出て行った

ポエトリー:

「出て行った」

 

手当たり次第袋に詰め込む君は
安いからねと
もう夕刻

君の
肩から肘にかけての
星座のようなポイント
そこを突くと新しいものが出てくる気がして
人目も憚らず
僕は人差し指から小指にかけての四本で突いてみた

そしたらどうだろう
かつて無かった花束が
地表の底から湧いてきて
誰かれともなく口々に
おめでとうおめでとうと言うではないか

すると君は
まるで福引きにでも当たったように
恥ずかしそうにお辞儀をして
これから行きますこれから行きますと言うではないか

手当たり次第袋に詰め込む君の
肩から肘にかけての大事なポイントを
僕が見つけたことなど全く知らずに
君はその日のうちに
出て行った

 

2023年4月

季節の花

ポエトリー:
 
「季節の花」
 
 
庭先に季節の花
ポットに植えられたイチゴは食べごろだ
目の高さにある柊の刺に注意して
お隣さんとの境い目でキチンとカットされるべきだ
もちろんなっている 
 
毎朝水をやる
ホースではなく柄杓で
バケツには雨水
心には余裕を 
 
大丈夫、
わたしには季節の花を庭先に飾る母の血が流れている
 
 
2023年2月
 

農夫の黄昏詩

ポエトリー:

「農夫の黄昏詩」

 

一度発話したことがある
黄昏詩と
思ってもみない方向から言葉が来たと
手拭いを懐に入れ振り向く表情も
黄昏詩だ

艱難に耐え
ようやくここまでたどり着いた表情に
いくら難しい言葉を当てようとも
それは黄昏詩

民族の歴史が
その手に凝縮されるのを
わたしは見たことがある

夕刻
田畑に流れ星は
どこまでも走る

 

2023年3月

おまじない

ポエトリー:
 
「おまじない」
 
 

もしも
喉のとおりが悪くなったら
吸い込むのは少しやめて
吐き出すことも熱心に

それでもわたしには
心配事があり
出てくる言葉はつっかえて
よくあること
ありもしないこと

だからなにかのおまじない
それがあなたならなおのこと

もしも
大切なひとへの便り
悪い方角へ向かったら
それは思いがけない悪魔のしたたり

だからなにかのおまじない
金輪際来ないでおくれと
夕暮れ歩く自分の姿に
小さく✕と書きました

 
 
2022年10月

母さんは簡単に言う

ポエトリー:
 
「母さんは簡単に言う」
 
 
友達の頬と思って
軽くひっぱたけばいいのよ
母さんは簡単に言う 
 
そんなことだからあなた
いつまでも煮え切らないのよ 
 
でも母さん
僕には手がないんだよ
食事をしているのは箸で
字を書いているのはペンで
南中しているのが太陽で
そのどれもが僕の手ではないんだよ 
 
夕食をつくる母さんを横目に
僕は今日も
生きることを考えている
珍しいことでもなんでもなく
 
 
2023年3月

四肢

ポエトリー:

「四肢」

 

信じられないかもしれないけど
腕がたくさん生えて暗闇のなか
バタバタと手、伸ばしても
あなたには届かない

信じられないかもしれないけど
背中じゅうに羽が生えて自由飛行
大空へ羽ばたいても
あなたにはたどり着けない

信じられないかもしれないけど
この足は獣より早く
大地を蹴り上げても
あなたを見失う

けれどこの世に生まれた証
あなたを求め生まれた四肢

腕がもげて
羽が引きちぎれて
足が棒になっても
水しぶき上げてもがいてみせよう
すべては他ならぬあなたのため

 

2022年2月

果物の王

ポエトリー:

『果物の王』

 

果物の王はりんご

あめつちの王はりんご

バナナやブドウを従えて

みかんという民がいたりして

メロンという彼の国の王がいたりして

ザクロという元の国の王がいたりして

山育ちのクルミは時折街へ降りて来て

落花生は抜け殻で昼寝中

お手伝いの松の実は待ちくたびれて

パイナップルは季節を間違えて

キウイはいつも毛並みを気にして

冗談なんか言うポテトの山

だいたいいつもカボチャは退屈で

柿は今日も筋肉痛

パプリカは頑なで

三色揃って頑なで

芸のない大葉は頑固者

わたしらの今日あるのはあの人のおかげだよ

さくらんぼの実は種まで生きる

果物の王はりんご

あめつちの王はりんご

赤いりんごはレッドです

 

2017年10月

ポエトリー:

「暦」

 

期待させて悪かったね
僕は暦へあと一歩届かないんだ
うまく言えないけど
一年、また一年とこういうものはいつも
減っていくよりむしろ増えていくんだね 

日頃、できるだけ多くの扉を開けようとするけれど
手にするものはほんの少し
むしろ出来なかったことが増えていくんだね 

君だって大事なこと、
失ったような顔してるけど
失っちゃいない
増えているんだ 

証拠にほら
少しずつ影の色が濃くなって
溶け合う隙間もなくなって
仰ぎ見ることすら忘れてしまった 

もし君が
手にしたものをすぐに手放すような人だったらこんな苦労はなかったろうにと
もちろん僕にそんなこと言う勇気はなくて 

僕だってほら
大事なこと、知ったような顔してるけど
一年、また一年と
増えていくことに抗いもせず
暦へまだ
あと一歩届かないんだ

 

2023年2月

大いなる一本道

ポエトリー:

「大いなる一本道」

 

月が声に出している大いなる一本道は
人々の罪を暴いたりはしないし
見ず知らずの人を小突いたりもしない
だからこそ今日も私たちの胸は濡れているし
健康的に今朝も寝坊をしたりする 

昨日にしても今日にしても
私たちに場違いなことはなく
問題を先伸ばしにしたって傘は
雨が降れば必要になるし傘は
人が思うほど色ちがいではないってこと 

隠し立てをしたって糸のほつれからは
何をしたかったかや何ができなかったかが
ありとあらゆる角度から想像できるし
それでも上下左右に連動する体の動きは
以前よりにも増して糸を吐き続けるだろうし
何がしたかったかや何ができなかったということよりも
些細な毎日の流れの細やかなことであったり
そうやって生き抜くこと自体を体全体で表明しようとする私たちの手足は健康的で
だからこそ太陽や月の光は毎日新しい角度で人々の体に射し込むのだろう 

今に至っては
正面に回って受け止めることだけが正しいとは限らないし
むしろ太陽や月の光が斜めに走る瞬間こそ大切に
そのことをよくよく心に留め置き
なまじよく動く体を持っていようとも
端から端まで歩みを進める必要はないし
半身に構えようが何しようが
昔馴染みの人に会った時のような柔らかな面持ちで
少しでも多くの時間がほどける時を待ち
昨日あったことや今日あったことを
半年先にはよい意味で忘れるような
それでいて嘘はつかない体
健康的な体であることを願いつつ
今や外は雨あがり
太陽や月の光は熱を帯び
傘立てからは雨がしたたっている

 

【概要】
 月は血を流している
 君は罪を犯している
 大いなる道は一本の道
 私たちの胸は濡れている 

 特別大きな知らせはなくても
 それでも枕元に忍び寄る
 そういう噂を耳にして
 友達はジャムの蓋をきつく締めた 

 様々なコンテンツから取り出す
 簡易的な欠片は
 いかようにも形を変えて
 胸に留まり山となる 

 近代の桃源郷をそれと知るなら
 面倒臭いなどと言わず
 湿った手を拭うのがよい
 その方がよほど健康的だ 

 そこに点はなく線がある
 私たちの心はいつもある程度
 湿り気を帯びている
 それはとても健康的だ

 

 2023年1月