Flying On Abraham / Diane Birch 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Flying On Abraham』(2024年)Diane Birch
(フライング・オン・エイブラハム/ダイアン・バーチ)
 
 
ダイアン・バーチ、3枚目のアルバム。前回が2013年だから実に11年ぶりの新作アルバムとなる。その間まったく何もなかったわけではなく、単発的にシングルやミニ・アルバム的なものはあった。が、こうしてまとまったアルバムという形で出るとやはり気持ちが高鳴る。よい音で聴きたいと、久しぶりにCDを購入した。
 
前作、といっても11年前だから比べるべくもないのだが、80年代に回帰したようなポップ・アルバムを目指してやたら熱量の高かった前作に対して、今回はあのデビュー作のようによりシンガーソングライター的なアルバムに戻っている。戻っていると言っても今回の方がより現代的になっているというか、ビンテージさは後退し、より今の時代のシンガーソングライターとしての歌が流れていることが嬉しい。
 
確かにダイアン・バーチは今では他に類の見ないその音楽性で語られがちだけど、根本は歌の人。それはポップさを前面に出した前作でもあのデビュー作でもそう。この度届けられた新しいアルバムを聴いて改めてその思いを強くした。美しいメロディが独特のアルトボイスから境目のないファルセットで伸びやかに歌われる。音楽を聴いてこれほどうっとりする瞬間はそうあるものではない。
 
曲調も一辺倒ではなく、オープニングの#1『Wind Machine』ではサザンロックのようないなたさ。続く既発の#2『Jukebox Johnny』ではそれこそローラ・ニーロのように転調を繰り返し、折り返しの中盤ではスケールの大きな#5『Critics Lullaby』でエモーショナルに。#9『Used To Lovin’ You』はポップなダンス・ビートで上げといて、最後の#10『Trampoline』はこれぞキャロル・キングな歌でしっとり終わる。13年ぶりだからもっと曲数を欲したいところだけど、シンガーソングライター的といえば10曲というコンパクトさがいいのかもしれない。
 
あとはこれをライブで聴きたいところだけど、来日公演は東京のみだとさ。ビルボードだから近くで聴けるんだろうなぁ。うらやましすぎる‼ 約10年前の来日公演も逃したし、まだ一度も行けてない。いつか生で聴いてみたいけど、次の来日も10年後なのかなぁ(笑)。
 

Speak a Little Louder/Diane Birch 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Speak a Little Louder 』(2013)Diane Birch
(スピーク・ア・リトル・ラウダー/ダイアン・バーチ)

 

ダイアン・バーチ、待望のセカンド。ファーストからかれこれ4年。もう彼女の新しい歌は聴けないのかもしれないなんて思っていた。で聴いてびっくり。前作とは全く異なるスタイルに最初は戸惑ってしまったが、考えてみれば4年も経てば変わるのは当たり前。あの素晴らしいデビュー・アルバムより更にスケール・アップした力強い作品になっている。

ファーストではキャロル・キングを思わせるシンガー・ソングライター的風合いで、それを強力なR&B系バンドが支えるといった構図だったのだが、今作では打ち込みも使用し全体的にダイナミックになっている。ボーカル・スタイルもファーストには見られなかった激しさがあり、彼女の思いがより強くなっている印象だ。詩を見てみると、個人的なものからもっと大きなものへと視点が移っており、やはり音楽に対するスタンス自体が若干変容しているのかもしれない。そのせいで多少ダークな印象を受けるが、それもファーストに比べればという程度。詩へのアプローチや情熱を込めた歌い方などを含め、非常に力のこもった作品となっている。

ファーストの頃からいいメロディを書いていたが、今回は表現の幅が飛躍的に伸びている。共作が多いので、どこまでが彼女のアイデアなのかは分からないが、出し惜しみすることなく様々な表現のスタイルを披露し、それこそもう伸び伸びと曲を書いているような感じだ。そう、今回は彼女が好きな音楽を何の制約もなく好きなように表出している、そんな印象を受ける。勿論、ファーストのようなR&Bスタイルもそうなんだろうけど、今回はもっとラフというか、ティーンネイジャーの頃に親しんだ音楽をそのまま出しました、という感じなのかもしれない。だからなのかどうかは分からないが、今回は彼女の圧倒的なボーカルと相まって、曲の強さが目に付く。80年代風の味付けもたくさんあって、この人は本当はこっちが好きなんじゃないかと思わせる程。どちらにしても本当に音楽が好きなんだなあという想いがひしひしと伝わってくる。

作風が如何に変わろうとも彼女らしさは健在。#1『Speak A Little Louder』のアウトロのピアノのタッチを聴いてると思わず嬉しくなってしまう。でやっぱりボーカル。低音域から一気にファルセットまで駆け上がる様にはうっとりしてしまう。#5『Superstars』なんてホントに素晴らしい。どう転がっていこうがこの声がある限り僕はいつまでも聴き続けるだろう。

 

1. Speak A Little Louder
2. Lighthouse
3. All The Love You Got
4. Tell Me Tomorrow
5. Superstars
6. Pretty In Pain
7. Love And War
8. Frozen Over
9. Diamonds In The Dust
10. Unfkd
11. It Plays On
12. Walk the Rainbow To the End
13. Adelaide
14. Staring At You
15. Hold On a Little Longer
16. Truer Than Blue

Bible Belt/Diane Birch 感想レビュー

洋楽レビュー:

Bible Belt』(2009)Diane Birch
(バイブル・ベルト/ダイアン・バーチ)

 

私は誰にも属さない。そんな自立心が垣間見えるアルバム・ジャケットが印象的だ。歳を重ねればやはり内面が出てくるものだ。ダイアン・バーチの場合はその若さもあって意志の強さが表情に表れている。Wikipediaで調べると2009年当時、彼女は26才。真っ直ぐ見据えるポートレートさながらの意思の強そうな声の記名性は抜群だ。

彼女の魅力はやはりその歌唱力。野太く個性的なボーカルはもしかしたら好き嫌いが分かれるかもしれないが、それさえ凌駕する歌唱力。中でもファルセットが素晴らしく、地声との境目が分からない程ナチュラルで伸びやか。ソフトなんだけど力強くて心地よい。彼女の最大の魅力だろう。ソングライティングも彼女の手によるもので、こちらも落ち着いた素晴らしいメロディを紡いでいる。ピアノの腕も相当なもので、こんな才能が26才まで世に表れなかったが不思議なくらいだ。

そして彼女をサポートするニューオーリンズやN.Yの凄腕ミュージシャン達の極上の演奏がなんとも素晴らしい。出過ぎず、かといって物足りないという訳ではなく、ちょうど良い塩梅。ギターといい、オルガンといい、ホーンといい、要所要所で鳴らされるちょっとしたフレーズが琴線触れまくりだ。彼女の歌を最高に引き立てている。#4 『Nothing but a miracle』の出だし。ダイアン・バーチによるフェンダー・ローズ(※フェンダー社製の電子ピアノのこと。僕はこの音色が大好きなのです)で静かに始まり、コーラス、そしてフリューゲル・ホルンが重なるイントロは言葉にならない美しさ。魔法の粉が降りかかったかのようで、気を失いそうになる。

世代を越えてジャンルを越えて親しまれる音楽というのがある。ラップしか聴かない人、J-POPしか聴かない人、そんな人にも受け入れられる音楽というものがあるとすれば、このアルバムもそんなアルバムではないだろうか。

ところでこのアルバムが出た当時、 YouTubeで『Daryl’s House』(ダリル・ホール&ジョン・オーツ のダリル・ホールが自宅にミュージシャンを迎え、自身のバンドと一緒に演奏をする番組)で歌うダイアン・バーチを何度も何度も見た記憶がある。彼女の映像は他にも色々見たが、僕の中では『Daryl’s House』がベスト。中でもアレサ・フランクリンの『Day Dreaming』のカバーはすんごいことになってます。

 

1. ファイヤ・エスケイプ
2. ヴァレンティノ
3. フールズ
4. ナッシング・バット・ア・ミラクル
5. リワインド
6. ライズ・アップ
7. フォトグラフ
8. ドント・ウェイト・アップ
9. ミラー・ミラー
10. アリエル
11. チュー・チュー
12. フィーギヴネス
13. マジック・ビュー

(日本盤ボーナス・トラック)
14. エヴリー・ナウ・アンド・アゲイン
15. チープ・アス・ラヴ