テイラー・スウィフトからのサプライズ!急遽、新作「フォークロア」をリリース!!

その他雑感:

テイラー・スウィフトからのサプライズ!
急遽、新作「フォークロア」をリリース!!

テイラー・スウィフトのアルバムがサプライズでリリースされましたね。こんな時だからと、逆に今できることを積極的にトライして楽しんでいく。さすがテイラーさん、ポジティブですねぇ。

なんでもほぼリモートで作られたとのこと。それだけでもちょっとした驚きなんですが主要プロデューサーがなんとThe National のアーロン・デスナー、しかもBon Iverのジャスティン・バーノンも参加していてボーカルをとっている曲もある!タイトルが「フォークロア」というのも気を引かれます。

アーロン・デスナーとジャスティン・バーノンのコンビと言えばビッグ・レッド・マシンですよね。2年前でしたか、二人のコラボ・アルバムが出たの。このアルバムは僕も大好きで、このブログにもレビュー書きましたけど、ホントに素晴らしくって、その二人が参加するとあっちゃこれはもう聴かずにはいられないです。

僕はテイラー・スウィフトの熱心なリスナーではなく、手元にあるのは彼女が大ブレイクした「フィアレス」だけ。ミーハーですね(笑)。これは結構聴きましたけどただその後はね、どんどんセレブ化していって音楽の方までがっつりメインストリームに浸かっていきましたから、僕の興味は薄れていったんですけど、ここに来ておやおや、っていう力強さを感じてます。というのもジョージ・フロイドさんの事件後、ブラック・ライブス・マター運動をテロ呼ばわりするトランプ大統領に対し、「次の選挙では必ず落選させる」と発言したんですね。あぁ、彼女はそういう一面もあるのだなと。そこへ来てこのコロナ禍にも負けない創作ですから、これは俄然彼女に興味が沸いてきました。

さっそく今はSportifyで聴いてますけど、かなり良いですね。元々透明感のある切ない声の持ち主ですから静謐なサウンドがよく似合います。彼女はやっぱアコースティックな感じがいいですね。まだちらっとしか聴けてませんが愛聴盤になりそうな予感満載です。

さすがに急なリリースのせいかSportifyにリリックまだ載ってません。それに日本国内盤が出るのはまだしばらく先になりそうですね。僕は英語力が頼りないのでいつも和訳が記載されてる国内盤を買うのですが、これも間違いなくそうなりそう。それまではSportifyで楽しみたいと思います。

それにしても今年の僕の購入履歴、女性アーティストの割合が多くなってます。へイリー・ウィリアムズにフィオナ・アップル(←やっと国内盤が出て購入しました)にフィービィー・ブリジャーズ。ハイムも良かったです。世の動きを見てもこういう時は女性の方が柔軟なのかもしれませんね。

Notes On A Conditional Form/The 1975 感想レビュー

洋楽レビュー:

「Notes On A Conditional Form」(2020年)The 1975

(仮定形に関する注釈/The 1975)

 

 

前作の「ネット上の人間関係についての簡単な調査」(2018年)が外へのメッセージがふんだんに盛り込まれた大作だったし、今回の「仮定形に関する注釈」は「ネット上の~」と対となる作品だなんて聞かされていたものだから、なんとなく、よし次も大作が来るぞなんて構えてしまっていたけど、リリースされて1か月以上経った今思うのは、この作品はそんな肩肘張ったものではなく、彼らの日常からポロリと零れ落ちた諸々の日々を歌う何気ないアルバムなんだなということ。

このアルバムは前作にも増してサウンドがあちこちに飛びまくって、いきなりグレタ・トゥーンベリのスポークン・ワーズで始まったかと思えば、マット・ヒーリーが喉がちぎれんばかりに叫びまくって、その後には一転して壮大なストリングスによるインスト、そんでもって心の弱さを歌う軟弱なエレクトリカルが続いたりと、サウンドだけじゃなく歌詞の方も行ったり来たり、心の円グラフがスピードを変えてあっち行けばこっちにぶつかるようなめまぐるしい展開をしていく。

ただ確かにこれは一般的にはめまぐるしい展開ということになるんだろうけど、実際にはそんなめまぐるしいなんて思わないし、至って自然に僕たちの心にストンと収まる。それは何故かって、やっぱり僕たち自身があちこちに飛びまくる心の持ち主で、心の有り様はいつも同じところに留まっているわけじゃないからだ。

今多くの人がSNSで色々なことを発言しているけど、多分それはいつも同じ内容ではなくて、調子のよい時もあれば具合が悪い時もある。政治的なことを言っちゃう日もあればくだらない痴話を言ってしまう日もあるだろう。自然災害がこれだけ続けば環境問題だって気になるし、レイシズムは絶対嫌だし、もっと自然に生きていければいいのなぁと思ったり、自分がとことん嫌になって沈んじゃう日もある。でもそれも特別なことではなく当たり前の日常。で僕たちはそれを殊更隠し続けたりしない。もうマッチョである必要はないのだから。

つまりはこのアルバムはあのThe 1975が出した「ネット上の~」に続く続編!ってことで大騒ぎをするような代物ではなく(もちろん大騒ぎするのは楽しいけど)、その正体は彼らの中にある毎日のいろんなことを考える気持ちを少しずつ切り取った雫のようなアルバムだったということで、面白いのはそれが僕たちの日常ともかぶさってくるという点だ。

マット・ヒーリーは自分の体験をもろに歌う人なんだと思うけど、今回はそこに僕たちが入っていける余地が大いにあるというか、もちろん僕はクスリをやったことはないし、知らない子とキスしたりしたこともないけど、あぁこれ分かるなって余地がふんだんにあって、それはやっぱりマット・ヒーリーの言葉に向かう姿勢に変化があったからなんだと思う。自分のことであってもすごく誰かの物語感が強くなった気はするし、距離感は微妙に変わってきている。グレタの声で始まって最後はバンド・メンバーのことを歌って終わるっていうのは象徴的なんじゃないかな。単純に言葉が近くなったなぁと思います。

それともう一つ。図らずもそのグレタ・トゥーンベリがスポークン・ワーズで語っているように僕たちはもう色々なことをはっきりと言うべき時に来ているということで、それは決して誹謗中傷という意味ではなく、はっきりと良くないものは良くないと言わなければならないということ。今までのように悪いことをうやむやにしたり、良いことに知らないふりをしたり、よくある大人の見識としてやっぱりこれはアレだからアレにしようとか言ってなんとなく灰色になっていくというやり方はやっぱ失敗だったよって。

でとっくにThe 1975ははっきりと語っている。お前節操ないなと言われようが今思うところをはっきりと語っている。そりゃ時には間違っている場合があるかもしれないけど、その時は訂正すればいいという自由なスタンスで今思うところをはっきりと述べている。このアルバムは僕たちの日常に即して今起きつつあるそうした変化を一つ一つ丁寧に語っていくという一面もあるような気もします。

大事な事というのは知らぬ間にやって来て知らぬ間に過ぎ去ってしまう。変化というのは気付かぬうちに起きているのだとすれば、この「仮定形に関する注釈」はその静かな変容についてのアルバムなのかもしれない。

Petals For Armers/Hayley Williams 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Petals For Armers』( 2020年) Hayley Williams
(ペタルス・フォー・アーマーズ/へイリー・ウィリアムス )

へイリー・ウィリアムス、初のソロ・アルバムだそうで。とはいえ共同プロデューサーがパラモアのテイラー・ヨークで今回最も多くの曲でへイリーと共作しているのがパラモアのサポート・メンバーであるジョーイ・ハワードで、パラモアのドラマー、ザック・ファロもいくつかの曲でドラムを叩き、ある曲ではPVの監督までしちゃってる。てことで、もうこれパラモアやん!!

だいたいパラモアってメンバーが結構変わってるでしょ。出たり入ったりもあるけど、全く同じメンバーで続いたの何枚ある?っていう感じで。だからこのへイリーのソロ作もですね、現行パラモアメンバーが何人か加わっているってことで、それはもうパラモアの新作ってことでいいんじゃないすか。

だいたいソロでやろうかって時に、自分のバント・メンバーに声かけますかね普通(笑)。ホントこの人たちの人間関係はよくわからん。ま、そういうよくわからん人間関係がパラモア的ってことでしょうか。

肝心の曲の方ですけど、これだいぶイイですね。特にへイリーのボーカル。このアルバムはここが聴きどころじゃないですか。結構いろんなタイプの曲がありましてですね、「Leave It Alone」とか「Roses/Lotus/Violet/Iris」なんかはレディオヘッドみたいな雰囲気ですし、「Creepin’」や続「Sudden Desire」はダークでビリー・アイリッシュみたいな低音ですよ。

と思いきや「Sudden Desire」のコーラスでは「サドゥン、デザァイヤー!!」って待ってましたのいかにもへイリーなシャウトも聴けるしですね、パラモアの前作で見せたカラフルでサビではリリック跳ねてる「Dead Horse」もあるし、マドンナみたいな80’s感たっぷりの曲「Over Yet」もあって、メロウでオルガンな「Why We Ever」もいいですよ、後半の転調もぐっと来ますし。

ただ今までのパラモアと比べると瞬発力というか一気に持っていく感は低いです。僕も最初はピンときませんでした。でもその分じっくりと染み込んでいくというか、やっぱそこはへイリーのボーカルですよ。実に多彩に歌い分けてる。それもわざとらしくなくごく自然にね。

こういう歌い方聴いてるとこの人は伊達にここまで生き残ってきた人じゃないんだなと、なんだかんだ言いながらへイリーは本物だなぁ、流石だなぁと改めて思い知らされます。このアルバムでの彼女の表現力はホント素晴らしいです。

あと曲調というかサウンド・デザイン含めてですね、詞は100%へイリーなんでしょうけど、メロディはどこまで関与しているのか、多分今回で言うとテイラー・ヨークやジョーイ・ハワードがメインなんでしょうけど、全体の雰囲気とか曲全体の響かせ方ですよね、多分方向性についてはへイリーがタクトを握ってると思うんですよ。パラモアの前作『アフター・ラフター』の変わり様もそうでしたけど、じゃあこっちへ行こうっていう判断、その辺は本当に抜群の感を持ってるなと思います。

ここにきてこういうしっかりとしたアルバムを出せたのは大きいと思います。へイリーさん、個人的にはカウンセリングを受けたり結構大変な時期を過ごしたようですけど、パラモアの前作『アフター・ラフター』でああいう方向転換をして、で今回は更に違う雰囲気のこれ。サウンド的にどうこうではなく、へイリー・ウィリアムスとしての、或いはパラモアとしての骨格がよりがっしりと積み上がってきたなという感覚はありますね。

Track list:
1. Simmer
2. Leave It Alone
3. Cinnamon
4. Creepin’
5. Sudden Desire
6. Dead Horse
7. My Friend
8. Over Yet
9. Roses/Lotus/Violet/Iris
10. Why We Ever
11. Pure Love
12. Taken
13. Sugar On The Rim
14. Watch Me While I Bloom
15. Crystal Clear

『仮定形に関する注釈』についてのとりあえず最初の感想

洋楽レビュー:

THE1975『仮定形に関する注釈』についてのとりあえず最初の感想です

 

まだ聴いたの1回だけですけど(笑)、とりあえず今の感想としてはマッティ、曲が出来て仕方がないんだろなって。

そういう意味ではこのアルバムを聴いて僕が最初に思い浮かべたのは昨年のチャンス・ザ・ラッパーの『The Big Day』で、とにかく長い!曲いっぱいある!『The Big Day』も賛否両論でしたけど、ま、平たく言えばとっちらかってるってことですかね(笑)。

なんか一曲作る度にもう興味は次のアイデア、次の曲に行ってしまってるというか、彼らはそれぐらいの力量もありますから、言ってみればちょっとした躁状態のまま最後まで行ききったという感じですかね。

このアルバムは前回の『ネット上の人間関係についての簡単な調査』が出た時からもう話題には挙がっていて、そっから時間をかけてではあるけど一曲づつシングルが出て最終的には8曲かな、先行で公開されてて聴いてる方としても自分も一緒にリリースに向けて段階を踏んでいるという感覚があったんですけど、振り返ってみればそういう気分の高め方って新しい手法ですね。

また8曲も公開されて普通ならこれアルバム全曲に近い感じなんでしょうけど、このアルバムは22曲もありますから(笑)そういう意味では8曲ぐらい公開されてもどうってことないし、さっき言った聴き手との一体感も含めて逆に面白いアルバムだなって気はします。

それにしても22曲ですよこれ。もうこの曲数自体がヒップホップ的というか、実際チャンスさんみたいな曲もありますし、チャンスさんほどではないけど彼らには珍しくゲストも登場してますし。かといって一曲一曲の時間が短いというわけではなくトータル80分以上ありますから、もうホントにやりきったということなんだと思います。

でそれだけありますから、じゃあトータルで整合性高めていこう、一枚のアルバムにまとめていこうなんて思ってももう多分あとの祭りなんでしょうね。インスパイアされた時ってもうその時だけのものですから取り返しがつかない。変に触れない。それに多分躁状態だし(笑)。

とまあ、今の段階でもこのアルバムは十分好きなんですけど、『ネット上の人間関係に関する簡単な調査』みたいな時代を象徴する作品かというとそことはちょっと違うのかなと。そうではなくて事前の噂どおりこのアルバムは個人的な側面に重きを置いたアルバムでそう聴けばよりしっくり来るような気はします。夜に一人でじっくり聴くというね。僕もこれからじっくりと聴きたいと思ってます。

あとこれは無茶ぶりかもしれないですけど、グレタ・トゥーンベリさんのスポークン・ワーズを僕は各国仕様で吹き替えでやっても面白かったんじゃないかなと思います。もちろんグレタさんの声ということに意味はあるんでしょうけどやっぱり英語ですから、それぞれの言語に当ててですね、そんなこと言うと何ヵ国語必要やねんとか、技術的にもそんなことできっこないだろとは思うんですけど、彼らならそれをやりかねないでしょ。ラジオや店でこの曲、って言っていいのかな、これかかかると凄く面白いと思います。

一曲目がグレタさんのスポークン・ワーズで二曲目がハードコアなパンク・ソングで三曲目がストリングスのインストという最初の三曲でもう結構お腹いっぱい(笑)。なんにしてもこれだけ多岐にわたるスタイルでパワーのある曲を22曲も、そんなに時間をかけずに作るんですから凄いバンドです。

名盤の条件のひとつに語りたくなるってのがあるとすれば、この『仮定形に関する注釈』もそうですね。僕も一回しか聴いてないのにもうこんなに喋ってますから(笑)。あぁ、SUPERSONICで見れるかなぁ。

The New Abnormal/The Strokes 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『The New Abnormal』(2020) The Strokes
(ザ・ニュー・アブノーマル/ザ・ストロークス)
 
 
ストロークスというと、リバーブ無しの単音のギターに代表されるシンプルこの上ないサウンドでかっこいいロックンロールをやってのけるっていうイメージがあるんですけど、このアルバムを聴いていると彼らの魅力ってそれだけじゃないなって改めて思いますね。
 
当然のことですけどメロディですよね、ここが抜群にかっこいいんです。で、ここもサウンド同様シンプルで、これまた誰にでも真似できそうなメロディなんですけど、これはサウンド同様絶対真似できないやつですね(笑)。
 
聴いてると割とはっきりとしたメロディで何も特別なことはしていないんですが、それが幾つも積み重なることで独特のムードを生み出している。で、かっこいいのが大体の曲で途中で違ったメロディでを持ってくるんです。分かりやすいのが1曲目の『The Adults are Talking』で普通にバースがあってコーラスがあってって曲で、これでもかのストロークス節だからそれだけでも全然かっこいいのに、最後に別のメロディを持ってきてもう一段ポップさ加減を押し上げてるんですね。しかもここ、ジュリアンのファルセットがしびれるぐらいにかっこいい!
 
こういう展開って普通つぎはぎが目立ったりわざとらしくなるんですけど、これを自然に響かせてしまえるのがストロークスで、続く『Selfless』も全くそうですよね。今回割とこういうドラマチックな曲が多いです。リードトラックになった『At The Door』なんてアウトロのシンセが宇宙っぽい!こういう面白いことができるのがそんじょそこらのバンドとの違いですね。しかも旧来のストロークス・ファンが小躍りするような『Bad Decisions』もちゃんと聴かせてくれるんですから、やっぱ彼らは特別なバンドです。
 
でさっきジュリアンのファルセットって話しましたけど、これも今までこんなあったかなって。前作の『Comedown Machine』(←このアルバムも僕は好きです)でもありましたけど、ここまで全面的にアピールしてませんでしたよね。ファンキーな『Eternal Summer』なんてほぼ全編ファルセットですよ。ていうかジュリアン歌うまい(笑)。こう考えると、シンプルに見えるストロークスって実にいろんな引き出しを持ってます。
 
なんかストロークスって1stとか2ndだけっていう印象が強いですけど、僕はこれら初期の作品をリアルタイムで聴いていないんですね。で、未だにやっぱストロークスは1st、2ndだよって声があるのも知ってますけど、今この時に出たこの『The New Abnormal』も相当かっこいいですよ。しかも時勢にドンピシャのこのタイトルのものを去年作ってて、今出てくるっていう(笑)。
 
1stの『Is This It』の初期衝動もそりゃあかっこいいけど、当然時間がたってるわけで、今の方が間違いなくレベル・アップしてるし、スケール・アップしてます。勿論 『Is This It』も素晴らしいしどっちがいいではなく、どっちもいいって話です。
 
ただ今この時点で聴くべきなのはやっぱ『The New Abnormal』だと思います。それだけ完成度の高い近年の彼らの、近年と言っても非常に寡作ですけど(笑)、これは同時代性を感じさせる彼らの代表作になると思います。バスキアをジャケットにするぐらいの自信がここにはある。
 
 
Track List:
1. The Adults are Talking
2. Selfles
3. Blooklyn Bridge To Chorus
4. Bad Decisions
5. Eternal Summer
6. At The Door
7. Why Are Sundays So Depressing
8. Not The Same Anymore
9. Ode To The Mets

中村佳穂の言葉~例えば「LINDY」

邦楽レビュー:
中村佳穂の言葉~例えば「LINDY」

 

「ハッときて ピンときたんだLINDY」。これだけじゃ何のことだか分からないですよね。これ、中村佳穂さんの『LINDY』の冒頭の言葉です。

以前カネコアヤノさんの『布と皮膚』のリリックに言及した時にも書いたんですけど、言葉というのは予め意味を持っているんですね。その予め意味を持った言葉を解体して新たなイメージを構築しようとする、それが詩人の仕事だとすれば、この『LINDY』の歌詞は正にそれを象徴するような歌詞だと思います。

それと中村佳穂さんの曲に顕著なのが韻ですね。それも理知的に捉えたライミングというより曲の流れのなかで、曲を口ずさむなかで発せられた動的なライミング。例えば『LINDY』。分かりやすいところでは、

 ON AND ON ドキドキ
 ON AND ON トキメキ
 となえるのさ
 応援をあげる

「ドキドキ」と「トキメキ」もそうですけど「ON AND ON」と「応援を」ですねここは。ちょっと私の説明、野暮ですか(笑)。ただ前半はそんなゆったりとした韻なんですがリズムが忙しくなる後半に入ると、

 パッと見て不意に気づくさLINDY
 おどけたふりして 結び直してゆく

と、この短いリリックの間でもそこらじゅうで韻が踏まれいて、「不意に」の「意」と「に」が「リンディ」の「リ」と「ィ」に。「おどけたふりして」の「ふり」が前段の「不意」と、プラス「ふり」は「リンディ」の「リ」、次の「結び」は発音も「結びぃ」となり前段の「リンディ」と掛かります。

まぁそこらじゅうで跳ねるようにアクセントが置かれていくんですけど、この一連のメロディを一気に聴くとですね、やはり言葉とメロディは一体なんだなと。そしてそうなることで冒頭の話じゃないですけど、新たな意味が構築されてゆくのが聴いているこちらも体で理解するんですね。これはやっぱり理屈じゃありません(笑)。

そう考えると中村さんはやはり詩人なんですね。意味を追いかけていかない、何百年も昔からあって既に意味を持っている日本語を駆使して自ら意味を授けようとしている。恐らくそれは意識してというより、もうそういうもんなんだという自覚があるからだと思います。

何故なら中村佳穂が捉えたポエジーは大げさな言いようですが、その場その時人類が初めて経験するポエジーなわけですから(それは僕やあなたのポエジーもそうです)、それを表す言葉というのはまだこの世に存在しないんです。それをたまたま自分が持っていたのが日本語であるならそれを利用して表現をするんだと。それが「ハッときて ピンときたんだLINDY」という言葉になるのだと思います。

あと言葉の解体と言えば、この曲では中盤にどっかの地方の掛け声のような、これも日本語を解体して新たなイメージを構築するという典型的な部分ですけど、その新しくイメージされた掛け声言葉が明けてのドンッと中村佳穂さんの歌い出しがあって、それは「全部あげる」という解放が始まるところですが、この「全部あげる」には深いエコーがかかってですね、佳穂さんの声は微妙にビブラートするんですがそれもあって、「全部あげる」が「ぜ え ん ぶ う あ げ え る」と解体されて聴こえてくるんです。もう言葉自体が解体されてしまっているんですね。

つまりここではもう give you :あげるという意味は解体されているんですね。勿論そういう意味はまだ含まれていますけど、そこを越えたコズミックなイメージが聴き手それぞれにもたらされる。歌い手が捉えたポエジーと同じ空間が手渡されるわけです。個別の意味とかは越えた感覚的なイメージですよね。だからもうこの部分は聴いていて本当に鳥肌が立つところでもあります。

詩人の茨木のり子さんが仰っていたのは、よい詩というのは最後に離陸する詩なんだと。そういう意味ではこの「全部あげる」という部分は見事に離陸しまくってます(笑)。そこまでも本当に素晴らしいんですけど、それがまるで助走のようにここで一気に飛翔するんです。

この曲は現時点の中村佳穂さんの最新曲になるのかな。その前のアルバム『AINOU』(2018年)も本当に素晴らしいので興味を持たれた方は是非手にとっていただければなと。動的なというものに限らず理知的で素晴らしい歌詞も沢山ありますので、頭と身体と同時に響いてくると思います。

Long Live Love/Kirk Franklin 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Long Live Love』(2019)Kirk Franklin
(ロング・リブ・ラブ/カーク・フランクリン)

 

日本ではあまり知られていませんが、グラミー・ノミネーツの常連さんですね。過去に受賞歴もございます。日本ではあまり知られていないと言いましたが割と来日公演をされているようで、そっちの世界では超有名な方です。僕も名前だけは知っていましたがちゃんと聴くのはこのアルバムが初めて。

ゴスペルということで先入観を持ってしまいがちですが(僕がそうでした)、あまりそういうのは意識しない方がいいですね。普通に格好いい音楽です。僕はこのアルバムを聴いてチャンス・ザ・ラッパーを連想しました。まぁ今どきジャンルなんてあってないようなもんですからね。ゴスペルもカニエ・ウェストが導入して以来多くのヒップ・ホップ・アーティストが取り入れていて、チャンスさんもその一人ですね。ロックの分野で言えばThe1975もそうです。

カーク・フランクリンの場合は逆にゴスペルにヒップ・ホップやロックの要素を取り入れたということでしょうか。そんなカークさんの音楽はアーバン・コンテンポラリー・ゴスペルなんて呼び方をされているそうです。ま、名前なんてどうでもいいです(笑)。

百聞は一見にしかず。一度聴いてもらうのが一番ですね。アルバム冒頭の#1『F.A.V.O.R』で僕も一気に持ってかれました。先ず曲が抜群にいいです。それも奇をてらったとかではなく、きちっとした構成の、AメロがあってBメロがあってサビがあってラスサビの前にはブリッジがあってっていう昔ながらのスタイル。クレジットを見てるとほぼカークさんが手掛けているみたいですけど、先ずここの部分が非常に優れている。今の時代にカチッとした構成でここまでいいものを、しかも何曲もやれるっていうのが基本としてカークさんにはあるということですね。

そしてサウンドもカークさんが手がけていて、ゴスペルですからクワイアですよね。クレジットによるとここが先ず総勢9名。あとドラムは一部の曲ではプログラミングのようですが、ほぼ全てがバンド形態で、キーボードはカークさん自身もこなします。特徴としてはハモンド・オルガンですよね。ここが全編に渡り聴こえてくるのがハモンド好きの僕としては非常にウキウキするポイントです。

あとこれだけでも素晴らしいのにここに大所帯のストリングスとホーンセクションが加わるんです、ほぼ全曲。どーです?どんだけ金かかってんねんっていう話ですけど、これらを持て余すどころか的確に振り分けていくカークさんのサウンド・プロダクションが本当に素晴らしいんです。もう生バンドにクワイアにストリングスにホーンに、あとカークさんの異様にハイテンションな合いの手(笑)。これらが一緒くたになってぐわっと来た日にゃ盛り上がるのなんのって。てことでサブスクじゃなくCDがお薦めやね。

僕も最初はゴスペル?カーク・フランクリン?でカークさんいう人は何しますの?っていう感じだったんですけど、これだけの仕事をされちゃあもうぐぅの音も出ませんね。これはもう完全にカークさんのアルバムです。ただ「ハレルヤッ!」とか「カモンッ!」って合いの手を入れてるだけの人じゃございません(笑)。

本当にどの曲が突出してということではなく全編素晴らしくって、色んなタイプの曲が沢山あります。先ほどカチッとした構成でって言いましたけど、そうじゃない曲も幾つかあって特に後半の曲ですよね。#8『Forever/Beautiful Grace』はタイトルが二つに分かれているように最後に違う曲がくっ付いてくる。#9『Spiritual』の最後はセカンド・ラインですかね?ここのガヤガヤした部分がいい味出してます。

で最後の曲『Wynter’s Promise』。これが曲の最後にスポークン・ワーズ、語りになるんですけどここがまた涙ながらにっていう感じで、その前のクワイアからボーカル・ソロに入っていく流れがいいんですけど、ダメを押すように涙ながらのスポークン・ワーズっていうね、どんだけ切ないねんっ!っていう。

まぁ僕もなんでこれだけ凄い人を今まで知らなかったのかなぁという感じですけど、これからはちゃんと追いかけていきたいなと。てことで次来日したら是非ライブに行きたいです。高そうやけど(笑)。

 

Tracklist:
1. F.A.V.O.R
2. Love Theory
3. Idols
4. Just for Me
5. Father Knows Best
6. OK
7. Strong God
8. Forever/Beautiful Grace
9. Spiritual
10. Wynter’s Promise

Jaime / Brittany Howard 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Jaime』(2019)Brittany Howard
(ジェイミー/ブリタニー・ハワード)

 

アラバマ・シェイクスのソングライターでありボーカリストのブリタニー・ハワードの初のソロ・アルバム。彼女はアラバマ・シェイクス以外のサイド・プロジェクトでも活動しており、ようはやりたいことが沢山ある人なんだろう。しかしまぁ進化が止まらない。アラバマ・シェイクスの1st『Boys & Girls』(2012年)からはだいぶ遠いところまで来たぞ。あの素晴らしい2nd『Sound and Color』(2015年)を経て、ハイブリッド感が半端ない。

『ジェイミー』というタイトルは彼女のお姉さんの名前だそうだ。小さい頃に病気で亡くなった姉の名をタイトルにしての自身のセクシャリティーやアイデンティティーにまで踏み込んだ非常にパーソナルなアルバム、というのがもっぱらの情報だ。30才になったのを機にもうここで吐き出さざるを得なくなったということらしいが、なるほどこれだけの重量感はシンプルなバンド・サウンドでは支えきれないわな。

一応そういう大まかな流れはあるとして、アルバム全体の印象としては一つの物語を追うというよりもある特定の場所で起きた個々の出来事を追っていくという展開で、だから彼女の中で土地というのは大きな要素を占めているのかもしれない。彼女のこれまでの人生、というより場所についての歌なのかも。個人的な体験に基づくリリックではあるが、案外そうした印象を受けないのは多分その辺りが原因かも。ていうかこれぐらいの距離感を持てたからこそのアプローチ。

こういうのんって#6「Short And Sweet」みたいにシンプルにポロロ~ンっとやってしまいがちなんだけど、そうじゃなくてガッツリ今風の、それもピコピコした感じじゃなく、それこそ『Sound and Color』で得たバンドなんだけどコズミックな、例えば由緒ある教会に最先端のアートが飾ってあるみたいな、場末の酒場なんだけど最新鋭の器材と音響施設が整っているみたいな、よく分からないけど凄く前を向いているというそんなサウンドでやりきっちゃうという威勢の良さがあって、このアルバムでは#6「Short And Sweet」が最初に出来た曲らしいけど、同じようにポロロ~ンっとやってしまわずにどんどん表現のアプローチが伸びていくっていうのは、それは冒頭で述べたブリタニーさんの個性にも繋がってくんだろうけど、なんにしてもよく分からないエクスペリメンタルという言葉がこのアルバムを聴いて少しは分かったような気はする。でもやっぱりこのリリックはポロロ~ンじゃもたないよな。

 

Tracklist:
1. History Repeats
2. He Loves Me
3. Georgia
4. Stay High
5. Tomorrow
6. Short And Sweet
7. 13th Century Metal
8. Baby
9. Goat Head
10. Presence
11. Run To Me

Hyperspace / Beck 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Hyperspace』(2019) Beck
(ハイパースペース/ベック)

ベックに元気がない。あれだけ訳の分からないリリックがお得意のベックがなんともストレートな歌詞を書いている。「僕は待っている」というセリフが何度も出てくるぞ。ベックさん、あなたは一体何を待っているんだ?

全方位方の前作『カラーズ』から一転、ベックは『ハイパースペース』という超空間へ逃げ込んだ。どうも逃げ込んだという表現が似つかわしい。華々しく何かをぶちあげるというより、こういう時は無理せず大人しくしておこうということか。てことで選んだ相棒があの『ハッピー』なファレル・ウィリアムズ。

やね。せめてサウンドだけでもポップにということでしょうか、けどね。私はあんまりファレル・サウンドが得意ではありません。ミーハーにも当時かの『ハッピー』収録のアルバムを購入したのはいいのですがあんまし私には馴染まなかったのです。

てことで今回のアルバム。曲はいいです。ファレルと組んだということでソングライティングも共同かもしれませんが、曲はスムーズです。ただベックならではのぎこちなさがなんとなく希薄かなと。

それとサウンドは好みが分かれるかもしれません、ちょっとシンセ強めですし。やっぱ所在なげですね。フワフワ浮いてる感じはあります。『Saw Lightning』なんてアルバム随一のアッパーな曲調ですけど、何故かそこまで気分がアガル感じはしないんです。

で思い出すのは、ていうか自分で書いたレビューですけど先日ウィルコの『オード・トゥ・ジョイ』の感想をこのブログに書いたのですが、確かそこにも今回のウィルコは所在なげだなぁみたいなことを書きまして。やっぱ今世界はネガティブな感じじゃないですか。どっちかっていうと上手くいかねぇやっていう。そこでこのベテラン二組はけど何とかなるよってポジティブなメッセージを発するのではなく、若干しょんぼり気味に揃って抗うんじゃなく素直に上手くいかねぇやって歌ってる。これ、どういうことでしょうか?

どっちもアメリカ人ですけど、やっぱ思ってる以上にアメリカのリベラルな人々は落ち込んでるんだなぁって。素直にそういう表現をしていまう。特にいろんな事を見てきたベテランたちがそういう表現をしていまうってのは敢えてなのか諦めなのか分からないですけど、そういう側面もあるのかなって思います。

勿論ベックさんですから、よいアルバムです。ボーナス・トラック入れてトータル42分強ですがすいすいっと心地よく最後まで聴けちゃいます。さっきも言いましたけど曲は綺麗だしこのまとめ方は流石だと思います。でもやっぱり所在なげなんですね。それは歌詞のせいもあるけど、フワフワとしたサウンドの影響も大きいのかな。

だからまぁ、もうちょっと違うサウンドだと印象も違うのかれしれないけど、それじゃあファレルと組んだ意味はないし、これはいろんなプロジェクトを常に同時進行しているベックが前々からやりたかったことだったみたいだしそれじゃそれでいいんだけど、余りにもスムーズ過ぎてなんか私の好みで言うとちょっと違うかなって(笑)。

だからなんだかんだ言ってボーナス・トラックの『Saw Lightning(free style)』が気持ちいいというか、ドンドンっていうあれはバスドラでしょうか。それとブルースハープとベックのボーカルだけでグイグイ押していく感じがやっぱずば抜けてかっこいいと思ってしまいます。

2019年 洋楽ベスト・アルバム

洋楽レビュー:

『2019年 洋楽ベスト・アルバム』

 

2019年も色々な音楽を聴きました。大した数ではないけれど、その年のベスト・アルバムを考えるのも楽しみの一つなので、今回も選んでみました。

買い物リストを眺めていると2019年はずっと聴き続けている人たちが多くだいぶ落ち着いた印象。とはいえ、ビリー・アイリッシュやビッグ・シーフや折坂悠太といった新しい音楽も聴いていて、それがまた理解できないというのではなく、ちゃんと心にに響いてきているし、僕の感受性もまだまだ捨てたもんじゃないなと我ながら思ったりもしています。

さて僕の2019年ベストアルバムですが、もうこれは何回か聴いた時点で今年はこれだろうと半ば決めておりました。世間のベスト・アルバム選にはほぼ載ってこないのですが、久しぶりにグッときたというか、ボスらしい直接的なメッセージは無いのですが、ていうかボスの場合むしろこちらだろうというような名も無い人たちのストーリー。僕もこういうのが分かる大人になりました(笑)。てことで2019年の私的ベスト・アルバムはブルース・スプリングスティーンの『ウェスタン・スターズ』です。

ホントに映画を観ているようでしたね、このアルバムは。登場人物はアメリカ人だし年食った人たちだし、全く自分とはかけ離れた世界ではあるんだけど、それでも目の前に景色が立ちあがって、深い皺を刻んだ人たちの人生が胸に迫ってくる。それこそ名も無いひとつひとつの小さな星たちの一瞬の輝きのようなアルバムでしたね。米国ではスプリングスティーンがこのアルバムを全編フルオーケストラで歌う映画が公開されたそうですが、是非日本でも公開してほしいです。

次点はヴァンパイア・ウィークエンドの『ファーザーズ・オブ・ザ・ブライド』。このアルバムもよく聴きました。彼らから全てを引き受けるようなこれほど開けっぴろげなアルバムが出てくるとは思いませんでした。どうも頭のいいインテリみたいなイメージがあったのですが、もうそんなところにはいないんですね彼らは。持ち味である明るさは損なわれずに、けれど苦味もちゃんとある。且つ大通りを胸張って歩く。そんなアルバムだと思います。

あと、なんじゃかんじゃ言って僕はやっぱりウィルコが好きですね。今回の『オード・トゥ・ジョイ』も素晴らしかったです。絶望を歌うビリー・アイリッシュにティーンネイジャーが希望を見出すように、僕たち大人は分かり合えなさを歌うウィルコに歓喜の歌を見出す。ちょっと気取った言い方ですけど、そんなアルバムではないでしょうか。

おまけのベスト・トラックはビリー・アイリッシュの『アイ・ラブ・ユー』にしようかなと。別に流行に流されている訳ではありません(笑)。世間的には他の曲かもしれませんが、僕はこの歌で聴こえる「う~うう~うう~」が大好きです。人工的でありながら人間的で、ひんやりとしているけど温かい。こんな「う~うう~うう~」を聴いたのはトム・ヨーク以来かもしれない。

てことでビリー・アイリッシュにしかけましたが、大事な人を忘れていました。ザ・ジャパニーズ・ハウスです。あまり馴染みのない名前だと思いますけど、英国のインディー・バンドです。あのThe1975所属のレーベル、ダーティ・ヒットのニューカマーと言えば何となく雰囲気分かってもらえるでしょうか?毎年ベスト・トラックは単純にその年に一番聴いた曲にしているのですが、そういや聴いた回数は彼女らの『サムシング・ハズ・トゥ・チェンジ』が断トツだったなと(笑)。なので2019年の僕のベスト・トラックはザ・ジャパニーズ・ハウスの『サムシング・ハズ・トゥ・チェンジ』となりました。