林立

ポエトリー:

「林立」

 

軽く石畳に線を引いて
足を揃えた
林立する掌に白粉を塗った日
それでも新しく生まれてくるものに
何と応えよう

四つ角に
四季折々の自己嫌悪
あぁ手に負えない、けど秋には
飢えたポテト
チップスになってバリバリと

身近なものから順番に
月見の形に頬張って
だったらあなた、
翌朝早くに列車に乗ってお出掛けを

夕暮れの
ザクザクと拍を打つ落ち葉は
深呼吸の呼に窮して
二酸化炭素欠乏症
もうすぐ、ザアザアと夜がふる

洗い流す
夕立でもないのに何故?

音楽は
向こう側の
新緑の地域には行けなかった
音楽は
手すりを握れなかった

私たちは林立していた
お茶を沸かして立っていた

2020年9月

III

ポエトリー:

「III」

 

かなしみひかる星の空
まばたきひとつで落ちてくる
しずくを涙と取り替えて
あせふくしぐさも様になる

こよいだれかが郵便に
たくしたことばが川面に浮かび
ながれつくのはあの子の家の
はるかのきしたかなしみもうで

それとはしらずにぼんやりと
あのこは遠い求めに軽く応じて
かわらぬ声を手繰らせながら
はんどくらっぷ夜をつらぬく

よくあさひろがるかなしみが
なみ打ち際で行きつもどりつ
こころの糊代ズレはそのまま
なにもかわっちゃいないんです

とおい求めにゆられておきて
あちらこちらに変わらぬものが
みしらぬ誰かの招きに応え
けさはぐっすり休んでいます

こよいだれかが公園に
なくしたことばが川面にうかび
ながれつくのはあの子の家の
はんどくらっぷ手にやどる
それはわたしのそれともだれの

 

2020年8月

一筆書きの太陽

ポエトリー:

「一筆書きの太陽」

 

知らない人から埋もれていく
あれは
一筆書で書いた太陽

カラスは小躍り
自信なさげな僕はぐったりして
見知らぬ扉
ただぼんやりして開け放つ

短い夏
時間が惜しいから
タンスの奥から貯金を引き出した
溜まりに溜まった鬱を
振り込める先
一筆書の太陽

幼い時から騒いだりして
散らかしっぱなし
半透明に覆われた温もり
大事にしたいこだわり

更には言い逃れようと
アスファルトに立つ静かな熱気
夢中になって静かに荷ほどき
平らになった地面が余程気持ちいいのか
ひたすら横になっていたっけ

しばらくするとウサギの耳
ピンと立つように
ある日のこと思い出し
蛇腹になった未来を
出来るだけ目一杯
伸ばしてみた

それが唯一の自信
狭い報告に
一喜一憂するより
先頭切って走る短い夏
それが暴れ回る前に
そっと肩を叩き
そら、あれが太陽ですよと
よせばいいのにその気になって
軽く一筆書きする真似をする

濡れ落ちる太陽
踏みしめる唯一の自信
それがあればよかった

 

2020年8月

目指した

ポエトリー:

「目指した」

 

君が目指したのは嘘
僕は言うがまま
戦いになったりはしない
間違っても

文字通り
嘘みたいに
急拵えの意味
言ったそばから
失せていく

そうやって生まれていく(意味)
昨日とか今日とか明日とか
本物と見まごうばかりの(本能)
でも
信じてはいけないからね
そうやって
今日もまた
なくすことを目指す

磨いても
磨いても
一向に綺麗にならないものなら
いっそなくしてまえばいいと気づいた
それからは
間違っても
薄汚れたりはしないから

君は
今日も硝子戸を開けて
嘘っぱちでなんにもない朝
本物と見まごうばかりのそれを
軽く吸い込んで西の空
太陽のない方を選んだ

正しさを争う前に

 

2020年7月

無理なお願い

ポエトリー:

「無理なお願い」

 

  着ている服の一枚一枚を
  あの人にもあげ
  この人にもあげ
  密やかに塗り替えられた夜は
  地を這うようにして
  辺りの景色を一変させた

投げ出してしまわぬように
あの人の面影を
そっとタオルに染み込ませ
道行く人、一人一人に
あなたではなかったですか?
あなたではなかったですか?
と問いかける

風ゆらめく草木によろめいて
僅かに背中に出来た指紋こそ
これはわたしのものですと
色付いた頬

きよつけの姿勢も曖昧な
あの人の姿勢が
中空に伸びたまま
空になるよすがを
黙っては見ておれぬ身体
最後の溜め息が流れる数秒間
全体がまろみを帯びるまで
わたしはじっとして
南中する太陽の真下

それは
遠いビルディングの影が
膝元に落ちるまでの
時間との戦い
狭まる肩幅への
無理なお願い

 

2019年5月

つむじ風

ポエトリー:

「つむじ風」

 

ひとりぼっちの君
風に吠えてる日々
性懲りもない君
月が吠えてる日々

声かけてきたあの子
振り返る君
つむじ風みたいに
二人は出会った

ツバメが弧を描く
君は街を急ぐ
前のめりにならないように
見透かされないように

声かける君
階段の中程
斜めになりながら
戸惑いながら

心ならずもいっぱい
ちぐはぐになる心
浮草みたいに
行き交う人波に

頭の中はいっぱい
千切れ雲でいっぱい
息を吸って目一杯
目の前も揺れる

自転車乗って行こう
抜け道ぬって行こう
君の前ゆくあの子
おもしろくない君

時間がないよ一体
どうすればいい?
二人静かに肩寄せながら
膝から崩れる

明日からは絶対
頭ごなしにいっぱい
春の営みみたいに
光が降りてくる

数え切れない失敗
爪を噛んでた日々
放り投げてしまう
嫌になってしまう
ひとりぼっちの君

見つけたのは宝物きっと忘れない…

二人でいれば絶対
夜も昼にすり変わる
忘れないよな日々
とりとめのない意味

頭の中はいっぱい
千切れ雲でいっぱい
息を吸って目一杯
つむじ風に揺れる

仲直りの調べ

ポエトリー:

「仲直りの調べ」

 

今ごろ
月明かりを浴びて
仲直りの調べ
奏でて
始まる

先ずは
喉から
手が出るほど
惜しいな
のどかな

でも
声にも
引き取れない
こだま
かたまり
こだわりは捨てて

異次元からの
空間を
熱っぽく
やり過ごす

月明かりを浴びて
のどかな
道なりは
見たこともない足跡
これは
だれの?
まさか
わたしの?

わざとらしく
そちらを見やり
忘れ物を
届けに
ひた走る
ふりをする

行こう
月明かりを浴びて
仲直りの調べ
奏でて

わざとらしく
物音をたてるも
喜びや
悲しみは
まだ始まらず

ワカリアエ
ナケレバ
イケナイ
ワカラ
ナケレバ
イケナイ
道ばたに
咲いた
誰かが描いた

 

2020年7月

私たちの音感は霧に包まれて

ポエトリー:

「私たちの音感は霧に包まれて」

 

私たちの音感は霧に包まれて
何気ない日常が今日も切り取れない
純粋な闇に飲まれて
今日もおはようが見えない

おはよう、
言ってみた
感覚を軽く削っても
少しも空は染まらない

いっそ時間を早送りすればと
逃げる心持ち
そこに見知らぬ人が立っていて
こんにちはと言ったら助けてくれるというリアル
私のこんにちははリアルかな

イヤホンは
夜に絡めてもゼロの付近を行ったり来たり
回線はより混乱し続け
今度はおやすみが言えない

10年ひと昔と言ってしまう心持ちが鼻持ちならない
体は備えている
君に会う準備を
それでも君がやめてと言ったらすぐにやめれる男でいたい

心と体が真っ直ぐに向かう先の音感は霧に包まれて
おそらく明日もおはようが言えない

 

2020年6月