私はICOCAをかざします

ポエトリー:

『私はICOCAをかざします』

 

あなた方の 凍える元気に 私は ICOCAをかざします あなたの声に 耳を傾けると 時折 大切な夜に木霊する 小さな踊りを発見した もしくはキャッチした 誰か 町内の出来事を伝える回覧板を 届けて下さい 近頃とんと 世間の動きに疎いのです 私を導く 筆の動きはたどたどしく 微弱な電波はそれを正しく清書し そちらへ向かうような夜のおとぎ話 お友達は夢見がち… 沢山の皆さんに披露する第二章がかくれんぼをする前に それもできるだけ今夜のうちに書き留めて また より良い明日にするため 眼鏡のレンズは綺麗にしておく より良い明後日にするために 靴下の毛玉は取っておく それも今夜のうちに けれど 連絡網は微弱な電波 時間があればそれは子供たちと朝までかくれんぼをしているから からできるだけ急うに呼び鈴を鳴らして 私を呼び出して下さい だだから今夜 あなた方の 凍える元気に   わたしは  ICOCAを    かざ しています  私のデータは 有効に活用され ててい ますか 私のデー  ぇタをあげるから私も そこ       を 通し て く ださいま せんか 私も  あなたのところ に  行きたいの です

 

2018年4月

明日はパンの日

ポエトリー:

『明日はパンの日』

 

天国ってあるのかな

空の向こうにあるのかな

今はどんよりとしているけれど

その向こうには目の覚めるような青空があって

月日の概念も遠ざかって

皆が仲良く手を繋いで

一緒にテーブルを囲むような

そんな世界があるのかな

 

なんてバカらしいや

チャイムが鳴るまであと三十分

窓際の席でだらりとながまる

明日はパンの日

知っているのはそれだけ

みんな そんな難しい顔をしないで

 

2018年4月

丸善にて

ポエトリー: 

『丸善にて』

 

岡崎でゴッホを見た後、河原町の今はBALの地下にある丸善で、僕は詩集コーナーと文芸誌コーナーを行ったり来たりしながら、ここは詩集が沢山あるからいいなぁ、大阪にもこんな本屋がないかなぁなどと、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズの詩集とレクスロスの詩集のどちらかを何度か手に取り、下の方にあるイェイツにも目を落とし、パラパラとこれは無理だななんて、また文芸誌コーナーというかその類いの新刊が山積みになっているレジの近くに行って、ユリイカの今月の作品として掲載された僕の名前をもう一度確認し、隣にいるお姉さんにこれは僕ですと言いたくなる気持ちを少しだけ堪えて、というかそんなでもないけど、とりあえずもう一度確認してから詩集コーナーに戻り、やはりウィリアム・カーロス・ウィリアムズの詩集とレクスロスの詩集とを迷いつつ、昔、というか前に僕が京都に住んでいた時の丸善の、あのエスカレーターが好きだったなとか、横切る彼女のガラス越しに写る姿が美しかったなとか、もういい加減そんなことは卒業して今はここに至るのかオレはとか、そんなどうでもいいことを考えながら、どっちかといえばウィリアム・カーロス・ウィリアムズかなと思いつつも、急に帰り道に京阪モールでケーキを買って帰るんだっけと思いだし、早く帰らなくちゃといそいそとしだしたこともあってその日はレジには向かわずに、それでもユリイカに載ったと知ったのがここの丸善で良かったな、昔の丸善じゃないにしてもやっぱ丸善だったというのはなかなかいい気分だなと、何かの物語になぞらえて、僕は新しくなった丸善を後にした。

 

2018年2月

で、手紙

ポエトリー:

 『で、手紙』

 

手紙が届いた 誰からだろう
差出人の名前がなかった
爪が欠けていて 早く切らないといけないことを思い出していた
部屋に入って手紙の封を切ったら 爪の事は忘れるだろうなとも思った
部屋のテレビは壊れていた
ヒーターの調子もおかしかった

部屋でコートを脱げないなんてクソッタレだ
夕飯は外で済ませてきた
会社帰りにいつものあいつと
あいつは仕事が出来ねえけど あいつとは気が合う
そういや一緒にメシ食うの 今週は三回目だ
外から賑やかな声が聞こえてきた
子供の声 こんな夜遅くに出歩くんじゃねぇよ
オレの親はこんなことさせなかった
はずだ 多分 よく思い出せない

明日からまた夜勤だ いつまで続くのやら
大して時給もよくならねぇのに オレもお人好しだね
明日偉そうなあの野郎に言ってみるか
まぁ、いい 誰かがやんなくちゃならねぇんだから
丈夫に産んでくれた母親に感謝だな

そうそう手紙だな
母親だったらマジ勘弁
そういやオレがまともな仕事に就かずにフラフラしていた頃
男は仕事をするものです みたいな手紙寄越しやがった
あれにはちょっと参った

で 手紙
封を切るか?
いや しばらくは置いておくべきだ
明日から夜勤なのに面倒くせぇ事頭に入れたかない
そうだな 夜勤から戻ってあいつがまた退屈そうにしてやがったらまた一杯やって
そんでもって今みたいにいい気分で帰ってきたとして
そん時にこいつがオレの目に入ったとしたら

まぁ 分かってる 分かってるさ
大体見当は付いているんだからさぁ
読まなくてもお前の役目はもう済んだようなもんなんだぜ
あぁ面倒くせぇ
爪を切るのやになってきたな
おめえの言いたいことは分かる 分かるよ
けどもういいんだ
いや諦めたとかやる気が無くなったとかそんなんじゃない
気が済んだと言えばいいのかな
元々大したこと描きやしねぇんだ
誰かのためにやってた訳じゃねぇし
そうやって引き留めてくれるやつがいるなんて有難い 有難いよ
でもな こうやってっと生きてる感じがするんだよ
だから今はこれ これなんだ

変な時間に帰ってきてさ
バカなやつと一杯やってさ
他にやるやつがいねぇんだぜ
大層な服着てさ 日にちょっとしか進まないけど
それでもいいんだよ

オレァ多分 役に立ってんだ
まぁいい 今日はもう終わり
手紙 まぁしばらくそこにいな
オレの気が変わるのを辛抱強く待っててくれ
今日はぐっすり寝て あぁ、そうだ
今日はわりかし上手くいったぜ

ま、心配すんな
どっちにしろ一度描いた人間はやめられないんだ

 

2017年12月

夕方はまだ隣の国

ポエトリー:

 

『夕方はまだ隣の国』

 

ぼんのくぼからぷよぷよと入って向こう側へ抜けていった
そのまま飛行機雲のレールに乗って何処かへ消えてしまいそうだった
その日の午後は爪がふやけたり無くなったりして大変だった
夕焼けはまだ隣の国に長居しているように思えた
ざっくりとした長さの夕方は夏に向かって拵えられていてスイカの種はまだ種のままだった

遠くで救急車の色が焼けていた
理科室の実験のように静かだった
明日の朝は爽やかなTシャツが似合うはず
けれどまだ洗濯に出しているはず
白い立方体は白い立方体のまま数字が書き込まれるのを待っている
家では夕食の支度が整えられていて
ざらざらの舌はオゾン層が合成した水溶液の透明な部分だけを吸い取り始めていた

冷たい人形が耳元で囁く
分かっているつもり
明日は来ないつもり
知ってるよ、僕がうっかりしてもまだ夕方だからね

閉じたり開いたりして理科の実験室から君が溢れてくる
僕は思わず手で押さえていた
思い出をたくさん玄関に並べてみても
夕方はまだ隣の国
人が青と言う色の青さがまだ残っていて
空は逆さまのソーダ水のまま、泡を吹いている

 

2018年3月

彼女は最低

ポエトリー:

 

『彼女は最低』

 

ひどい女が

オレの残り福を巻き上げる

ひどい女

がオレのまごころを消費する

彼女はいつも一足跳びで

オレの返事も待ちやしない

切符を買うのも待ちやしない

例えば

あらすじなんかはすっ飛ばして

エンドロール

すら聞かないで席を立つ

例えば

丁寧にしつらえた物語

ひとつ、ふたつ、みっつ

強引に読み解く

インド、日本、サンパウロ

辺りをうろつく視線に合わせ

1ページ、2ページ、3ページ

破って読んだでハイお終い

オレは知らない駅で待ちぼうけ

それは正しいか

か来た道戻るか

映写機の音はカタカタとして遥かな記憶を辿る

旅、共に回転し

道端の石コロにも目星付けたところ

彼女はいつも勝利する

薄い羽で舞い

象の鼻で笑い

ヒョウのように快速

オレはダビデなまま

歪なポーズで突っ立っている

ぶっ壊したい

彼女は最低

早く自由になりたい

 

2017年11月

雨煙

ポエトリー:

 

『雨煙』

 

こんにちはと言って君の横を過ぎるのを

今日は疲れたから黙って通る

横目に見る

君の長考

君の長い睫毛は放牧され浜茄子の頃湯に溶ける

胃が痛いのは期待感の表れ

罠をかけ君の足首を掴みたい

 

現在進行形で重ね着をする幾つもの災いを

今年の冬は特に寒いからねと簡単に済ませる横着が

目覚ましく発達する

分かっているならちゃんと前を閉めて

出掛ける時は喉を潤してから行きなさい

白湯で

 

それでも瞼が凍りついてしばらくは歩けない

あの日渋滞など気にせずに強引に線引きをされた魂が幾つも空を舞った

覚えていないけど

 

風の強い日の雨の降り始めにも似て

リュックサックのサイドポケットは少し濡れている

 

 

2018年1月

透明な光

ポエトリー:

 

『透明な光』

 

心はアイ

言葉はキライ

 

目の前はヤミ

顔ではエミ

 

願いはユメ

諦めはマヨイ

 

行き交うはいといいえ

交錯するひとつ魂

 

新鮮なレタスより瑞々しい君の感性が

水滴とともに空へ吸い込まれるのを

 

その透明な光が

躊躇なく真実を写し出すのを

 

僕は決して

忘れない

 

2012年6月

感受性

ポエトリー:

 

『感受性』

 

赤くなったり、どきまぎしたり

ひとには見えないちょっとした波紋を感じている

それは特別なこと

 

「人を人とも思わなくなったとき堕落は始まるのよ」

茨木のり子さんは言っていた

 

年を取ると感性は鈍るって言うけれど

感受性は変わらずそこに

そんなこと分かってるって言わないで

僕は最近気付いたんだ

 

年なんか気にしないで

静かにそのさざ波を受けたらいい

 

そしたら僕ら

おじいさんおばあさんになっても

きっと顔を赤らめられるよ

 

2013年5月