洋楽レビュー:
『A Deeper Understanding』(2017)The War On Drugs
(ア・ディーパー・アンダスタンディング/ザ・ウォー・オン・ドラッグス)
ソングライターのアダム・グランデュシエル率いる米国のインディー・バンドの4作目。一応バンドってことでメンバーの写真が載っていたりしますが、こりゃ完全にアダムさんのプライベート・アルバムですな。
一人スタジオに籠って創作に励みつつ、ある程度固まってきたらバンドを呼んでセッションをするといった感じでしょうか。ということでこの人、かなりオタクです、多分。ホントに音楽が好きなんだろうなぁって印象を受けるアルバムで、少し昔であれば一人でここまで出来なかったんだろうけど、今は家でアルバム1枚作るなんてことも出来る時代だから自分の好き放題、時間をかけて朝から晩まで、細部まで凝って創作に打ち込める。なんかプラモデルを作ってる感覚に近いのかもしれないけど、そこに閉じた感じがしないのはやっぱバンドだからであって、この人自身はそんな明るい人でもないのかもしれないけど(←スミマセンッ、勝手な想像です)、みんなでせぇのーでバーンとやってしまうことの意味もちゃんと分かっている人で、結局体質的にも自分が作る曲もどうしてもそうなってしまうんだろうし、やっぱ一人ではなく仲間といることが好きな人なんだろう。この曲の強さはそういうことかもしれない。てことでそんなアダムさんに付き合っちゃうここのメンバーはきっと優しい人たちに違いないっ!
サウンド的にはもう思いっ切りブルース・スプリングスティーン。で、歌唱法はボブ・ディランかな。2010年代ということで今風なドリーム・ポップ的高揚感だったり、あとシンセも結構多用してて80年代の香りもするけど基本はスプリングスティーン。でも大向う相手に見得を切るって訳じゃなく、教室の隅っこにいる静かなスプリングスティーンって感じ(笑)。スプリングスティーン大好き感が凄く出てて微笑ましいです。
歌詞はプライベート感満載で彼女がいなくなっちゃった男の独白。だからまぁ、語るようなもんではないです(笑)。その代りにバンドが雄弁というか、アダムさん自身の演奏とか打ち込みもそうだけどホントに細かく重ねられていて、そこにギター・ソロとかシンセやウーリッツァーなんかがサーッと流れてくるのは凄く気持ちいいし、それらがまたメロディアスだから余計に行間を語る感じがしてとてもいいのです。そうやね、俳句的なところはあるかもね。
このバンドは3作目の『ロスト・イン・ザ・ドリーム』でブレイクしたわけだけど、今回のアルバムもこんな感じだし、次もこんな感じになるのだろう。どっかで今後はウィルコみたいな存在になるかもなんて書かれていたけど、このひとりぼっちな感じの独特の佇まいはちょっと違うかな。
どこがいいのって言われても返事に困るアルバムってのがあって、特に楽しいわけでもなく、かといって地味でもないし、じゃあ内省的な暗い感じかと言われれば解放感はあるし明るい感じもある。自分でもよく分からないけどまぁ聴いてて心地いいというか、通勤中に何聴こうかなんて物色しているとついついこれを選んでしまう。こりゃすげぇよって夢中になるわけじゃないんだけど実は一番聴いてんのこれじゃねぇ?っていうやつです。なんかレビューになってないな(笑)。男はこういうメランコリックなの好きだけど、女の人はどうなのかなぁ。
1. Up All Night
2. Pain
3. Holding On
4. Strangest Thing
5. Knocked Down
6. Nothing To Find
7. Thinking Of A Place
8. In Chains
9. Clean Living
10. You Don’t Have To Go
(日本盤ボーナス・トラック)
11. Holding On(Live)
12. Pain(Live)
ボートラが良いです。家内手工業的なオリジナルよりこっちの方がごちゃごちゃした躍動感があって好きかな。