つまみ食い

ポエトリー:

「つまみ食い」

 

つまみ食いをして
あなたの詩をのぞきこむのが
野暮なわたしのすることです 

そうやってできた
いささか単調なわたしの詩を
(と呼べるかどうかは別にして)
この際あなたにご覧せしむる 

なんて大層なことはどこにもなく
軽はずみな言の葉
夏休みの子供のお手伝いのように
落ち葉もろともそそそと掃いてください 

そしたらわたしは音もなく
さささと退散するでしょう

 

2023年2月

冬瓜

ポエトリー:

「冬瓜」

 

冷たい雨
降るねこの先
なのにじっとしているだけで
汗かくね 

こんな日はゆっくり冬瓜
冬なのに秋の季語っていいよね
うっかりしてわたしたちまで
冬まで持つ瓜になればいいね 

冬は冬瓜
無慈悲な言葉にも
水分を奪われることなく
簡単に心盗まれることなく
ひと冬ぐらいどうってことなく 

冬は冬瓜
待つのが仕事
冷たい雨はもうしばらく続きますが
今はただ身を固くして
佳き日を待つのみです

 

2023年1月

蘇生

ポエトリー:

「蘇生」

 

隊列から離れるに従って
雲がさまざまな形に変わっていった
他に何にもすることがなかったから
庭先に立ってじょうろで水をやろうと思った

精神的な自立は光合成
大きく伸びてよく育つ
焦って取ってしまわないでね
誰にも時期はあるのです

「あなたは、夜中にヒドイ夢を見て飛び起きたことがある人」
身に覚えのない手紙のようにそう言われてもピンとこなかった
これは誰からの手紙?

庭先に立ってじょうろで水を撒いたのは
他に何もすることがなかったから
額の汗を拭って透明になることを願った
今朝は太陽が眩しかった

 

2022年6月

もののはずみ

ポエトリー:

「もののはずみ」

 

ありもしないものは
はじめからそこにないのだから
なくなったりはしないのに
どこにいったいつなくした
あそこにおいたはずなのに

こにくたらしいかのじょのえがおに
なんどにがむしをかんだかなんて
きどったようにいったとしても
そんなこともあったようななかったような

ありもしないものは
はじめからそこにないとしりつつも
むねぽけっとのたかなりは
なんだったのかとたずねてみれば
もののはずみというものですよ

ねぼけまなこのたかなりが
あっちへふらふらこっちへふらふら
ついぞみはてんあなたののぞみは
けっきょくちいさなむねさんずん

さりとてちいさなむねさんずん
ありもしないからはじまるのですよと
わかったようなくちぶりで
それこそもののはずみです

 

2022年6月

Born to the end

ポエトリー:

「Born to the end」

 

Born to the end and reality
Born to the end and not guilty
Born to the end and toddle about
Born to the end and walk around

Born alone and it was nice to be friends with you
Born alone and I wish I was with you
Born alone and I should have prayed to star
Since I was born , become a person like no other

 

最後まで生まれて / 現実
最後まで生まれて / 無実
最後まで生まれて / よちよち歩く
最後まで生まれて / あちこち歩く

ひとりで生まれて / 君と友達でよかった
ひとりで生まれて / あなたといればよかった
ひとりで生まれて / 星に祈ればよかった
生まれたときから / 誰にも似ていない人になる

 

2022年8月

優しさ

ポエトリー:
 
「優しさ」
 
 
どしゃ降りの中
立ち直ろうとする君に
雨傘は頼りなく
今度ばかりは
足の先までびっしょりです 
 
それでも思いの外
体は軽く
今なら離れた駅まで
走ってゆけそうですが 
 
その前に
つまらぬ風邪など引かぬよう
濡れた体を温める
タオルを一枚くださいな 
 
今なら
とびきり元気なあの人に似た
頼りがない優しさを
受け入れられそうです
 
 
2022年10月

星座

ポエトリー:
 
「星座」
 
 
冬の寒さにも
開けっ広げなあなたの魂
新しい星座のようなあなたの問いが
今宵の空に浮かんでいます 
 
窓ガラスは濡れていて
さしたる望みもないままに
したたる夜露が
今日の終わりを告げている 
 
明日になればひと巡り
朝日が昇ると言うけれど
巡らぬ日々もあるのです 
 
証拠にご覧、今宵の夜空
あなたの星座は居座って
いまにも名前が付きそうです
 
 
 
2022年10月

秋の気配

ポエトリー:
 
秋の気配」
 
 
 
好き勝手に物を言うあなたの言葉が
じゃがいも掘りのようにズケズケと現れては
そういやあれはなんだったっけと
言葉の夏が遠ざかる 
 
昨日食べた夕飯の
苦味や嫉み
洗いざらいお皿に並べて
ひとつひとつを吟味してみれば
それらはかつて済ませた言葉
あなたにもほら、聞き覚えあるでしょ 
 
あの時は確か
思い思いに言葉つらなり
テーブルの端からまっ逆さま
落ちた先で拾いもせず
 
心配しないで
なんて言わばハノウイタセリフ
分解して、
どうせのことなら5か国語ぐらいに刻んで
その余剰は箱にしまえば 
 
片付ける準備はできたんですよね
窓の外からそんな声が聞こえてきて
とにかくもう秋の気配
僕は財布の中がすっかり空っぽになったこと
今ごろになってようやく気付いた
 
 
2022年11月

バター

ポエトリー:

「バター」

まっすぐに溶けだしているバターは
指のすきまを流れ右関節へ
いつかのわたしを呼びおこす

よりよく動くのか
すさまじく伸びちぢみする現代で
身体はそれに呼応する
わたしの意志のあるやなしや

いま言えること
子どものときの
車に乗り降りするときのあの気持ち
ちゃんと心のなかで整理して
忘れていない

お行儀よくおすわりして見事だね
そんなこと言われても
あれはホント、
ただおすわりしていただけなのです。

朝食の溶けだしたバターが白いお皿におちていく
うまく身体になじむまで
もうあと幾らかのときを待ち
いつかのわたしよ、
いいから早くもどっておいで

 

2022年10月

優しさがない

ポエトリー:

「優しさがない」

ないの優しさが
 と虚しさが頬をつたう
  それはいつのことだっけ

幾らで買ったのか
 問いかけることもせず
  とるに足らない言い訳

ただ足元を見ると
 捨てた言葉が掃くほど溢れ
  今はまた別の方角から風に吹かれ

無い物ねだりと知りながら
 白身の粘り気が苦手で
  ちゃんと火を通さないと駄目だった

喉を通るものだけを食べなさい
 昔の母みなそう言ったが
  今は涙が止まらないんです