Youngbloods(New Recording 2024)/ 佐野元春

New recordings for future generations.
 
 
コヨーテ・バンドによる新録の『Youngbloods(New Recording 2024)』がリリースされた。なんじゃこれ、めちゃくちゃ恰好ええやないか。佐野はこれまでホーボーキングバンドと『月と専制君主』(2011年)と『自由の岸辺』(2018年)という2枚のセルフカバー・アルバムを作っているが、今回はこれらとは全く雰囲気が違う。つまりテーマは’New recordings for future generations.’。昔の曲だけど新しい世代にも喜んでもらえるいいのがあるから、ちょっと聴いてみて。でもどうせだったら今の空気に触れさせてリクリエイトするよ。言ってみればそんな感じ。とてもいい試みだと思う。
 
先の2つのカバーアルバムも僕は好きだけど、選曲もアレンジもちょっと渋すぎるやろという感ありで、どっちかと言うと昔からのファン向けであったかと思う。それに比べて今回はもっとおおっぴろげ、快活にみんな聴いてよっていうサウンドになっている。ここが先ず嬉しい。
 
そしてかつての佐野と言えば、ライブで頻繁にアレンジを変えていて、時には全く別ものになった曲もある。ところがコヨーテ・バンドになって以降、割とオリジナルに沿ったライブ表現を行ってきたように思う。佐野がコヨーテ・バンドの面々と一緒にやるようになって本当によかったと思うけど、この点については少し物足りない気持ちは正直あった。そこに今回の『Youngbloods』新録版。まるでかつての佐野元春 with The Heartland  の時のようなスリリングなアレンジで、本当にワクワクする。
 
新録版ではオリジナルでは英語だったところを日本語に変えて歌っている。秀逸なのは「Let’s stay together」を「夜明けに滲んで君と行く」という歌詞に変えているところ。それを体現するミュージック・ビデオがまた素晴らしいのなんの。ミュージック・ビデオはプロダンスチームCyberAgent Legitをフィーチャーしている。内容は1985年のオリジナル版をオマージュしたもので、場所は1985年版と同じ場所だそうだ。そこに集い踊るチームLegit。なんだなんだと立ち止まる通行人。カッコいいぞ!それにしても充実の『今、何処』の次にこれ、というのがまたいい。
 
公式ページのアナウンスによると他にも数曲のレコーディングを済ませているらしいから、そのうちアルバムとしてリリースするのかもしれない。どうせだったら、『Suger time』とか『Down Town Boy』とか初期の青春ソングでガンガン攻めてほしい。ファンが唸る渋い選曲なんてどうでもいい。’for future generations’なのだから、ここは思いっきり元春のアオハル・ソングで景気よく行こう!
 
それもこれも素晴らしい『今、何処』があったればこそ。6月から始まるツアーも即売だったしとてもいい流れ。新録の雰囲気だとツアーに来る新しい世代にもきっと楽しんでもらえるだろう。かえすがえすもチケットをゲットできなかったのが残念。。。でもまぁいい、またそういう状況になってきたのは本当に嬉しいことだ。
 
それにしても今時こんな風にサラッと、「Come on!」って言えるのは明るい安村か佐野ぐらいだろう(笑)。
 
https://youtu.be/0iz11cvYSTY?si=R9cEdATNA9IlaR6D
 

ぜんぶぼくのせい

ポエトリー:

「ぜんぶぼくのせい」

 

われわれのなかにもし うそつきがいたら
 それはぜんぶぼくのせいだ
われわれのなかにもし よわむしがいたら
 それはぜんぶぼくのせいだ
われわれのなかにもし あくとうがいるなら
 それはぜんぶぼくのせいだ
われわれのなかにもし おちょうしものがいれば
 それはぜんぶぼくのせいだ
われわれのなかにもし わるものがいれば
 それはぜんぶぼくのせいだ

もし はちうえにあたらしいはながいけてあるなら
 こえにだしてよろこぶべきだ
もし はげしくないているひとがいたら
 たとえじゅっぷんでもそばにいるべきだ
もし はんでぃきゃっぷをもつひとがいるなら
 いろいろなくふうをまなぶべきだ

もしわれわれのなかに しぜんのせつりにさからうひとがいたら
もしわれわれのなかに しぜんのせつりにしたがうひとがいたら
だれかおしえてほしい
だれかこたえてほしい
つぎにぼくはどうしたらいいのか

 

2015年11月

 

Can We Please Have Fun / Kings of Leon 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Can We Please Have Fun』(2024年)Kings of Leon
(キャン・ウィ・プリーズ・ハヴ・ファン/キングス・オブ・レオン)
 
 
2021年以来の9枚目のアルバム。約20年のキャリアだから2年に1枚、なかなかのペースでアルバムを出している。米国のバンドだが、英国では出せばチャート1位という人気ぶり。日本ではあまり知られていないが、今や数少ないヘッドライナークラスのロック・バンドである。
 
とはいえなんか垢ぬけない印象があるのも確かで、グラミー受賞歴もあるがなんでそこまで人気があるのか僕もよく分からない。一番はみんなが想像するロック・バンドというイメージに割と近いからかなぁなどと思いつつ、確かにライブ映えしそうなバンドで、キラー・チューンはいっぱいある。かなり盛り上がるんやろうな。僕も一度は見てみたい。
 
ということで本作にもここぞのキラー・チューンがあると思いきや、今回は目玉になるような曲は見当たらない。前作『When You See Yourself』(2021年)はよいメロディがありつつエモい感じもあって、ここ数年のキングス・オブ・レオン作品の中では結構上位に来る好きなアルバムだったんだけど、今回はメロディに関してはちょっと弱いかな。
 
ただ、らしいというか、彼らはギター・バンドなんだけど、単にジャカジャカ鳴らすとか、リフで誤魔化すとかそういう大雑把なことはしないバンドで、凄く工夫をしたギター・アンサンブルを聴かせてくれる。ギター・バンドなんだから音でっかくして隙間を埋めちゃえなんてのはありがちだけど、彼らはいつもしっかりと考え、隙間を活かした凝ったギター・フレーズを重ねる。もしかしたら、そういうところがロックの本場、英国で好かれる要因なのかもしれない。音楽好きはそういう細かいところをちゃんと聴いているからね。

片手で測ってしまえれば

ポエトリー:

「片手で測ってしまえれば」

 

長い運河の成れの果てで
片手で測れる音を聞く
その景色を十分毎に刻み
アニメーションにして語るほどの語彙はあるのかと
急に濁流になるくだり
そこはスナップショットにして
あぁ、そういうことあったよねと
肩の荷を降ろし
向かい合った片方のレンズ
そう、対角線になって
覗くとほら
騙されたような気分になって
一瞬でスカッとするのさ
いわゆるその類いのスピード
コマ送りにするまでもなく全部が全部
窓ガラスにへばり付いた結露と一緒に
サッーと落ちてゆく
それを内気と外気の温度差と言い換えていい
いい、いい、
もう焼きつけたから全部それでいい
長い運河の成れの果て
後になってからででも
片手で測ってしまえれば

 

2024年2月

こんな夜に

ポエトリー:

「こんな夜に」

 

こんな夜に
あなたにおねだりしたいことは
グミ、あるいはチョコ
それともなんのことばだろう

やわらかい海の耳鳴り
その浮き沈みに合わせるように呼吸をすると
静かにしないでもちゃんと聞き分けられる

こんな夜に

目ぼしい魚をひとつひとつ
うお座でなくても空にあて
新しいものでも見つけたように
興奮するひととき

珍しいことにあなたもぼくに合わせてくれて
あれでもない、これでもないと
短いけどそんな交信
あったような気がした

接近する光線に手をかざすあなたが
ガラス戸に映って
出たり入ったりするあいだ
ぼくはこんなにも湿っぽい面してる

でもその場からは
けっして逃げ出したりしないように
健康的な湯上がりのような
正当防衛する体がほしい

こんな夜に
あなたにおねだりしたいこと
グミ、あるいはチョコ
甘いもので心を浸すことができるなら
今はもうそれで満足です

 

2024年4月

Inevitable Incredible / Kelly Jones 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Inevitable Incredible』(2024年)Kelly Jones
(イネヴィタブル・インクレディブル/ケリー・ジョーンズ)
 
 
ステレオフォニックスのフロントマンでありソングライターのケリー・ジョーンズによるソロ・アルバム。バンド以外ではこれが3作目だそうな。2022年にフォニックスとしてのアルバムが出ているから2年ぶりの作品にはなる。相変わらず、デビュー以来2年ごとに新作というペースを守り続けている律義者である。こういうところが英国で抜群の人気を誇る理由のひとつなのだろう。
 
とはいえ、同じことはずっとし続けられない。なので、その時々の時勢に寄ったサウンドになってもおかしくないところだが、ケリー・ジョーンズはつまみ食いみたいなことはしない。インディーロックが流行ればそれ風のを作ってみたり、カントリーが流行ればそっちに行ってみたりもしたくなるだろうが、頑固一徹、ケリー・ジョーンズはもっぱら自らの手の届く地に足の着いたサウンドしかやらない。
 
フォニックスはバリバリのギター・バンドですが、このソロ作はいたって静か。ピアノとオーケストラが主体の厳かなアルバムです。バンドの時もストリングスの使い方が非常に上手い人ですけど、その技量は健在。冗長にならずに必要な箇所に必要なだけ取り入れる。あくまでもソングライティングありきだということ。
 
しかしまぁ不思議なのは、この一見なんの特徴もなさそうな曲が淡々と8曲続くわけですけど、ちゃんと聴いていられるんですね。普通は退屈ですよ、こういう動きの少ない曲がずっと続くのは。1曲の中で派手にメロディが動きまくるJ-POPとは対極になるような単調なメロディ。でも似たような曲にはならないし、なぜか心に響く不思議。
 
あの独特のシブい声というアドバンテージはあるけれど、それだけでは説明できない何かがある、ということを改めて知る。そんなアルバムです。

海のしずく

ポエトリー:

「海のしずく」

 

ぼくに遺された
海のしずく
貝殻に
耳をすます

音に聞く
昔の人の生業が
長い四季を繰り返し
無理なことから流れていく

確かゆうべは砂浜で
変わり変わらぬ唄を思い浮かべ
静かな夜気を楽しんでいました
夢の中で

置いてある誘導灯が
最初からそこになかったような顔をして意地悪をする夜がある
初めからそこになかったような顔をして

あの子はいつもぼくをかき回す
遺った手ざわりがすっぽりとしまわれた貝殻に
いつまでも海の斑点が続く

 

2024年4月

Only God Was Above Us / Vampire Weekend 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Only God Was Above Us』(2024年)Vampire Weekend
(オンリー・ゴッド・ワズ・アバブ・アス/ヴァンパイア・ウィークエンド)
 
 
2010年代はロック不遇の時代と言われながらも、幾つかいいバンドはいた。中でもUSインディーなどと呼ばれた一群の評価は高くそれなりのポジションを得ていたのだけど、現在も引き続き活躍しているバンドと言えば、今やヴァンパイア・ウィークエンドぐらいしか思い浮かばなくなってしまった。やはり2010年代はロック不遇の時代だったのだ。
 
ロックのくせに地味なこれらの中にあって、エズラ・クーニグが甲高い声で歌うヴァンパイア・ウィークエンドはひたすら陽気だった。陽気と言ってもひと際知的な集団でもある彼らは、そこにアフリカ文化や米国文化の歴史を挟み込みながら、他のバンドではやり得ない角度で社会を写し取ろうとしていた。教養のある彼ららしい幾分皮肉めいたやり方で。
 
そんな印象が少し変わってきたのは2019年のアルバム『Father of the Bride』だった。斜に構えた印象は遠のき、分かる人にだけ分かればいいという態度も消え、開けっぴろげに大衆へ向けてよき歌を歌おうと心がける彼らがいた。
 
5年ぶりにリリースされたアルバムも相変わらずのヴァンパイア・ウィークエンド節が炸裂している。今までよりピアノとオーケストラがグッと前に出ている印象だ。前作から主要ソングライターのロスタム・バトマングリが抜けたけど、なんのことはない、彼ららしいユーモアと本気の混ざり具合はそのままに、このバンドでしか聴けないメロディとサウンド、そして今も変わらないエズラの大学生みたいな声が響き渡る。
 
いきなり’Fack the world’という歌詞で始まり、ロシアだのアメリカ軍だの戦争だのといったフレーズが散見されるが、アルバム制作は2020年以前だそうだ。にもかかわらず、9曲目『Pravda』で’Pravda’はロシア語で’真実’と歌ってしまっている不思議。当時の嗅覚がそう言わせたのだろうか。彼らはやはり単に目の前の憂鬱を歌う音楽家ではない。一言で言えばヒューマニズム。そこに力点が置かれているバンドだと思う。
 
残念ながら僕は彼らのライブを見たことがない。2019年のアルバム後はフジロックに来たけど、単独で来日したことはあるのだろうか。それぐらいライブをしているイメージはない。ということで、日本での人気はそんなでもないのかもしれない。実際に見る見ないは大きいから。
 
この素晴らしいアルバムをライブで聴きたい。どうやって再現するのか、いや再現できるのかこれ?僕の中のヴァンパイア・ウィークエンド像をもっと強固なものにしたい。
 

Bright Future / Adrianne Lenker 感想レビュー

あめのどようび

ポエトリー:

「あめのどようび」

 

ぼくがひとりでいたいとき
きみがあらわれてももんくはいわないよ
せっかくのどようびなのに
あめがじゃじゃぶりで
でかけるきがおきないわけさ

ずっとそのころ
きみはびょういんのまちあいしつで
そのむこうでもあめがじゃじゃぶりで
それどころじゃないじゃないか

せっかくのどようび
ぼくはひとりでいるようなきぶんで
とはいかないわけさ
そのうちとびらをのっくしないきみがあらわれて
とたんにはなしをはじめるから

ぼくがひとりでいたいとき
きみがあらわれてももんくはいわないよ
ぼくがなにかをしていても
きみはきゅうにはなしをはじめるし
そのうちそふぁーでちいさながめんをながめるし
でもかってだなんていわないよ

それでいいから
そのままでかまわないから
ぼくがひとりでいたいときなんて
じつはありはしないから

ぼくがひとりでいたいとき
きみがあらわれてももんくはいわないよ
どのみちきょうはあめがじゃじゃぶりで
なにもおきるわけないからさ

まどのそとは
きょうはあめがじゃじゃぶりで
いつもはじゃまなこだちたちもみえやしない
だったらせめてながしておくれ
いっさいがっさいながしておくれ

 

2024年3月