洋楽レビュー:
『Different Creatures』(2017) Circa Waves
(ディファレント・クリーチャーズ/サーカ・ウェーヴス)
このバンドの特徴は何と言ってもソングライティング。とりわけその親しみやすいメロディにあると言ってよい。2年ぶりにリリースされた本作は、屈託のないギター・バンドから幾分ハードになっているものの、要はメロディ。彼らの場合はどれだけ風を切れるかにかかっている。
洋楽レビュー:
『Different Creatures』(2017) Circa Waves
(ディファレント・クリーチャーズ/サーカ・ウェーヴス)
『ザ・ベンズ』と『キッド A』の間に位置するアルバムであり、アルバム・ タイトルからも想起されるイメージとしてはその中間期に当たるサ ウンド。しかしここではまだギター・メインでどちらかと言えば『 ザ・ベンズ』寄り。やはり『キッド A』は相当特異なアルバムのようだ。とはいえ『ザ・ベンズ』 が純粋なギター・ロックの極致なら、『OK コンピューター』はそこを更に突き破った新しいギター・ ロックの世界。もう美しいという言葉は妥当ではない。 成層圏のギター・ロックと言っていいだろう。
そのイントロダクションとなる『エアバック』と中盤で曲調が飛躍する『パラノイド・アンドロイド』で得られるカタルシスは格別だ。ここでグッと『OKコンピュータ』の世界に引き込まれてしまう。『レット・ダウン』や『イレクショニアリング』のような伝導率の早い曲もあるが、押しなべて言葉の方はかなり込み入っている。が、僕はそこまで読み込めない。まあ、それでいい。僕はトム・ヨークの言葉は話半分で聞くことにしている。『フィッター・ハッピアー』なんてホント馬鹿馬鹿しい詩だ。物知り顔で分析する類のものじゃないだろう。
そんなことより『ノー・サプライゼズ』のアルペジオを聴いていると此処はどこだか自分は誰だか分からなくなる。そんな風にして思考力が停止した僕はあらゆるものを無条件で受け入れてゆく。そこがユートピアなのかディストピアなのかは分からない。
☆1.エアバッグ
★2.パラノイド・アンドロイド
3.サブタレニアン・ホームシック・エイリアン
4.イグジット・ミュージック
5.レット・ダウン
6.カーマ・ポリス
7.フィッター・ハピアー
8.イレクショニアリング
9.クライミング・アップ・ザ・ウォールズ
☆10.ノー・サプライゼズ
11.ラッキー
12.ザ・トゥーリスト
洋楽レビュー:
『The Bends』(1995) Radiohead
(ザ・ベンズ/レディオヘッド)
レディオヘッドというのは不思議なバンドだ。 陰鬱そうに見えて希望を覗かせるし、 悲痛そうに見えてユーモアをほのめかせるし、 案外悲観的ではなく楽観的な気持ちの方が強いような気もする。 但しそれはあくまでも僕の意見。人によって見方は様々だろう。 しかし彼らの言葉や声、メロディはそれら全てを許容する。 そもそも言葉自身が、メロディ自身が、 サウンド自身が力を持っている、両面を持っているから。 あらゆる見方を全て飲み込んでしまえる度量を持つ音楽こそがロッ ク音楽だとしたら、これは間違いなくロック・アルバムだ。 それにしてもこんなエモーショナルで美しいギター・ ロックにはそうお目にかかれるもんじゃない。
行き場のない言葉。しかし悲痛さとはユーモアを伴うものだ。 美しいメロディ。エモーショナルなギター。トム・ ヨークは人間的でプラスチックな声で歌う。 ひどく感傷的でありながら、 感情に浸れない無機質な手触りの向こうにあるのは正しさ。 それはやはり憂鬱さと不可思議な可笑しみだ。これは死の直前、 スローモーションになるほんの数秒の物語。意識は明瞭となり、 全ては正しく網膜に映写される。
これだけ正しくギター・ロックを奏でてしまったからには、 もう後へは引けない。『キッドA』という被膜をめくると『 OKコンピューター』があり、『OKコンピューター』 という被膜をめくると『ザ・ベンズ』がある。
1. プラネット・テレックス
2. ザ・ベンズ
★3. ハイ・アンド・ドライ
4. フェイク・プラスティック・トゥリーズ
5. ボーンズ
6. ナイス・ドリーム
☆7. ジャスト(ユー・ドゥー・イット・トゥ・ユアセルフ)
☆8. マイ・アイアン・ラング
9. ブレットプルーフ…アイ・ウィッシュ・アイ・ワズ
10. ブラック・スター
11. サルク
12. ストリート・スピリット
13. ハウ・キャン・ユー・ビー・シュアー
14. キラー・カーズ
ポエトリー:
『アオイノシシの生態』
アオイノシシはこじる
地面をこじる
何が埋まってあるのかは知れず
アオイノシシ
懸命にこじる
隣の奥さんの午睡などつゆ知らず
アオイノシシ
懸命にこじる
時限爆弾を掘るような勢いで
明日の事でも書いてあるのか
前に向かってひたすら
飯を食うために生きてきた
お前への手向け
ひとつも揺れもしない地面
一向にすり減らない地面
ただ一様にひたすら地面
地面
2017年5月
ポエトリー:
『花びらのロンド』
家族で醍醐寺に花見に行った。境内にある霊宝館の傍には大きな枝垂桜があり、満開の花を咲かせていた。眺めていると数枚の花びらがゆらゆらと落ちてゆくのがよく見える。花びらは「先に往くよ」って言っているみたいだった。だんだん僕は花びらに見られている気がしてきた。すると花以外にも木や土やお堂や漆喰にも見られている気がしてきた。
知り合いに赤ん坊が生まれた。よく子は親を選んでくると言うが正にそんな感じ。過去のどこかで一緒にいた。「はじめまして」というより「久しぶり」。そんな気さえしてくる。うちの子は8才と4才だが、そういう気持ちは年々強くなってくるから不思議だ。
僕の方が先に地面に現れたに過ぎない。お先ってね。それから僕が先にこの世界から出てったとして、また別のどこかで落ち合う。家族や友人や、好きな人や嫌いな人や、よく知っている人や名前さえも知らない人。いずれみんな、どっかの見えるものや見えないものになって落ち合う。例えば桜の木の下に舞い降りたとして。やがて木の一部となり、花びらとなり、しまいにゃ、じゃあまたねってまた別の場所へ。出会っては別れ、別れてはまた集う。それは時間のない営み。絶え間のない命の旅。僕らにはその記憶が残っている。古い太古の地層のように。
2013年4月
世界大会のやり投げで
アメリカを飛び越え
アフリカを飛び越え
地球を飛び出した
君の詩想はコズミック
自然の摂理のハルカカナタ
何処へ行く?
何をする?
スカーフの結び目を解いてあからさま
風がヒュッと空を跨いだ
我儘は頭から消え去って煙と化す
その吹き出しもコズミック
宇宙から確認できるはずだ
2015年8月