ポテトサラダ

ポエトリー:

『ポテトサラダ』

 

エアコンから君の噂話
温度を下げて聞こえなくしてしまおう
キッチンに戻って食べかけのポテトサラダ
君の得意技
マヨネーズが少しばかり多い

君はキッチンに立った
現代音楽の巨匠みたいに
味はともかく、
うるさかった

鍋を二個以上使うのが苦手だった
君の得意な料理がポテトサラダで
僕の得意な料理が麻婆豆腐というのも
君が気に入らないことの一つだったけど
そういうところがいいと言う僕をまた
君は気に入らなかったのも事実

努力すべきことではないと知りながら努力をし続けた僕たちに見切りをつけ君は
世界の事を少しだけ知り得た猫みたいに大きく背伸び
律儀に話し合いをして僕たちの夏は終わった

僕がこうして
ポテトサラダを作るのは
君を懐かしんでいるからではなく
マヨネーズが少しばかり多くなってしまうのも君のせいじゃない

けれど僕の作るポテトサラダが微妙に上手くいかなくなったのは
きっと全部君のせいだ

 

 

2017年7月

引き出しはゼロになる

ポエトリー:

『引き出しはゼロになる』

 

本当のことを知りたい君 夜更かしがやめられない

全部0にして朝を迎えるつもり しかし朝の光が気持ちを拡散

1からやり直し 本当と嘘を折りこみ

引き出しの奥 遠く耳鳴り

黒いTシャツから覗く 軽く尻込み

人を好きになって自分を知る 0にはなれない

この気持ち積上げて 時空の壁を蹴り上げる

地球の自転を越え ついでに月の公転も越え

何周も何周も素早く ダイナミックに何周も

ところでふと 始まりはいつだか終わりはいつだか

朝はどこだか夜はどこだか また1からやり直し

引き出しは結局 全部0になる

 

2017年7月

自由を愛し お喋りを愛す

ポエトリー:

『自由を愛し お喋りを愛す』

テレビの語学講座を観るのが好きです
特にどこの国というわけではありません
学ぶためではありません
ただ観ているだけです
外国の文化、風習、言語、そういったものをなんとなく観ているだけです

ヨーロッパの国々からニュースが届きます
近頃は爆弾が破裂した
そんなニュースが届きます
大通りで
フットボール会場で
コンサート・ホールで
それは無差別の起きます
ヨーロッパは今、生と死が背中合わせのようです

欧州の人たちは食事を大切にします
カフェを大切にします
お昼休みは家に帰って過ごす
何時間も過ごす
うらやましい限りです

イメージはやはりオープン・カフェ
家であっても出先であっても
地中海で採れた食物と太陽の日差しを浴びて外で過ごす
そんなイメージです

そんな憩いの場にも死は突然訪れます
それでも彼らは外にいることをやめません
彼らにとって何より大切なことは
自由でいる事なのです

ちなみに僕の国では自由さより公平さより経済が優先されます

2017年6月、
フランスのバンド、フェニックスの新しいアルバムが届きました
彼らの音楽はいつもヨーロッパ的だけど今回は特にヨーロッパ的です
タイトルは『Ti Amo』といいます
イタリア語で「愛している」という意味だそうです

ほぼ全編、レストランやカフェのイメージです
大勢の人たちで賑やかなオープン・カフェ
昼も夜も恋人たちは思い思いにお喋りを楽しみます
『Lovelife』なんてタイトルの曲もあります

それがきっと彼らのアティチュードなのだと思います
困難に立ち向かう彼らのアティチュードなのだと思います
ヨーロッパの人たちは今日も外でお喋りをします
お喋りと自由を愛し、愛を語るのが大好きな彼らの日常は今日も続くのです

 

2017年6月

君は世界の端っこをつかまえた

ポエトリー:

『君は世界の端っこをつかまえた』

 

世界の端っこをつかまえて

君は「見て!ねぇ、これ」

僕が思ったことは

きれいな手

 

アルコールで消毒して

南イタリアの男みたいにエスコート

そしたらほら

すみっこに新しい朝

何処にデビューするつもり?

 

それで思い出した

君が言ったこと

耳をふさいでないと見えないものは

大した事じゃないって

 

君の声

月の満ち欠け

二人を隔てているもの

早く地平線に沈めばいい

 

僕は祝福するよ

君の門出

困ったことがあったら言って

なんなら今日のうちにでも

明日になったら忘れてしまうから

僕は忘れっぽいから

 

石畳の上で

噴水の傍で

観光客に紛れて

二人を隔てているもの

遠く地平線へ

 

君は世界の端っこをつかまえて

空の便

果てしなく南の空

 

2017年7月

さよならソレイユ

ポエトリー:

『さよならソレイユ』

 

あいつは町一番の娘に手を出した
僕たちはみんなあいつの勇気を讃えた

その娘は何処からともなく現れた
親の仕事の関係だとか前の学校で事を起こしたとか
でも僕たちはどれも信用していなかった
本当のことは誰も知らなかったが
そんなことがなくても娘は神秘的だった
けれど僕たちはすぐに打ち解けた
僕たちと言ってもそれは‘僕たち’のことで僕のことではなかったが
僕たちの輪の中に彼女がいた
それは僕を満足させていた

僕は一度だけ彼女と二人きりで言葉を交わしたことがある
暑い日に偶然、町に一軒しかない郵便屋で
彼女は僕に尋ねた
「‘さん’がいいのかな‘様’がいいのかな」
僕は自分でそれは相手によるんじゃないかと言ってすぐに慌てた
宛先を詮索しているように思われる、そしてその狼狽ぶりを悟られるって
けれど彼女は何も気付かないふりをして
「相手は大人だからやっぱ‘様’はいるよね」と答えてくれた

いや違うんだ、
僕は君が誰に手紙を送るのかを詮索するっていういやらしい気持ちが働いたわけじゃないんだ
けれど次に僕がしたことと言えば自分がやるべき動作、
つまり自分の手紙に封をするってことだけに集中したいと、ただそれだけで

僕たち二人にはそんなようなことしか起きなかった
彼女はそんなようなことには慣れていた

あいつはそういうところが無かった
聞きたいことはずけずけと聞いた
顔が赤くなるようなことまで平気で聞いた
後で知ったことだけど彼女も言いたいことを言う人だ
僕たちはみんなあいつの勇気を讃えたが
あいつは無造作に言った
「俺は彼女が好きなんだよ」

あいつと娘は僕たちの輪から徐々に離れた
二人はよく似合っていた
僕たちの輪の中に二人がいなくても何も変わらなかった
ある日あいつが一人で戻ってきてもどうってことはないだろう
けれどあいつが一人で戻ってくる前に
娘は町からいなくなった

結局、あいつを除いて僕たちには何ひとつ分からなかった
僕が知っていることはひとつだけ
今年の夏の一番暑い日に彼女が大人に手紙を出した
それだけだ

僕が郵便屋へ行くのは自分が書いた書き物を雑誌社へ送るため
このことはまだ誰にも言ってないけど多分彼女はそれを知っても驚かないだろう
彼女はきっとはそういう人だ

僕は今日も郵便屋へ行く
自分が書いた書き物を出すためだけじゃなく

さようなら!瞬きをして一瞬で何処かへ行った僕のソレイユ
僕はやっぱり 君のことが好きなんだ

 

2017年6月

 

クリーニング店

ポエトリー:

『クリーニング店』

 

広い通りに面したクリーニング店では

服を預けるとちょうどよい肩幅のハンガーが付いて返ってくる

彼女の肩幅もちょうどいいという噂があるがそれは確かめようがない

私ももちろんそこへ行く

今日の私はクリーニング品を預けるだけでなくコインランドリーで洗濯をする

コインランドリーで洗濯をしている間は退屈なので選りすぐりの本を持っていく

普段はあまり読まないようなもの

少し頼りがないものがいい

ここのハンガーがちょうどいいように

ここの洗濯機の音もちょうどいい

彼女も今日あたりここへ来るかもしれない

けれども彼女の肩幅はアイロンをかけていない

彼女の靴下は裏返っていない

彼女の魂は撹拌されていない

ここの洗濯機の音はちょうどいい

私の退屈な時間も残り僅かなので

詩を2編ほど読んで今日はもう終わりにする

 

2016年6月

ただ一つの物語

ポエトリー:

『ただ一つの物語』

 

ただ一つの物語を君のために送る

荒廃した裏庭にハッと目が覚めるような花を添えて

夕暮れ時、赤茶けた煉瓦の向こうに差す光を

手の甲の青い線に沿って真っ直ぐに線を引く

 

いつか君の動力源に辿り着きたい

今度こそ正しい言葉を見つけ

出来るだけ分かり易くただ一つの物語を君のために

 

2017年5月