い
傷薬を用意して
とにもかくにも
今すぐ会いにいかなくちゃ

あの子がケガをしている
人が聞いたら
泣き出すほどの
痛みをこらえて

 

2022年6月

もののはずみ

ポエトリー:

「もののはずみ」

ありもしないものは
はじめからそこにないのだから
なくなったりはしないのに
どこにいったいつなくした
あそこにおいたはずなのに

こにくたらしいかのじょのえがおに
なんどにがむしをかんだかなんて
きどったようにいったとしても
そんなこともあったようななかったような

ありもしないものは
はじめからそこにないとしりつつも
むねぽけっとのたかなりは
なんだったのかとたずねてみれば
それはもののはずみというものですよ

ねぼけまなこのたかなりが
あっちへふらふらこっちへふらふら
ついぞみはてんあなたののぞみは
けっきょくちいさなむねさんずん

さりとてちいさなむねさんずん
ありもしないからはじまるのですよと
わかったようなくちぶりで
それこそもののはずみです

 

2022年3月

ネットショッピング

ポエトリー:

「ネットショッピング」

明かりが漏れている
冷蔵庫が開いている
バタンと咳をして
扉を閉める

どこへ行ったのか
この部屋の暗がりは
いずれどこかの押し入れに
隠れたろうか

スマートフォンがついている
天井を照らしている
闇に光るマーケット
今夜は何を買わせるのか

どこへ行ったのか
ずっと大事にしていた宝物は
いずれどこかの戸棚にでも
隠れたろうか

箱買いしたトマトが
冷蔵庫で延々と冷やされ
もはや震えている

 

2021年11月

記録

ポエトリー:

「記録」

不意にかすめた
左目の奥には
少し濃いめの
小さな記録

配線は
緩やかな円を描き
頭の位置で
ショートする

ひとり占めしていた
短い夏の思い出は
両手を挙げて
それは見事なさようなら

もちろん
思い出すことなど
なかったよ
だってもうこれは、
期限切れだからね

 

2022年5月