Eテレ 100分 de 名著「ハンナ・アーレント/全体主義の起原」 感想

TV Program:

Eテレ 100分 de 名著「ハンナ・アーレント/全体主義の起原」  2017年9月放送分

 

国内外の名著を全4回、100分で紹介するこの番組。9月の作品はハンナ・アーレントの『全体主義の起原』。全体主義の生成過程をナチス・ドイツを例に取り紐解いていく。ここでは細かく述べないが、これは現代にも当てはまる僕らのすぐ側にある問題だ。

日本が右傾化しているのかどうかは分からないけど、メディアは自国を誉めそやすのに熱心だ。すぐに「世界が驚いた日本!」と騒ぎ立てる。そんなのは言い方次第でどうにでもなる。逆に言えば、「世界から見れば最低な日本!」なんてのもいくらでも作れるだろう。僕たちのリーダーは「絶対に」、「完全に」と言いたがる。かの国のリーダーは「never ever」と言いたがる。大げさな物言いが溢れている。僕たちは本当はどうなのかを自分自身で判断しなくてはならない。けど、とても難しいことだ。そんな時、僕はこう思うようにしている。「それって本当かな?」。物事というのはどちらか一方ということはない。光もあれば影の部分もある。どちらか一方に偏った意見には注意しなければならない。特に分かりやすい表現には。それを強いてくる連中には。

番組の最後で「複数性」という言葉が出てきた。この言葉を聞いて僕はある別の言葉が思い浮んだ。丸山真男の「他者共感」という言葉だ。自分の考えというのがあって、他者の別の考えがある。それを戦わせる、非難するというのではなく、相手の身になってそれを考えてみる。そうすることで、自分の考え方もまた別のステージに向かうことができる。自分の考えも他人の考えも俯瞰して見ることの重要性。そうした考えを丸山は「他者共感」と名づけている。

自分と違う考え、意見、性別、年齢、人種、民族。世界は「複数性」で成り立っている。自分(たち)だけが正しい。自分(たち)だけで成り立っている。悪いのはやつらだ。これは大きな誤りだ。自分とは異なる意見に出会った時、相手の立場になって考えてみる。そうするとまた違った自分の考えが生まれてくるのではないか。しかし言うは易し行うは難し。僕だって自分の考えはそう簡単に変わらないし、批判されりゃついムッとなる。世界は「複数性」で成り立っている。このことをしっかりと心に留めておきたい。

最後にこの番組で紹介されたミルグラム実験について述べておきたい。閉鎖的な状況における権威者の指示に従う人間の心理状況を実験したものだ。具体的に言うと、「体罰と学習効果の測定」と称して教師役は隣室にいる生徒役の回答が間違うたびにより強い電気ショックを与えることを要求される。もちろん、生徒役に電気は流れていないので苦しんでいるふりをしているだけ。本当の被験者は教師役ということになる。この実験では、うめき声がやがて絶叫となり、遂には聞こえなくなっても教師役は回答が違えば、権威者の指示通りに電気を強くし続け、最終的に6割以上の参加者が命の危険がある450Vのショックを与えることになったという。この実験は、ホロコーストに関与し、数百万のユダヤ人を強制収容所へ移送するにあたって指揮的役割を担ったアイヒマンの名前を取って、アイヒマン実験とも呼ばれている。誰だってアイヒマンになり得るのだ。

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