ポエトリー:
「ネットショッピング」
明かりが漏れている
冷蔵庫が開いている
バタンと咳をして
扉を閉める
どこへ行ったのか
この部屋の暗がりは
いずれどこかの押し入れに
隠れたろうか
スマートフォンがついている
天井を照らしている
闇に光るマーケット
今夜は何を買わせるのか
どこへ行ったのか
ずっと大事にしていた宝物は
いずれどこかの戸棚にでも
隠れたろうか
箱買いしたトマトが
冷蔵庫で延々と冷やされ
もはや震えている
2021年11月
ポエトリー:
「ネットショッピング」
明かりが漏れている
冷蔵庫が開いている
バタンと咳をして
扉を閉める
どこへ行ったのか
この部屋の暗がりは
いずれどこかの押し入れに
隠れたろうか
スマートフォンがついている
天井を照らしている
闇に光るマーケット
今夜は何を買わせるのか
どこへ行ったのか
ずっと大事にしていた宝物は
いずれどこかの戸棚にでも
隠れたろうか
箱買いしたトマトが
冷蔵庫で延々と冷やされ
もはや震えている
2021年11月
ポエトリー:
「記録」
不意にかすめた
左目の奥には
少し濃いめの
小さな記録
配線は
緩やかな円を描き
頭の位置で
ショートする
ひとり占めしていた
短い夏の思い出は
両手を挙げて
それは見事なさようなら
もちろん
思い出すことなど
なかったよ
だってもうこれは、
期限切れだからね
2022年5月
ポエトリー:
「サヨナラ」
見違えたよ
その喋り方
見違えたよ
その微かに目にかかって前髪
急にどうしたんだいという声に備える君の
億劫な瞳
いつでもどこでも
見ず知らずの人に喋りかけられるようにいたい
そんなことを仲良しの友達にも言う君に
僕たちは悪気がないようクスクス笑った
そんな日の明け方、
僕たちの靴下にはよじれたような染みがあって
けどそれには目もくれずおしまいの証、
サヨナラと
手を振りあったりしたんだよな
2022年3月
ポエトリー:
『朝の光』
緩やかな髪のウェーブに光がさして
それは朝の光だから見ることをやめない
ずぶ濡れの夕べの記憶は
バタートーストと共に
喉の奥に流れた
はず
今朝みたいにたっぷりと時間がある日は
コーンスープをしっかりと
飲み干すだけの余裕が私にはある
これも、はず
朝からつまらない冗談を言う父親の
気の抜けた声にはまるで覚悟がない
これが我が家のトップランナー
けれど贅沢は敵
私はある程度の相槌が打てる子だ
たかが一年ばかり早く生まれただけで先輩面するアイツにも教えてやらねば今朝のスローガン
贅沢は敵
小学校の時に覚えさせられた寿限無が頭を離れない
水行末ならぬ水餃子
コーンスープと合わないことは知っている
それはとても大事なこと
緩やかな髪のウェーブに光がさして
けれどまだ勝ち名乗りはするなよ
今日はまだ始まったばかりだということを忘れるなよ
2019年5月
ポエトリー:
「僕の相棒」
明け方に
君の輝きを見た
いつもより1分早い速度で動いていた
おはようと伝えるとおはようと返す
暮らしはいつもささやかに
怯えは胸ポケットに
台所からはコーヒーの薫り
いってきます、僕の相棒
君が僕より少しだけ幸せでありますように
2021年4月
ポエトリー:
『残り湯』
残り湯で体を温めてくれる経験が
二人をそっと包みます
両方の手の形をした炎がぼうっと
二人の暮らしを照らしています
きっと食卓の中心には
温かいお茶があって
二人の会話は弾みます
夜半過ぎ
短くて長い一日の終わりがどちらにも行けず
ひとりぼっち
まだ湯船に浮かんでいます
2021年12月
ポエトリー:
「流れり」
薄いピンクのあなたの頬にそっと手を当て
浅い眠りについた朝ならほら
まだここにあるさ
まごついた手
でシーツを鷲掴みす
みたいに形なす花弁は
次第に痩せ細り
指先に流れり
太陽からの眺めもまた
まごついたまま
己が手でひと掴みする隙間などなく
時はよしなに流れり
listening…
淀みなく
listening…
時間が来たよ
薄いピンクのあなたの頬を
コップ一杯の水に汲んで
静かな朝の
時計は流れり
2021年6月
ポエトリー:
「食事の準備」
彼女の耳たぶは茹でたてのニョッキ
味もそっけもない
彼は塩を一掴み
伝票を見て火加減を見て
この道二十年のベテランシェフの如く
段取りよく事が運んだ暁には
彼女のご機嫌もクリームソースのように滑らか
心を静める緑のバジルを加えて
今宵二人、トマトとチーズのように仲良し
冷めないうちにフライパンはそっちのけ
我が家のメインディッシュは
アクアミネラルと新鮮なラディッシュを添えて
ガーベラの花と灯りはうんと小さく
2017年2月
ポエトリー:
「ランチタイム」
ランチタイム
君の右手は栄養源を口元に運ぶ
身から出た錆
つい先日の事を悔いる
脚を組み替える
同僚が話しかける
聞こえないふりはしないけど実はまるで聞いちゃいない
今、心の中で決めた事がある
明日から昼はひとりで過ごす
今夜の夕食は豪華にする
それぐらいの事ではどうにもならないけど
何もしないよりかはマシ
がっかりしたままでは終わらない
私はいい人ではない
2017年3月
ポエトリー:
「たった一日」
12月31日は12月31日というだけで12月31日の顔をする
1月1日は1月1日というだけで12月31日の事など何もなかったかのように
1月1日の顔をする
三月の時で言うと
卒業式の日は期待するほど何も起こらない
何も起こらないけれど何も起こらないことで日々は過ぎてゆくということを知る
好きな人と初めて過ごした時
その翌日は素晴らしい一日
よく耳にする幸せとはこういうものかと体中で知ることになる
近しい人いなくなった時
現実が重くのしかかる
当たり前のことを知る
現実の意味を知る
たった一日で
この魂が砕けてどこかへ行ってしまうかもしれない
頭をぶつけたり、腕を失ったり、体全体が爆発してしまうかもしれない
もちろんいい事だって
一億円が当たったりだとか
その時はどういう気分か想像つかないけど
僅か一日ですべてが変わって見える
そんな一日を生きていると何度か経験する
僅か一日ですべてが変わって見えるのではなくて本当に変わってしまうこともある
例えば今住んでいるところがなくなっちゃうとか
とにかく
すべての事は僅か一日で変わってしまう
これまでがそうだったように私たちのこれからもたった一日で変わるだろう
とはいえ
さっきまで12月31日の顔をしていた12月31日がたった一日で1月1日の顔になるのだから
別にどうってことない
どうってことないだろう
2017年1月