あなたといるだけで

ポエトリー:

『あなたといるだけで』

 

あなたといるだけで心が張り裂ける
あなたといるだけで胸が熱くなる

あなたがいるだけで時が動き出す
あなたがいるだけで心が満たされる

あなたといる時は落ち着いていられる
あなたといる時は穏やかでいられる

あなたは今何処にいる
あなたは今何をしている
あなたは今幸せなの
私があなたを幸せにしてあげる

そんな風に思われる事が
たとえ一瞬でもあったのかな
そんな風に慕われる事が
ほんの一度くらいはあったのかな
そんな風に人知れず過ごす日々があったのかな

 

2017年5月

法事

ポエトリー:

「法事」

 

堅苦しいとこじゃないし普段着のままでいいから
もよりの駅からの手書きの地図をわたされ
親戚の法事に行きました
父の代わりに

電車をふたつ乗り継いだ先
真下に川が流れるマンションの
玄関を開け放した一室
よく来てくれたと大仰にむかえられ
案内されるままに座りました
僕以外は喪服でした

お経が終わり
おじゅっさんが帰った後の
スーパーで買ってきたという海鮮巻きのパック
これはとても美味しいからと
特にすすめられた若い僕は
言われるがままパクパクと食べた

変な時間に腹をふくらませた僕は
世帯主の満足げな表情に見送られ
真下に川が流れるマンションを後にした

なにをしに来たのかよくわからないまま
父の代わりに手を合わせてきた僕は
もうすぐ二十歳
それにしても大人の世界は
なんだかよくわからないことだ

 

2023年7月

子ども時代

ポエトリー:

「子ども時代」

 

僕たちは塞ぎ込むことをよしとせず
少しくらいの荒地などお構いなしに
学び、戯れ、声を吐き、
少しくらいの擦り傷などお構いなしに
真っ暗闇になるまで遊び呆けた
残り僅かな子ども時代を使い尽くすことが
唯一の仕事でもあるかのように

 

2023年2月

水色の分母の上に緑色を乗せて

ポエトリー:

「水色の分母の上に緑色を乗せて」

 

クソ暑い真夏の朝でさえさわやかに
すいすいとすべる自然の動力をそなえ
普通にいいひとを紹介するノリ
まるで意味がわからない

水色の分母に緑色を乗せたみたい
特に集中力なんていらないみたいにすいすいと
だからその普通にいいひとを紹介するノリ
マジで意味がわからない

水面をすべる木の葉のように
くるっと回ってあんたそのうち
派手に事故っても知らないからね

 

2023年5月

レビュアー

ポエトリー:

「レビュアー」

 

カメラが向こう側をむいたから
関係ないことを言うことにする
レビュアーはあること無いこと言いつらね
早くも帰り支度

お前さんが額に入れたのは正解さ
早くも値が下がり始めているがね
結果的にさまよう方を採る
それが我らの性分さ

前面にしつらえられたカメラは反転し
否応なくテキストを映しだす
お前とは面と向かって話をしたくない
そこにはそんなことが書かれてあった

 

2023年3月

珍しいもの見るようにジロジロと

ポエトリー:

「珍しいもの見るようにジロジロと」

 

冷たい顔がそばに来たから目覚めるの
新しいことしなくちゃってあおるくせに
珍しいものを見るように
ひとの生態ジロジロと

迂闊に思ったこと言えやしないから
わたしは黙って離れる
いみじくも声の隙間に入り込む空気の層
うさんくさくて聞けやしない

心配そうに
見捨てたりしないって言ったって
わたしは一言も見捨てたりしないでって言ってない

冷たい顔でそばに寄られるぐらいなら
珍しいままでよいのだと
眉間に皺を寄せ
誰も近寄るな

かまうことなかれ
今のわたしは誰もいらない

 

2023年6月

野末

ポエトリー:

「野末」

 

朝方に見た君の声が
夕方、野末の向こうに落ちていた
君がここを通ったわけでもなかろうに 

そうやって
人知れず魂は
消費され
舞い上がり
すり抜ける 
 
人が
言の葉と言ったり
言霊と言ったりするのは
そのせいか 
 
かつて流した涙が
崖の隙間からチョロチョロと流れて出していました
何かの役には立ってると
周りの草木が濡れていた 
 
野末の向こうに落ちていた君の声にもやがて
いや今すぐにでも
同じことが起きていると感ずることができるのは
きっとどこもかしこも
柔い記憶に包まれているから 
 
所在など
どうでもいい
結局のところ
わたしたちはいつになく
わかちあうのだから
 
 
2023年3月

出て行った

ポエトリー:

「出て行った」

 

手当たり次第袋に詰め込む君は
安いからねと
もう夕刻

君の
肩から肘にかけての
星座のようなポイント
そこを突くと新しいものが出てくる気がして
人目も憚らず
僕は人差し指から小指にかけての四本で突いてみた

そしたらどうだろう
かつて無かった花束が
地表の底から湧いてきて
誰かれともなく口々に
おめでとうおめでとうと言うではないか

すると君は
まるで福引きにでも当たったように
恥ずかしそうにお辞儀をして
これから行きますこれから行きますと言うではないか

手当たり次第袋に詰め込む君の
肩から肘にかけての大事なポイントを
僕が見つけたことなど全く知らずに
君はその日のうちに
出て行った

 

2023年4月

季節の花

ポエトリー:
 
「季節の花」
 
 
庭先に季節の花
ポットに植えられたイチゴは食べごろだ
目の高さにある柊の刺に注意して
お隣さんとの境い目でキチンとカットされるべきだ
もちろんなっている 
 
毎朝水をやる
ホースではなく柄杓で
バケツには雨水
心には余裕を 
 
大丈夫、
わたしには季節の花を庭先に飾る母の血が流れている
 
 
2023年2月
 

農夫の黄昏詩

ポエトリー:

「農夫の黄昏詩」

 

一度発話したことがある
黄昏詩と
思ってもみない方向から言葉が来たと
手拭いを懐に入れ振り向く表情も
黄昏詩だ

艱難に耐え
ようやくここまでたどり着いた表情に
いくら難しい言葉を当てようとも
それは黄昏詩

民族の歴史が
その手に凝縮されるのを
わたしは見たことがある

夕刻
田畑に流れ星は
どこまでも走る

 

2023年3月