ポエトリー:
「普通の糸と赤い衣」
朝起きて
夢の中でこさえた赤い糸が
じゅんぐりじゅんぐりに糸を吐く
赤い衣を脱ぎながら
まるで普通の糸になって
やがて束になって
やがて皮膚になり
ひとの身体を覆う
矛盾しているが
赤い衣が身体に残り
普通の糸が
身体を守る
わたしの赤い衣はいつもこうして
守られている
ふとそのやさしさに気づき
わたしは皮膚を撫でた
2024年10月
ポエトリー:
「普通の糸と赤い衣」
朝起きて
夢の中でこさえた赤い糸が
じゅんぐりじゅんぐりに糸を吐く
赤い衣を脱ぎながら
まるで普通の糸になって
やがて束になって
やがて皮膚になり
ひとの身体を覆う
矛盾しているが
赤い衣が身体に残り
普通の糸が
身体を守る
わたしの赤い衣はいつもこうして
守られている
ふとそのやさしさに気づき
わたしは皮膚を撫でた
2024年10月
ポエトリー:
「星よりもたかく」
星よりもたかく
月よりもしずかに
今日も無色透明なものが
投下される
土は絶え間なく
海は揺らぎて
塩分を摂りすぎたから
今夜は軽いものにしませんか
変わらないものなど
ありはしない
そうやって大河がひとを飲み込んでしまった
祈ること。
明るい明日が待ちきれなくなるような
ひとが暮らす街となれ
2024年1月
ポエトリー:
「波打ち際」
波打ち際で剥がれた人生が
一歩、また一歩と後ずさりす
真剣に生きた心意気さえ簡単に儚い
小鳥のさえずりほどに
目頭が熱くなる瞬間がひとにはあって
後ろめたいことのひとつやふたつ
それでも隠すことのできない腹立ち苛立ち
もくもくと雲が茹で上がり
それでいてときとして晴れわたり
またはのこのこと雨がやみ
いやあれはそうではなかったのですという断りは過ぎ
ひとに長く愛されるサイダーの泡
そんなものに憧れる
ゆっくりと潮が引いていく間ほどには
ひとは穏やかではないと知りつつ
少しづつ重ねたときを折り返し
少しづつ剥がれていくときを経てもなお
若人のように寄せては高波
生の陽気さへ同期す
2024年8月
ポエトリー:
「薄まってゆく」
薄まってゆく
何処かで誰かがわたしの代わりに悪事を働く
相当近くの湖でそれが起きている
今朝もその脇を自転車で通過する
バッテリーの充電は何処から来るのか知らないが充電器は重い
バッテリーは薄まるとかではない無くなるだけ
でも重い
無くなればまた充電すればいい
何処から来るのか知らないが
湖の水嵩は日によって違う
がよほどの大雨でもないと気づかない
か晴れ続きか
今気づかないのはどちらでもない
怠惰なだけ
薄まってゆくのは知っている
薄まってゆく
わたしの中に埋まっている貝が蓋を開け二三泡を吐く
音は出さずに弾け無かったことにする
その程度で済むから今はそれでいい
それでいいが事実自転車がぐらつく
何処から来るのか知らないが
今日もバッテリーは満タンできちんと重い
そして薄まってゆく
何処かで誰かがわたしの代わりに悪事を働く
今朝も速やかに朝日を浴びて湖の脇を走り抜ける
思いなおせばほら
もうぐらつくことはない
気にやむことはない
2024年10月
ポエトリー:
「表側と裏側と」
裏側に種があり
過去が尻込みをする
人の鼓膜の破れ方には自在があり
知っていいことと知らなくていいことが
あったりなかったりして
啄んだり啄まなかったり
表現が多目的トイレ
手の届かない閉と開
助けを必要としている
外から開けてくれる誰かの
表側に鐘があり
寝ている人を呼び起こす
人が眺める仔細の上に
詩が上滑りすればいい
知っていてもいなくても
声が鐘の間を吹き抜ける風が
言い淀んだりして心地いい
2024年8月
ポエトリー:
「グレイの空」
在るはずの無い河を越えて夜通し歩く
食い違いのあること
準備の有る無しにかかわらず
空を切ったり
草を編んだりして
それでも
道行きの有る無しにこだわらず
一筆かかれば珠玉の名画
になりはしないかなどと
想いを巡らしてみたり
こんばんは皆さん
これがわたしの作品です
グレイの空は
残り湯でもかけたように
背たけが伸びた分だけ仄白く
まさかの呼びかけに応じることもなく
溢れるに任せる
2024年8月
ポエトリー:
「祝日の電車」
行楽地へむかう電車の中で
楽しそうな声が三っつゆれていた
顔を窓の外へむけたちいさなL字が横いちれつ
足下にはかわいい靴がきれいにならんでいる
その横にも座席は空いているが
両親は座ろうとはせず子どもたちの行儀が悪くならないように気を配っていた
わたしたちは座りませんから
というメッセージ
2024年10月
ポエトリー:
「朝の電車」
隣りに座るひとの
化粧をする右手が
僕の二の腕をたたく
ようやく終わったと思ったら
今度はバックから教材を取り出した
ペンを持つ右手が再び
僕の二の腕を叩く
集中している
僕は見知らぬひとに貢献している
2024年10月
ポエトリー:
「せめていい方のことだけを」
ライオンの鬣に沿って日が昇ることなどがあると
身だしなみを思わせるフレーズが静かに降りてきて
自分が他所行きのおはようという声を持っていることに驚く
まさかここでさよならは言えないから
余所余所しく挨拶を交わすことになる
北へ向かう幹線道路では渋滞が起きているそうだ
今各々が、時間を忘れたり、名前を付けることを忘れたり、身支度を忘れたり、文字通り、何をするにも
一度には測れない事柄を一旦フリーズし、それは重い足取り、それは静けさ、余所行きのいってらっしゃい
間もなく翌朝、今度は身だしなみを思わせるフレーズがラフに降りてきて、自分が余所行きではないおはようという声を持っていることに気づく
悪いことは考えず
いいことの方だけを
せめて今朝の最寄りの駅までは
2024年7月
ポエトリー:
「身軽な辞書積んで」
背表紙に書かれた文字と
積み上げた時間はちょうど同じ目の高さ
航海は驚くほどなだらかで
まるで止みかけの雨のよう
今のわたしたちには
傘を忘れるぐらいがちょうどいい
時間があるかぎり
暦は振り出しに
いつだって明日は明日
今日は今日
誰も無理じいはしない
2024年8月